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1章:冒険の終わりと物語の始まり
勇気の証明
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暗闇でも薄く輝くエクリースを眺めていると、こんな状況でも不思議と落ち着いた気分になる。マリーは隣にアレンを座らせ、夜空の月を仰いだ。夜空に光る月は、いつもより遠く、遠くに見えた。
背後から突如突風が吹いた。彼女が振り返ると、月明かりに照らされて蒼く輝く龍が羽ばたいていた。不思議とその姿を見ても恐怖は沸いてこず、ただひたすらに目の前の龍が美しく見えた。そして、あと数刻もしないうちに自らの命が尽きるのが直感で分かってしまった。
だけど、それでも良いと思えた。あの人もおらず、アレンもいないこの世に生きている意味などない。そう、マリーだって本当は分かっていたのだ、アレンは死んでいることを。それでもその事実を認めてしまったら、心が壊れてしまうと思ったから、どうしてもその死を直視できなかった。でも、あの青年がアレンを殺すといったとき、心のどこかでほんの少しだけこの止まった時間から解放されると思ってしまった。そう思ってしまった自分にマリーはショックを受けた。
蒼龍はゆっくりと地面に着地した。その龍は長い首をもたげ、ゆっくりとこちらの方を見た。その青色の瞳と目が合うと、マリーは身じろぎ一つ、指先一つ動かせなかった。そして、マリーは最期にエクリースの花を目に焼き付け、そっと目を閉じ、終わる瞬間を待った。
一瞬世界から完全に音がなくなったように感じた。次の瞬間闇夜に爆発したような音が鳴り響き、
「一人で勝手にあきらめるんじゃねぇぇぇ」
という聞き覚えのある声が目の前から聞こえてきた。少しずつ目を開けていくとそこにはぼさついた赤髪にやさしげだが少し蔭のある顔つきの、憎むべき敵————クロウと、黒髪に翠色の瞳をした少女――アリスがいた。そして彼の右手には白銀色に輝く刀とその刀身には臙脂色の炎が揺らめいていた。
「ど・・うして?」
マリーは思わず、声にならない声でつぶやいた。彼はとても不思議そうな顔をして
「俺の言葉はあなたには届いていなかったのか?俺は全部を救いたいって言ったじゃないか。村人もあなたも、そしてこの花も。もうだれ一人、何一つ俺の周りの大切な人や物を俺は捨てたくないんだ。今まで間違って間違って間違って、いろんなもんを失った。何回失おうとも、その時の痛みになれるなんてことはなかったよ。でもだからって、その痛みから逃げてたら、きっと大切な物も人もできない。だから俺は何度傷ついて、心が壊れたって何度だって手を伸ばすよ。・・・・っていうか、何そんな全部諦めたような顔をしてるんだ。あなたの息子が残してくれたものってのはそんな簡単に諦められるものだっていうのかよ!」
そう言って彼は後ろにそびえたつ、強大な、人ひとりでは到底勝つことはできないだろう存在と対峙する。
「一人で何ができるっていうの!?こんな怪物に勝てるわけがないじゃない。綺麗ごとだけじゃどうにもならない理不尽なんて、この世にはたくさんあるのよ!なんで抗おうとするの、あの人もあの子も何もしなければ、ただ自分のことだけを考えていればきっと生きていられたのに。――——どうして私なんかのために無意味に死んでいくのよ!」
そんな蛮勇は無意味であると、そう叫ぶ。
「幸運なことに彼は一人じゃないのさ。クロウだけじゃやらかしそうだからね、私も手伝うことにしたんだよ」
そんな憎まれ口をたたきながら、アリスは彼の隣に立った。クロウは隣の小さな少女の存在を力強く感じた、きっと一人ではここまで来られなかっただろう。クロウはにやりと笑い、炎を纏った刀を蒼龍へ向け、そして背後のマリーへ言葉をかけた。
「もしも、あなたが理不尽に立ち向かうことが無意味だと本気で思っているのなら、こいつに勝って証明して見せる。あなたの夫や息子がやったことが無意味なんかじゃないってことを!」
背後から突如突風が吹いた。彼女が振り返ると、月明かりに照らされて蒼く輝く龍が羽ばたいていた。不思議とその姿を見ても恐怖は沸いてこず、ただひたすらに目の前の龍が美しく見えた。そして、あと数刻もしないうちに自らの命が尽きるのが直感で分かってしまった。
だけど、それでも良いと思えた。あの人もおらず、アレンもいないこの世に生きている意味などない。そう、マリーだって本当は分かっていたのだ、アレンは死んでいることを。それでもその事実を認めてしまったら、心が壊れてしまうと思ったから、どうしてもその死を直視できなかった。でも、あの青年がアレンを殺すといったとき、心のどこかでほんの少しだけこの止まった時間から解放されると思ってしまった。そう思ってしまった自分にマリーはショックを受けた。
蒼龍はゆっくりと地面に着地した。その龍は長い首をもたげ、ゆっくりとこちらの方を見た。その青色の瞳と目が合うと、マリーは身じろぎ一つ、指先一つ動かせなかった。そして、マリーは最期にエクリースの花を目に焼き付け、そっと目を閉じ、終わる瞬間を待った。
一瞬世界から完全に音がなくなったように感じた。次の瞬間闇夜に爆発したような音が鳴り響き、
「一人で勝手にあきらめるんじゃねぇぇぇ」
という聞き覚えのある声が目の前から聞こえてきた。少しずつ目を開けていくとそこにはぼさついた赤髪にやさしげだが少し蔭のある顔つきの、憎むべき敵————クロウと、黒髪に翠色の瞳をした少女――アリスがいた。そして彼の右手には白銀色に輝く刀とその刀身には臙脂色の炎が揺らめいていた。
「ど・・うして?」
マリーは思わず、声にならない声でつぶやいた。彼はとても不思議そうな顔をして
「俺の言葉はあなたには届いていなかったのか?俺は全部を救いたいって言ったじゃないか。村人もあなたも、そしてこの花も。もうだれ一人、何一つ俺の周りの大切な人や物を俺は捨てたくないんだ。今まで間違って間違って間違って、いろんなもんを失った。何回失おうとも、その時の痛みになれるなんてことはなかったよ。でもだからって、その痛みから逃げてたら、きっと大切な物も人もできない。だから俺は何度傷ついて、心が壊れたって何度だって手を伸ばすよ。・・・・っていうか、何そんな全部諦めたような顔をしてるんだ。あなたの息子が残してくれたものってのはそんな簡単に諦められるものだっていうのかよ!」
そう言って彼は後ろにそびえたつ、強大な、人ひとりでは到底勝つことはできないだろう存在と対峙する。
「一人で何ができるっていうの!?こんな怪物に勝てるわけがないじゃない。綺麗ごとだけじゃどうにもならない理不尽なんて、この世にはたくさんあるのよ!なんで抗おうとするの、あの人もあの子も何もしなければ、ただ自分のことだけを考えていればきっと生きていられたのに。――——どうして私なんかのために無意味に死んでいくのよ!」
そんな蛮勇は無意味であると、そう叫ぶ。
「幸運なことに彼は一人じゃないのさ。クロウだけじゃやらかしそうだからね、私も手伝うことにしたんだよ」
そんな憎まれ口をたたきながら、アリスは彼の隣に立った。クロウは隣の小さな少女の存在を力強く感じた、きっと一人ではここまで来られなかっただろう。クロウはにやりと笑い、炎を纏った刀を蒼龍へ向け、そして背後のマリーへ言葉をかけた。
「もしも、あなたが理不尽に立ち向かうことが無意味だと本気で思っているのなら、こいつに勝って証明して見せる。あなたの夫や息子がやったことが無意味なんかじゃないってことを!」
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