世界で一番幸せな呪い

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1章:冒険の終わりと物語の始まり

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「・・・で啖呵を切ったはいいものの、どうしたらいいかさっぱり考えていなかったと」

ローレンスに借りた空き部屋に座り、あきれ顔でアリスはそう言った。

「でもまぁ、ほらとりあえずの宣戦布告はできたわけだからまぁいいかなーっと」

クロウが苦し紛れにそういうと、アリスは小さくため息をついた。

「まぁ言ってしまったものはしょうがないか。一応ローレンスも君の様子をしばらく見るといってくれたわけだしね。それでどうするつもりなんだい?」

「わかんないさ。わっかんねぇけど、考え続けるしかないだろうさ。今の自分にできる精一杯でな。・・・あぁそうだアリス、一つ聞きたいことがあるんだけど」

とアリスに言うと、彼女は少し驚いたような顔をして

「驚いたな、マリーに刺された時の君と比べるとまるで別人だな。吹っ切れたのかい?」

「吹っ切れた・・・とはちょっとだけ違うかな。思い出したんだよ、俺が前に進めるようになったときの言葉をな」

さすがのアリスもクロウが何を言っているかはわからず、きょとんとしていた。

「それで、質問ていうのはアレス君のことなんだ」

そんなアリスの不思議そうな顔はスルーしてクロウは続けた。

「昨日の話ではアレン君は死んでるって話だった。だけど今のアレン君は普通に動いている、これはどういうことなんだ?」

「あぁ、そんなことか。おそらくマリーは“エディカス”なのだろうね」

クロウが何を言っているか分からず、むむむと唸る。

「君には危機馴染みのない言葉か・・・。そもそも魔法というのは体内で生成した“魔力”—————“魔素の集合体”を木・水・火・雷・土・光・闇に変換することで発生するものなんだ。ただ、偶にその魔法から派生した特殊な力を持つものがいるんだ。それがエディカスさ」

「じゃあマリーさんはどんな能力なんだ?」

アリスは指で唇をこすりながら、少し考えるそぶりを見せ、そして結論に至ったのか話し始めた。

「・・・おそらくは地属性のエディカスだろうね。能力は、死体を操る力ってところかな」

「死体を動かせるのは分かるけど、なんで地属性なんだ?」

アリスはなんだそんなことかといった表情で

「本質的に地属性は死に近しいものなんだよ、まぁ生の側面もあるけれどね。エディカスはそれぞれの属性の本質に由来する力なんだよ」

「・・・そうか、ありがとう参考になったよ。」

そうクロウはアリスに礼を言った。当のアリスは疲れたのか大きなあくびをしている。

「さて、明日も早いだろうしもう寝るか」

クロウは微笑みながらそう言い、部屋に灯っていたランプを消した。アリスは再び大きなあくびをしながら布団にもぐりこんだ。―——だから彼女は見逃した、クロウの真剣な顔を。

翌日の朝、クロウは白いシャツに黒いコートという普段着の服装に着替えていた。

「おぉ、珍しいね。君がその恰好をするだなんて、この村では初めてじゃないかい?」

と寝起きのアリスが話しかけてきた。

「まぁずっとマリーさんに借りてた作業着を着てたからなぁ。借りた服があんな血まみれになっちまったし、着る服がこれしかねぇんだよ。まぁ、この服でも十分作業はできるだろ」

そう言うクロウに、アリスは驚いた顔をして

「!?。君、まさか昨日の今日で橋の復旧作業をするつもりかい、昼間には十中八九マリーが来るんだよ?」

クロウは微笑み、そうかもな、と言った。

「そうかもな、じゃない!君が生きていることをマリーが知ったらまた同じことの繰り返しになるかもしれないんだ!これ以上マリーを傷付けるつけるかもしれないことを分かって言ってるのかい!?しっかりと策を決めてから行くべきだろう!」

「あぁ、十分に分かってるさ。でもきっと傷ついても進まなきゃいけないんだよ、マリーさんも、もちろん俺も。それに、一応策なら考えてあるんだぜ」

憂いを帯びた笑顔でクロウは言った。アリスは眉をひそめ

「・・・・どんな方法なんだい?君のその表情を見るにあまりいい方法じゃあなさそうだが」

と聞いてきた。クロウはアリスに自身で考えた策を伝えた。すると、話が進むにつれ、彼女の表情がみるみる険しくなっていった。アリスは一度口を開こうとして、一瞬躊躇し、それでも口を開いた

「・・・それはみんなが幸福になろうというのではなく、みんなが不幸になる方法じゃないのかい?」

「確かにそうかもしれないな。きっとこの方法は最善策じゃないのかもしれない。でもこのままじゃ、誰も不幸にも幸福にもなれず、ずっとだれも望まない、望んでいない呪いのような今が続くだけだろう。例えこのせいで、憎まれ恨まれたとしても、全部背負いきって見せるさ」

だから、と続けてクロウは覚悟のこもった漆黒の瞳でアリスの方を向き、言った。

「俺はアレン君を殺すよ」
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