隣の夜は青い

No.26

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神様に願わずとも

07

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 オレが何かいう前に、ルナくんはまた人の良い笑顔に戻って、キラくんへこう尋ねた。

「どうしてキラさんはメジと組んでいるのかなって。歌が上手い人は他にもたくさんいるじゃないですか」

 ……確かに、言われてみればそうだ。あんなに良い曲をつくれるキラくんなら、きっとユニットを組みたい人はいくらでもいる。
 それこそルナくんだってオレよりファンが多いのに、キラくんはどうしてオレを誘ったんだろう。
 けれど本人のキラくんは「どうしてそんなことを聞くのか」と言いたげな顔で首を捻り、そして答えた。

「メジの歌い方が好きなのはもちろんですが、人として好きだからですね」
「…………!」

 初めて聞いた理由に、オレは目を見開く。
 キラくんは、はっきりとした眼差しで言葉を続けた。

「チームで仕事をする場合、単純に仕事ができるということも大事ですが、人格の相性もパラメーターに入れて考えないと上手く行かないとボクは思います。そうして比べたとき、メジが一番良いと思った。だから相方に選びました」
「……へえ」

 ルナくんは何とも言えない表情で、それだけ言った。
 キラくんはニコッと笑い、

「まあとにかく、ボクは異性ファンに媚びて数字を取る奴より、真剣に音楽に向き合っている人が好きなんです。……というわけで、サイクラ二人で挨拶周りに行ってきます」

 そう言って、キラくんはオレをカウンター席から引きずり下ろして、手を引っ張って歩いた。



「……ルナくんとの話、どこから聞いてたの?」
「俺より数字低かったくせに~くらいから聞いてた」

 キラくんはオレを連れてバルコニーに出て、ばたりと扉を閉じる。流石に外は寒くて、誰の姿もなかった。
 キラくんは一度白い息を吐き、そして気まずそうな表情を浮かべた。

「ごめん。あいつに対しては前から個人的に存在がムカついてたから、強く言いすぎたかもしれない……メジの友達なのに」
「あはは、そうなんだ。オレも苦手だから大丈夫だよ。友達っていうか、元カレだけど……」
「元カ……?!は?!」

 キラくんは目を見開き、オレに詰め寄った。

「なんだそれ。詳しく話せ」
「つ、付き合ってたって言っても、一ヶ月くらいで……」

 そうして、オレはルナくんと付き合った経緯と別れた理由を、簡単にキラくんに話した。

「はあ……そういうの早く言えよ。なんなんだよ、本当にムカつく」
「ご、ごめん……黙ってて……」
「いや違う、メジじゃなくて……あいつがムカつくんだよ」

 その言葉に、オレは思わずキラくんの目を見た。

「ボク……サイクラのユニットを組む前から、自分の作った曲をメジが歌ってくれるの、本当に嬉しかったんだ」

 キラくんはオレを見上げ、静かに話し始めた。

「メジにはわかりにくい話かもしれないけど、音声合成ソフトで曲を作る理由は人によっていろいろ違う。例えば、葉山さんは機械でしか出せない音色そのものを曲に生かして、自分だけの世界観を構築している。……ボクが最初ソフトを使って曲を作ってた理由は、ボク自身が自分の声が好きじゃないし、歌も下手だから、それよりもマシな機械を使って歌わせたてただけなんだ」

 そして、キラくんはふっと柔らかく微笑んだ。

「でも、メジはボクの曲をカバーしてくれるとき、ボクが理想としていた歌声を、ソフトで出せないところまで、いつもドンピシャの解釈で音楽に乗せてくれた。初めて会ったときにも言ったけど、メジの歌、ユニット組む前から何度も聞いてたよ。これは挨拶言葉じゃなくて本当の話」
「キラくんにそう思ってもらえるなんて……。オレもキラくんの曲、いつもかっこいいし大好きだよ!」
「そういういつも素直なところも、上手くやっていけると思った理由の一つだよ」

 そう言って、お互いに笑い合う。
 キラくんは胸の前で腕を組み、

「とにかく、ボクはユニット組む前からメジの歌が好きだったし、コミュ力の高いメジのことも尊敬してた。なのに、なんかあのルナってやつ、メジにくだらないコラボとかファン媚びとかさせてさ。事務所行く前はSNSで炎上しかねないような発言ばっかりしてたし、話したことはないけど一方的に嫌ってたんだよ。さっきのメジとの話を聞いて、やっぱりそういうやつだよなって思った」
「そうだったんだ……」

 コラボとかはオレも楽しんではいたけど。そういう言いにくいところをズバズバと言ってのけるキラくんを見てると、何となく気が晴れてきた。

「苦手な人がいるとか、事前に言えよ。メジが嫌な気分になるならこの会だって参加しなかったのに」
「うん、ごめん……」
「……ていうか、ユニットとかリスペクトとか、そういう以前にさ……」

 そう謝ると、キラくんはふいと顔を背けて、こう言った。

「……ボクはメジのこと、もう友達だと思ってるから」
「……キラくん……!」
「ああもう、こんなこと言わせるなよ。恥ずかしいな」
 
 オレが明るい声を出すと、ますますキラくんは顔を背ける。
 尊敬していたキラくんから友達だなんて言われて、本当に嬉しい。泣いちゃいそう。

「とにかく、これからは何かあれば隠さないで話せ。いいな?」
「うん!」

 そんなことをしていると、バルコニーとフロアを繋ぐドアが開いて、葉山さんが顔を覗かせた。

「二人とも、どうして外にいるの? そろそろ料理も出るから、中においでよ」
「あっ、はい!行きます!」

 そうして二人で暖かい中に入りながら、思った。

(『隠さないで話せ』か……やっぱり、オレとせーちゃんとの関係も、ちゃんとキラくんに話した方がいいよね)

 この前せーちゃんに会ったとき、確認するのをすっかり忘れてた。……えっちなことしたすぎて全然思い出す余裕なかったとか言えない。
 けれど、今勝手にせーちゃんとの関係をキラくんに話して、それでせーちゃんに嫌われたりしたら……。

「ううん……どっちを優先したら……」
「どうした?急に唸り出して」
「何でもない!」

 怪訝そうな顔をするキラくんに、今はまだ首を張った。
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