百夜の秘書

No.26

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蝶よ花よ

二、

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「……本当に、旦那様って変態ですよね」
「へぇ、いいの?上司にそんな口を叩いて」
「ッ…」
 不意に前を触られて、蝶はびくりと肩を跳ねさせる。
 そのまま、寝室に連れて行かれた。
「……そんな大きなの、本当に入るんですかね」
 広い寝室は薄暗い。寝台に寝かされながら、蝶は天藍のソレをちらりと見て言葉をこぼす。
「まあ、無理にはしないよ。……蝶は、指でも気持ちいいもんね」
 天藍がそう言いながら、潤滑油を自分の手に垂らす。そのまま蝶の蕾に指を当て、つぷりと入れた。
「……っ、は…ッ」
 くちゅ、くちゅと、微かに水音を立てながら、その孔を責められる。
「んっ……も、さっき、十分…ッ」
「切れないように念入りにしないと。……君は、中の前立腺を弄られるより、抜かれるときの感覚の方が好きだよね」
「ッ…ぁ、っ…」
 ちょうどイけないくらいの強さで、二本の指で中を執拗に責めたてられる。
 快楽を感じる箇所を、完全に把握されている。蝶はただシーツに埋まり喘ぐことしかできなかった。
 その開いた口に、口付けをされる。入ってきた舌に蝶は気づき、その天藍の舌を軽く噛んだ。
「……痛いなぁ」
「口付けは嫌です。…それより…早く……っ」
 このままだと、自分が自分でなくなってしまうような気がする。早くイって、この熱を解放したい。
 蝶は天藍の肩を引き寄せ、懇願する。しかし、天藍は身体を離した。
「君は、あまり僕のことを理解してないんだね」
「……え?」
 予想外の反応に、蝶は息を整えて、答えた。
「漏らさせることがお好きなんだろうなというのは十分知ってます」
「それだけだと考えているなら、本当に理解していないよ」
 天藍は、一度寝台を離れる。
 そして何かを持って、再び戻ってきた。
 部屋が薄暗いせいで、よく見えない。けれど、それが自分の腰にあてがわれたとき、蝶は自分の状況を理解した。
「……え……?!」
 なぜか、貞操帯をつけられている。
「あと、これ」
「…っ……?!」
 天藍が掲げるのは、柔らかい素材の玉が十数個、間隔を開けて連なっている"大人の玩具"。
 以前、蝶が天藍に使われて、イき狂わされていたもの。
 これから起こるであろう事態を察して、背筋がヒヤリとする。蝶は動揺を隠せないまま、天藍を見上げた。
「だ、旦那様……?」
「そう焦らないでよ。夜は長いからね」
 天藍はそう言って、その玩具に潤滑油を垂らした。


「ぁ、ぅあ"……ッ~~~!!」
 蝶は声にならない声を漏らし、枕に顔を埋める。
 ぬぷぬぷと、中に玩具を出し入れされる。けれど全て射精には至れないような刺激で、身体に熱が蓄積していくばかり。
 自分で前を触ってイきたくても、貞操帯が邪魔をして達することができなかった。
「も、勘弁して、ください…っ」
 蝶はついに音をあげる。だらだらと貞操帯の隙間から、先走りが溢れていた。
「イきたい?」
「あ"っ…い、イきたい、イきたいです…ッ」
「なら、答えて」
 天藍は一度玩具を抜いて、うつ伏せに寝ている蝶に聞いた。
「僕のこと、本当はどう思ってるの?」
「……え?」
 その言葉に、蝶は息を整えたあと、天藍の顔を見て答えた。
「……変態上司」
「それだけ?」
「世界で一番嫌いです」
「ふーん」
 天藍はそう相槌を打って、再び蝶の中に指を入れる。
「世界で一番嫌いな相手に、股を開くような淫乱なんだね? 君は」
「……ッぁ…だ、旦那様の顔は、嫌いじゃないです」
「へえ?顔が良ければいいんだ?」
 指で中を掻き回され、快楽を逃すためにシーツを掴みながら、蝶は答える。
「手が器用なところも、す……その、嫌いじゃないです…っ」
「こういうところ?」
 中を絶え間なく責められ、蝶は甘い声を漏らした。
 天藍はくすくす笑ってから、蝶に顔を近づけて言った。
「いい加減、認めれば? 僕が好きだって」
「~~~っ……」
 その美しい青い双眸に覗かれて、蝶は自分の頬が熱くなるのを感じた。それを誤魔化すように、天藍を睨みつける。
「バカ言わないでください。毎日のように嫌がらせを受けて、私が貴方を好きになるわけないでしょう……!!」
 蝶は、自分でもわかっていた。
 共に過ごす日々を重ねた今、少なくともこの目の前の男のことを、完全に心の底から嫌いだとは言えないと。
 けれど、この性悪を好きになったなんて思いたくはない。そんなの絶対におかしい。ありえない。今叫んだ言葉は、自分自身に言った言葉でもあった。
 しかし天藍は全てを見透かしているような目で、動じずにさらりと答える。
「僕のことを四六時中考えられるように調教してるから、当たり前のはずなんだけど」
「ッ…最低、最悪、変態…っ」
 自分の本心や彼の意図がこんがらがり、わけがわからなくなる。それにいつまでもイかせてもらえないことが苦しくて、蝶はただ罵倒を吐いて枕に顔を埋めた。
「さっき、『君は僕のことを理解していない』と言ったけど。この機会に、ちゃんと教えてあげるよ」
 天藍は蝶に視線を合わせるように、寝台に横になって言った。
「僕は、快楽に抗えない君の姿が見たい」
 蝶はそれを聞いて、呆れて何度目かのため息をついた。
「……やっぱり、変態じゃないですか」
「君だって、逃げようと思えば逃げられるし、辞めようと思えば辞められるよね?どうしてこうやって体を許してるの? 今日だって、これから先の行為をしたとしても、報酬なんてないことは知ってるはずだよね」
「……それは……その……」
「黙って待っていれば気持ちよくしてもらえるなんて、蝶の方が都合がよすぎるんじゃない?」
 天藍から淡々と紡がれる言葉は、全て間違いではなく、蝶は何も否定することができなかった。
「君は僕にどうして欲しいの?」
「……………っ」
「ほら、ちゃんとお願いしてみて」
 天藍はそう言って、貞操帯の鍵を外す。
 蝶は迷った末、問いかけに答えた。
「……別に、旦那様のことが好きなわけじゃありません」
 容姿が良いこと、仕事では優秀なところは蝶も認めている。けれどその良さを上回るくらい、自分に対して嫌がらせをしてくる性格が嫌いなのは確かだった。
 「でも……」と、蝶は顔を赤らめ、小さな声で答える。
「旦那様と……こういうことをするのは、嫌いじゃないです」
 天藍は蝶の手に自分の手を重ねる。そして、弄ぶように聞き返した。
「だから?」
「………ッ」
 しつこい。でも言わないと、きっとこの状況からは解放してもらえない。
 蝶は観念して、天藍の手に自分の指を絡め、呟いた。
「だから……早く……だ、抱いてください……」
 その言葉を聞いて、天藍は笑い、蝶の手を握り返した。
「最初から、そう素直に言えばいいのに」
 そう言って、天藍はうつ伏せ蝶に覆い被る。
 そして、自分自身を彼の中に挿れた。
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