百夜の秘書

No.26

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月の下で

三、

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「少し並んでいますが、待ちましょうね~」
「わかったー」
 柳と女の子は、仲良く手を繋いで並ぶ。
 天藍の隣で、蝶はそれを見送りながら、服の下でもじもじと落ち着きなく足をすり合わせていた。
 ……私も、早くお手洗いに行きたいのに……!
 そう蝶が思った途端、ショロショロッと、ついに液体を少し下着の中へ漏らしてしまった。
「!!!」
 蝶は慌てて前を押さえ込み、足をすり合わせる。
 幸い辺りは薄暗く、蝶の不審な動作に気づく客はいなかった。それに、まだ下着以上に液体は浸透しておらず、誰も蝶の粗相には気付かないだろう。
 しかしこんな少量だけでは、張り詰めた下腹は全く楽にはならない。我慢のし過ぎで、じくじくと下半身が痺れ出す。
 蝶の頭に、もう全部漏らして楽になりたいという欲がちらつく。
 だが、それでは確実に服を濡らしてしまう。
「っ、はあっ……!」
 蝶は欲求を我慢して、竿を強く押しつけ、なんとかおもらしを押さえ込むことはできた。
 けれどこれもそう長くはもたない。足がガクガクと震える。
 早く、トイレに行きたいことを天藍に伝えねばと、蝶が顔をあげたところ、天藍も蝶を見ていた。
「蝶も、おしっこ?」
「…………」
 前を抑えてるところを見られ、蝶は羞恥で顔を赤くする。
 しかし、もう前から手を外すことなどできなかった。手を外したら、放尿が始まってしまう。
 天藍はふと気づき、
「ああ、さっき蝶が言いかけてたのって、このこと?」
「………はい、っ…」
 蝶は答えているうちにも、また強い波が来て漏らしてしまいそうになり、前を強く揉み込む。
 しかしそれでも我慢できず、拳の中でまたジュウッと少しだけ出してしまった。
「っ、くぅっ……!!」
 これ以上漏らすまいと、身をよじって必死に足をすり合わせる蝶に、天藍は聞いた。
「もしかして、ずっと我慢していたの?」
「……っ……」
「旅館のトイレまで、我慢できる?」
 蝶はそう聞かれ、目の前の仮設トイレへ目を向けた。
 ここを使わせてもらえたら、早くトイレに行ける。
 しかし、仮設トイレにも数人人が並んでいる。今からあの列に並んでも、便器にたどり着くまで我慢できる気はしなかった。
「蝶?」
「っ、すみません……もう……っ」
 蝶は前を抑えたまま、その場に蹲る。
 こんなところで、してはいけない。我慢しなくては。
 けれど、早く楽になりたい。出したい……!
 上手く思考が回らない蝶に、天藍は手招きした。
「こっちにおいで」

 天藍が向かったのは、目の前の植え込み。
 ここは沢山の紫陽花が植えられている場所で、毎年梅雨になるとその花を見に多くの客が訪れる。
 今は梅雨も過ぎ去り花は咲いておらず、そこはただ草木が生えた味気のない場所となり、電灯もなく、辺りには誰一人いなかった。

 天藍はその紫陽花畑の少し奥へ行き、蝶にしゃがむように促す。
 ちょうど胸元ほどの高い紫陽花の生垣があるため、しゃがんでしまえばこちらの姿は見えなかった。
「ここでしていいよ」
 そう天藍に言われ、蝶は目を見開く。
 蝶は衣服をたくし上げつつも、小さな子のように身体を揺すり、
「ほ……本当にしていいんですか? 旅館のお庭ですが……」
「その庭の持ち主が、直接いいよって言ってるんだよ。入り口の方は見張っておくから」
 天藍はそう、静かに微笑んで言う。
 こんなトイレでない場所で、しかも庭で、という思いは、蝶には確かに強くある。
 しかしそうしている間にもまたジュウッと下着が湿り出し、蝶はもう限界を感じて、決心した。
「っ、こっち見ないでくださいね」
 蝶は天藍に背を向け、急いで下着を下ろした。
 途端に放尿が始まり、パシャパシャと草木に水の当たる音がし始める。
「はあっ、はあぁ……っ」
 我慢に我慢を重ねた上でのこの開放に、蝶は気持ち良さでびくびくと身体が震える。
 間に合った、と称していいのかはわからないが、とにかく服を濡らさずに済んだ。
 二十秒が経過しても、その水の勢いは依然としておさまらない。
「たくさん出るね」
「っ、だから、こっちを見ないでください……!」
「見てないよ、ただ音が聞こえるから」
 そう言って天藍はくすくすと笑う。

 暫くして、ようやく放尿が終わり、蝶は衣服を整え立ち上がる。
 蝶が用を足した場所には、はっきりと水たまりが残されていた。
 それを見て蝶は一気に恥ずかしくなり、天藍の顔がまともに見れなかった。
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