二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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さよならは……

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 翌朝目覚めると、マーガレットたちと食事を済ませ少女と話し合うことに。

 「ヨナちゃん、もし私の声が聞こえていたらお返事してくれませんか?」

 膝をつき目線を合わせると言葉だけで伝える。

 「本当に聞こえていないならそれでいいんです。けどもし、聞こえているならヨナちゃんに伝えたいことがあるんです」

 「…………」

 返事はない。
 本当に彼女には聞こえていないのかもしれない。だが……

 「………ママたちに会いたいですか?」

 「…、………」

 ピクリと動いた肩に少しの希望が見えた。

 「もう大丈夫です。えらかったですね。ママたちとの約束をヨナちゃんはちゃんと守りましたよ。ちゃんと守ったから……もう、いいんです。もう隠れなくていいんです。もう声も出していいんです」

 「っ」

 未だ声は出さなかったが、それまで意思が見えなかった瞳に光りがさした。
 向けられた目線は逸らされることなく縁を見ている。

 「よく頑張りましたね。怖かったでしょ?寂しかったでしょう?みんなに………会いたかったでしょう?」

 「っ……」

 揺れる瞳にどれだけ彼女に精神的負担がかかっていたのかが窺える。
 この小さな身体で、それでも精一杯家族との約束を守っていた。
 
 「おいで。みんなに会いに行きましょう」

 結果悲しませると分かってはいたが、家族に会いたいだろう少女に一緒に行こうと手を差し出す。

 「っ」

 だが少女はその手をすり抜けると体当たりする勢いで縁に抱きついてきた。
 震える小さな背中を撫でてやると、そのまま腕に抱き上げる。

 「よく頑張りましたね。声は出せますか?」

 「…………」

 縁の胸に頭を寄せる少女が首を振るのを大丈夫だと撫でてやる。

 「少しずつ頑張っていきましょう」

 こればかりは今すぐどうこう出来るものではない。
 耳が聞こえただけでも良かったと思った方がいいだろう。

 「ヨナちゃんはママが好きですか?」

 コクンと頷く少女の頭を撫でやりつつ、マーガレットたちと火葬場に向かう。

 「お姉ちゃんは優しかった?」

 再び頷く少女に、それは良かったと微笑む。
 パパは好き?優しかった?などたわいないことを聞きながら彼女の中の家族を教えてもらう。

 「……ヨナちゃん」

 ポツポツと質問を繰り返しながらもそこへ向かえば、それまで俯いていた彼女の名を呼び顔を上げさせる。
 
 「ママもパパも、そしてお姉ちゃんもヨナちゃんのことが大好きだったはずです。だからいっぱいいっぱい頑張ったんです。本当にいっぱい頑張ったんです。だから……いっぱい泣いて上げて」

 そう言い、それまで抱えていた少女を地面に下ろしてやる。

 「ママのことが大好きだよと伝えて上げて。パパありがとうと伝えて上げて。お姉ちゃんがいて良かったと伝えて上げて」

 そして目の前にある塊の布をそっと外すと優しく背中を押してやった。
 事前にマーガレットたちによって清められた遺体は、傷跡などはあるが血は綺麗に洗い落とされていた。
 数秒呆然としていた少女だが、次の瞬間涙を流し駆けていく。
 酷なことをしている自覚はある。
 この別れからは逃れることは出来ず、だが別れ方を選ぶことは出来る。
 何も知らせず、何も分からぬまま事を終わらせるのではなく、悲しくてもきちんと別れを告げさせる事を縁は選んだ。
 家族の死は人の心を凍らせる。
 その悲しみから凍る心を少しでも軽く出来ればと思った。
 
 「大変なことを頼んですいませんでした」

 「なんてことないよ」

 少女から目を逸らすことなく、背後で様子を見守ってくれていたマーガレットたちに礼を言う。

 「あの子は大丈夫そうかい?」

 「分かりません。ただ、乗り越えてほしいとは思ってます」

 泣きながら家族の遺体に縋り付く少女に昔の自分の姿が重なった。
 
 「……私の母は本当に元気な人で、女性なのに木登りが得意だったり、泳ぎが得意だったり、でも可愛いものが大好きだったり、とにかく明るい人でした」

 「そうかい」

 「逆に父は物静かな人で、母とは違ってあんまり運動は出来なかったんですけど本を読むのが好きで色々なことを教えてくれました。私の名を考えてくれたのも父だったそうです」

 「いい親父さんだったんだね」

 「……はい。大好きでした。いえ、今も大好きです」

 自慢の両親だった。
 それが突然いなくなり、何も考えられなかった。
 2人の死を受け止められず、そんなはずないといるはずのない2人を探し回っていた。
 
 「バカだったんです。あれだけ愛してくれた両親に別れを告げることもせず、感謝を告げることもせず、きっとどこかにいるんだと迷子にでもなったかのように探して歩いてた」

 「………でも君は乗り越えた」

 「はい。叔父が私を支えてくれた。叔父がいてくれたから乗り越えられた。だから私も彼女のお手伝いをしたいと思ったんです」

 方法は違えど、身内でもなくとも、彼女の手助けをしたいと縁は手を差し伸べたのだった。
 




 

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