二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
429 / 475

見ーつけた!

しおりを挟む
 すいませんすいませんと頭を下げる男に苦笑いする。
 縁もマーガレットたちも特に男を怒ったわけでも、叱ったわけでもないのだが気弱な性格なのかずっと謝り続けている。

 「どこか怪我しませんでしたか?」

 「なっ、ないで、あ、いえ、あ、ありませんっ」

 「それは良かった」

 床の惨状に怪我をしていないわけないのだが、それも小さな擦り傷程度らしいため深くは追及しなかった。
 隣りに立ってみて分かったが、男は随分背が高いようで縁と頭一つ分程違う。
 だがアレンたちとは違いかなり細く、ちゃんと食べているのかと少々心配になった。
 
 「初めてお見かけしますね。最近こちらに来られたんですか?」

 「は、はい。あ、あの………す、すいません」

 何故か謝られた。
 意味が分からず首を傾げる縁に、やっと泣き止んだらしい繋を抱えてマーガレットが隣りに来ると大きな溜め息をつく。

 「何度も言ってんだろ。ちゃんと周りを見て歩きな。申し訳ないと思うなら同じことを繰り返さないよう注意するんだよ」

 「は、はいっ!」

 話しからして度々こうしてミスをしているようだ。
 それから何度も頭を下げながら部屋を後にした男に、変わった人だなぁと思うのだった。

 「悪かったね。ありゃ最近入った奴なんだけど、どうにも落ち着かない男でね。それに気も弱いもんで周りにから舐められてんだよ」

 確かにあの気の弱さでは冒険者相手は難しいだろう。
 人によっては苛立つ対象にしかなりえず、転職を間違えたのでは?と思ってしまう。

 「よく雇おうと思いましたね」

 言い方は悪いが他の職員たちと違い選考基準に達していない気がした。

 「知り合いに頼まれたのさ。病気の母親と妹を養うのに金が必要だったらしくてね。けどあの気の弱ささ。働こうにも合う仕事がなくてね。しまいには身を売るしかないってとこまで追い詰められてたらしい」

 かなり辛い生活だったのだろう。
 
 「父親は?」

 「酷いもんさ。女を作って出てったんだよ。呑んだくれの最低な奴だったらしくてね。出てっくれて助かったけど、代わりに今度は母親の方が身体を壊したのさ。やっと仕事を見つけて働いても薬代に消えていく。食うにも困る中で仕事も続かない。見かねた知り合いがどうにか頼めないかって来たのさ」

 「それでですか。流石お婆ちゃんですね」

 断ることも出来ただろうに、そうはせず彼を雇い入れた。
 優しいですねと笑う縁に、しかしマーガレットは苦笑いする。

 「それで終われば良かったんだけどね。あの調子だろ?上手いこといかなくてね。本人は必死にやってるが、もっと他の仕事でも紹介してやろうかと思ってるのさ」

 ふむ。
 考えること数分、ならば少し彼と話しをさせてもらえないかと頼めば首を傾げながらも頷いてくれるのだった。

 「お仕事中すいません。少し貴方とお話しさせてもらってもいいでしょうか?」

 再び部屋に呼ばれ、怒られるのかと思ったのか身体を震わせる男に苦笑いする。
 自分はそれほど怖い見た顔をしているだろうか?

 「大丈夫です。先程のことは怒っていません。むしろうちの子が騒いですいませんでした」

 うるさかったでしょ?と謝れば、凄い勢いで首を振られた。
 
 「実は貴方に頼みたいことがあるんです。けどそれが出来るかどうかいくつか聞きたいことがあります」

 「は、はいっ!」

 何も無理難題を言うつもりはなく、どうか気を楽にしてくれと頼んだが緊張で完全に固まってしまっていた。
 縁たちの存在をどう聞いているか分からないが、上司の知人ともなれば緊張して当然かと諦める。

 「動物の世話の経験は?」

 「え、えっと、少しなら。以前馬の世話をしたことがありますけど、その、仕事が遅いとクビに……」

 なるほどなるほど。

 「力仕事は?」

 「あ、あまり」

 自信はないと言うため試しに縁を抱き抱えてもらえば、思いの外不安定ではなかった。
 少し不満そうだったルーの頭を撫でて宥めつつ、抱っこをせがむ繋を膝に抱き抱えてやる。
 それから子どもは好きか?畑仕事は?読み書きは?など質問していく。

 「では最後に1つだけ。獣人に対して嫌悪は?」

 「………………あ、ありません」

 どう答えるのが正解か分からない中、しかし縁の言葉をちゃんと聞き考え首を振った。
 求めていた答えに微笑めば、安心したのかホッと息をついていた。

 「ありがとうございます。では提案なんですが、私の所で働きませんか?」

 「え?」

 皆が驚き目を見開く中、縁は気付かなかったがジンだけが面白いとばかりに笑みを浮かべていたのだった。

 
 


 

 



 

 

 
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【本編完結】十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、攻略キャラのひとりに溺愛されました! ~連載版!~

海里
BL
部活帰りに気が付いたら異世界転移していたヒビキは、とあるふたりの人物を見てここが姉のハマっていた十八禁BLゲームの中だと気付く。 姉の推しであるルードに迷子として保護されたヒビキは、気付いたら彼に押し倒されて――? 溺愛攻め×快楽に弱く流されやすい受けの話になります。 ルード×ヒビキの固定CP。ヒビキの一人称で物語が進んでいきます。 同タイトルの短編を連載版へ再構築。話の流れは相当ゆっくり。 連載にあたって多少短編版とキャラの性格が違っています。が、基本的に同じです。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。先行はそちらです。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

処理中です...