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慣れなければ
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手を動かしながらも横目でその姿を確認する。
今のところ何も問題は起こしていないようだが、また彼に何か言いがかりをつけないかとソワソワと落ち着かなかった。
離れているため会話までは聞こえなかったが、言い争っている様子はない。
「サウルちょっと来てくれますか?」
「…………なに?」
手招きされ近寄っていけば、この後の予定を言われた。
「色々考えたんですが彼女たちには家事をしてもらおうと思うんですがどうですか?もしサウルが他にやってもらいたいことがあるんだったらそっちを優先しますけど」
そう言われ畑仕事をしている仲間を見たが、そこまで手が足りていないわけでもないようなのでそれでいいと頷いた。
「手を借りたいことがあれば勿論言ってあげて下さい。じゃあこの後はお掃除をしてお昼ご飯を作ろうと思うんですけど、その前に彼女に家の中を案内してあげてくれますか?」
「オレが?」
なぜ彼がやらないのかとも思ったが、確かに彼女たちの主人は自分なのだから自分がやるべきかと納得した。
「ここが風呂、こっちが洗い場、寝るのはそっちで……」
「ちょっと落ち着きましょうか。サウル、もう少し詳しく教えて上げてくれますか?」
……………くわしく?意味がわからない。
教えろと言われたから教えていたのだが。
「お風呂は昨日入ったので分かりますよね。あとはみんなでご飯を食べた場所と、イリスさんたちの隣りの部屋は私たちが使っていますけど、向かい側はサウルや他の子たちが使っています。あとは……」
部屋を1つずつ見て回りながら何があるか説明していくのを聞き、自分に足りなかったのはこれかと分かった。
「サウルが悪いわけじゃありません。ただ彼女たちは元は奴隷だったのでそこをもう少し気にしてあげてほしいんです」
「どういうこと?」
「昨日もそうでしたけど、彼女たちはご飯を食べることさえ許可をもらえなければ出来ません」
そんなバカな。
食べなければ生きていけないのに、なぜそんなことまで言ってやらなければ出来ないのか。
「いみ分かんねぇ」
「ご主人様にもよるとは思いますけど、人によっては彼女たちを物だと思って使うだけ使い死んだら捨てるというのが当たり前だと思う人もいるんですよ」
「は?」
物?物って…………生きてんだろ。
隣りを見れば俯き両手を握りしめるイリスの姿がある。
否定しないということはそれが事実なのだろう。
「物だからご飯も休みももらえない。寝る場所さえ与えられず、言われるがまま働いても何も貰えないんです」
「そんなんでどうやって生きてくんだよ」
動物だって、魔物でさえ何かを食べなければ、寝ることをしなければ死んでしまうのだ。
そんな扱いを受けどうやって生きていくというのだ。
「………そうですね。悲しいことですが彼女たちは生きることさえ人間によって決められてしまっているんです。死ぬことも、生きることも自分では決められない」
「……………」
奴隷を見たのは初めてではない。
酷い扱いをされているのは薄々だが知ってはいた。
だが生死さえ選べない中で何を希望に生きていけるのか。
「けどサウルが彼女たちを買ってくれた。今はサウルが彼女たちの主人でもあります。だからサウルが決めることが出来る。ーー全てを」
自分の手に彼女たちの命がかかっている。
恐怖に俯きそうになった顔に温かい手が触れ、促されるまま顔を上げた。
「ごめんね。怖がらせたかったわけじゃないんです。ただ彼女たちのことを知ってあげて欲しかった。ずっと辛い思いをしてきた彼女をサウルに助けてあげて欲しかったんです」
「オレが、たすける?」
自分なんかが何をしてやれるというのか。
金なんか持ってない、子どもだから大人ほどの力もない、頭も悪く、以前は生きるためとはいえ盗みだってしていた。
そんな自分に何が……
「彼女たちは私たちが当たり前であることさえ難しいことがある。だから教えてあげて下さい。泣いてもいいよ、笑ってもいいよ、一緒に遊びましょう、一緒にご飯を食べましょう。これを手伝ってほしい、ありがとう、ごめんね、おはよう、お休みなさい。当たり前ですけど、それを許されなかった彼女たちにサウルが教えてあげて下さい」
「そんなことでいいの?」
そんなことで彼女たちを自分が救えるというのか。
だがそれが彼女たちにとっては最初の一歩なのだと言われた。
「彼女たちを人にしてあげて。物ではなく、奴隷でもなく、1人の人として彼女たちを見てあげて下さい」
「……ぐすっ…」
涙を流し、しかし声を上げるものかと歯を食いしばるイリスの姿に昔の自分の姿が重なった気がした。
自分にとってはそれくらいだが、彼女たちがそれで人として何かを取り戻せるなら頑張ってみてもいいかもしれない。
「わかった。やってみる」
「ありがとう。みんなで頑張っていきましょうね」
この人はやれないことをやれとは言わない。
だからーーやってみよう。
今のところ何も問題は起こしていないようだが、また彼に何か言いがかりをつけないかとソワソワと落ち着かなかった。
離れているため会話までは聞こえなかったが、言い争っている様子はない。
「サウルちょっと来てくれますか?」
「…………なに?」
手招きされ近寄っていけば、この後の予定を言われた。
「色々考えたんですが彼女たちには家事をしてもらおうと思うんですがどうですか?もしサウルが他にやってもらいたいことがあるんだったらそっちを優先しますけど」
そう言われ畑仕事をしている仲間を見たが、そこまで手が足りていないわけでもないようなのでそれでいいと頷いた。
「手を借りたいことがあれば勿論言ってあげて下さい。じゃあこの後はお掃除をしてお昼ご飯を作ろうと思うんですけど、その前に彼女に家の中を案内してあげてくれますか?」
「オレが?」
なぜ彼がやらないのかとも思ったが、確かに彼女たちの主人は自分なのだから自分がやるべきかと納得した。
「ここが風呂、こっちが洗い場、寝るのはそっちで……」
「ちょっと落ち着きましょうか。サウル、もう少し詳しく教えて上げてくれますか?」
……………くわしく?意味がわからない。
教えろと言われたから教えていたのだが。
「お風呂は昨日入ったので分かりますよね。あとはみんなでご飯を食べた場所と、イリスさんたちの隣りの部屋は私たちが使っていますけど、向かい側はサウルや他の子たちが使っています。あとは……」
部屋を1つずつ見て回りながら何があるか説明していくのを聞き、自分に足りなかったのはこれかと分かった。
「サウルが悪いわけじゃありません。ただ彼女たちは元は奴隷だったのでそこをもう少し気にしてあげてほしいんです」
「どういうこと?」
「昨日もそうでしたけど、彼女たちはご飯を食べることさえ許可をもらえなければ出来ません」
そんなバカな。
食べなければ生きていけないのに、なぜそんなことまで言ってやらなければ出来ないのか。
「いみ分かんねぇ」
「ご主人様にもよるとは思いますけど、人によっては彼女たちを物だと思って使うだけ使い死んだら捨てるというのが当たり前だと思う人もいるんですよ」
「は?」
物?物って…………生きてんだろ。
隣りを見れば俯き両手を握りしめるイリスの姿がある。
否定しないということはそれが事実なのだろう。
「物だからご飯も休みももらえない。寝る場所さえ与えられず、言われるがまま働いても何も貰えないんです」
「そんなんでどうやって生きてくんだよ」
動物だって、魔物でさえ何かを食べなければ、寝ることをしなければ死んでしまうのだ。
そんな扱いを受けどうやって生きていくというのだ。
「………そうですね。悲しいことですが彼女たちは生きることさえ人間によって決められてしまっているんです。死ぬことも、生きることも自分では決められない」
「……………」
奴隷を見たのは初めてではない。
酷い扱いをされているのは薄々だが知ってはいた。
だが生死さえ選べない中で何を希望に生きていけるのか。
「けどサウルが彼女たちを買ってくれた。今はサウルが彼女たちの主人でもあります。だからサウルが決めることが出来る。ーー全てを」
自分の手に彼女たちの命がかかっている。
恐怖に俯きそうになった顔に温かい手が触れ、促されるまま顔を上げた。
「ごめんね。怖がらせたかったわけじゃないんです。ただ彼女たちのことを知ってあげて欲しかった。ずっと辛い思いをしてきた彼女をサウルに助けてあげて欲しかったんです」
「オレが、たすける?」
自分なんかが何をしてやれるというのか。
金なんか持ってない、子どもだから大人ほどの力もない、頭も悪く、以前は生きるためとはいえ盗みだってしていた。
そんな自分に何が……
「彼女たちは私たちが当たり前であることさえ難しいことがある。だから教えてあげて下さい。泣いてもいいよ、笑ってもいいよ、一緒に遊びましょう、一緒にご飯を食べましょう。これを手伝ってほしい、ありがとう、ごめんね、おはよう、お休みなさい。当たり前ですけど、それを許されなかった彼女たちにサウルが教えてあげて下さい」
「そんなことでいいの?」
そんなことで彼女たちを自分が救えるというのか。
だがそれが彼女たちにとっては最初の一歩なのだと言われた。
「彼女たちを人にしてあげて。物ではなく、奴隷でもなく、1人の人として彼女たちを見てあげて下さい」
「……ぐすっ…」
涙を流し、しかし声を上げるものかと歯を食いしばるイリスの姿に昔の自分の姿が重なった気がした。
自分にとってはそれくらいだが、彼女たちがそれで人として何かを取り戻せるなら頑張ってみてもいいかもしれない。
「わかった。やってみる」
「ありがとう。みんなで頑張っていきましょうね」
この人はやれないことをやれとは言わない。
だからーーやってみよう。
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