二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
403 / 475

油断は大敵

しおりを挟む
 後ろの方でずっと様子を窺っていたが、彼は毎回自分には予想も出来ないことばかり起こす。
 奴隷を買うのを手伝って欲しいと連絡が来たのはつい先日。
 何故自分が?とも思ったが、エニシは自身のためではなく子どもたちのため信頼出来そうな人が選びたいと言われ、ならば力になれるのであればと二つ返事で頷いた。
 力仕事もあるため出来れば獣人を1人、何かあった時話しをしやすいだろう人間も1人欲しいと言われ納得もしていた。
 なのだが……

 「お待たせしてしまってすいません。獣人はこの子たちにしようと思います」

 そう言い引き連れてきた獣人の女の子2人にそれでいいのかと言いたくなった。
 はっきり言ってどちらも男を選ぶのだと思っていたからだ。
 獣人でもやはり男女の差はあり、力を必要としているならば当たり前だが男を選ぶ。
 それをまだ成人しているのかも怪しい女の子を、片方は足を患っているだろう幼き女の子を選ぶのは良い判断とは言えない。

 「………本当に彼女たちでいいんですか?」

 「はい。この子たちが、いいんです」
 
 何か言いたそうな自分に気が付いているだろうエニシは、いつも通り微笑みながらも気持ちは変わらないというように頷いた。

 「予想外に2人になってしまいましたし、色々話し合う必要もありそうなので申し訳ありませんが人間の方を選ぶのはまた後日でもいいでしょうか?」

 ずっと見ていたから分かってはいるが、妹の方はまだしも姉のあの反抗的な態度はよろしくない。
 もしかしたら彼に暴力を振るうかもしれない可能性もあり、どうにも納得出来なかった。

 「エニシくんに何かあれば私はあの2人に殴り飛ばされてしまうんですが」

 「ジンさんとマーガレットさんですか?うーん………頑張って下さい」

 「そこは是非とも否定して欲しかったです」

 自分はこれほど心配しているというのにエニシはそんなことになりませんよと笑っている。
 先程の彼らの会話を聞いていても何故あの2人を選んだかも理解が出来なかった。
 手助けどころか足を引っ張りかねない存在だ。
 しかしエニシの決断を自分が変えることも出来ないだろうことも理解している。

 「エニシくんに1つお願いがあるんですが」

 「何でしょう?」

 今からする提案に下心がないとは言わない。言わないが勿論それだけでもない。

 「人間の方ですが、もしよければ私のところの奴隷ものを連れて行ってもらえませんか?」

 「ーー理由を聞いても?」

 変わらず笑顔ではあったが、どこか試すような瞳に一瞬ドキリとした。

 「貴方が心配なので。彼女たちを選んだことに文句をつけようとは思いませんが何があるか分かりませんでしょう?色々教えていくにしても時間がかかりますし、うちの者でしたら今まで働いてこともあるのである程度こなせると思います」

 「……………そうですか」

 心配してくれてありがとうございますと言いながらもククルの提案に頷く様子がないエニシに、どうしたのかと首を傾げる。

 「うーん、心配してもらえるのは嬉しいんですが………お願いは本当にその1つだけですか?」

 「え?」

 にこにこと微笑みながらも、どうなのだと促してくるエニシにヒヤリとしたものが背中を伝っていく。

 「ククルさん、私これでもそれなりに貴方を信頼してんです」

 「ーーす、すいませんでした!」

 その言葉に即座に頭を下げた。
 周りは驚いていたが、そんなこと気にならないほど焦りに冷や汗が止まらない。

 「貴方は商人ですから常に損得勘定してしまうのは仕方がないと思いますが、人によってはそれが喜ばれない時もあると分かってもらえると嬉しいです。商人には信頼も必要でしょ?」

 「はい。本当にすいませんでした」

 彼に自分の奴隷を薦めたのは勿論心配だけが理由ではない。
 半分以上は自身の利益のためであり、それに気付かれたとは恐ろしくもある。

 「心配だけで今まで育ててきた方を私に譲ってくれるなんて有り得ませんよね?」

 正解だ。
 奴隷とは言え自分の手の者が彼の側にいれば何かしら情報を流してくれるだろうと考えていた。
 彼が自分たちにもたらしてくれた利益は計り知れず、ならばその近くに身近な者を置いて探ってもらおうなどククルを信頼してくれていた彼に失礼な行為だ。
 正直に話せば苦笑いしながらも許してくれた。

 「怒っていないとは言いませんが、少し残念ではあります。先程も言いましたが、これでもククルさんのことかなり信頼してるんですよ」

 苦笑いしながらもまだ失っていないらしい信頼にホッとする。

 「子どもたちがお世話になっているので素直にお願いしてくれれば聞いてました。言ってもらえなかったことだけが残念です」

 只々謝罪するしかない。
 彼がこういう人間だからこそ自分は気に入っていたし信頼もしていたのに、それを裏切るような行為をしようとしていた。
 
 「だからと言っては卑怯ですが、そんなククルさんに私からもお願いがあるんですが」

 「私に出来ることであれば勿論」

 それで彼の信頼を取り戻せるならば何でも受けようと即座に頷くのであった。

 
 

 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら魔術師団長のペットになりました

ことり
BL
悪い男に襲われている最中に、もっと悪い男に異世界召喚されてしまう、若干Mな子のお話です。 気晴らしに書いた短編でしたが、召喚されっぱなしのやられっぱなしで気の毒なので、召喚先で居場所ができるように少々続けます。 山も谷もないです。R18で話が始まりますのでご注意ください。 2019.12.15 一部完結しました。 2019.12.17 二部【学園編】ゆったりのんびり始めます。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

生意気オメガは年上アルファに監禁される

神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。 でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。 俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう! それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。 甘々オメガバース。全七話のお話です。 ※少しだけオメガバース独自設定が入っています。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...