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叶った
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お気に入りの絵本を読めて満足なのかご機嫌でお茶を飲むとオヤツにと出してやったクッキーをパクパク食べる娘の姿に苦笑いする。
「楽しかったですか?」
「うん!」
お守りに付き合わせてしまった王女様には申し訳なかったが、楽しかったと娘が喜んでくれたのならばよかったと頭を撫でてやっていれば………
「………あ、あのっ!」
「どうされました?」
何か思いつめたような表情でこちらを見てくる王女に首を傾げる。
「あの………その………お、お兄様が、貴方のことを母上と呼んでいると聞いたのですが」
どこか言いづらそうにそう言ってくる彼女に、もしやそんなことさせないでほしいと怒っているいるのかと思った。
「はい。畏れ多いことではありますが、そう呼びたいと言っていただけたので」
確かに提案したのは縁ではあるが、そう呼ぶことを選んだのはエリック自身だ。
「そ、そうなのですか。あの………でしたら!その、わ、私も………その…呼んでも構いませんか?」
「何をですか?」
文句の1つでも言われるのかと思っていたため何のことだろと首を傾げる縁に、しかし彼女は真っ赤な顔を上げると勇気を出すようにお願いしてきた。
「わっ、私も…貴方をは、母上と、呼んでもいいかしら?」
「…………」
まさかのお願いに驚いてしまった。
「ダメ、ですか?」
黙り込む縁にどう思ったのか涙目になる彼女にどうしたものかと考える。
「それは構いませんが………王妃様はよろしいので?」
そう、エリックの場合父親もそうだが母親にも無下にされていたためそれでも構わないと言ったが、彼女の場合口煩くとも母と呼べる女性がいたはずだ。
ならばエリックに習わずとも無理にそう呼ばなくてもいいだろうと思ったのだが………
「はい。母は…いえ、あの人はただ自分の思い通りになる駒が欲しかっただけ。母親として私のことを想ってくれていたわけではなく、自分のために私を利用しようとしていただけです。今更ながらにそれを強く感じ、もう………疲れてしまったんです」
今まで出来損ないだ、不気味な異端児だと避けていたエリックがその才能を見せ始め、それまで出来ていたことが思い通りいかなくなり焦ったのだろう。
その自尊心の高さから馬鹿にしていた息子に媚びを売るなど出来るはずもなく(出来たとしてもエリックが受け入れるわけないが)、何とか彼女を王座につけようと今まで以上に無理難題を押し付けていたらしい。
「私の最初の貴方への態度は誉められたものではないと分かっておりますし心から反省しております。もう二度とあんなこといたしません。誓います。な、なので………」
「繋、ずっとお姉ちゃんがほしいと言ってましたよね?」
「?、うん」
すでに大家族と言えるほど多い家族ではあるが、兄に妹、弟がいても姉はおらずお姉ちゃんがほしいと言っていた繋の言葉を思い出した。
「こちらのお姫様が今日から繋のお姉ちゃんになってくれるって。嬉しい?」
「っ!?ほんと?」
これでもかと目を輝かせる娘に、更に今なら王子様なお兄ちゃんも出来るよと囁いてやれば両手を上げて喜ぶとお姉ちゃんだ!と叫び王女様に抱き付きにいった。
「ほんと?おひめさま、ほんとにケイのおねえちゃんなってくれる?」
「……ええ。そうなれたら嬉しいのだけど…いいかしら?」
チラリとこちらを窺ってきた彼女に頷いてやれば、そう呼んでほしいと笑い抱き付いてくる繋の頭を撫でてやっていた。
「~~~っ、いいよ!おうじさまのおにいちゃんもケイのおにいちゃんね!」
「ああ。今日からよろしく」
エリックも慣れてきたのか笑って頷くと一緒に撫でてやっていた。
王子と王女の兄姉なんて普通なら有り得ないだろうが、嬉しいと飛び跳ねる娘の姿にまぁいいかと納得しておく。
「ケイね、ケイね。いっぱいおうじさましってるからおねえちゃんにおしえてあげる!」
「本当?とっても嬉しいわ」
言葉だけ聞けば少々ヤバい発言だが、あくまで絵本の話しであり決して知り合いなどではない。
「いつになく機嫌がいいな」
「憧れのお姫様ですからね。姉が欲しいとも言ってましたし」
これからも弟妹は増えてはいくだろうが、流石に姉を産んでやることは縁にも出来ない。
今回のことは偶然ではあるが願いが叶い嬉しいのだろう。
「これ以上家族を増やしてどうするつもりだ?」
「どうにもしませんよ。それに増えたと言っても一緒に暮らせるわけでもありませんし、彼らも自分たちの面倒を見てほしいというわけではないでしょう?」
あくまで彼らが求めるのは家族という縁が与える愛情。
そこに金銭も政治的戦略もありはしない。
すでに両親の手を求めずとも己を持っている彼らは縁に何かを求めているわけではないのだ。
「宰相様がうちの子を抱き抱えてくれるように私も彼らの頭を撫で、宰相様がうちの子と一緒にご飯を食べてくれるように私も彼らと美味しいねとお茶をする。ただ一緒に笑い、時には悩みを聞いてあげたり………それだけですよ」
ただそれだけ。
だがそれを持っていない彼らは縁にそれを求め、縁はそれに頷いただけだ。
「だがそう出来るからこそ彼らもあれほど変わることが出来たんだ。君との出会いを私も心から感謝しよう」
何とも大袈裟なと苦笑いするのだった。
「楽しかったですか?」
「うん!」
お守りに付き合わせてしまった王女様には申し訳なかったが、楽しかったと娘が喜んでくれたのならばよかったと頭を撫でてやっていれば………
「………あ、あのっ!」
「どうされました?」
何か思いつめたような表情でこちらを見てくる王女に首を傾げる。
「あの………その………お、お兄様が、貴方のことを母上と呼んでいると聞いたのですが」
どこか言いづらそうにそう言ってくる彼女に、もしやそんなことさせないでほしいと怒っているいるのかと思った。
「はい。畏れ多いことではありますが、そう呼びたいと言っていただけたので」
確かに提案したのは縁ではあるが、そう呼ぶことを選んだのはエリック自身だ。
「そ、そうなのですか。あの………でしたら!その、わ、私も………その…呼んでも構いませんか?」
「何をですか?」
文句の1つでも言われるのかと思っていたため何のことだろと首を傾げる縁に、しかし彼女は真っ赤な顔を上げると勇気を出すようにお願いしてきた。
「わっ、私も…貴方をは、母上と、呼んでもいいかしら?」
「…………」
まさかのお願いに驚いてしまった。
「ダメ、ですか?」
黙り込む縁にどう思ったのか涙目になる彼女にどうしたものかと考える。
「それは構いませんが………王妃様はよろしいので?」
そう、エリックの場合父親もそうだが母親にも無下にされていたためそれでも構わないと言ったが、彼女の場合口煩くとも母と呼べる女性がいたはずだ。
ならばエリックに習わずとも無理にそう呼ばなくてもいいだろうと思ったのだが………
「はい。母は…いえ、あの人はただ自分の思い通りになる駒が欲しかっただけ。母親として私のことを想ってくれていたわけではなく、自分のために私を利用しようとしていただけです。今更ながらにそれを強く感じ、もう………疲れてしまったんです」
今まで出来損ないだ、不気味な異端児だと避けていたエリックがその才能を見せ始め、それまで出来ていたことが思い通りいかなくなり焦ったのだろう。
その自尊心の高さから馬鹿にしていた息子に媚びを売るなど出来るはずもなく(出来たとしてもエリックが受け入れるわけないが)、何とか彼女を王座につけようと今まで以上に無理難題を押し付けていたらしい。
「私の最初の貴方への態度は誉められたものではないと分かっておりますし心から反省しております。もう二度とあんなこといたしません。誓います。な、なので………」
「繋、ずっとお姉ちゃんがほしいと言ってましたよね?」
「?、うん」
すでに大家族と言えるほど多い家族ではあるが、兄に妹、弟がいても姉はおらずお姉ちゃんがほしいと言っていた繋の言葉を思い出した。
「こちらのお姫様が今日から繋のお姉ちゃんになってくれるって。嬉しい?」
「っ!?ほんと?」
これでもかと目を輝かせる娘に、更に今なら王子様なお兄ちゃんも出来るよと囁いてやれば両手を上げて喜ぶとお姉ちゃんだ!と叫び王女様に抱き付きにいった。
「ほんと?おひめさま、ほんとにケイのおねえちゃんなってくれる?」
「……ええ。そうなれたら嬉しいのだけど…いいかしら?」
チラリとこちらを窺ってきた彼女に頷いてやれば、そう呼んでほしいと笑い抱き付いてくる繋の頭を撫でてやっていた。
「~~~っ、いいよ!おうじさまのおにいちゃんもケイのおにいちゃんね!」
「ああ。今日からよろしく」
エリックも慣れてきたのか笑って頷くと一緒に撫でてやっていた。
王子と王女の兄姉なんて普通なら有り得ないだろうが、嬉しいと飛び跳ねる娘の姿にまぁいいかと納得しておく。
「ケイね、ケイね。いっぱいおうじさましってるからおねえちゃんにおしえてあげる!」
「本当?とっても嬉しいわ」
言葉だけ聞けば少々ヤバい発言だが、あくまで絵本の話しであり決して知り合いなどではない。
「いつになく機嫌がいいな」
「憧れのお姫様ですからね。姉が欲しいとも言ってましたし」
これからも弟妹は増えてはいくだろうが、流石に姉を産んでやることは縁にも出来ない。
今回のことは偶然ではあるが願いが叶い嬉しいのだろう。
「これ以上家族を増やしてどうするつもりだ?」
「どうにもしませんよ。それに増えたと言っても一緒に暮らせるわけでもありませんし、彼らも自分たちの面倒を見てほしいというわけではないでしょう?」
あくまで彼らが求めるのは家族という縁が与える愛情。
そこに金銭も政治的戦略もありはしない。
すでに両親の手を求めずとも己を持っている彼らは縁に何かを求めているわけではないのだ。
「宰相様がうちの子を抱き抱えてくれるように私も彼らの頭を撫で、宰相様がうちの子と一緒にご飯を食べてくれるように私も彼らと美味しいねとお茶をする。ただ一緒に笑い、時には悩みを聞いてあげたり………それだけですよ」
ただそれだけ。
だがそれを持っていない彼らは縁にそれを求め、縁はそれに頷いただけだ。
「だがそう出来るからこそ彼らもあれほど変わることが出来たんだ。君との出会いを私も心から感謝しよう」
何とも大袈裟なと苦笑いするのだった。
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