二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
375 / 475

ちゃんと聞いて

しおりを挟む
 「アイわるないもん!」

 皿洗いも終わり玲はどうしたかと様子を見に行こうとすれば、廊下にまで響き渡る子どもたちの泣き声と愛依の怒ったような声が聞こえてきた。

 「悪くねぇわけないだろ。繋が泣いちまってんだから謝れ」

 「やっ!アイわるない!」

 声からしてジークが愛依を叱っているようだが、その内容からは何があったかは分からず首を傾げるとどうしたのかと近寄っていく。

 「愛依が繋を突き飛ばしたんだよ。怪我はしてねぇみたいだが危ないだろ」

 なるほど。繋が元気に泣いている理由は分かった。

 「そうですか。なら真はなんで泣いているんですか?」

 「あ?あー、繋につられて泣いてんじゃねぇのか?」

 ねぇのか?って………なぜ知らないのか。
 セインに抱きつき泣く繋だが、それを見て真がつられて泣くとは思えない。
 愛依にしても感情が豊かではあるが理由なく繋を突き飛ばすとは思えなかった。
 
 「ちゃんと繋に謝れ」

 「やだ!パパきらい!」

 あらあらあら。とうとう嫌いとまで言われてしまっている。
 悪いことをしたら叱るのは大切だが、そう頭ごなしに叱ったところで子どもが納得も反省もしないだろうに。

 「真おいで」

 繋はセインが、玲はアレンが宥めてくれているが、ジークは愛依を叱っているため真が放っておかれてしまっていた。
 泣きながらもヨロヨロと歩いてきた真を抱え上げる。

 「愛依」

 「っ」

 縁にまで怒られると思ったのかビクリと肩を震わせ俯く愛依に苦笑いする。
 普段それほど怒る方ではないが、全くないわけではなく偶に泣かせてしまうこともあるため怯えられてしまった。
 ギュッと服を握りしめる愛依は泣くのを我慢しているのか怒ってはいるが顔は無表情だ。

 「大丈夫。怒ってませんからおいで」

 そう言い優しくもう1度名前を呼べば、漸く顔を上げそろそろと近付いてくる。
 それでも普段とは違い抱き付いてくることはなく、一歩手前で止まってしまった。

 「………アイわるないもん」

 「ちゃんと理由があったんですよね?愛依も真も繋お姉ちゃんのこと大好きなのママはちゃんと知ってますよ」

 「うん」

 身体的違いや父親が違うことに疑問を抱いているかもしれないが姉妹仲が悪いことは全くなく、むしろ良いとも言えるほどだ。
 そんな愛依が理由なく繋を突き飛ばすはずはなく、何かしらわけがあるはずだ。

 「…………ねーね、シンのシッポふんだの。シンいたいって…だからアイどんした」

 それで真は泣いていたのか。謎が解けた。
 話しからして繋が誤って真の尻尾を踏み、泣いた真を守ろうとして繋を突き飛ばしてしまったようだ。
 人間である縁には尻尾がないためどれほどの痛みかは分からないが、真の泣き方からしてそれなりに痛かったのだろう。

 「真のためだったんですね?」

 頷く愛依に微笑みおいでと手を伸ばせば、今度こそ抱き付いてきた小さな身体を抱きしめてやる。

 「真を守ろうとした愛依は優しいですし間違ってませんよ。けどやり方がちょっと間違ってただけです」

 そう、方法が悪かっただけだ。
 
 「繋お姉ちゃんもわざと踏んだんじゃないんですよ。どんするんじゃなくてどいてって言えば繋お姉ちゃんも分かってくれましたよ」

 「シンないてたの」

 泣く真に驚き咄嗟に手を出してしまったのだろう。
 
 「そうですね。でも愛依にどんされて転んだ繋お姉ちゃんも痛かったはずですからそれはごめんねしましょう?」

 真を守ろうとしたことは間違いではないが、突き飛ばして転ばさせてしまったことはよくない。
 
 「真の尻尾を踏んでしまったことは繋お姉ちゃんもきっとごめんねってしてくれますから。愛依はどんしてごめんねって。真を守ってくれた優しい愛依なら出来ますよね?」

 愛依がしたこと全てを否定するわけではない。
 真を守ろうとしたのだと言うならば怒る理由などはなく、ただ手を出すのではなく言えば分かってくれたよと教える。

 「アイわるない」

 「悪くないですよ。家族を守ろうとした愛依は悪くないです。けど真と同じで繋お姉ちゃんも痛い痛いしたからそこだけごめんねしましょう?」

 「…………うん」

 頷いた愛依に微笑むと繋を呼びお互い謝らせた。
 涙で顔をグシャグシャにしながらもごめんねと真に謝る繋に愛依も漸く納得したのか声は小さかったがきちんと謝っていた。

 「それで?理由も聞かず自身の子を叱っていたパパはどうします?」

 「…………悪かった」

 理由も聞かず愛依が悪いと決め込んでいたジークがバツが悪そうな顔で謝ってくる。

 「私にですか?何のことでしょう?」

 相手が違う。

 「あー、その………悪かったな愛依。あー、あれだ、ごめんな」

 「パパきらい」

 「っ!」

 「………じゃないよ」

 「そ、そうか」

 あからさまにホッとするジークに側でそれを見ていたアレンとセインが肩を震わせているのだった。

 「というか3人もパパがいてなんでこれぐらい解決出来ないんですか?」

 「「「…………」」」

 気まずそうに顔を逸らす3人に大きな溜め息をつくのだった。
 
 
 

 

 


 

 

 

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

王太子殿下は悪役令息のいいなり

白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...