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迫る時
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「……ママ」
「いいですよ。おいで」
あれからアズの体調も少しずつ回復しつつあった。
だがまだ手に震えは残っているようで、その時は縁がこうして手を包み込み優しく撫でてやる。
それまで見ていた悪夢も、アズが見たと言えばそっと抱きしめ朝まで一緒に眠りにつく。
乱れた魔力はエルと一緒に宥める方法を模索していた。
縁がしてやれることは少ないが、それでアズが落ち着くならばいくらでもしてあげたい。
「今日はアズの大好きなドリアにしましょうか。作るの手伝ってくれますか?」
もう大丈夫ですよと握る手を撫でながらそう言えば、とても嬉しそうに笑い頷いてくれるのだった。
「ケイもおてつだいするもん!」
だから自分も混ぜてと抱き付いてきた小さな身体にアズも一緒にしようと頷いている。
繋は兄弟の中では一番アズに懐いている。
それは腹にいた頃から何を感じ取り大丈夫だよと伝え続けていたせいかは分からないが、彼らの中で何か通ずるものがあったからかもしれない。
はっきりとした理由は分からないが、アズが何かをする時は自分もしたいと繋は強請ることが多かった。
「なら繋にはアズと一緒にチーズを上にいっぱいかけてもらいましょうかね」
「する!アズにぃいこう!」
アズを真ん中に3人手を繋ぎキッチンへ向かう。
大好きなママと兄と一緒で繋もかなりご機嫌のようだ。
「ケイね、ママのごはんだいすき!」
「ボクも」
一緒だねと笑い合う我が子たちが可愛い過ぎる。
「パパたちのご飯は美味しくなかったですか?」
数日ではあるが縁が家を離れていた間、代わりに作ってくれていただろうセインたちのご飯はどうだったかと聞けば、悩みに悩み美味しかったと答えた。
「パパね、おにくしかたべないの」
「やさい食べたかった」
「うーん」
それは何とも気になる案件だ。
あれほど肉ばかりではなく野菜も一緒に食べて下さいねと言っておいたのに。主にセインに。
獣人である彼らはそれでもいいかもしれないが、アズは魔族であり、繋は人間なのだ。
顎の強さから言ってもそれほど強いわけではなく、肉料理ばかりでは飽きてしまうだろう。
「それは勿体ないですね。繋はもうちゃんとお野菜食べられるようになってきたのに」
かなりの偏食だった繋だが、最近は少しずつだが苦手な野菜たちも食べられるようになってきていた。
「ボク、トマト好き」
エルとは違いアズはトマトが大好きだ。
「ケイはとうもしころすき!」
「とうもろこし、ね。私も大好きですよ。いつも茹でてばかりなので今度食べる時は焼いてみましょうか」
焼く!?と繋は驚いているが、醤油を塗って焼いて食べるのも美味しいですよと教えてやれば目を輝かせていた。
人によっては茹でただけの方が美味しいと言う人もいるが、縁はどちらもあり派である。
ある意味こだわりがないとも言える。
「ほぐしてご飯と一緒に炊くのもいいですね。トマトはお肉と煮込んでも美味しいですから今度一緒に作って食べてみましょう」
「「たべる!」」
まだまだ食べ盛りの育ち盛り。
双子ほどではないが食べることが大好きな2人も食欲は旺盛だ。
「オレ……はトマトはいいかな」
道中捕獲したエルはトマトと聞き頬を引きつらせていた。
「頑張れば生でも食べられるんですから煮込んだらもっと食べられると思いますよ」
「そうかなぁ?だって……トマトだよ?」
基本出されたものはきちんと食べきるエル。
勿論トマトが苦手なことを知っているためみんなのものより格段に量を減らして出している。
それを知っているからこそエルも文句も言わず食べているのだ。
「ピザに使っているトマトソースだって平気だったでしょ?」
「まぁ、あれは美味しいけどさー」
嫌いだとは言ってはいるが、そのまま生で食べるのが苦手なだけで調理さえすれば食べられると気付いたのは最近。
それまで手を加えるという考えがなかったこともあり、調理し出したものは美味しそうに食べていた。
「ならきっと大丈夫ですよ。鶏肉とかハーバーグと一緒に煮込んでも美味しいですよ」
「「たべたーい!」」
未だ渋るエルに、しかしアズと繋の2人は食べたいと目を輝かせている。
なら今度作ってみようと約束し、今日のところはドリアを作っていくことに。
「ママ、ケイのおみそがいい!」
「え……ドリアに?」
それは縁も食べたことがないため味の保証が出来なかったが、食べたいときかないため繋の分には味噌を投入しておいた。
なら自分はトマトがいいと言うアズにはトマトを、エルはどうするかと聞けば肉!と即答された。
他にも真のために魚入りや、縁はたっぷりキノコに、アレンには肉増し増しのものを作る。
「色々味があって面白いね。エニシのも後で一口ちょうだい」
「いいですよ。みんなで色々食べてみましょう」
こうして家族で食卓を囲み分け合って食べるというのは本当に楽しく、懐かしかった。
「セインには野菜たっぷりにしておいてあげましょう」
「うわぁ~」
数日食べなかった分の野菜を縁の愛情と共にたっぷり詰め込んでおくのだった。
「いいですよ。おいで」
あれからアズの体調も少しずつ回復しつつあった。
だがまだ手に震えは残っているようで、その時は縁がこうして手を包み込み優しく撫でてやる。
それまで見ていた悪夢も、アズが見たと言えばそっと抱きしめ朝まで一緒に眠りにつく。
乱れた魔力はエルと一緒に宥める方法を模索していた。
縁がしてやれることは少ないが、それでアズが落ち着くならばいくらでもしてあげたい。
「今日はアズの大好きなドリアにしましょうか。作るの手伝ってくれますか?」
もう大丈夫ですよと握る手を撫でながらそう言えば、とても嬉しそうに笑い頷いてくれるのだった。
「ケイもおてつだいするもん!」
だから自分も混ぜてと抱き付いてきた小さな身体にアズも一緒にしようと頷いている。
繋は兄弟の中では一番アズに懐いている。
それは腹にいた頃から何を感じ取り大丈夫だよと伝え続けていたせいかは分からないが、彼らの中で何か通ずるものがあったからかもしれない。
はっきりとした理由は分からないが、アズが何かをする時は自分もしたいと繋は強請ることが多かった。
「なら繋にはアズと一緒にチーズを上にいっぱいかけてもらいましょうかね」
「する!アズにぃいこう!」
アズを真ん中に3人手を繋ぎキッチンへ向かう。
大好きなママと兄と一緒で繋もかなりご機嫌のようだ。
「ケイね、ママのごはんだいすき!」
「ボクも」
一緒だねと笑い合う我が子たちが可愛い過ぎる。
「パパたちのご飯は美味しくなかったですか?」
数日ではあるが縁が家を離れていた間、代わりに作ってくれていただろうセインたちのご飯はどうだったかと聞けば、悩みに悩み美味しかったと答えた。
「パパね、おにくしかたべないの」
「やさい食べたかった」
「うーん」
それは何とも気になる案件だ。
あれほど肉ばかりではなく野菜も一緒に食べて下さいねと言っておいたのに。主にセインに。
獣人である彼らはそれでもいいかもしれないが、アズは魔族であり、繋は人間なのだ。
顎の強さから言ってもそれほど強いわけではなく、肉料理ばかりでは飽きてしまうだろう。
「それは勿体ないですね。繋はもうちゃんとお野菜食べられるようになってきたのに」
かなりの偏食だった繋だが、最近は少しずつだが苦手な野菜たちも食べられるようになってきていた。
「ボク、トマト好き」
エルとは違いアズはトマトが大好きだ。
「ケイはとうもしころすき!」
「とうもろこし、ね。私も大好きですよ。いつも茹でてばかりなので今度食べる時は焼いてみましょうか」
焼く!?と繋は驚いているが、醤油を塗って焼いて食べるのも美味しいですよと教えてやれば目を輝かせていた。
人によっては茹でただけの方が美味しいと言う人もいるが、縁はどちらもあり派である。
ある意味こだわりがないとも言える。
「ほぐしてご飯と一緒に炊くのもいいですね。トマトはお肉と煮込んでも美味しいですから今度一緒に作って食べてみましょう」
「「たべる!」」
まだまだ食べ盛りの育ち盛り。
双子ほどではないが食べることが大好きな2人も食欲は旺盛だ。
「オレ……はトマトはいいかな」
道中捕獲したエルはトマトと聞き頬を引きつらせていた。
「頑張れば生でも食べられるんですから煮込んだらもっと食べられると思いますよ」
「そうかなぁ?だって……トマトだよ?」
基本出されたものはきちんと食べきるエル。
勿論トマトが苦手なことを知っているためみんなのものより格段に量を減らして出している。
それを知っているからこそエルも文句も言わず食べているのだ。
「ピザに使っているトマトソースだって平気だったでしょ?」
「まぁ、あれは美味しいけどさー」
嫌いだとは言ってはいるが、そのまま生で食べるのが苦手なだけで調理さえすれば食べられると気付いたのは最近。
それまで手を加えるという考えがなかったこともあり、調理し出したものは美味しそうに食べていた。
「ならきっと大丈夫ですよ。鶏肉とかハーバーグと一緒に煮込んでも美味しいですよ」
「「たべたーい!」」
未だ渋るエルに、しかしアズと繋の2人は食べたいと目を輝かせている。
なら今度作ってみようと約束し、今日のところはドリアを作っていくことに。
「ママ、ケイのおみそがいい!」
「え……ドリアに?」
それは縁も食べたことがないため味の保証が出来なかったが、食べたいときかないため繋の分には味噌を投入しておいた。
なら自分はトマトがいいと言うアズにはトマトを、エルはどうするかと聞けば肉!と即答された。
他にも真のために魚入りや、縁はたっぷりキノコに、アレンには肉増し増しのものを作る。
「色々味があって面白いね。エニシのも後で一口ちょうだい」
「いいですよ。みんなで色々食べてみましょう」
こうして家族で食卓を囲み分け合って食べるというのは本当に楽しく、懐かしかった。
「セインには野菜たっぷりにしておいてあげましょう」
「うわぁ~」
数日食べなかった分の野菜を縁の愛情と共にたっぷり詰め込んでおくのだった。
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