357 / 475
悲しみ
しおりを挟む
ベッドには寝かせ、先程よりは幾分顔色が良くなったアズにホッと息を漏らした。
慌てるエルを落ち着かせ何か問題がないか診てもらう。
息が荒いようだが体調に問題はないらしく、少々魔力が乱れているらしい。
暴走の危険はないか聞いたが大丈夫なようだ。
「アズにぃまたいたいいたいした?」
「また?繋、アズは前にもこうして倒れたことが?」
エルの隣り、心配そうにアズの頭を撫でる繋の言葉にどういうことかと聞けば、以前にも部屋で痛みに蹲る姿を見たと言う。
何故言ってくれなかったのかと言えばーー
「ママないちゃうからシーよって」
アズが言いそうなことだ。
縁に心配かけまいと黙っているように言ったのだろう。
「どこが痛いか言ってましたか?」
「うんとね、こことてて」
胸と手を指す繋にエルを見れば、分かったというように頷き詳しく診てくれる。
だがエルも医者でもないため詳しくは分からないようだが、言われたような異常は見えないらしい。
ならば精神的なものかもしれない。
いつからと繋に聞いてみても、アズたちの父親との再会辺りからだ。
こうなれば本人に確認するしかなく、アズの目が覚めるのをみんなで静かに待つ。
「ーーふぅ」
「エニシ?」
1つ息を吐き椅子に腰を下ろした縁にエルが不思議そうな顔をする。
「どうしました?」
「いや、どうもしないけど……なんでそんな離れて座ーーあ」
その時震えた目蓋に言葉を切ると心配そうに顔を覗き込むエルと繋の姿を離れた所から眺める。
目覚めたことに安堵する。
「アズ?アズ大丈夫?どこか痛いところない?」
「アズにぃいたい?」
「……………だいじょうぶ」
まだ意識が朦朧としているようだが、思いの外はっきりと答えたアズにエルもホッとしたようだ。
それから暫くボーッと寝転んだまま天井を見上げていたかと思えば、先程から一言も声を発しない縁にエルが再びどうしたのかと声をかけた瞬間ハッとしたように慌てて起き上がった。
「ママーーっ」
「アズ!急に起き上がると危ないから。ゆっくり、ゆっくりだからね」
立ち眩みに頭を揺らしたアズにエルが手を貸し起き上がらせれば、今にも泣きそうな表情でこちらを見てくる。
「ママ……」
「痛いところは?」
しかしそんなアズに駆け寄ることなく椅子に腰かけたまま静かに問いかける縁にアズは涙を堪え首を振る。
「そうですか。…………私が言いたいことは分かりますか?」
「ごめんなさい」
耐えきれず涙を溢し謝るアズに、しかし縁は首を振った。
「アズ………アズ…」
訳が分からず戸惑うエルをそのまま、アズの名を何度も繰り返し呼ぶ。
「ママ、しんぱい、すると思って…」
「そうですね。倒れるアズの姿を見てとても心配しました」
大切な我が子が倒れていたのだ、心配するに決まっている。
「そんなにいたくなかーー」
「アズ?」
今更そんな嘘は許しはしないと名を呼べば溢れる涙が増した。
だがまだ手は出さない。
「で、できると、思っ…思ったの。がまんできる、から、だいじょう、ぶって」
「いつから?」
「す、すこし前。手がふる、ふるえて。でもそれだけで…ママもいたいっていってたから…」
傷付けられたトラウマから手が震え、夜眠れなくなっていた縁に自分のことを言えなくなってしまっていたのだろう。
最初は痛みもなく、手が震える程度だったため暫くすれば治まると思ったようだ。
気付いてやれなかった自分に腹が立つ。
確かにあの頃は縁も心の余裕がなかったが、そんなこと言い訳だ。
「こわいゆめばっかり見るようになって。でもボクお兄ちゃんだから」
元々の責任感の強さから誰にも言えなかったのだろう。
どんな夢か聞いてみれば、やはりというか倒れ血を流す縁を何度も繰り返し見ていたらしい。
その内追い詰められるように少しずつ体調を崩していったようだ。
「アズ…アズ、おいで」
「ごめんなさい」
「もういいですよ。全部話してくれましたからね。だから……おいでアズ」
もういいよと微笑んで腕を広げれば、飛び込んできた小さな身体をギュッと抱きしめてやる。
「気付いてあげられなくてごめんなさい。ずっと辛かったでしょう?」
「ううん。ボクもごめんなさい。ボクのせいでママいっぱいケガしーー」
「違いますよ。アズのせいじゃありません。悪いのはあの男であってアズじゃありません。それにアズは助けに来てくれたでしょう?守ってくれたじゃないですか」
すごく嬉しかったと言い背中を撫でてやる。
実の父かもしれないが、アズがしたことは縁を守ったことであり何も悪くはない。
「私はアズが何も言ってくれなかったことの方が悲しいです。何もしてあげられなかったかもしれませんけど、私のことを気遣って言わなかったのかもしれませんが、こうして倒れるまで言ってくれなかったことが私は何より悲しい。アズのママとして何もしてあげられなかったことが何より悲しい。ごめんね、ごめんねアズ」
「ちがう、ちがうの。ボク……ごめんなさい。ごめんなさいママ」
悪いのは自分なのだと言うアズにそんなことないと言い聞かせる。
「何でも話せとは言いません。けど辛いことは、痛く悲しいことはママにも教えて下さい」
人間1つや2つ人に言えないことぐらいあるだろう。
頑張ろうと耐えようとしたアズを否定もしない。
だが耐えきれず倒れるほどならばちゃんと言ってほしかった。
「アズが苦しむ姿を私は見たくない。アズには笑っていてほしいんです。アズのことが大好きだから」
「ボクもママ大すき。ごめんなさい」
これからはちゃんと言うと約束してくれたアズにありがとうと微笑み抱きしめのだった。
慌てるエルを落ち着かせ何か問題がないか診てもらう。
息が荒いようだが体調に問題はないらしく、少々魔力が乱れているらしい。
暴走の危険はないか聞いたが大丈夫なようだ。
「アズにぃまたいたいいたいした?」
「また?繋、アズは前にもこうして倒れたことが?」
エルの隣り、心配そうにアズの頭を撫でる繋の言葉にどういうことかと聞けば、以前にも部屋で痛みに蹲る姿を見たと言う。
何故言ってくれなかったのかと言えばーー
「ママないちゃうからシーよって」
アズが言いそうなことだ。
縁に心配かけまいと黙っているように言ったのだろう。
「どこが痛いか言ってましたか?」
「うんとね、こことてて」
胸と手を指す繋にエルを見れば、分かったというように頷き詳しく診てくれる。
だがエルも医者でもないため詳しくは分からないようだが、言われたような異常は見えないらしい。
ならば精神的なものかもしれない。
いつからと繋に聞いてみても、アズたちの父親との再会辺りからだ。
こうなれば本人に確認するしかなく、アズの目が覚めるのをみんなで静かに待つ。
「ーーふぅ」
「エニシ?」
1つ息を吐き椅子に腰を下ろした縁にエルが不思議そうな顔をする。
「どうしました?」
「いや、どうもしないけど……なんでそんな離れて座ーーあ」
その時震えた目蓋に言葉を切ると心配そうに顔を覗き込むエルと繋の姿を離れた所から眺める。
目覚めたことに安堵する。
「アズ?アズ大丈夫?どこか痛いところない?」
「アズにぃいたい?」
「……………だいじょうぶ」
まだ意識が朦朧としているようだが、思いの外はっきりと答えたアズにエルもホッとしたようだ。
それから暫くボーッと寝転んだまま天井を見上げていたかと思えば、先程から一言も声を発しない縁にエルが再びどうしたのかと声をかけた瞬間ハッとしたように慌てて起き上がった。
「ママーーっ」
「アズ!急に起き上がると危ないから。ゆっくり、ゆっくりだからね」
立ち眩みに頭を揺らしたアズにエルが手を貸し起き上がらせれば、今にも泣きそうな表情でこちらを見てくる。
「ママ……」
「痛いところは?」
しかしそんなアズに駆け寄ることなく椅子に腰かけたまま静かに問いかける縁にアズは涙を堪え首を振る。
「そうですか。…………私が言いたいことは分かりますか?」
「ごめんなさい」
耐えきれず涙を溢し謝るアズに、しかし縁は首を振った。
「アズ………アズ…」
訳が分からず戸惑うエルをそのまま、アズの名を何度も繰り返し呼ぶ。
「ママ、しんぱい、すると思って…」
「そうですね。倒れるアズの姿を見てとても心配しました」
大切な我が子が倒れていたのだ、心配するに決まっている。
「そんなにいたくなかーー」
「アズ?」
今更そんな嘘は許しはしないと名を呼べば溢れる涙が増した。
だがまだ手は出さない。
「で、できると、思っ…思ったの。がまんできる、から、だいじょう、ぶって」
「いつから?」
「す、すこし前。手がふる、ふるえて。でもそれだけで…ママもいたいっていってたから…」
傷付けられたトラウマから手が震え、夜眠れなくなっていた縁に自分のことを言えなくなってしまっていたのだろう。
最初は痛みもなく、手が震える程度だったため暫くすれば治まると思ったようだ。
気付いてやれなかった自分に腹が立つ。
確かにあの頃は縁も心の余裕がなかったが、そんなこと言い訳だ。
「こわいゆめばっかり見るようになって。でもボクお兄ちゃんだから」
元々の責任感の強さから誰にも言えなかったのだろう。
どんな夢か聞いてみれば、やはりというか倒れ血を流す縁を何度も繰り返し見ていたらしい。
その内追い詰められるように少しずつ体調を崩していったようだ。
「アズ…アズ、おいで」
「ごめんなさい」
「もういいですよ。全部話してくれましたからね。だから……おいでアズ」
もういいよと微笑んで腕を広げれば、飛び込んできた小さな身体をギュッと抱きしめてやる。
「気付いてあげられなくてごめんなさい。ずっと辛かったでしょう?」
「ううん。ボクもごめんなさい。ボクのせいでママいっぱいケガしーー」
「違いますよ。アズのせいじゃありません。悪いのはあの男であってアズじゃありません。それにアズは助けに来てくれたでしょう?守ってくれたじゃないですか」
すごく嬉しかったと言い背中を撫でてやる。
実の父かもしれないが、アズがしたことは縁を守ったことであり何も悪くはない。
「私はアズが何も言ってくれなかったことの方が悲しいです。何もしてあげられなかったかもしれませんけど、私のことを気遣って言わなかったのかもしれませんが、こうして倒れるまで言ってくれなかったことが私は何より悲しい。アズのママとして何もしてあげられなかったことが何より悲しい。ごめんね、ごめんねアズ」
「ちがう、ちがうの。ボク……ごめんなさい。ごめんなさいママ」
悪いのは自分なのだと言うアズにそんなことないと言い聞かせる。
「何でも話せとは言いません。けど辛いことは、痛く悲しいことはママにも教えて下さい」
人間1つや2つ人に言えないことぐらいあるだろう。
頑張ろうと耐えようとしたアズを否定もしない。
だが耐えきれず倒れるほどならばちゃんと言ってほしかった。
「アズが苦しむ姿を私は見たくない。アズには笑っていてほしいんです。アズのことが大好きだから」
「ボクもママ大すき。ごめんなさい」
これからはちゃんと言うと約束してくれたアズにありがとうと微笑み抱きしめのだった。
21
お気に入りに追加
3,691
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
偽物の番は溺愛に怯える
にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』
最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。
まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜
明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。
しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。
それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。
だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。
流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…?
エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか?
そして、キースの本当の気持ちは?
分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです!
※R指定は保険です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる