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実感
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アレンの子を身篭ったと分かったが、時々立ち眩みはあれど双子の時のように酷いつわりも、繋の時のように腹が邪魔で動けないということもないため特に意識することなく普段通りに過ごしていた。
「ーーならもう好きになさい!」
いつもよりは心持ちゆっくりと洗濯物を干していれば、そんな声と共に子どもの泣き声が聞こえてきた。
「………どうかしましたか?」
「エニシくん!」
何事かと手を止め外を覗いてみれば、よく見る顔に一体どうしたのかと尋ねる。
「あー、この子が遊びに行きたいって聞かなくて。私もまだ家事が残ってるから無理だって言ったんだけど……」
お隣に住む彼女はそう言うと泣く自身の子に溜め息をつく。
男とは言え縁も6人の子を持つ母親だ。
遊びたいという子の気持ちも分かるが、家事に追われ子どもの我儘に苛立つ彼女の気持ちも分かる。
まだ目を離すには不安が残る年頃ということもあり1人で遊んでおいでとは言いづらいのだろう。
「ならうちの子たちと遊びますか?あまり長時間はあれですけど、少しの間なら私も見ていられますし」
確かに縁にもするべきことはあるが、元々が結構な大家族であるため手には困らない。
最近はアレンの子がいると分かったこともあり皆が率先して手伝ってくれることもあり以前より手があく時間が増えた。
少しの間ならと提案すれば、いいのかしらと戸惑う母とは逆に子どもは嬉しそうに目を輝かせている。
先程まで泣いてはずなのにと苦笑いしながらも、じゃあお願いするわと了解も得たため預かると遊ぶ繋たちの元へ連れていく。
「お隣に住んでいるコウくんです。彼のママが迎えに来るまで一緒に遊んであげて下さい」
「「「「「いいよ~」」」」」
彼と遊ぶのは初めてだったが、時々友達が遊びに来ることもあったためそれほど抵抗もなく子どもたちも受け入れてくれた。
楽しげに庭を走り回る子どもたちを横目に眺めつつ洗濯をする。
半分ほどは済んだため、とりあえず終わったものからと干していれば裾を引かれるような感覚に下を見る。
「てつだ、う」
「ありがとう、カイ」
初めの頃よりは人の姿に慣れたらしく、猫だった時と同じその青い瞳で見上げてくる姿に微笑む。
双子とそう変わらない年頃のようだが、今まで猫としてしか生活していなかったため歩き方や話し方など生活の全てが違うため苦戦しているようだ。
だが早く慣れようとしてか今は殆どを獣人の姿で過ごしている。
こうして縁を手伝ってくれるのも少なくなく、ぎこちないながら小さな手でよく手伝ってくれる。
「あ、らう」
「そうですね。出来るものだけでいいですから」
何度か縁を手伝うのではなく子どもたちと遊んでくればいいと言ってはみたのだが、イヤだと首を振られてしまったため自由にさせている。
それが縁に褒められたいがためとは何となく気付いてはいた。
気付いてはいたがそれがダメとも言えるはずもなく、今後のことも考え手伝って損はないだろうと止めはしなかった。
「今日も天気がいいですね。暑いですけどすぐ乾いてくれるから嬉しいです」
「あつ、い、き、らい?」
「暑過ぎなければ好きですよ。そういえば猫は涼しい所を探すのが上手いと聞いたことがありますけどそうなんですか?」
「?、わか、らな、い」
意識してそうしているわけでもないのかもしれない。
練習にと会話をしながらも進めていけば普段より早く終えることが出来た。
「手伝ってくれてありがとう。おかげで早く終わりました」
何か期待するように見上げてくる表情にお疲れ様と頭を撫でてやれば嬉しそうに笑い抱きついてくる。
初めは名はつけないつもりだった。
いつかは誰かに託さなければと、情が湧いてはダメだろうと。
今でもその気持ちは変わらないが、ここまで慕ってくれる子にいつまでも君と呼ぶのは気が引け簡単ではあるが名をつけた。
本当は自分の子として育てたいんじゃないかとジークたちには言われたが、縁にはもう両手に大切な人たちを抱え過ぎていた。
無理だとは言わない。
可能ではあるだろうが彼の家族への態度にやはり不安があったのだ。
今はまだこうして構ってやっていられるが、アレンの子が産まれてしまえばそんな余裕もなく駄々をこねたからといって聞いてやれるわけでもない。
繋の時にはアズが、双子の時には繋が、翔の時には繋と双子が構ってと駄々をこねていたが、カイがそうなったとして誰も縁の代わりに受け止めてやれる者がいないのだ。
「少し休憩しましょうか。カイの好きなりんごを使ってお菓子を作ってあるんですよ。一緒に食べましょう」
「たべ、る!」
あとどれぐらい一緒にいられるかは分からないが、その僅かな間に少しでも人に慣れてほしいと願うのだった。
「ーーならもう好きになさい!」
いつもよりは心持ちゆっくりと洗濯物を干していれば、そんな声と共に子どもの泣き声が聞こえてきた。
「………どうかしましたか?」
「エニシくん!」
何事かと手を止め外を覗いてみれば、よく見る顔に一体どうしたのかと尋ねる。
「あー、この子が遊びに行きたいって聞かなくて。私もまだ家事が残ってるから無理だって言ったんだけど……」
お隣に住む彼女はそう言うと泣く自身の子に溜め息をつく。
男とは言え縁も6人の子を持つ母親だ。
遊びたいという子の気持ちも分かるが、家事に追われ子どもの我儘に苛立つ彼女の気持ちも分かる。
まだ目を離すには不安が残る年頃ということもあり1人で遊んでおいでとは言いづらいのだろう。
「ならうちの子たちと遊びますか?あまり長時間はあれですけど、少しの間なら私も見ていられますし」
確かに縁にもするべきことはあるが、元々が結構な大家族であるため手には困らない。
最近はアレンの子がいると分かったこともあり皆が率先して手伝ってくれることもあり以前より手があく時間が増えた。
少しの間ならと提案すれば、いいのかしらと戸惑う母とは逆に子どもは嬉しそうに目を輝かせている。
先程まで泣いてはずなのにと苦笑いしながらも、じゃあお願いするわと了解も得たため預かると遊ぶ繋たちの元へ連れていく。
「お隣に住んでいるコウくんです。彼のママが迎えに来るまで一緒に遊んであげて下さい」
「「「「「いいよ~」」」」」
彼と遊ぶのは初めてだったが、時々友達が遊びに来ることもあったためそれほど抵抗もなく子どもたちも受け入れてくれた。
楽しげに庭を走り回る子どもたちを横目に眺めつつ洗濯をする。
半分ほどは済んだため、とりあえず終わったものからと干していれば裾を引かれるような感覚に下を見る。
「てつだ、う」
「ありがとう、カイ」
初めの頃よりは人の姿に慣れたらしく、猫だった時と同じその青い瞳で見上げてくる姿に微笑む。
双子とそう変わらない年頃のようだが、今まで猫としてしか生活していなかったため歩き方や話し方など生活の全てが違うため苦戦しているようだ。
だが早く慣れようとしてか今は殆どを獣人の姿で過ごしている。
こうして縁を手伝ってくれるのも少なくなく、ぎこちないながら小さな手でよく手伝ってくれる。
「あ、らう」
「そうですね。出来るものだけでいいですから」
何度か縁を手伝うのではなく子どもたちと遊んでくればいいと言ってはみたのだが、イヤだと首を振られてしまったため自由にさせている。
それが縁に褒められたいがためとは何となく気付いてはいた。
気付いてはいたがそれがダメとも言えるはずもなく、今後のことも考え手伝って損はないだろうと止めはしなかった。
「今日も天気がいいですね。暑いですけどすぐ乾いてくれるから嬉しいです」
「あつ、い、き、らい?」
「暑過ぎなければ好きですよ。そういえば猫は涼しい所を探すのが上手いと聞いたことがありますけどそうなんですか?」
「?、わか、らな、い」
意識してそうしているわけでもないのかもしれない。
練習にと会話をしながらも進めていけば普段より早く終えることが出来た。
「手伝ってくれてありがとう。おかげで早く終わりました」
何か期待するように見上げてくる表情にお疲れ様と頭を撫でてやれば嬉しそうに笑い抱きついてくる。
初めは名はつけないつもりだった。
いつかは誰かに託さなければと、情が湧いてはダメだろうと。
今でもその気持ちは変わらないが、ここまで慕ってくれる子にいつまでも君と呼ぶのは気が引け簡単ではあるが名をつけた。
本当は自分の子として育てたいんじゃないかとジークたちには言われたが、縁にはもう両手に大切な人たちを抱え過ぎていた。
無理だとは言わない。
可能ではあるだろうが彼の家族への態度にやはり不安があったのだ。
今はまだこうして構ってやっていられるが、アレンの子が産まれてしまえばそんな余裕もなく駄々をこねたからといって聞いてやれるわけでもない。
繋の時にはアズが、双子の時には繋が、翔の時には繋と双子が構ってと駄々をこねていたが、カイがそうなったとして誰も縁の代わりに受け止めてやれる者がいないのだ。
「少し休憩しましょうか。カイの好きなりんごを使ってお菓子を作ってあるんですよ。一緒に食べましょう」
「たべ、る!」
あとどれぐらい一緒にいられるかは分からないが、その僅かな間に少しでも人に慣れてほしいと願うのだった。
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