二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
335 / 475

本当の自分

しおりを挟む
 物心つく頃にはもう1人だった。
 なぜここにいるのか、なぜ1人なのかも分からず、しかし生きるためにと食べ物を探し時にはゴミも漁りギリギリのところで生きてきた。
 あの日も何か食べるものをと探しているところを人間に見つかり逃げはしたが結局は捕まり殴り蹴られ石を投げられもした。
 痛いと声を上げても止めるどころか笑い更に暴力を振るわれる。
 なぜ自分がこんな目に合わなければいけないのか?
 このまま死ぬしかないのかと諦めていれば、突如掴まれた手に最後の抵抗だとばかりに噛み付いてやった。
 お前も痛い思いをすればいいと更に爪で引っ掻いてやるが、それでも離れない手に何とか逃げようと暴れる。

 「いってぇ!おいこら、俺はお前を助けてやったんだぞ!なんで噛むんだよ。って、こら待て逃げんなっ!」

 そう言ってまた暴力を振るうに決まってる。
 人間なんか信じてやるもんか!

「ごめんね。もう大丈夫ですよ。私たちは君を傷付けたりしませんからね」

 なのにそう言い触れられた手の温かさと、それまで感じていた身体の痛みがなくなり驚いた。
 そればかりか水を差し出され、食べなさいと出されたリンゴの味をきっと一生忘れない。
 なぜ彼らの言葉を理解出来るのか自分でも分からなかったが、その話し方と笑顔に今までの人間とは違うのは分かった。
 優しく撫でてくる手に擦り寄ればいい子と言うように微笑まれる。
 この人は自分を傷付けたりなんかしない。
 この人ならきっと自分を守ってくれる。
 そう思い言われるままついていけばママと呼び近寄ってくる子どもに、先程まで暴力を振るってきた人間を思い出し吠えて威嚇した。
 結果それも止められてしまったが、怒っているわけではないと撫でられた温かい手にホッとした。
 それから色々あり彼の家族に怒られはしたが、一緒にいることは許してもらえたようだ。
 なのにーー

 「ミャー、ミャミャミャ!」

 顔色悪く倒れる彼に起きてと声を上げるが、閉じた瞳が開く様子はない。
 運ぼうに自分の小さな身体では難しく、裾を咥えて引っ張ってはみたがピクリとも動かない。
 どうしようどうしようと考え、助けを求めるため走り出せば目についたその男の足に噛み付いた。

 「いってぇ!」

 「ミャミャミャ!」

 助けて!と見上げるが首根っこを掴まれ持ち上げられる。

 「てめぇ、いい加減にしろよ。縁が言うからおいてやってるけど本当はみんな反対しーーってだから噛むんじゃねぇ!」

 「ミャミャミャミャ!」

 そんなことどうだっていい!
 彼がいてくれさえすればそれでいいのだ。
 だから早く助けろと叫ぶが、当たり前だがその言葉が届くことはなくどっか行けとばかりに追い払われる。

 「俺は忙しいんだよ。お前はそこら辺で遊んでろ」

 なんで!なんで自分の声は届かない!
 あちらの言葉は理解出来るのに、こちらの意思が届くことはない苛立ちに全身の毛が逆立つ。
 早く、早く早く早く。
 早くあの人を助けて。
 自分にも彼らのような手があれば、自分にも彼らのような頭があれば、自分にも彼らのように声を上げることが出来ればーー

 「ーーーけ、て」

 「だから忙しいって言ってんだろ。お前の相手をしてる暇なんか………あ?」

 今までない身体の動きに、しかしそんなこと今はどうでもいいと必死に手を伸ばす。

 「ーすけ、て。たーけ、て……た、す、けて」

 「……お前…それ…」

 「たす、けて。あ、のひと。た、すけ、て」

 驚きに目を見張る男に、お願いだから助けてと動かしづらい手を持ち上げ裾を引っ張る。

 「たお、れ……いた、い」

 「ーーー縁のことか?」

 そうだと頷けば案内しろと言われ、元の姿に戻ると倒れ込む彼の元まで連れて行く。

 「縁っ!」

 自分の時はびくともしなかった彼を男は軽々抱き起こすと腕に抱き抱えた。
 
 「くそっ、なんで…朝まで元気そうだっただろ。ジークっ!ジークっ、セインっ!縁が倒れた!」

 駆けていく男の背を追いかけていけば、バタバタと走り寄ってくるみんなに早く彼を助けてと願う。
 願うだけで何も出来ない自分に腹が立ちながらも、未だに顔色悪く目を閉じる彼に起きてと願うことしか出来ない。

 「とりあえず寝かせろ。熱は?少し熱いな。アズ風を送ってやれ。エルは水を汲んできてくれ」

 「熱中症か?」

 「だとしたらもっと熱いはずだろ。貧血か?」

 青い顔色に、しかし今まで貧血で倒れたことはないだろうと話し合っている。
 そんなこといい、そんなこといいから早く助けて!

 「ミャ、ミャミャ……け、て、…おき、て」

 「「「「「は?」」」」」

 眠る彼の枕元に飛び乗ると起きてとペチペチと頬を叩く。

 「あ?お前…獣人だったのか?」

 「その姿……は?どういうことだ?」

 周りで何か言っているがどうでもいい。
 お願いと猫の姿の時より少しは大きくなっただろう手で叩いていれば震えた目蓋に息を吐いた。

 「…………?…何、が……ん?この子は?」

 「縁っ」

 良かったと抱き着こうとしたが、それより早く横から伸びてきた手に奪われてしまい苛立ちにその背を叩く。
 しかし人の姿では威力はなく、ならばと元の姿に戻るとその爪を突き立てるのだった。

 「いってぇ!だからやめろっつってんだろ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...