316 / 475
決着
しおりを挟む
逃げるなと言われ逃げない人間がいるだろうか?
危険と分かり逃げない人間がいるだろうか?
少しでも可能性があるなら逃げるのが人だと思う。
「言ったであろう?私はそれほど気が長くはないと」
「っ」
途中までは上手くいっていた。
男も縁がまた逃げ出すだろうことは予想していたようだが、それほど早く逃げるとことは出来ないだろうと思っていたに違いない。
だが数を増えても1度出来たことにそう時間はかからず、前回のように部屋を抜け出そうとしたがまた迷うのがオチだと窓から逃げることにした。
「大丈夫。前に1度やったんだから出来る」
バルコニーに出ると手すりに乗り上げた。
足下がなくなるのは何度体験しても慣れないが、今の状況で怖くて出来ないなど文句を言ってもいられない。
今回は吐き気もあるため上手く出来るか不安があったが、生きていれさえすれば魔法で治せると自分を奮い立たせる。
よし行くぞと足を踏み出そうとした途端ーー
「そんな所から落ちて人間如きが無事で済むと思っているのか?」
「…………やってみないと分からないでしょう?」
やはりかと内心舌打ちしながらも振り返れば、先程より苛立ちそうな男の姿があった。
そう時を置かず逃げ出そうとした縁にご立腹なのだろう。
だがそんなこと知ったことではない。
「このまま捕まって好き勝手されるぐらいなら無茶でも可能性がある方を私は選ぶ」
たとえ死んだとしてもお前といるよりマシだと言ってやれば男の目の鋭さが増した。
男は縁がどれだけ魔法が使えるか分かってはいない。
魔力はあれど人間如きと侮って無謀なことなどしないと思っているのだろうが、縁とて譲れないものがありそのためなら命すら惜しくはない。
「…………人間如きが」
「ーーっ!」
これで終わりだと足を出そうとしたが、その瞬間男の呟きと共に床に叩きつけられた。
痛みに呻けば右手を足で踏みつけられる。
「私は甘かったらしい。魔族と違い人間なぞ脆い生き物だからと鎖で済ませてやっていたが足りなかったようだ。なぁ?」
グリグリと体重をかけて踏まれ、痛みに耐え必死に手を取り戻そうと暴れるが体格差もあり一向に退かすことが出来ない。
ならばと男を睨みつければ生意気だと今度は壁まで吹き飛ばされた。
頭を打ち付けてしまい揺れる視界に、しかしここで気を失えば終わりな気がし必死に目蓋を持ち上げる。
「魔力があれど所詮人間。私に敵うなどと本気で思っていたのか?」
「ぐっ」
乱暴に髪を掴まれ顔を上げさせられる。
「言ったであろう?私はそれほど気が長くはないと」
男の言葉に嫌な予感がし暴れようとしたがーー
「っーーーああああああぁぁぁ!」
突如男の手に出現した杭のようなものが右手に突き立てられるのだった。
「っ、はぁはぁはぁはぁ」
身体を貫くような衝撃と流れ出る血に意識が薄れていく。
「これで逃げることなぞ出来まい?いや用心に越したことはないな。まだ左も両足も残っている。さぁ次はどこがいい?」
愉快だと言わんばかりに笑う男に涙が滲む。
「………みんな…………たすけて……」
「遅くなって悪かった」
心が壊れそうになった瞬間、そんな言葉と共に懐かしい声が聞こえた。
痛む身体に力を込め頭を上げればーー
「……リ、ル…?」
普段の可愛らしい姿とは違い、出会った時の力強く雄々しい姿がそこにあった。
夢かと名を呼び確認しようとするが、その前に喰い殺さんとばかりに男に襲いかかっていってしまう。
「「「「縁っ」」」」
「ア、レン?……セイ、ン……ジー、ク…ルー……」
涙に滲む瞳に、しかしずっと求めていた愛しい男たちの姿が写る。
あぁ、来てくれた。
嬉しさと安堵から全身の力が抜たが、代わりに忘れていた痛みが襲いかかり顔を歪める。
「アレン、セイン!縁を頼む!俺は奴の相手をするからルーは援護しろ!」
ジークの指示にアレンとセインが駆け寄り抱き起こしてくれる。
「遅くなってごめんな。今助けてやるからな」
「アレン……」
「痛いだろ?今抜いてやるからな。アレンゆっくりだぞ」
「セイン……」
必死に堪えていた涙が溢れ出す。
右手に打ち込まれていた杭はアレンが慎重に抜いてくれ、痛みに呻けばセインがその力強い腕で抱きしめてくれた。
「怪我は!?」
「すぐに止血するよ!繋おいで!」
「「「ママっ!」」」
離れて様子を窺っていたマーガレットたちの所まで運ばれるとすぐ様手当てをされる。
血塗れの縁の姿に繋が泣き出してしまったが、マーガレットに元気付けられ泣きながらも少しずつだが魔法で治癒してくれる。
まだ幼い子どもたちにこんな姿を見せるのはトラウマにならないかと不安になったが、手を震わせながらもママがんばってと言ってくれる子どもたちに元気をもらった。
「みんな、来てく、れて…ありがとう………」
諦めないで良かったと心から思うと、そのまま意識を失うのだった。
*初投稿から早一年。ここまで続けられるとは思っていませんでしたが読んでくださる皆様のおかげでここまで来ることが出来ました。
温かいお言葉、感想に返信は出来ていませんがとても嬉しく読ませてもらっています。
仕事や体調などにより毎日投稿とはいきませんが、これからも書けるだけ続けていこうと思います。
これからも楽しく読んでいただければ嬉しいです。
本当にありがとうございます。
危険と分かり逃げない人間がいるだろうか?
少しでも可能性があるなら逃げるのが人だと思う。
「言ったであろう?私はそれほど気が長くはないと」
「っ」
途中までは上手くいっていた。
男も縁がまた逃げ出すだろうことは予想していたようだが、それほど早く逃げるとことは出来ないだろうと思っていたに違いない。
だが数を増えても1度出来たことにそう時間はかからず、前回のように部屋を抜け出そうとしたがまた迷うのがオチだと窓から逃げることにした。
「大丈夫。前に1度やったんだから出来る」
バルコニーに出ると手すりに乗り上げた。
足下がなくなるのは何度体験しても慣れないが、今の状況で怖くて出来ないなど文句を言ってもいられない。
今回は吐き気もあるため上手く出来るか不安があったが、生きていれさえすれば魔法で治せると自分を奮い立たせる。
よし行くぞと足を踏み出そうとした途端ーー
「そんな所から落ちて人間如きが無事で済むと思っているのか?」
「…………やってみないと分からないでしょう?」
やはりかと内心舌打ちしながらも振り返れば、先程より苛立ちそうな男の姿があった。
そう時を置かず逃げ出そうとした縁にご立腹なのだろう。
だがそんなこと知ったことではない。
「このまま捕まって好き勝手されるぐらいなら無茶でも可能性がある方を私は選ぶ」
たとえ死んだとしてもお前といるよりマシだと言ってやれば男の目の鋭さが増した。
男は縁がどれだけ魔法が使えるか分かってはいない。
魔力はあれど人間如きと侮って無謀なことなどしないと思っているのだろうが、縁とて譲れないものがありそのためなら命すら惜しくはない。
「…………人間如きが」
「ーーっ!」
これで終わりだと足を出そうとしたが、その瞬間男の呟きと共に床に叩きつけられた。
痛みに呻けば右手を足で踏みつけられる。
「私は甘かったらしい。魔族と違い人間なぞ脆い生き物だからと鎖で済ませてやっていたが足りなかったようだ。なぁ?」
グリグリと体重をかけて踏まれ、痛みに耐え必死に手を取り戻そうと暴れるが体格差もあり一向に退かすことが出来ない。
ならばと男を睨みつければ生意気だと今度は壁まで吹き飛ばされた。
頭を打ち付けてしまい揺れる視界に、しかしここで気を失えば終わりな気がし必死に目蓋を持ち上げる。
「魔力があれど所詮人間。私に敵うなどと本気で思っていたのか?」
「ぐっ」
乱暴に髪を掴まれ顔を上げさせられる。
「言ったであろう?私はそれほど気が長くはないと」
男の言葉に嫌な予感がし暴れようとしたがーー
「っーーーああああああぁぁぁ!」
突如男の手に出現した杭のようなものが右手に突き立てられるのだった。
「っ、はぁはぁはぁはぁ」
身体を貫くような衝撃と流れ出る血に意識が薄れていく。
「これで逃げることなぞ出来まい?いや用心に越したことはないな。まだ左も両足も残っている。さぁ次はどこがいい?」
愉快だと言わんばかりに笑う男に涙が滲む。
「………みんな…………たすけて……」
「遅くなって悪かった」
心が壊れそうになった瞬間、そんな言葉と共に懐かしい声が聞こえた。
痛む身体に力を込め頭を上げればーー
「……リ、ル…?」
普段の可愛らしい姿とは違い、出会った時の力強く雄々しい姿がそこにあった。
夢かと名を呼び確認しようとするが、その前に喰い殺さんとばかりに男に襲いかかっていってしまう。
「「「「縁っ」」」」
「ア、レン?……セイ、ン……ジー、ク…ルー……」
涙に滲む瞳に、しかしずっと求めていた愛しい男たちの姿が写る。
あぁ、来てくれた。
嬉しさと安堵から全身の力が抜たが、代わりに忘れていた痛みが襲いかかり顔を歪める。
「アレン、セイン!縁を頼む!俺は奴の相手をするからルーは援護しろ!」
ジークの指示にアレンとセインが駆け寄り抱き起こしてくれる。
「遅くなってごめんな。今助けてやるからな」
「アレン……」
「痛いだろ?今抜いてやるからな。アレンゆっくりだぞ」
「セイン……」
必死に堪えていた涙が溢れ出す。
右手に打ち込まれていた杭はアレンが慎重に抜いてくれ、痛みに呻けばセインがその力強い腕で抱きしめてくれた。
「怪我は!?」
「すぐに止血するよ!繋おいで!」
「「「ママっ!」」」
離れて様子を窺っていたマーガレットたちの所まで運ばれるとすぐ様手当てをされる。
血塗れの縁の姿に繋が泣き出してしまったが、マーガレットに元気付けられ泣きながらも少しずつだが魔法で治癒してくれる。
まだ幼い子どもたちにこんな姿を見せるのはトラウマにならないかと不安になったが、手を震わせながらもママがんばってと言ってくれる子どもたちに元気をもらった。
「みんな、来てく、れて…ありがとう………」
諦めないで良かったと心から思うと、そのまま意識を失うのだった。
*初投稿から早一年。ここまで続けられるとは思っていませんでしたが読んでくださる皆様のおかげでここまで来ることが出来ました。
温かいお言葉、感想に返信は出来ていませんがとても嬉しく読ませてもらっています。
仕事や体調などにより毎日投稿とはいきませんが、これからも書けるだけ続けていこうと思います。
これからも楽しく読んでいただければ嬉しいです。
本当にありがとうございます。
21
お気に入りに追加
3,691
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
偽物の番は溺愛に怯える
にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』
最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。
まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?
伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。
実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので!
おじいちゃんと孫じゃないよ!
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
俺のこと、冷遇してるんだから離婚してくれますよね?〜王妃は国王の隠れた溺愛に気付いてない〜
明太子
BL
伯爵令息のエスメラルダは幼い頃から恋心を抱いていたレオンスタリア王国の国王であるキースと結婚し、王妃となった。
しかし、当のキースからは冷遇され、1人寂しく別居生活を送っている。
それでもキースへの想いを捨てきれないエスメラルダ。
だが、その思いも虚しく、エスメラルダはキースが別の令嬢を新しい妃を迎えようとしている場面に遭遇してしまう。
流石に心が折れてしまったエスメラルダは離婚を決意するが…?
エスメラルダの一途な初恋はキースに届くのか?
そして、キースの本当の気持ちは?
分かりづらい伏線とそこそこのどんでん返しありな喜怒哀楽激しめ王妃のシリアス?コメディ?こじらせ初恋BLです!
※R指定は保険です。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる