二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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聞きなさい

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 「嫌でしたか?」

 「………イヤ、じゃねぇけど……やだ」

 それは結局どちらなのだろうか?
 膝に抱えた少年の髪を乾かしてやっているのだが、落ち着かないのかもぞもぞと動いている。
 子どもたちの受け入れも完了し様子見としてちょくちょく顔を出していたのだが、畑への水撒き中の事故により濡れた少年の頭を縁が拭いてやっていた。
 ダメもとでおいでとタオルを持ち膝を叩いてみたのだが、思いの外素直に膝に乗ってくれたのだ。
 だが最初の悪態が嘘かのように静かな少年に縁もどうしたものかと戸惑っている。
 もしや油断させてまた鞄を盗もうとしているのではとも思ったが、鞄はエルに持たせているため大丈夫のはずだ。

 「………みんなと仲良く出来ているようですね。小さい子たちの面倒もよく見てくれると褒めてましたよ」

 「おれがいちばん年上だから」

 「そうですね。けど出来るのにしない人もいるんですよ。だからそれを自分の意志で出来ている君はすごいですよ」

 年上だからしなければいけないということもなく、しなさいと言ったところでイヤだと言うことだって出来るのだ。
 だが彼はこちらが何か言う前に動き行動した。
 賢い子だなとは思っていたが、縁たちが求めていた役割をこなしてくれる少年には感謝した。

 「お前………あんたが全部用意してくれたってきいた。だからおれは……おれたちは何をすればいい?」

 本当に賢い子だ。

 「……そうですね。少しお手伝いしてほしいことがあります」

 「なに?」

 畑もあり最低限食事に困ることはないが、それではこの子たちはこのままこの場所で終わってしまうだろう。
 それは縁が望んだ子どもたちの未来ではない。
 少年を下ろし手を繋ぐとキッチンへ向かう。

 「前にギルドで一緒にご飯を食べたでしょう?これはその時に使った調味料で味噌と言います。これを君たちにここで作ってほしいんです」

 縁が彼らに渡せるのは生きるための手段だけ。
 それを使って生きるのも、嫌だと別の手段を取ることもできる。

 「これを作って私が頼んだ商人の方に売ってほしいんです。もちろん作り方は教えますし、その売ったお金は君たちの好きにしていい」

 「………なんで…」

 「ん?」

 なんでそんなこと自分たちに頼むのかと戸惑っているようだ。

 「これは私の故郷で使っていたものなんですがここら辺では売ってないんですよ。けど最近は私の知り合いもこれを使って作るご飯を美味しいと知ってくれて。なのでそのためにも量がほしいんですが私一人ではそんなに出来ないんですよね」

 子どもたちに何か金銭を得られる方法はないか探していたのだが、下手に町に出て働くよりこの場所で出来るものと考え残り少なくなっていた味噌の存在を思い出したのだ。
 家族だけで少しずつ食べる分には縁が作るだけで事足りるが、最近はギルドでも城でもみんなで食べることも増え減りが早かったのだ。
 買おうにも売ってはおらず、作るにしても量が作れない。
 ならば子どもたちに作ってもらい売ることが出来れば縁も買うことが出来る上、子どもたちは金銭を得られると考えたのだ。

 「あんたは?あんた何にもないじゃん」

 自分たちにしか利益がないと怪しむ少年には笑ってしまう。

 「そうですね。ではその味噌を売ったお金の2割をもらうことにしましょう。構いませんか?」

 ここで変に気遣い要らないと言ったところで逆に不信感し抱かないだろう。
 ならば少なくとも売り上げをもらい、別の形で子どもたちに返すことにする。
 
 「あと時々私の知り合いが買いに来るかもしれませんから彼らにも売って上げて下さい」

 子どもたちの安全も考え時々隊長たちが訓練がてら近くを見回りに来てくれると言ってくれたのだ。
 その主な理由は味噌を手に入れるためという何とも私的な理由ではあったが、それで子どもたちの安全も確保出来、差し入れとしてお肉も置いていってくれると言うのだから良いこと尽くめだ。
 
 「そんなんでいいの?」

 「言葉だけだと簡単に聞こえるかもしれませんが、実際やり始めたら大変ですよ。けど……もう君は一人じゃありません。仲間が、家族がいます。……まだ頑張れますか?」

 止めるなら今だと言うが、考え俯いていた顔を上げた少年の表情は覚悟を決めたものだった。
 ならば縁も惜しむことなく教えよう。

 「ただ一つだけ約束してくれますか?」

 「なに?」

 膝をつき少年と目線を合わせると、その両手を優しく包み込む。

 「無理はしないこと。これから頑張っていかないといけませんけど、それと無理することは違います。自分が出来ることだけでいいんです。全てを自分一人でする必要なんかないんです」

 今まで必死に一人で生きてきた彼にすぐには無理かもしれない。
 けれどこれからはみんながいてくれるんだと理解して欲しかった。

 「君にはもう君を必要としてくれる子たちがいます。私も君にはもっと幸せになって欲しい。だから無理はしないこと。ダメだと思えば誰でもいいから頼りなさい。ここには君の手を振り解く人なんていないんですから」

 「…………ほんと?」

 頷き握る手に力を込めてやれば、漸く全身の力を抜き遠慮がちではあるがその手を握り返してくるのであった。

 「あの……たたいてごめん、なさい」

 そのぎこちなさがとても可愛く思えるのだった。
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