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嫌われる
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「とりあえず理由を聞きましょう」
「はなせっ!はなせっていってんだろ!」
「離したら貴方逃げちゃうでしょう?」
「あたりまえだろ。バカか!」
そう言ったら余計離せないだろうにと思いつつ、ここは人通りが多いと場所を移す。
途中少年もかなり暴れていたが、そんなことでエルが逃すはずもなく無事ギルドに辿り着いた。
事情が事情なので話し合うのに部屋を借りられないか聞けば、何故か返事を聞く前にジンが来てしまった。
これはマズいかもしれないと咄嗟に少年を背に隠してみたが、逃げ出したい少年はそんな縁の気遣いなど気付くはずもなく離せ助けろと大声を上げてしまう。
「話しを聞こうか」
「あ、いえ、部屋を貸していただければ私たちだけで話すのでーー」
「こっちだよ」
縁の抵抗虚しく案内された一室にそれぞれ腰を下ろすと、何があったのか話していく。
「捨ててきなさい」
「いや、そんな犬猫みたいな……」
「なら憲兵にでも突き出せばいい」
「でもまだ子どもですし……」
「なら私が預かろう」
「命の危険性があるので遠慮しておきます」
縁の鞄を盗もうとしたコソ泥少年の未来はある意味縁の肩にかかっていた。
繋たちには甘々なジンだが、それが他の子どもたちにも当て嵌まるかと言うと、否だ。
容赦なく憲兵に突き出すだろうし、最悪……うん。
「まず話しをさせて下さい。人様の物を盗むのはいいこととは言えませんが理由があってこそ。でしょ?」
「そんなもんねぇよ!おれはおれが生きるためにとってやったんだよ!」
それも立派な理由とだということに気付いてないのだろう。
「ご両親は?」
「死んだ」
両親がいないことは分かったが、それにしても身寄りがない場合教会に預けることも、親戚に預けることも出来たはずが何故この子は盗みなどしてまで一人で暮らしているのか?
「あんたバカだろ?みんながみんなあんたみたいなバカじゃねぇんだよ。あずかれって言われてはいそうですかって金はらうと思ってんのかよ」
口は悪いが大人のことをよく分かっている発言だ。
つまりは預けられただろう親戚から見捨てられたか、貧しさのあまり自分の意思で出てきたと言うことだろう。
「一人でいるのは君の意志ですか?」
「は?こんないちもんなしのガキにだれがついてくるってんだよ」
バカにするように鼻で笑い見上げてくる少年に、しかし怒ることなく語りかける。
「聞き方を変えます。君は一人でいたくてそうしているんですか?」
「………うるせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇっ!なにも知らねぇくせに!なにがひとりでいたいだ!んな、んなわけねぇだろ!じゃあどうしろってんだよ!こんなガキとっとと死ねってか?めいわくそうなかおしたやつらにはあたま下げて犬みてぇなメシもらえってか?ふざけんなっ!」
「「「………」」」
酷い生活だったのだろう。
まだ10にも満たない小さな身体で必死に一人生きていた。
誰にも助けを求められず、他に方法も知らず盗みに手を出していたに違いない。
泣き暴れる少年に躊躇うことなく手を伸ばすとギュッと抱きしめてやる。
離せと抵抗する手が当たったがこれぐらいすぐに治せると気持ちが落ち着くまで離さない。
「ごめんね。嫌なことを聞いてごめんなさい。頑張ってたんですよね。頑張って、頑張って生きてきたんですよね。嫌な聞き方をしてごめんね」
「……おまえなんかきらいだ。おまえみたいなバカ……なにもしらねぇくせに」
確かに前世でも、現在でさえ縁は生活には困ってはこなかった。
両親を亡くした悲しみはあったが、優しい叔父に引き取られた。
だからこそ気持ちが分かるなど言えはしない。
「いいですよ。それでもいいから今は少し休憩しましょ?大丈夫、私はバカなので何を言われてもすぐ忘れてしまいますよ。バカなので嫌いと言われたことも忘れてご飯も用意しちゃいますよ。だから少しお休みしましょう。頑張ってきた君へのご褒美です」
繋やアズたちにするように抱きしめ背をトントンとリズムよく叩いてやれば、暫く抵抗してはいたが疲れて眠りにつくのだった。
「頑張る子にはご褒美が必要、ですよね?」
「君はまた子どもを増やす気かい?」
「それは……どうしましょうね?すいませんが少しお願いしても?」
「君のお願いならね」
調べてほしいことがあると言うと、笑顔で受けてくれるジンに頭を下げるのだった。
心配性なエルには帰りが少し遅くなるかもしれないとアズに連絡をとってもらう。
「さて、この子は何が好きでしょうかね?」
「何でもいいんじゃない?こんだけうるさく吠えるんなら好き嫌いなんて言わないでしょ」
きっと縁の判断を甘いと思っているのだろう。
だがそう思いながらも言わないのは縁の意志を尊重してくれているから。
偽善者と言われても構わない。否定はしない。
どうせ全ての人を救うことなど出来はしないのだから。
神でもなければ、縁とて自分の意思があるため救いたいと思う人にしか手は伸ばさない。
「お婆ちゃんも呼んでみんなで食べましょう」
そうと決まればマーガレットを呼んできてくれるようエルに頼むのであった。
「はなせっ!はなせっていってんだろ!」
「離したら貴方逃げちゃうでしょう?」
「あたりまえだろ。バカか!」
そう言ったら余計離せないだろうにと思いつつ、ここは人通りが多いと場所を移す。
途中少年もかなり暴れていたが、そんなことでエルが逃すはずもなく無事ギルドに辿り着いた。
事情が事情なので話し合うのに部屋を借りられないか聞けば、何故か返事を聞く前にジンが来てしまった。
これはマズいかもしれないと咄嗟に少年を背に隠してみたが、逃げ出したい少年はそんな縁の気遣いなど気付くはずもなく離せ助けろと大声を上げてしまう。
「話しを聞こうか」
「あ、いえ、部屋を貸していただければ私たちだけで話すのでーー」
「こっちだよ」
縁の抵抗虚しく案内された一室にそれぞれ腰を下ろすと、何があったのか話していく。
「捨ててきなさい」
「いや、そんな犬猫みたいな……」
「なら憲兵にでも突き出せばいい」
「でもまだ子どもですし……」
「なら私が預かろう」
「命の危険性があるので遠慮しておきます」
縁の鞄を盗もうとしたコソ泥少年の未来はある意味縁の肩にかかっていた。
繋たちには甘々なジンだが、それが他の子どもたちにも当て嵌まるかと言うと、否だ。
容赦なく憲兵に突き出すだろうし、最悪……うん。
「まず話しをさせて下さい。人様の物を盗むのはいいこととは言えませんが理由があってこそ。でしょ?」
「そんなもんねぇよ!おれはおれが生きるためにとってやったんだよ!」
それも立派な理由とだということに気付いてないのだろう。
「ご両親は?」
「死んだ」
両親がいないことは分かったが、それにしても身寄りがない場合教会に預けることも、親戚に預けることも出来たはずが何故この子は盗みなどしてまで一人で暮らしているのか?
「あんたバカだろ?みんながみんなあんたみたいなバカじゃねぇんだよ。あずかれって言われてはいそうですかって金はらうと思ってんのかよ」
口は悪いが大人のことをよく分かっている発言だ。
つまりは預けられただろう親戚から見捨てられたか、貧しさのあまり自分の意思で出てきたと言うことだろう。
「一人でいるのは君の意志ですか?」
「は?こんないちもんなしのガキにだれがついてくるってんだよ」
バカにするように鼻で笑い見上げてくる少年に、しかし怒ることなく語りかける。
「聞き方を変えます。君は一人でいたくてそうしているんですか?」
「………うるせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇっ!なにも知らねぇくせに!なにがひとりでいたいだ!んな、んなわけねぇだろ!じゃあどうしろってんだよ!こんなガキとっとと死ねってか?めいわくそうなかおしたやつらにはあたま下げて犬みてぇなメシもらえってか?ふざけんなっ!」
「「「………」」」
酷い生活だったのだろう。
まだ10にも満たない小さな身体で必死に一人生きていた。
誰にも助けを求められず、他に方法も知らず盗みに手を出していたに違いない。
泣き暴れる少年に躊躇うことなく手を伸ばすとギュッと抱きしめてやる。
離せと抵抗する手が当たったがこれぐらいすぐに治せると気持ちが落ち着くまで離さない。
「ごめんね。嫌なことを聞いてごめんなさい。頑張ってたんですよね。頑張って、頑張って生きてきたんですよね。嫌な聞き方をしてごめんね」
「……おまえなんかきらいだ。おまえみたいなバカ……なにもしらねぇくせに」
確かに前世でも、現在でさえ縁は生活には困ってはこなかった。
両親を亡くした悲しみはあったが、優しい叔父に引き取られた。
だからこそ気持ちが分かるなど言えはしない。
「いいですよ。それでもいいから今は少し休憩しましょ?大丈夫、私はバカなので何を言われてもすぐ忘れてしまいますよ。バカなので嫌いと言われたことも忘れてご飯も用意しちゃいますよ。だから少しお休みしましょう。頑張ってきた君へのご褒美です」
繋やアズたちにするように抱きしめ背をトントンとリズムよく叩いてやれば、暫く抵抗してはいたが疲れて眠りにつくのだった。
「頑張る子にはご褒美が必要、ですよね?」
「君はまた子どもを増やす気かい?」
「それは……どうしましょうね?すいませんが少しお願いしても?」
「君のお願いならね」
調べてほしいことがあると言うと、笑顔で受けてくれるジンに頭を下げるのだった。
心配性なエルには帰りが少し遅くなるかもしれないとアズに連絡をとってもらう。
「さて、この子は何が好きでしょうかね?」
「何でもいいんじゃない?こんだけうるさく吠えるんなら好き嫌いなんて言わないでしょ」
きっと縁の判断を甘いと思っているのだろう。
だがそう思いながらも言わないのは縁の意志を尊重してくれているから。
偽善者と言われても構わない。否定はしない。
どうせ全ての人を救うことなど出来はしないのだから。
神でもなければ、縁とて自分の意思があるため救いたいと思う人にしか手は伸ばさない。
「お婆ちゃんも呼んでみんなで食べましょう」
そうと決まればマーガレットを呼んできてくれるようエルに頼むのであった。
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