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「匂いで辿り着くって犬みたいで複雑なんだけど」
そう言いながら漸く辿り着いたエルたちは言葉通り微妙な顔をしていたが、頑張って探してくれていたのにのんびり魚を食べていたのは流石に申し訳なかったと思い食べようとしていた魚を渡せば素直に受け取っていた。
「……えっと、みなさんもお疲れ様でした。ご心配おかけしてすいません。あの、そこでとった魚なんですけどよければどうぞ」
ガツガツと頬張っているリルの様子から安全面でも問題ないだろう。
「なんとも拍子抜けですが無事で良かったです。遠くからいい匂いがずっとしてきていて気になっていたんです。一ついただいても?」
もう慣れたとばかりにエニシの奇行を受け入れたフレックが手を伸ばしてきたので醤油をたらしたものを渡した。
「これは……美味しいですね。きのこもよかったですが焼いた魚にもここまで合うとは思っていませんでした」
かなり気に入ってくれたようで、量もあったためおかわりを差し出せば喜んで受け取ってくれるのだった。
「あ、そう言えば言い忘れてましたがそちらに大きい扉があったんですが入っても大丈夫ですかね?」
「「「「「えっ!?」」」」」
縁が指差す方向には明らかに大物がいますと言わんばかりの豪華な大きい扉があった。
フレックに動くなと言われていたため気になってはいたのだが大人しくみんなが来るのを待っていたのだ。
「明らかにボスがいますね。しかも階層から言ってもそれなりの強さでしょう………よく落ち着いて待っていられましたね」
「?、そう言われたので」
迷子になった時はその場から動かないの鉄則だ。
迷子というには語弊があるかもしれないが、勝手に開けて駆けつけてくれるだろうフレックたちに迷惑をかけても申し訳ないと思ったのだ。
ちょうど良くリルが魚を見つけてくれたこともあり暇を持て余すことなくお土産も手に入れることができた。
「………エニシさんはやはりエニシさんでしたね。驚かされてばかりですが貴方といると妙に落ち着くというか何というか……一人慌ててるのがバカらしくなってきます」
それは褒められているのだろうか?
縁の場合知らないことが多すぎて危機感が薄いというのもあるが、ある程度自分でも何とか出来ると自覚しているのもあったりする。
「では腹ごしらえも済んだところで先に進んでみましょうか。この先確実にボス級が出てくるでしょう。お2人は私から決して離れないように」
「はい」
「オレ戦えるんだけど」
エルが不服そうではあったが、今回縁たちは守られることが仕事のため諦めてもらうしかない。
ギギギっと重い音を立てながら開かれた扉に何が出るのかとドキドキワクワクと見守る。
「なんだ?妙に静かーーーっ!出ました!」
暗く物音一つしなかった室内にもしかして何もいないのでは?と思っていれば、突如として部屋に明かりが灯り眩しさに目を閉じた。
「総員戦闘態勢!油断するなっ」
何事かと未だ理解出来ていない縁をよそに隊員たちは剣を構えそれを取り囲んでいく。
「……馬?でも……何か変……?」
中央に位置するその生き物は、見た目は馬なのだがその姿はブレて見えるというか、そのまま言えば水で出来ているように見える。
「……水で出来た馬とかいるんですねぇ」
「いや、普通いないからね。ダンジョンだからだよ」
やはり普通ではなかったのかとまた一つ学んだ縁だが、隊員たちも水で出来た馬ともなれば普段の力が発揮出来ずかなり苦戦しているようだ。
切っても切ってもすぐに元通りに身体がくっついてしまい、とどめどころか致命傷を与えることも出来ない。
縁たちを護りながらも隊員たちの戦闘を見守るフレックも厳しい表情だ。
「ここは一度態勢を立て直した方がいいかもしれませんね。申し訳ありませんがエニシさんたちは先にーー」
「よければ試したいことがあるんですがダメですか?」
このまま見守っていてもいいのだが、あの様子では難しいだろうとフレックに提案すれば周りを警戒しながらも頷いてくれた。
縁の突拍子もない発言にも慣れてきたようだ。
「予行練習というのはどうでしょう?」
「予行練習?」
「それの」
フレックか構える剣を指差せば、数秒考えた後面白そうに笑うフレックが隊員たちを下がらせた。
差し出された剣に魔力を流せば、楽しそうにそれを構え敵に斬りかかっていく。
フレックが戦う姿は初めて見たが、副隊長というだけあって見事だった。
「なにあの剣。すっごい冷気なんだけど」
「相手が水なので凍らせれば切れるかなと」
他にも隊員たちに風や炎、雷などの魔法を剣にかけてやれば皆興奮したように敵に向かっていくのだった。
そう、予行練習とは隊長のように魔剣が手に入った時のための隊員による実地訓練。
あれほど苦戦していたとは思えないほど呆気なく、途中から遊んでいたような気もしたが、皆楽しそうに敵を倒し終えると意気揚々とダンジョンを後にするのだった。
「実にいい経験でした。これほど戦闘で楽しいと思ったのは久しぶりです」
実にいい笑顔のフレックだった。
そう言いながら漸く辿り着いたエルたちは言葉通り微妙な顔をしていたが、頑張って探してくれていたのにのんびり魚を食べていたのは流石に申し訳なかったと思い食べようとしていた魚を渡せば素直に受け取っていた。
「……えっと、みなさんもお疲れ様でした。ご心配おかけしてすいません。あの、そこでとった魚なんですけどよければどうぞ」
ガツガツと頬張っているリルの様子から安全面でも問題ないだろう。
「なんとも拍子抜けですが無事で良かったです。遠くからいい匂いがずっとしてきていて気になっていたんです。一ついただいても?」
もう慣れたとばかりにエニシの奇行を受け入れたフレックが手を伸ばしてきたので醤油をたらしたものを渡した。
「これは……美味しいですね。きのこもよかったですが焼いた魚にもここまで合うとは思っていませんでした」
かなり気に入ってくれたようで、量もあったためおかわりを差し出せば喜んで受け取ってくれるのだった。
「あ、そう言えば言い忘れてましたがそちらに大きい扉があったんですが入っても大丈夫ですかね?」
「「「「「えっ!?」」」」」
縁が指差す方向には明らかに大物がいますと言わんばかりの豪華な大きい扉があった。
フレックに動くなと言われていたため気になってはいたのだが大人しくみんなが来るのを待っていたのだ。
「明らかにボスがいますね。しかも階層から言ってもそれなりの強さでしょう………よく落ち着いて待っていられましたね」
「?、そう言われたので」
迷子になった時はその場から動かないの鉄則だ。
迷子というには語弊があるかもしれないが、勝手に開けて駆けつけてくれるだろうフレックたちに迷惑をかけても申し訳ないと思ったのだ。
ちょうど良くリルが魚を見つけてくれたこともあり暇を持て余すことなくお土産も手に入れることができた。
「………エニシさんはやはりエニシさんでしたね。驚かされてばかりですが貴方といると妙に落ち着くというか何というか……一人慌ててるのがバカらしくなってきます」
それは褒められているのだろうか?
縁の場合知らないことが多すぎて危機感が薄いというのもあるが、ある程度自分でも何とか出来ると自覚しているのもあったりする。
「では腹ごしらえも済んだところで先に進んでみましょうか。この先確実にボス級が出てくるでしょう。お2人は私から決して離れないように」
「はい」
「オレ戦えるんだけど」
エルが不服そうではあったが、今回縁たちは守られることが仕事のため諦めてもらうしかない。
ギギギっと重い音を立てながら開かれた扉に何が出るのかとドキドキワクワクと見守る。
「なんだ?妙に静かーーーっ!出ました!」
暗く物音一つしなかった室内にもしかして何もいないのでは?と思っていれば、突如として部屋に明かりが灯り眩しさに目を閉じた。
「総員戦闘態勢!油断するなっ」
何事かと未だ理解出来ていない縁をよそに隊員たちは剣を構えそれを取り囲んでいく。
「……馬?でも……何か変……?」
中央に位置するその生き物は、見た目は馬なのだがその姿はブレて見えるというか、そのまま言えば水で出来ているように見える。
「……水で出来た馬とかいるんですねぇ」
「いや、普通いないからね。ダンジョンだからだよ」
やはり普通ではなかったのかとまた一つ学んだ縁だが、隊員たちも水で出来た馬ともなれば普段の力が発揮出来ずかなり苦戦しているようだ。
切っても切ってもすぐに元通りに身体がくっついてしまい、とどめどころか致命傷を与えることも出来ない。
縁たちを護りながらも隊員たちの戦闘を見守るフレックも厳しい表情だ。
「ここは一度態勢を立て直した方がいいかもしれませんね。申し訳ありませんがエニシさんたちは先にーー」
「よければ試したいことがあるんですがダメですか?」
このまま見守っていてもいいのだが、あの様子では難しいだろうとフレックに提案すれば周りを警戒しながらも頷いてくれた。
縁の突拍子もない発言にも慣れてきたようだ。
「予行練習というのはどうでしょう?」
「予行練習?」
「それの」
フレックか構える剣を指差せば、数秒考えた後面白そうに笑うフレックが隊員たちを下がらせた。
差し出された剣に魔力を流せば、楽しそうにそれを構え敵に斬りかかっていく。
フレックが戦う姿は初めて見たが、副隊長というだけあって見事だった。
「なにあの剣。すっごい冷気なんだけど」
「相手が水なので凍らせれば切れるかなと」
他にも隊員たちに風や炎、雷などの魔法を剣にかけてやれば皆興奮したように敵に向かっていくのだった。
そう、予行練習とは隊長のように魔剣が手に入った時のための隊員による実地訓練。
あれほど苦戦していたとは思えないほど呆気なく、途中から遊んでいたような気もしたが、皆楽しそうに敵を倒し終えると意気揚々とダンジョンを後にするのだった。
「実にいい経験でした。これほど戦闘で楽しいと思ったのは久しぶりです」
実にいい笑顔のフレックだった。
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