二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
233 / 475

仲間……かな?

しおりを挟む
 「どうして真たちが泣くの我慢してるって分かったの?」

 「うん?」

 ずっと不思議には思っていた。
 エルたちがエニシを心配し泣きそうになっていたにもかかわらず双子は何を言うわけでも泣くこともせず、エニシのお願いを聞いていた。

 「血塗れのエニシ見て泣かないからおかしいなとは思ってたんだ」

 泣いたら泣いたで困ってはいたが、真はダメとばかりにエルたちを抑えていたし、愛依は動けないエニシに手を貸していた。

 「我慢した理由は私にも分かりませんけど、我慢してるなぁというのは見てすぐ分かりましたよ」

 それはなぜか?

 「笑ってなかったでしょう?」

 「あんな状況で笑うやつなんていないと思うけど」

 あの状況で笑える奴など頭のいかれた猟奇的殺人者か自殺願望者ぐらいだろう。

 「じゃなくて、顔。この子たち無表情になるんですよ。我慢してる時」

 「あ……」

 そう言われてみればずっと表情がなかった気がする。
 助かった後も返事はいつも通りだったが、顔は笑いも怒りもしてなかった。

 「声はいつも通り過ぎてジークも気付くのにかなり時間がかかってました」

 エニシを心配するあまりエルも2人の顔をよく見てなかった。
 声だけで大丈夫だと勝手に思っていた。

 「オレ、お兄ちゃんなのに……」

 気付いてあげられなかったと落ち込めば、父親であるジークも分かってなかったから大丈夫と笑って許してくれた。

 「これから時々でいいので気にしてあげて下さい。で、この子たちは焼いたお肉を与えても大丈夫なものでしょうか?」

 調理したものを与えてもいいのかと聞かれたが、エルもフェンリルを見るのはこれが初めてのため何とも言えない。

 「ホントにそいつら助けるの?」

 「ダメですか?」

 「………」

 ダメ……ではないがイヤだ。

 「許せませんか?」

 「…………うん」

 今でもあの倒れ込むエニシの姿が脳裏に焼き付いている。
 エニシ自身が回復魔法を使えたからよかったが、使えなかったら確実に死んでいただろう。
 その原因であるフェンリルを側においておくことは納得が出来ない。

 「きっともう襲ってきませんよ。それでも?」

 「そんな保証どこにあんの?もしかしたらまた何かの拍子に襲いかかってくるかもしれないじゃん。それこそ従魔にでもしない限り無理だよ」

 従魔として契約しているならば、その主人である相手に危害を加えることなんて出来ないが、じゃなければエニシにまたいつ危険が及ぶか分からない。

 「じゅうまって何ですか?」

 もう!もう!

 「そのままの意味だよ。付き従う魔物。相手にもよるけど力を貸してもらう代わりに契約者はその対価を払わなきゃならない」

 「対価、ですか?」

 レベルが低いものならそう難しくはないが、フェンリルほどになればエルにも分からない。

 「使役するのとちがって魔物が自分の意思で契約するんだ。だから契約者はそれに見合った対価を払う」

 「対価というのは………お金でいいんですか?」

 がくり。
 それで納得してもらえるなら誰も苦労しないだろう。

 「ちがうよ。まぁ中にはそんなヤツもいるかもしれないけどさ、大抵は魔力だね」

 普通の獣と違い魔力を主食とする彼らはそれ故に強く頑丈だ。
 
 「だからさ………って何してんの?」

 「え?何ってご飯……」

 嘘でしょ!?
 狼に触れたかと思えば魔力の流れを感じ目を疑った。
 美味しいですか?とにこやかに魔力を渡している姿に目眩がする。
 もうホント!ホントこの人は!
 呆れてものも言えないとはこのことだとエルは思うのだった。
 エニシの魔力を腹一杯貰ったおかげか痩せこけていた身体はみるみる元の雄々しい姿を取り戻し、その毛はキラキラと光り輝くようにツヤが増している。
 これこそ最強の魔獣フェンリルその姿だろう。

 「とても綺麗ですね」

 それだけで納得出来るエニシがエルは恐ろしい。
 ここまできたら開き直るしかないのかもしれない。

 「これなら契約してくれるんじゃない?ダメ元で頼んでみれば?」

 もはやエニシに常識を求めるだけ無駄だろう。
 これだけ懐いているならばもしかしたらと言ってみれば、案の定エニシはフェンリルにいいかと尋ねていた。
 すごいっていうか、おかしくない?
 なんでそう簡単に聞いてんの?そして何であのフェンリルは嬉しそうに頷いてんの?
 オレ?オレの方がおかしいの?
 もはや見ていることさえ疲れ、すぐ食べられるようにとご飯の準備をするのであった。

 「エル!なってくれるそうです。やり方教えて下さい」

 「……もう帰って寝たいよオレは」

 今日、それもたった数時間の間にあった出来事にこれほど疲れるとは思ってもみなかったエルであった。

 「あれもうフェンリルじゃなくて犬なんじゃね?」

 そう疑問が残るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...