二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
224 / 475

寝なさい

しおりを挟む
 「どうしてこうなっているんですか?」

 「君のおかげだな」

 「ほぅ。私が悪いと?」

 「…………」

 顔を逸らすのは分が悪いと分かっているからであろう。
 久しぶりに会ったレオナルドの顔は明らかに具合が良いとは言えず、むしろいつ倒れてもおかしくないのではと思えるほど顔色が悪い。
 回復薬入りの飴を渡しておいたにもかかわらず。
 どういうことかと問い詰めてみれば飴によって身体的負担が軽くなったため仕事が捗り、そのせいで余計に多くの仕事をこなしていたらしい。
 そんな日が続けばいくら飴を舐めていたとはいえ身体は不調を訴え結果こうなるわけである。

 「私は貴方の負担を軽くするためにあれを渡したんです。決してより多くの仕事をこなさせるためではありません」

 「…………分かっている」

 「分かっていてこの結果ですか?」

 黙り込む男に大きく溜息をつくと隣に腰掛けるアル爺を見る。

 「なんで注意しなかったんですか」

 「儂はしたぞ。したがこやつが聞かなかったんじゃ。なのでお前さんを呼んだ」

 きっとアル爺のことだ、心配する言葉をかけながらも日頃の行いのせいでレオナルドに素直に聞いてもらえなかったのだろう。
 常日頃からかって遊んでいるからだ。
 
 「言い方が悪かったんですよ。ちゃんと心配だから休めと言ったんですか?」

 「………」

 この大人たちは。
 
 「もういいです。宰相様は今すぐ休んで下さい。アル爺は分かるようなら書類の整理を。私も出来るだけ手伝いますので」

 「待て。そんなこと勝手にーー」

 「分からないようなら手は出しませんよ。この国のことに興味はありませんので情報を洩らすということも心配しなくて結構です。貴方はそこで大人しく休んでいなさい」

 問答無用で手を引っ張っていくと空いていた長椅子にレオナルドを横にさせる。

 「大丈夫です。勝手に書類を持ち出すなんてことしません。ほんの数分横になるだけでも違いますよ。ほら目を閉じて。そう……ゆっくり息を吸って……吐いて……吸って……吐いて…………お休みなさい」

 やはり身体は限界だったのだろう、すぐに眠りについたレオナルドを起こさぬよう目蓋に乗せていた手をそっと離す。

 「……寝たか?」

 「はい。倒れてないのが不思議ですよ。どれだけ徹夜したんですか」

 「すまんな。いくら儂等が言っても聞かんでな。むしろ儂等が言えば言うほどムキになってしもうて」

 飴の効果もありまだやれると思ったのだろう。
 無理をさせるために渡したわけではないのだが。

 「起きるまでゆっくりさせてあげましょう。補佐の方とかいないんですか?」

 何度もここへ来てはいるがそれらしい人物を見たことは一度もなかった。

 「いたんじゃがこやつがクビにしおった。まぁ裏で金を横流ししとった挙句、王族の情報まで漏洩しとったから当たり前といっては当たり前じゃがな」

 碌な人間がいないらしい。
 その上縁がエリックのことを頼んだことも彼には負担になっていたのだろう。

 「この感じなら数時間は起きないでしょう。それまで私たちで出来ることをしておきましょう」

 「分かった分かった」

 処理を出来なくともやりやすいように書類を纏めておくことぐらいなら縁にも出来る。

 「邪魔が入らないよう扉に何か貼っておきましょう」

 安眠を邪魔されないようデカデカと立ち入り禁止の紙を貼ってもらうのであった。
 これで入ってくる者はいないだろう。
 逆に入ってくる者がいるとすれば何かやらかそうとしている者に他ならないのだ。

 「それにしてもお前さんに頼んで正解じゃったな。あんなに素直に聞くとは思わなんだ」

 人に頼んでおいてそれはどうなのか。
 皆はレオナルドを気難しい男というが、縁にはそれなりに素直であることをアル爺は気付いていたのだろう。

 「どうせならエリックも呼んできましょう。私たちが駄目でも王子なら問題ないでしょ」

 「王子自ら手伝わせるなぞ剛毅じゃな」

 「自国のことを知る良い機会でしょ」

 普通なら有り得なくとも、これから王となるならば経験しておいて損はないだろう。
 可能ならば来て欲しいと頼めば通信を切って数分足らずでエリックが走り込んでくるのであった。
 事情を話せば快く引き受けてくれ3人で協力して書類整理に勤しむ。

 「エリックは宰相様のこと怖かったりしますか?」

 ふと気になり聞いてみれば意外にも首を振られる。

 「確かに以前までならそう思ってましたけど、エニ…あの、母上と話しているのを見てからあまりそう思わなくなりました」

 未だ慣れないのかぎこちない呼び方に、無理しなくてもいいと言ってみたのだが母上と呼びたいというエリックの意思を尊重した。

 「彼は聞けばちゃんと答えてくれる優しい方ですよ。ただ良くも悪くも忙しい方ですからね。無駄やためにならないと判断すればあっさり切り捨てられるんです」

 そのせいで冷たく感じることがあるのかもしれないが、誰だって忙しい中無駄なことをさせられたら苛立ちもするだろう。
 足を引っ張ることしかしないならば切り捨てられて当然である。

 「なので今も色々とエリックが教わっていられるのは彼が貴方を認めているということです。言葉にしなくとも彼はちゃんと貴方の頑張りを見てくれているんですよ」

 良かったねと微笑めばエリックも嬉しそうに笑って頷くのであった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら魔術師団長のペットになりました

ことり
BL
悪い男に襲われている最中に、もっと悪い男に異世界召喚されてしまう、若干Mな子のお話です。 気晴らしに書いた短編でしたが、召喚されっぱなしのやられっぱなしで気の毒なので、召喚先で居場所ができるように少々続けます。 山も谷もないです。R18で話が始まりますのでご注意ください。 2019.12.15 一部完結しました。 2019.12.17 二部【学園編】ゆったりのんびり始めます。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

生意気オメガは年上アルファに監禁される

神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。 でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。 俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう! それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。 甘々オメガバース。全七話のお話です。 ※少しだけオメガバース独自設定が入っています。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

処理中です...