二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
209 / 475

譲れないもの

しおりを挟む
 怪我は繋により治ったが、だからといって彼らがしたことは許されない。許さない。

 「貴方は自分が勇者だと言いましたね」

 「え?」

 「自分たちはそれに相応しい行動を心がけないと、と。それがこれですか?」

 何も聞かず、何も知らず、魔族だというだけで手をかける。

 「しかし、そいつは魔族だろう?」

 何も疑問にも思わずそう答える男を鼻で笑う。

 「だから?なんだと言うんです。貴方たちは彼が生きていることさえ許さないと?神にでもなったつもりですか?」

 「ちがう!だが魔族は滅ぼさなければいけない種族で……」

 彼自身も混乱しているのか声が小さくなる。

 「何故?」

 「人間にとって害としかならないからだ。このままではこの国も襲われ魔族に世界が乗っ取られるとーー」

 「言われましたか。馬鹿馬鹿しい」

 「なんだとっ!」

 拘束され、動けないながらもこちらを睨みつけてくる男を見下ろし笑う。

 「魔族は全てが害?襲われた?それで?それが彼を殺す理由になりはしない。彼は私の家族であり、人は襲わない。私を助け、側にいてくれる。それを奪おうとする貴方たちが私には害でしかない」

 「魔族だぞ!」

 バカの一つ覚えかのように繰り返すその言葉。

 「で?」

 「どれだけの人間が犠牲になってきたと思う!そいつらは血も涙もない冷血なーー」

 「それは彼ではない他の魔族でしょう?彼を殺そうとした理由を私はさっきからずっと聞いているんですよ。バカですか?」

 「キサマっ!」

 殴りかかろうにも動けず地面を転がるだけだった。
 どうしてこうも話しが通じないのだろう。
 マーガレットたちは分かってくれたのに、こうして自分勝手な理由で襲いかかってくる者もいる。
 
 「今までやってきた魔族の所業を全て彼に押し付ける気ですか?なら私が今まで人間にされてきたことを貴方に当たってもいいと?」

 「それは……」

 それは別だとでも?
 なんとも都合のいいものである。

 「貴方にいたってはエルではなく私を狙って魔法を使っていましたね?それも代わりに受けてくれると?」

 「っ!?」
 
 倒れふす女にそう問えばビクリと肩が揺れた。
 それこそ最初はエルを倒そうと狙っていた彼女だが、途中飛んできた炎の矢は確実に縁を狙っていた。
 やったことはなかったが、先程見たままに魔法で炎の矢を出現させると騒ぐ男に狙いを定める。

 「ま、待ってくれ!誤解だ!アメリはーー」

 「誤解?あの状況で何をですか?エルを守ろうとした私を殺そうとしたんでしょう?人間である私を」

 迫る炎の矢に男が助けを求め、こうなった元凶である女を罵り始める。
 聞くに耐えない叫びに繋をロンに預けると少し離れていてもらう。

 「貴方が言ったんですよ?魔族だからと。今までの魔族がしてきたことの責任を取れと言うのであれば、貴方は、いえ貴方たちは仲間である彼女がしたことへの責任を取らなければならない」

 そう言い増えた炎の矢はエルを襲おうとした4人全員に向けられる。
 回復役だったのだろう少女は泣いて許しを乞い始めた。
 魔法使いの女は怯え震えている。
 男は叫び続け、唯一拘束していない勇者だと言う男は戸惑い動けずにいた。

 「分かりましたか?」

 「……な、に?」

 何から何まで言ってやらねば理解しないのだろうか?

 「言われるがまま魔族を倒し、邪魔する者を倒し、何故自分たちがそうしなければいけないのか理解していないんでしょう?考えようともしていない。……これが最後です。彼を殺す理由は?ありますか?」

 それは最後の確認。
 初めから彼らを殺す気など縁にはない。
 それでも許せない想いがあり、その手段に魔法を使い脅すようなことをしている。

 「ーーない。俺たちが考えなしだった。すまなかった」

 真っ直ぐにこちらを見、頭を下げた男にホッと息をついた。
 振り返りエルを見れば笑い頷く姿に縁も笑い返す。
 全てが解決したわけではない。
 それでもエルの心が少しでも軽くなればいいと思う。
 縁にとって家族はかけがえのないものであり、ずっと求めていたものだ。
 それを身勝手な理由で奪おうというのならば許さない。

 「貴方の全てを否定するわけではありません。勇者として頑張ってきたことも多くあるんでしょう。けれどだからといって全てを貴方の考えだけで当て嵌めるのは間違いです。魔族でも彼のような人もいる。それは人間である私が魔法を使えるように、貴方が人間であるのに勇者という力を持っているのと同じように」

 十人十色。
 人の数だけ意思、意見、考え方があるのだ。
 彼らがエルを敵だと言うように、しかし縁には大切な家族なのだ。
 縁の考え方が人間には理解し難いことは分かっている。
 それでも譲れない。
 もう2度と家族を失いたくはないから。
 
 「後のことは貴方に任せます。彼らが貴方のように理解出来なくても構いませんが、また手を出してくるようならば私も今度こそ容赦しません」

 「分かった」

 出していた炎の矢を消すと駆け寄ってきた繋を抱え上げる。
 子どもの前ですることではなかったかもしれないが、怯えることなく抱きついてきた繋にはちゃんと分かっているだろう。
 家族を守ろうとしたのだと。

 「さぁ、帰りましょう。パパたちが心配してますからね」

 「うん!」

 「うん、帰ろう」

 エルに微笑むと縁たちを待つロンたちと並んで帰るのだった。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

【本編完結】十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、攻略キャラのひとりに溺愛されました! ~連載版!~

海里
BL
部活帰りに気が付いたら異世界転移していたヒビキは、とあるふたりの人物を見てここが姉のハマっていた十八禁BLゲームの中だと気付く。 姉の推しであるルードに迷子として保護されたヒビキは、気付いたら彼に押し倒されて――? 溺愛攻め×快楽に弱く流されやすい受けの話になります。 ルード×ヒビキの固定CP。ヒビキの一人称で物語が進んでいきます。 同タイトルの短編を連載版へ再構築。話の流れは相当ゆっくり。 連載にあたって多少短編版とキャラの性格が違っています。が、基本的に同じです。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。先行はそちらです。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆明けましておめでとうございます。昨年度は色々ありがとうございました。今年もよろしくお願いします。あまりめでたくない暗い話を書いていますがそのうち明るくなる予定です。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

処理中です...