二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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気分転換

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 眠い。眠すぎる。
 あの小さな身体にどれだけミルクをやればいいというのか。
 小さいからこそ小まめにやらなければいけないと分かっているのだが、眠れると思った途端起こされ、あぁ眠れると思った途端起こされ、寝不足で倒れそうだった。
 オムツ替えなどはセインたちが率先してやってくれるのだが、ミルクだけはどうにもならず毎回申し訳なさそうに起こされた。
 それでも可愛い我が子のためと半分寝ぼけながらもミルクをやり、オムツを替え、数ヶ月すれば少しずつだがちゃんと眠れるようになってきた。

 「いい加減外に出たいです」

 気分転換に外に出たいと訴えたが、みんなの反応は芳しくない。
 危ないだの、まだ早いだのどれだけ心配性なのか。
 ならばいつならいいのか聞いてみれば、ケイが一人歩きできるまでと言われ、有無を言わさずケイを抱いて部屋を出た。
 それまで待ってられるか!
 結局出入り口で捕まったが、一歩も引かない縁にジークが折れ近場ならいいとやっと許可が出た。
 
 「何でそこまで外に出るのを嫌がるんですか。危ないのは分かりますが、それはケイがいてもいなくて変わらないでしょう?」

 縁たちを想って言ってくれてるのは分かるが、ずっと籠もっているだけは息がつまる。
 それならば少しでもいいから外に出て気分転換したい。

 「分かってはいるんだがな。どうにも心配でな」

 ジークたちの気持ちも分かるが、縁の気持ちも分かってほしい。

 「腰が重いパパたちですねぇ、ケイ

 「こら、そこは家族想いって言っとけ」

 久しぶりの外にケイはジークに任せ、お馴染みの花畑に走り出しーー転んだ。
 
 「落ち着きないママだなぁ、ケイ

 「今さらですね!」

 「開き直んなよ」

 大人になっても転ぶのは恥ずかしいが、念願の外出に些細なことは気にしない!
 ゴロンと横になればケイを抱えたジークも隣に腰を下ろした。

 「こうしてのんびり流れる雲を見るのが好きだったんです」

 「ジジイかよ」

 「自分が動いているとあまり分からないでしょ?こうして自分が止まって見てみると雲も、風も、太陽も、世界はちゃんと回っているんだなぁって感じるんですよね」

 「そりゃそうだろ」

 悲しんでも、笑っても、世界は回り続ける。

 「………両親が亡くなった時、私の中で世界は止まりました。いえ、止まったと思ってた。現実が受け止められず、ただ言われるがまま生活して、でもいつもいるべき場所にいてくれる人がいなくて……悲しかった」

 目を閉じれば思い出す昔。
 可愛いらしい容姿なのに男っぽく不器用な母。
 男らしくカッコいいのに手先が器用で、常に母のことを気づかう優しい父。
 大好きだった。
 いや、今でも2人を愛している。
 そんな2人が急にいなくなり悲しくて、悲しくて、でも誰にそれをぶつけていいか分からず、1人悲しみに暮れていた。

 「でも、ふと空を見上げた時分かったんです」

 「何が?」

 「悲しみ続けても2人は帰ってこないんだって。私がいくら悲しんだところで世界は回り続けるんです。あの雲が動き続けるように、太陽がみんなを照らし続けてくれるように。いくら私が現実を受け止められなくても世界は回る」

 縁が悲しもうが、笑って笑って笑い転げようが回り続ける。
 
 「世界が回っているなら私だって止まっているわけじゃない。止まっている気になっていただけです」

 「……そうだな」

 エリーを亡くしたジークなら分かるだろう。
 どんなに嘆こうが、願おうが時間は止まりも戻りもしない。
 進み続けるだけ。
 ならばーー

 「笑わないと損でしょ?美味しいものを食べて、友人とふざけあって。些細なことでも楽しまなければ。でも時にはこうして空を見上げて、流れる雲を見て両親を思い出す」

 「…そうだな」

 あちらでの生は失ってしまったが、こうしてこちらの世界では素敵な伴侶が3人もでき、赤ちゃんも出来た。
 大切な人たちが増え、今は生きていることが楽しくて仕方がない。

 「今なら胸を張って両親に言えますよ。私はとても幸せだって、ねぇケイ?」

 眠る横顔を突けばむず痒そうに唸る。
 可愛い。
 愛しい。
 大切な大切な宝物。
 ジークたちには言わないが、ケイのためなら自分の命すら惜しくない。

 「生きることは辛いこともありますが、きっと楽しいことも多いんです。だから出来れば長生きしたいです。そうです!そうと決まれば今後のためにも筋肉をーー」

 「台無しだ」

 コツンと額を叩かれたが痛くない……のに、何故かケイが泣いた。
 まるで縁が叩かれたのが分かったかのように。

 「こりゃ、性別間違ったな。まるで騎士だ」

 ママを傷つけるのは許さないとばかり。

 「頼もしい限りですが……ますます身長をぬかれそうな気しかしません。ここは早いとこ筋肉強化に取り組まなければ!」

 「やめろ。ケイ、ムキムキなママがイヤなら泣きやめ~……あ、止まった」

 なんだそれ。

 「いやいや、どんな特殊能力ですか?私の子なのに」

 こんな平々凡々な自分からそんな素晴らしい特殊能力を持った子が産まれるわけがない。

 「はっ!もしかして隠されたセインの特殊のうーー」

 「ちげぇだろ」

 夫婦漫才をしている間に泣き止んだケイはまたスヤスヤとお眠りになられた。
 いったい何だったのか。
 謎だけが残るのだった。

 

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