二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
140 / 475

こんにちは

しおりを挟む
 それから数時間。
 あの痛みからあっさり……産まれることなく、激しい痛みに耐えながらも無事産むことができた。
 鼻からスイカ…ではなかった。
 想像以上の痛みに何度も意識を失いたくなったが、産まなければ赤ん坊も危ないため頑張るしかなかった。
 元気に産声を上げる赤ん坊は女の子で、どっちかというとセインに似ている気がした。
 泣きそうになりながらも力が出ない縁の代わりにセインが抱っこし見せてくれる。

 「女の子、でしたね」

 「あぁ、すごいな。ちゃんと生きてる」

 小さな手が何かを探すように動いていたため握ってやれば、キュッと握り返してくる。

 「ちっちゃい」

 「小さいな。けど産まれたての獣人に比べればかなりおおきいぞ。よく頑張ったな。ありがとう」

 労うように額にキスされ、申し訳ないが力尽きた縁は気絶するように眠りについた。
 と、思ったのだが元気な声に叩き起こされる。

 「起こして悪い。たぶんミルクが欲しいんだ」

 いつの間にか汗だくだった身体は綺麗にされており、起き抜けの鈍い頭で手を伸ばせばセインに抱き起こされた。
 そのまま背を支えられながら膨らみのない胸からミルクを与えれば、チュウチュウと必死に吸い付いてくる。
 女性のような膨らみのない胸からミルクが出てきた時は驚いたものだ。

 「ねむ…ねむい…」

 揺れる頭をセインの広い胸に傾け、力が抜けそうな腕に頑張って耐える。
 眠たい。

 「俺が支えてるから寝てていいぞ」

 頼もしいセインに全て任せたくなるが、産んだからには自分も頑張らなければ。
 飲み終えるまで耐え、ゲップをさせるとベッドに寝かせる。
 満足そうに寝る姿にホッとし…油断した。
 力が抜けた身体はその前屈みに倒れベッドの端に頭をぶつけた。

 「縁っ!?」

 「いっ、た。い~」

 痛みに目は覚めたがズキズキと痛む頭に泣きそうになる。

 「大丈夫か?」

 「……はい」

 もう色々とダメだ。

 「そういえばアレンたちは?」

 いかにも喜び騒ぎそうなアレンの姿がなく、最初に一緒にいたはずのジークもいない。
 どうしたのか聞けば、案の定騒いでうるさかったためジークに部屋から追い出されたらしい。
 心配したアズやエルも一緒に待っているらしく、寝ている今なら大丈夫だろうと呼んできてもらう。

 「うっわ、ちっちゃっ」

 「アズ、おにいちゃん?」

 「そうですね。アズもエルもお兄ちゃんです。女の子なのでお兄ちゃんが守ってあげて下さいね」

 「うん!!」

 じっと覗き込む姿に微笑むと、そわそわ待っているアレンを呼ぶ。
 抱きしめてやれば安心したのか肩から力が抜けたのが分かった。
 ジークも抱きしめれば笑ってよくやったと褒められた。
 
 「待望の女の子です。頑張って下さいねパパたち」

 「当たり前だ」
 「任せろ!」
 「嫁に出せんな」

 頼もしい答えだが…ジーク?気が早くないですか?
 早速の親バカ発言に笑えば、聞いていたエルまで呆れたような視線を向けていた。

 「落ち着いたらランたちにも報告に行きましょう。ジンさんたちにも会わせないと何を言われるか分かりません」

 「だね。あの人きっと泣いて喜ぶんじゃない?」

 それはさすがに……あるかも。
 妊娠中であれなら、赤ん坊を見た瞬間喜びに叫び出すかもしれない。
 想像し、面倒くさいなぁと思った。
 だが会いに行かないのも後々面倒くさいことになるだろう。

 「まぁ、落ち着いたら…考えましょう。産むのも大変でしたが、これからもっと大変ですからね。眠れるか分からない日が続くと思うのですいませんが手伝いお願いします」

 獣人の子は成長が早いためあまり手がかからないらしいが、数時間、最悪数分おきに授乳しなければいけない人間の子はかなり大変だ。
 粉ミルクなどないこちらの世界ではもちろん自分の母乳を与えるしかなく、誰かに代わりを頼むことなど出来ない。
 寝そうになったら起こしてほしいと頼めば、何故か謝られた。

 「どうしました?」

 「産んだばっかりでツライだろ?本当ならゆっくりしてくれって言ってやりたいんだが……」

 「大丈夫ですよ。それに分かってた上で産んだんです。今さら辛いからやめるなんて言いませんよ」

 そんなこと言うくらいなら初めから産んでいない。
 心配してくれるのは嬉しいが、ならば手伝ってくれと言えば漸く頷いてくれた。

 「それより名前をどうしましょう。いつまでも赤ちゃんでは可哀想です」

 何かいい名前はあるかと聞けば、皆縁に決めろと言う。
 
 「私が決めてしまっていいんですか?」

 「縁がいいんだ」

 「なら……ケイというのはどうでしょう?」

 「ケイ?」

 「繋ぐ、繋がり、結びつけるという意味です。ちょっと男の子っぽいですが、大切な人を、私たち家族を繋げ続けてくれるという想いを込めて」

 もう少し女の子らしい方がいいかとも思ったが、咄嗟に浮かんだのがそれだった。
 どうですか?と聞けば賛成と皆頷いてくれる。
 家族がさらに増え、これから色々あるだろう。
 時には喧嘩をすることもあるかもしれないが、ケイがいれば大丈夫だろう。
 皆の心を繋ぎ、家族を、大切な人たちを結びつけてくれるケイがいれば。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

処理中です...