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心の内
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久しぶりの外の空気に、自分でも知らず知らずの内に少なからずストレスが溜まっていたのだと感じた。
「子どもができることをみんなが喜んでくれるのは嬉しいんです。嬉しいけど……」
みんなが心配してくれているのは分かる。感じる。
ただの人間である縁に、獣人ほど体力のない縁に、魔族より身体が頑丈ではない縁に、みんなが心配してくれている。
あの日、目を覚ましてからエルに会いに行ってみたら泣いて謝まられ驚いた。
気付けなくてごめんと、何もできなくてごめんと、守ると約束したのにと。
謝らなければいけないのは縁の方なのに。
「まぁ、ずっと動かないで部屋に籠ってろってのも辛いよな。今まで出来てたことをいきなりするなって言われても不思議で仕方ないよな」
いつもの花畑。
いつもジークと訪れるこの場所なら、素直に胸の内を話せるような気がした。
花だらけの中2人腰を下ろし、抱きつくように膝に乗せられれば、その広い胸元に頭を傾ける。
「エルが泣いてたんです。何も出来なくてごめんって、エルは何も悪くないのに。だってこれは私の問題です。私がちゃんと自覚してなかったからでーー」
「そうだな、もっと早く気付けてれば良かった。でもな…初めてのことばかりで誰も気付けるわけないとは思わねぇか?」
「………」
トクトクと耳元で聞こえる規則正しい心臓の音にホッとする。
「俺だって男の番は初めてなんだ。縁だってそうだろ?本来なら人間の女と結婚して、そのカミさんに子どもが出来て一緒に育てていく。それが普通なんだ。けど、今は男だが俺は縁の番で、縁も男だが俺の番だ。初めてのことばかりで混乱するのは分かるが、それならそれでちゃんと言ってくれ」
「……………怖いんです」
「そうか。俺も怖ぇよ」
まるで子どもを寝かしつけるようにポンポンとリズムよく背を叩くジークにぎゅっと抱きつく。
「みんなが、サッズさんが、アレンにセイン、エルがみんなが、心配だから何もするなと言われる度、自分が情けなくて仕方なくなるんです。確かに人間である私はあそこに住む誰より脆く、弱いでしょう………けど、けど!私だって男で、何も出来ない子どもじゃない!赤ん坊がいるからと言って何もするなと言われては私の存在価値まで無くなってしまう気がして怖いんです」
「そうか…そうだな、それは俺たちが悪かった。そうだよな、お前は初めて来た時から自分は何も出来ないって落ち込んでたものな」
やっと少しでもみんなの為に何か出来ると思えた矢先に、何もするなと言われてしまえば縁には不安で仕方なかった。
番に頼りきってばかりで、仕事まで休ませて自分の世話をさせるなんてどれだけ自分はみんなの足を引っ張っているのかと。
大丈夫だからと言われる度に、本当は邪魔だと思われていたらどうしようと考えることもあった。
「私は臆病者なんです。みんなに嫌われることが怖い。大切な人たちにいらないと、必要とされないのが怖くて仕方がないんです」
早くに両親を亡くしたせいか縁は人の愛情に飢えていた。
誰かに愛してもらいたくて、誰かに必要とされたくて、誰かに関わっていたくて警察官という仕事を選んだこともある。
ずっと独り身で、毎日交番の前を通る子どもやおじいちゃん、おばあちゃんが挨拶してくれるのが嬉しかった。
誰かが毎日のように話しかけてくれるのが嬉しかった。
「獣人は愛情深いと言ってましたよね。人間には重いだろうとセインは言ってましたが、私にとってはその重さが嬉しくて仕方なかった。アレンが、セインが、ジークが、3人が変わらず愛してくれると言ってくれて凄く嬉しかったんです」
アズやエル、スノーとはいつか別れがやってくる。
だが、番である3人は変わらず最後まで縁の側にいてくれるだろう。
「でも、だからこそ何か私に出来ることをみんなに返したい。みんなの役に立つことをしたい。そうじゃないと………そうじゃないと私はどうしたらいいか分からない」
溢れる涙を止めることが出来ず、その温かい胸に擦り付ける。
まるで子どものように泣く縁に、呆れられたらどうしようと不安になり顔を上げれば、熱を持つ瞼に温かい何かが触れた気がした。
「愛してる。エリーと比べることは出来んが、その他の誰より俺は縁を愛してる」
チュッチュッと音をならし、瞼、額、頰、口と口付けを落としていくジークにまた涙が溢れた。
「その綺麗な目が、俺の心をほぐしてくれたその優しさが、愛してると抱きしめてくれるその両手が、その縁の全てが俺は愛しくてたまらない」
だから不安になるなと顔中にキスされる。
「私も……私もジークを愛してます。ジークのことが大好きなんです」
3人が3人共縁を一番愛していると言ってくれる中、縁は誰か一人を一番と言うことは出来ない。
出来ないが、それでも3人をそれぞれ愛し、愛され、言葉を使い伝えることを縁は惜しみはしない。
彼らが大切だと、3人を愛していると。
何より大切で、絶対に失いたくない温もり。
「子どもができることをみんなが喜んでくれるのは嬉しいんです。嬉しいけど……」
みんなが心配してくれているのは分かる。感じる。
ただの人間である縁に、獣人ほど体力のない縁に、魔族より身体が頑丈ではない縁に、みんなが心配してくれている。
あの日、目を覚ましてからエルに会いに行ってみたら泣いて謝まられ驚いた。
気付けなくてごめんと、何もできなくてごめんと、守ると約束したのにと。
謝らなければいけないのは縁の方なのに。
「まぁ、ずっと動かないで部屋に籠ってろってのも辛いよな。今まで出来てたことをいきなりするなって言われても不思議で仕方ないよな」
いつもの花畑。
いつもジークと訪れるこの場所なら、素直に胸の内を話せるような気がした。
花だらけの中2人腰を下ろし、抱きつくように膝に乗せられれば、その広い胸元に頭を傾ける。
「エルが泣いてたんです。何も出来なくてごめんって、エルは何も悪くないのに。だってこれは私の問題です。私がちゃんと自覚してなかったからでーー」
「そうだな、もっと早く気付けてれば良かった。でもな…初めてのことばかりで誰も気付けるわけないとは思わねぇか?」
「………」
トクトクと耳元で聞こえる規則正しい心臓の音にホッとする。
「俺だって男の番は初めてなんだ。縁だってそうだろ?本来なら人間の女と結婚して、そのカミさんに子どもが出来て一緒に育てていく。それが普通なんだ。けど、今は男だが俺は縁の番で、縁も男だが俺の番だ。初めてのことばかりで混乱するのは分かるが、それならそれでちゃんと言ってくれ」
「……………怖いんです」
「そうか。俺も怖ぇよ」
まるで子どもを寝かしつけるようにポンポンとリズムよく背を叩くジークにぎゅっと抱きつく。
「みんなが、サッズさんが、アレンにセイン、エルがみんなが、心配だから何もするなと言われる度、自分が情けなくて仕方なくなるんです。確かに人間である私はあそこに住む誰より脆く、弱いでしょう………けど、けど!私だって男で、何も出来ない子どもじゃない!赤ん坊がいるからと言って何もするなと言われては私の存在価値まで無くなってしまう気がして怖いんです」
「そうか…そうだな、それは俺たちが悪かった。そうだよな、お前は初めて来た時から自分は何も出来ないって落ち込んでたものな」
やっと少しでもみんなの為に何か出来ると思えた矢先に、何もするなと言われてしまえば縁には不安で仕方なかった。
番に頼りきってばかりで、仕事まで休ませて自分の世話をさせるなんてどれだけ自分はみんなの足を引っ張っているのかと。
大丈夫だからと言われる度に、本当は邪魔だと思われていたらどうしようと考えることもあった。
「私は臆病者なんです。みんなに嫌われることが怖い。大切な人たちにいらないと、必要とされないのが怖くて仕方がないんです」
早くに両親を亡くしたせいか縁は人の愛情に飢えていた。
誰かに愛してもらいたくて、誰かに必要とされたくて、誰かに関わっていたくて警察官という仕事を選んだこともある。
ずっと独り身で、毎日交番の前を通る子どもやおじいちゃん、おばあちゃんが挨拶してくれるのが嬉しかった。
誰かが毎日のように話しかけてくれるのが嬉しかった。
「獣人は愛情深いと言ってましたよね。人間には重いだろうとセインは言ってましたが、私にとってはその重さが嬉しくて仕方なかった。アレンが、セインが、ジークが、3人が変わらず愛してくれると言ってくれて凄く嬉しかったんです」
アズやエル、スノーとはいつか別れがやってくる。
だが、番である3人は変わらず最後まで縁の側にいてくれるだろう。
「でも、だからこそ何か私に出来ることをみんなに返したい。みんなの役に立つことをしたい。そうじゃないと………そうじゃないと私はどうしたらいいか分からない」
溢れる涙を止めることが出来ず、その温かい胸に擦り付ける。
まるで子どものように泣く縁に、呆れられたらどうしようと不安になり顔を上げれば、熱を持つ瞼に温かい何かが触れた気がした。
「愛してる。エリーと比べることは出来んが、その他の誰より俺は縁を愛してる」
チュッチュッと音をならし、瞼、額、頰、口と口付けを落としていくジークにまた涙が溢れた。
「その綺麗な目が、俺の心をほぐしてくれたその優しさが、愛してると抱きしめてくれるその両手が、その縁の全てが俺は愛しくてたまらない」
だから不安になるなと顔中にキスされる。
「私も……私もジークを愛してます。ジークのことが大好きなんです」
3人が3人共縁を一番愛していると言ってくれる中、縁は誰か一人を一番と言うことは出来ない。
出来ないが、それでも3人をそれぞれ愛し、愛され、言葉を使い伝えることを縁は惜しみはしない。
彼らが大切だと、3人を愛していると。
何より大切で、絶対に失いたくない温もり。
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