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大変です
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その日も縁は自分でも何かできることはないかと隠れ家を彷徨い歩いていた。
特にこれ!といったものに出会うことも出来ず半分は散歩気分だったが。
今日は珍しくスノーも一緒で、漸く住人たちも怯えなくなったため隠れることなく縁の首に巻きついている。
「私にもできることないですかねぇ」
「キュァー?」
いい子いい子とスノーを撫でてやりながら歩いていれば、目の前から見知った姿が。
「エバンスさん、おはようございます」
「……おはよう」
元々寡黙なエバンスは表情もあまり動かないらしく、それでも話しかければきちんと答えてくれるため無表情でも縁はあまり気にしていなかった。
その上猿の獣人というだけあって一番親近感がある。
「今からお仕事ですか?」
頷くエバンスについて行っていいか聞けば、首を傾げながらも了承してくれた。
「今日は何をするんですか?」
手先が器用なエバンスは武器や防具などの補修作業が主らしく、他にも頼めば色々と作ってくれるらしい。
「修理」
どうやら今日は防具の修理らしい。
見ても楽しいものではないと皆に言われたが、細々と器用に何でも直していくエバンスに縁は感心していた。
「いつ見ても素晴らしいですね」
「………」
返事がなくてもとくに気にすることなく魅入っていれば、スノーも首から降りエバンスの手元を覗いていた。
「キュァ?」
「そうです。エバンスさんがこうして綺麗に直してくれるおかげでみなさん助かってるんです」
首?を傾げるスノーに教えてやれば、それを見たエバンスが少し驚いたようにこちらを見ていた。
「?、どうかされましたか?」
「……分かるのか?」
「いえ?私はエバンスさんみたいに器用ではないですし、そもそも性格が大雑把なので壊れきるまでまぁいいかで済ませてしまいます」
とてもじゃないが修理などには向いていないと言えば、そうじゃないと首を振られた。
「ちがう。言葉、分かるのか?ソイツの」
どうやら作業工程ではなく、スノーの言葉を理解しているのかと聞きたかったらしい。
「んー、なんとなく?」
「………そう」
もちろんスノーの言葉は理解できてはいないため、なんとなくこう言っているのでは?ぐらいである。
エバンスもそれ以上は諦めたのか再び作業に戻る。
「あ、そういえばエバンスさんて飾りものって作れますか?」
「?」
「えーと、魔石下さい。と、コレなんですがスノーに何か身につけられるものを作ってあげたくて」
鞄から形見の魔石を取り出せば、エバンスが驚いたようにこちらを見た後魔石を手に取り確認していた。
確認もなにも本物なのだが。
「コレどうした?」
「スノーのお母さんの形見なんです。なので持たせてあげたいんですが……」
「キュァー、キュァー」
縁の言葉が分かったのか、魔石を持つエバンスの手首に絡みつくとスリスリと魔石に頭を擦り付けていた。
スノーは自身の母親の姿は見たことはないが、それでもやはり分かるのかどこか嬉しそうである。
「この子もまだ身体が小さいので今すぐというわけではないですが、もう少し成長したらお願いしたいんです」
今はまだ持つどころか引きずってしまうだろうが、成長すれば相応しい大きさになるだろう。
その時は是非ともお願いしたいと頼めば、了承するように頷くエバンスに縁も微笑むのだった。
「エバンスさんは何か好きなものはありますか?」
「?」
首を傾げるエバンスに縁も首を傾げる。
「………なぜ?」
そんな不審がらずとも。
「スノーの飾りを作ってもらうお礼に何かできたらと思ったんですが」
「ない」
あらま。
何もないとは。
「仕事は……むしろ足手まといになりますし、うーん、好きな食べ物とかはないですか?甘いものとか、辛いもの、お肉とか野菜でもいいですが」
あまり得意とは言えないがそれでも縁が作れるならばと聞いてみる。
「………芋」
じっくり考えた末に出した答えだったが、芋と一言言われても幅が広い。
じゃがいも?さつまいも?里芋…はこちらにあるのか分からなかったが聞けばどれでもいいらしい。
「甘くても大丈夫ですか?それとも辛いものとかがいいですか?」
「なんでもいい」
それほど味の好みはないようだ。
好物を聞けただけでもよしとしとこう。
「お芋美味しいですよね。私も昔はよくご飯がわりに食べました」
焼き芋も、大学芋も、蒸かし芋も、ポテトサラダも好きだった。
「は?」
ん?何かおかしなことを言っただろうか?
「アンタ人間だろ?」
人間ですね。
縁の知らない内に変化していなければ。
そっと頭に触れてみる、がやはり獣耳はなかった。
「人間なのに何でそんなもの食ってんだ?」
「え、こちらの方ってお芋食べないんですか?」
質問に質問しては申し訳ないが、驚きすぎてそれどころではない。
あれほど美味しいのに何故食べないのだろう?
「……食べるには食べるが、俺たちみたいな獣人か後は金のない人間ぐらいだ」
なるほど。
つまりは金を持ってるだろう縁が食べるものではないと言いたいらしい。
かなりの誤解だが。
「前から思っていたんですが、もしかしてみなさん私のこと貴族かなんかだと思ってますか?違いますよ」
「……ちがうのか?」
やはり誤解があったようだ。
貴族でもなければ、こちらの世界の人間でもなかったのだ。
今あえて言うならば無職の庶民だ。
「違いますよ。あぁ、もしかして話し方ですかね?これはもう癖なので気にしないでもらえればいいんですが」
「………」
うーん、他にも?
「それともヒョロヒョロのこの身体ですか?こればかりは今後に期待するしかありませんが……そういえばエバンスさんもいい筋肉ですね。どうすればそんなふうになれますか?」
「……ムリだ」
残念です。
「そうですよね。そんな簡単に教えるわけにはいかないですよね」
「ーーは?」
「安心して下さい。これから親睦を深めてもっと仲良くなってから教えてもらうことにします。それまではこちらに通ってエバンスさんのことを知ることからーー」
「帰れっ」
そうして珍しく声を荒げたエバンスによって縁は部屋を追い出されるのであった。
そんな縁が「道のりは長いですね」と呟いていたのを聞いている者はいなかった。
特にこれ!といったものに出会うことも出来ず半分は散歩気分だったが。
今日は珍しくスノーも一緒で、漸く住人たちも怯えなくなったため隠れることなく縁の首に巻きついている。
「私にもできることないですかねぇ」
「キュァー?」
いい子いい子とスノーを撫でてやりながら歩いていれば、目の前から見知った姿が。
「エバンスさん、おはようございます」
「……おはよう」
元々寡黙なエバンスは表情もあまり動かないらしく、それでも話しかければきちんと答えてくれるため無表情でも縁はあまり気にしていなかった。
その上猿の獣人というだけあって一番親近感がある。
「今からお仕事ですか?」
頷くエバンスについて行っていいか聞けば、首を傾げながらも了承してくれた。
「今日は何をするんですか?」
手先が器用なエバンスは武器や防具などの補修作業が主らしく、他にも頼めば色々と作ってくれるらしい。
「修理」
どうやら今日は防具の修理らしい。
見ても楽しいものではないと皆に言われたが、細々と器用に何でも直していくエバンスに縁は感心していた。
「いつ見ても素晴らしいですね」
「………」
返事がなくてもとくに気にすることなく魅入っていれば、スノーも首から降りエバンスの手元を覗いていた。
「キュァ?」
「そうです。エバンスさんがこうして綺麗に直してくれるおかげでみなさん助かってるんです」
首?を傾げるスノーに教えてやれば、それを見たエバンスが少し驚いたようにこちらを見ていた。
「?、どうかされましたか?」
「……分かるのか?」
「いえ?私はエバンスさんみたいに器用ではないですし、そもそも性格が大雑把なので壊れきるまでまぁいいかで済ませてしまいます」
とてもじゃないが修理などには向いていないと言えば、そうじゃないと首を振られた。
「ちがう。言葉、分かるのか?ソイツの」
どうやら作業工程ではなく、スノーの言葉を理解しているのかと聞きたかったらしい。
「んー、なんとなく?」
「………そう」
もちろんスノーの言葉は理解できてはいないため、なんとなくこう言っているのでは?ぐらいである。
エバンスもそれ以上は諦めたのか再び作業に戻る。
「あ、そういえばエバンスさんて飾りものって作れますか?」
「?」
「えーと、魔石下さい。と、コレなんですがスノーに何か身につけられるものを作ってあげたくて」
鞄から形見の魔石を取り出せば、エバンスが驚いたようにこちらを見た後魔石を手に取り確認していた。
確認もなにも本物なのだが。
「コレどうした?」
「スノーのお母さんの形見なんです。なので持たせてあげたいんですが……」
「キュァー、キュァー」
縁の言葉が分かったのか、魔石を持つエバンスの手首に絡みつくとスリスリと魔石に頭を擦り付けていた。
スノーは自身の母親の姿は見たことはないが、それでもやはり分かるのかどこか嬉しそうである。
「この子もまだ身体が小さいので今すぐというわけではないですが、もう少し成長したらお願いしたいんです」
今はまだ持つどころか引きずってしまうだろうが、成長すれば相応しい大きさになるだろう。
その時は是非ともお願いしたいと頼めば、了承するように頷くエバンスに縁も微笑むのだった。
「エバンスさんは何か好きなものはありますか?」
「?」
首を傾げるエバンスに縁も首を傾げる。
「………なぜ?」
そんな不審がらずとも。
「スノーの飾りを作ってもらうお礼に何かできたらと思ったんですが」
「ない」
あらま。
何もないとは。
「仕事は……むしろ足手まといになりますし、うーん、好きな食べ物とかはないですか?甘いものとか、辛いもの、お肉とか野菜でもいいですが」
あまり得意とは言えないがそれでも縁が作れるならばと聞いてみる。
「………芋」
じっくり考えた末に出した答えだったが、芋と一言言われても幅が広い。
じゃがいも?さつまいも?里芋…はこちらにあるのか分からなかったが聞けばどれでもいいらしい。
「甘くても大丈夫ですか?それとも辛いものとかがいいですか?」
「なんでもいい」
それほど味の好みはないようだ。
好物を聞けただけでもよしとしとこう。
「お芋美味しいですよね。私も昔はよくご飯がわりに食べました」
焼き芋も、大学芋も、蒸かし芋も、ポテトサラダも好きだった。
「は?」
ん?何かおかしなことを言っただろうか?
「アンタ人間だろ?」
人間ですね。
縁の知らない内に変化していなければ。
そっと頭に触れてみる、がやはり獣耳はなかった。
「人間なのに何でそんなもの食ってんだ?」
「え、こちらの方ってお芋食べないんですか?」
質問に質問しては申し訳ないが、驚きすぎてそれどころではない。
あれほど美味しいのに何故食べないのだろう?
「……食べるには食べるが、俺たちみたいな獣人か後は金のない人間ぐらいだ」
なるほど。
つまりは金を持ってるだろう縁が食べるものではないと言いたいらしい。
かなりの誤解だが。
「前から思っていたんですが、もしかしてみなさん私のこと貴族かなんかだと思ってますか?違いますよ」
「……ちがうのか?」
やはり誤解があったようだ。
貴族でもなければ、こちらの世界の人間でもなかったのだ。
今あえて言うならば無職の庶民だ。
「違いますよ。あぁ、もしかして話し方ですかね?これはもう癖なので気にしないでもらえればいいんですが」
「………」
うーん、他にも?
「それともヒョロヒョロのこの身体ですか?こればかりは今後に期待するしかありませんが……そういえばエバンスさんもいい筋肉ですね。どうすればそんなふうになれますか?」
「……ムリだ」
残念です。
「そうですよね。そんな簡単に教えるわけにはいかないですよね」
「ーーは?」
「安心して下さい。これから親睦を深めてもっと仲良くなってから教えてもらうことにします。それまではこちらに通ってエバンスさんのことを知ることからーー」
「帰れっ」
そうして珍しく声を荒げたエバンスによって縁は部屋を追い出されるのであった。
そんな縁が「道のりは長いですね」と呟いていたのを聞いている者はいなかった。
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