二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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準備

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 念願のぼた餅を作ったはいいが、縁の本来の目的はセインの発情期に向けての保存食作りだった。

 「こちらでは保存食って何があるんですか?」

 「パンと干し肉じゃない?後は乾燥させた果物とか」

 そう答えたのは長い耳を持った兎の獣人女性で、その可愛いらしい容姿でみんなから妹として可愛いがられているらしい。
 以前ジークに言われた保存食を用意しとけという言葉に、ならばプロに聞こうと調理場へ昼食作りの合間にお邪魔させてもらったのだ。
 全員ではないが何人かは番持ちということで相談にのってもらったのだが、残念なことに回答は皆一緒だった。
 何もパンや干し肉が悪いというわけではない。
 縁とてこちらに来てからパンや干し肉には何度もお世話になっていた。
 昔だったら絶対に噛みきれなかっただろう分厚い干し肉も今なら多少頑張ってだが美味しく頂ける。
 だが、それが発情期の合間だとすれば話しは別だ。
 あんな絶対ヘトヘトになるだろう状態の時に、干し肉や固くなったパンなどを噛み切れる体力が縁に残っているとは考えにくい。

 「乾燥果物はまだいいんですけど他がなぁ」

 「アンタ顎も弱いもんな」

 はい、ちゃんと聴こえてましたよ。
 顎って言いましたね。
 どうやらここでの縁の扱いは子どもに近いらしい。
 少々傷ついたが、彼ら獣人基準でいえば縁など5歳以下だろうとつっこむのはやめた。
 何故5歳以下と言っているかというと、以前に子どもたちと腕相撲した際5歳児に負けたからである。
 悔しい。
 
 「男性はそれでいいにしても女性の方たちは大丈夫なんですか?」

 確かに男性はそれでいいかもしれないが、受け身である女性からしてもそれで大丈夫なのか聞いてみれば案の定といかやはり不満はあったらしい。

 「そう、そうなのよ!女にあれを食えっておかしな話しなのよ!」

 「そうよね~。男は出してスッキリするかもしれないけど女は大変なのよ。さすがエニシくんわかってるわ~」

 「いくら獣人だってねー、最中にそんな力でないっつーの」

 「「「「………」」」」」

 男性陣には耳に痛い話しだ。
 それは受け身であるが故の悩みなので男性たちに分かれというのも難しいだろう。
 獣人の彼女たちさえこうなら縁はもっと無理な気がしてきた。
 では発情期にはどうしているのかと聞いてみれば、やはりパンや干し肉を食べるらしいが水に浸してふやかして食べるらしい。
 それも一つの方法なのだろう。

 「うーん、やはりそれしかないですか」

 こういう時冷蔵庫があればと思うがないものは仕方ない。
 
 「せめて何か味をつけますか」

 「味?」

 「ジャムとか」

 「「「「「じゃむ?」」」」」

 ずっと思ってはいたのだが、パンはあっても味を変えるという発想はなかったらしい。
 用意してもらってる手前何も言わなかったが、毎日同じ味でみんな飽きないのかとは思っていた。

 「果物とかを砂糖で甘く煮詰めたものですね。木苺とかもいいと思いますよ」

 「なにそれ美味しそう!」
 「美味そう食べたい!」

 やはり女性は甘いものが好きらしい。
 シロップ漬けを作って水で割ってもいいだろう。
 疲れた時は甘いものというし、漬けた実も一緒に食べれば腹も満たせて万々歳だ。

 「この前作ったぼた餅の餡とかも塗っても美味しいと思いますし、甘いのが苦手ならチーズに胡椒とか卵を乗せて少し焼き目をつけても美味しいと思います」

 「「「「「食べたい!」」」」」

 みんなから賛同ももらい、では明日にでも作ってみようと午後はそのための材料である木苺を採りに行くことにする。

 「ということで、道案内お願いしますジーク」

 「それはかまわねぇが、一緒に行ってくれじゃなく道案内なのかよ」

 前にも行ったのだから道順を覚えてないのかと言いたいのだろう。
 だが!

 「筋肉に夢中で周りを見てませんでした」

 筋肉談話に1人花咲かせ周りなど見てなかったと素直に言う。
 それを差し引いても縁に道を覚えるのはかなり難しいのだが。

 「……だろうな。お前に道を覚える能力があったら俺があんなに苦労したわけねぇもんな」

 「ですね!」

 すでにそこら辺を諦めた縁は潔くジークに手助けを求めたのだった。
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