二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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向き不向き

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 あれから数日隠れ家で過ごした縁たちは、新たな壁にぶつかっていたのだった。
 正しくは縁が、だが。

 「エニシさん、こちらはいいので向こうをお願いします」

 「……はい」

 なんとか住人たちと打ち解けてきた縁たちだったが、ここで暮らすにあたり各々仕事を任せられるようになったのだ。
 アレンは力があるため部屋の増築や改装改造の手伝い、セインは目がいいので隠れ家近くの見廻りなどに決まったのだがーー

 「エニシの腕力じゃムリみたいだね」

 「……ですね」

 人間である縁の腕力ではアレンのように固く重い岩を持つことはできず、だからといってセインのように遠く先まで見渡せる視力もない。
 ならばと食堂に行ってみたが、様子見に来ていたジークの前で包丁で軽く指を切ってしまいすぐさま取り上げられた。
 ならば掃除ならと風呂掃除をかって出たが、滑って転んで尻を強打したのを見られたサッズにジークに報告されてしまいお役御免になってしまったのだった。
 





 「役立たずですいません」

 「誰だって向き不向きがあるからな。お前にできること探していきゃいいだろ」

 しょんぼりと俯き謝るエニシにジークは頭を撫でてやった。
 サッズによってジークの部屋に連れてこられたエニシはさっきからずっと謝り続けている。
 自分のせいでアレンたちが責められているかもしれないとも気にしているようだ。
 実際、エニシは何も出来ていないのだがそれを責める声は上がらなかった。
 人間だと最初は警戒していた住人たちも、一緒に暮らし接していく内に縁の人柄を理解したのか避けることをやめ普通に接している。
 出来なくてすいませんと本当に申し訳なく謝るエニシに、誰も責めることなど出来るわけもな く、その姿がまるで雨の中捨てられた子犬のようだったとは誰かが言っていた。
 
 「私はここにいていいんでしょうか?」

 落ち込みに落ち込んだエニシは、ソファに座ったそのままにゴロンと横になる。

 「いいに決まってんだろ。頭の俺が言ってんだから誰も何も言やしねぇよ」

 それがなくとも誰も言わないと思うが。

 「それはダメです。子どもじゃないんですから何か役に立つことをしないと。私だけみんなに甘えるのはよくないです。それに…そんな役立たずを連れてきたのかとジークが責められてしまうじゃないですか」 

 そんなのダメだと呟くエニシに驚いた。
 アレンたちへのこともそうだが、エニシは自分が周りにどう言われるかではなく、ジークが周りに責められてしまうからダメだと言っている。
 そこまで思われていたことに驚いた。
 すいませんと謝り続けるエニシに近寄ると膝に抱き抱える。
 横抱きにされ驚いているようだったが抵抗はされなかった。
 気分を良くしたジークはそのまま背中を撫でてやる。

 「言ったろ。向き不向きってもんがあんだ。今はただお前に向いた仕事が見つかってないだけ。色々していく内になんか見つかんよ」

 大丈夫だと言ってやれば、少しは落ち着いたのかコトンとエニシが肩に頭を傾けてきた。
 
 「だといいな。ありがとうございます……ふふっ、この前とは逆ですね」

 ジークが泣いたあの夜、こうしてエニシに撫でてもらったことを思い出す。
 まるで子どものように泣いたジークを笑うことも馬鹿にすることもなくずっと撫で続けてくれた。
 まるで縁の方が年上なんじゃないかというぐらい包み込むように受け入れてくれるエニシに甘えた。
 この優しさを手放したくないと縋り付くジークにエニシは何も言わず遅くまでそばにいてくれた。
 あれからなんだか肩が軽くなった気がする。
 無理しなくていいと、言ってもいいんだと、頑張ったなと褒めるように撫でてくれたエニシの手の感触を今でも覚えている。
 決して忘れない。

 「ならあいこだな」

 あの日見た姿とは違い、今こうしてジークに甘える姿はまるで子どものようで、どちらがエニシの本当の姿か戸惑うが甘えられる立場にいられることが嬉しい。

 「お前はな~、基本器用なんだがそれを上回る何かを起こすよな」

 料理にしても器用にこなしていたかと思うと指を切って食材を赤く染め、掃除も丁寧にしているかと思えば足を滑らせて尻餅をつき、立とうとかしたところをさらに転んで膝を強打していたと聞いた時には呆れて何も言えなかった。
 怪我をしながらそれでも何かしようとする姿に、こんないい子に危ないことさせられない!と皆が気を使い遠慮した結果何も出来ていないのであった。

 「みんな心配しすぎなんですよ。私は確かに普通の人間で獣人のみんなより鈍臭いですけど、男なんですから少しぐらい怪我しても平気です!」

 「……そうだな」

 エニシは少しというがジークは知っている。
 包丁で切った指の傷が一箇所ではないこと、滑って転んだ尻が痛くてソファに普通に座るのが若干辛いらしいこと、ぶつけた膝もズボンで隠れてはいるが血が出ていたらしいこと。
 たった数時間でできたにしては多すぎる怪我にみんなが心配している。
 獣人より遥かに体力も運動神経も下回りながらも、それでも頑張って出来ることを探そうとする姿に誰も役立たずとなんて思ってなんかない。
 怪我をしたのだから痛いと言えばいいのに我慢しているのか大丈夫としか言わないエニシに皆がさらに心配し過保護になっている。

 「とりあえず怪我が治るまで部屋で大人しくしてろ。それが嫌ならガキどもと遊んでやれ」

 役立たずだと落ち込むエニシがそう大人しくしているとは思えずそう言ってやれば、しばらく悩んだ後仕方ないと頷いていた。
 番2人もそうだが、ジークだってエニシが怪我をするのは極力避けたい。
 が、生きていく上でそれが不可能なのは分かっているし、エニシ自身も理解しているだろうから心配されてもやめることをしないのだ。
 綺麗なものだけ見て生きていくなど不可能。
 それが16歳で理解できているからこそ、何もしなくていいなど言わない。
 多少怪我をしてでも出来ることを見つけられたらいいと思う。
 トボトボと部屋に戻ろうとする縁に手の平ほどの大きさの瓶を投げて渡してやる。
 首を傾げるエニシに、尻の怪我の薬だから番たちに塗ってもらえと言えば真っ赤な顔をして慌てて出て行くのであった。

 「ありゃ、あいつらに頼むのはムリそうだな」

 恥ずかしがりやのエニシにはきっと無理だろう。
 はははっと笑うジークであった。
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