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男の子の憧れです
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そんなことを話しながら歩くこと数分。
大きな岩が積み重なった切り立った崖に到着。
行き止まりかと思ったが、いきなりジークに抱えあげられた。
「えっ!なっ、なんですか?」
アズを抱っこした縁を抱えるジークの腕は揺らぐことがなく流石熊の獣人だと思ったが、次の瞬間スッとした浮遊感と共に崖下に向かって落ちていく恐怖に言葉も出なかった。
「~~~っ!?」
ムリムリムリ!
恐怖に固まりながらも最悪アズだけでもと腕の中の存在を力の限り抱きしめる。
「もう大丈夫だぞ。……わりぃ、驚かせたか?」
腕の中で震える縁に、ジークも少々やり過ぎたようだと気まずげに見てくる。
「縁っ!」
「縁、大丈夫かっ!」
震えながらもなんとか降ろしてもらえば、慌ててかけよってきた2人に抱きしめられ安堵の溜息を溢す。
やはりこの2人の腕が一番安心する。
ジェットコースター並みの急降下は獣人の並外れた身体能力があってこそである。
普通の人間である縁に紐なしバンジーは恐怖でしかない。
「しょ、少々、膝が、笑ってますが、大丈夫です」
未だ力が入らない手足にアズをセインに任せ、縁はアレンに手を貸してもらう。
「スマン。俺たちにはいつものことだから忘れてた」
へっぴり腰の縁に手下の男たちも心配そうに見てくる。
申し訳ない。
驚いてはいるが、獣人のアレンたちも紐なしバンジーは問題なかったようで1人足を引っ張ってしまい少し落ち込む。
「まぁ、なんだ。随分驚かしまったようだし、中でゆっくり休んだらいい」
そう言って今降りてきたばかりの崖の一部の岩に手をかけると、ゴゴゴッという大きな音ともに岩だと思っていた扉が開いていく。
「もしかしてここ全部ジークたちの隠れ家なんですか?」
大きな切り立った崖だと思っていたものは、中をくり貫いて作ったジークたちの隠れ家だったらしい。
薦められるまま中に入れば、岩の壁はそのままに所々に灯された明かりは薄暗い岩中を明るく照らしてくれる。
「……すごい」
思いの外広い中は小さな村ぐらいはあるのではないだろうか。
ジークを出迎いに出てきた人々やはりというか頭に獣の耳をつけた人ばかりである。
「だろ。ここなら人間の目から身を守れる上に、あの崖と扉じゃまず入って来れない」
確かにあの急な崖を降りた上、何キロあるんだという岩でできた扉を開くのはかなり難しいだろう。
男の子の憧れ秘密の隠れ家に、すごいすごいとジークたちを褒め称えれば嬉しそうにニヤニヤとなんとも言えない顔をしていた。
一応個々に部屋もあるようで、他にも皆で入れるような大きな風呂や食堂、武器庫といった男の子なら一度は想像したような隠れ家だった。
見て回りたかったが、ここに来たばかりで敵対している人間が彷徨くのはよくないだろうと諦める。
「ほらこっちだ。腹減ってるだろ?お前はもっと肉を食え。食わねぇとデカくなれねぇぞ」
案内された食堂では、まるで子ども相手かのようにジークに世話される。
食ってデカくなれだの、お前は小さすぎるだの、もうムリだろうけと諦めるななど応援してるのか貶しているのかどちらなんだろう。
どうせならアズにしてやってほしいお節介もジークは何故か縁に構ってくる。
「私のことはいいですから。人の世話ばかりやいてないで自分の食事をして下さい」
縁にばかり食べさせて自分の食事に手をつけていないジークの口にご飯をつっこんでやる。
「……うまいな」
嬉しそう食べるジークに縁も美味しいですねと頷きながらアズにも食べさせるのだった。
隣でそんなジークを睨んでいるアレンたちにも気付かず。
「それで?聞きたいことがあるんだって?」
食事中ではあったがジークに頼みごとをしていたのだった。
「もしなんですが、この中に蛇の獣人の方がいるなら紹介してほしいんです」
これだけの獣人が集まっている場所に来れることはそうそうないだろう。
ならば今後のためにも少しでも情報を集めておきたい。
「それはかまわねぇが、なんで蛇なんだ?まさかまだ番を増やすつもりだとか言わねぇだろうな?」
言うわけないでしょう。
そしてアレンたちも何を焦ってるんですか。
少々呆れながらもアズを呼ぶとスノーを出してもらう。
「驚かせてすいません。訳あってこの子を育てることになったんです。ですが私もなにぶん子育ては初めてなので誰かに助言をもらえたらと」
ずっと鞄に入れていたせいか、出てきたスノーは甘えるように首に巻きついてくると頰に擦り寄ってくる。
「そいつは…大丈夫、なのか?」
アズと一緒にスノーの頭を撫でてやれば、その懐きようにジークも警戒を解いた。
待ってろと言い連れてきてくれたのは蛇の獣人。
しかも女性だった。
「はじめまして。驚かせてしまい申し訳ありません。突然ではありますが少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「私でよければ」
警戒しているようではあったが、気が強いのか怯える様子もなく頷いてくれる。
それから縁は思いつく限りスノーを育てる上で注意しなければならないことを聞いていく。
獣人と本物の獣では違いあるだろうが聞いておいて損はないだろう。
意外にも丁寧教えてくれた女性は、最後にはスノーの頭も撫でてくれた。
基本的には他の獣人とは違いがないようだが、体温調節が苦手らしく、小まめに気にしてやってほしいとのことだった。
「もういいのか?」
「ありがとうございます。彼女には聞きたいことが聞けました」
「には?まだ聞きたいことがあるのか?」
「もし許してもらえるようなら」
今聞いていたことは大切だがスノーのためのことだ。
今から聞こうと思っていることは縁自身のこと。
聞けなくても問題はないが聞くことができるなら聞いておきたい。
たとえ恥ずかしくても。
「俺でいいのか?それとも他の連れてくるか?」
「もしいるようであればジークの番の方を」
「……」
苦い顔をするジークにそれがいないことを悟ったのだった。
大きな岩が積み重なった切り立った崖に到着。
行き止まりかと思ったが、いきなりジークに抱えあげられた。
「えっ!なっ、なんですか?」
アズを抱っこした縁を抱えるジークの腕は揺らぐことがなく流石熊の獣人だと思ったが、次の瞬間スッとした浮遊感と共に崖下に向かって落ちていく恐怖に言葉も出なかった。
「~~~っ!?」
ムリムリムリ!
恐怖に固まりながらも最悪アズだけでもと腕の中の存在を力の限り抱きしめる。
「もう大丈夫だぞ。……わりぃ、驚かせたか?」
腕の中で震える縁に、ジークも少々やり過ぎたようだと気まずげに見てくる。
「縁っ!」
「縁、大丈夫かっ!」
震えながらもなんとか降ろしてもらえば、慌ててかけよってきた2人に抱きしめられ安堵の溜息を溢す。
やはりこの2人の腕が一番安心する。
ジェットコースター並みの急降下は獣人の並外れた身体能力があってこそである。
普通の人間である縁に紐なしバンジーは恐怖でしかない。
「しょ、少々、膝が、笑ってますが、大丈夫です」
未だ力が入らない手足にアズをセインに任せ、縁はアレンに手を貸してもらう。
「スマン。俺たちにはいつものことだから忘れてた」
へっぴり腰の縁に手下の男たちも心配そうに見てくる。
申し訳ない。
驚いてはいるが、獣人のアレンたちも紐なしバンジーは問題なかったようで1人足を引っ張ってしまい少し落ち込む。
「まぁ、なんだ。随分驚かしまったようだし、中でゆっくり休んだらいい」
そう言って今降りてきたばかりの崖の一部の岩に手をかけると、ゴゴゴッという大きな音ともに岩だと思っていた扉が開いていく。
「もしかしてここ全部ジークたちの隠れ家なんですか?」
大きな切り立った崖だと思っていたものは、中をくり貫いて作ったジークたちの隠れ家だったらしい。
薦められるまま中に入れば、岩の壁はそのままに所々に灯された明かりは薄暗い岩中を明るく照らしてくれる。
「……すごい」
思いの外広い中は小さな村ぐらいはあるのではないだろうか。
ジークを出迎いに出てきた人々やはりというか頭に獣の耳をつけた人ばかりである。
「だろ。ここなら人間の目から身を守れる上に、あの崖と扉じゃまず入って来れない」
確かにあの急な崖を降りた上、何キロあるんだという岩でできた扉を開くのはかなり難しいだろう。
男の子の憧れ秘密の隠れ家に、すごいすごいとジークたちを褒め称えれば嬉しそうにニヤニヤとなんとも言えない顔をしていた。
一応個々に部屋もあるようで、他にも皆で入れるような大きな風呂や食堂、武器庫といった男の子なら一度は想像したような隠れ家だった。
見て回りたかったが、ここに来たばかりで敵対している人間が彷徨くのはよくないだろうと諦める。
「ほらこっちだ。腹減ってるだろ?お前はもっと肉を食え。食わねぇとデカくなれねぇぞ」
案内された食堂では、まるで子ども相手かのようにジークに世話される。
食ってデカくなれだの、お前は小さすぎるだの、もうムリだろうけと諦めるななど応援してるのか貶しているのかどちらなんだろう。
どうせならアズにしてやってほしいお節介もジークは何故か縁に構ってくる。
「私のことはいいですから。人の世話ばかりやいてないで自分の食事をして下さい」
縁にばかり食べさせて自分の食事に手をつけていないジークの口にご飯をつっこんでやる。
「……うまいな」
嬉しそう食べるジークに縁も美味しいですねと頷きながらアズにも食べさせるのだった。
隣でそんなジークを睨んでいるアレンたちにも気付かず。
「それで?聞きたいことがあるんだって?」
食事中ではあったがジークに頼みごとをしていたのだった。
「もしなんですが、この中に蛇の獣人の方がいるなら紹介してほしいんです」
これだけの獣人が集まっている場所に来れることはそうそうないだろう。
ならば今後のためにも少しでも情報を集めておきたい。
「それはかまわねぇが、なんで蛇なんだ?まさかまだ番を増やすつもりだとか言わねぇだろうな?」
言うわけないでしょう。
そしてアレンたちも何を焦ってるんですか。
少々呆れながらもアズを呼ぶとスノーを出してもらう。
「驚かせてすいません。訳あってこの子を育てることになったんです。ですが私もなにぶん子育ては初めてなので誰かに助言をもらえたらと」
ずっと鞄に入れていたせいか、出てきたスノーは甘えるように首に巻きついてくると頰に擦り寄ってくる。
「そいつは…大丈夫、なのか?」
アズと一緒にスノーの頭を撫でてやれば、その懐きようにジークも警戒を解いた。
待ってろと言い連れてきてくれたのは蛇の獣人。
しかも女性だった。
「はじめまして。驚かせてしまい申し訳ありません。突然ではありますが少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「私でよければ」
警戒しているようではあったが、気が強いのか怯える様子もなく頷いてくれる。
それから縁は思いつく限りスノーを育てる上で注意しなければならないことを聞いていく。
獣人と本物の獣では違いあるだろうが聞いておいて損はないだろう。
意外にも丁寧教えてくれた女性は、最後にはスノーの頭も撫でてくれた。
基本的には他の獣人とは違いがないようだが、体温調節が苦手らしく、小まめに気にしてやってほしいとのことだった。
「もういいのか?」
「ありがとうございます。彼女には聞きたいことが聞けました」
「には?まだ聞きたいことがあるのか?」
「もし許してもらえるようなら」
今聞いていたことは大切だがスノーのためのことだ。
今から聞こうと思っていることは縁自身のこと。
聞けなくても問題はないが聞くことができるなら聞いておきたい。
たとえ恥ずかしくても。
「俺でいいのか?それとも他の連れてくるか?」
「もしいるようであればジークの番の方を」
「……」
苦い顔をするジークにそれがいないことを悟ったのだった。
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