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第82話 停戦の使者
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嚢沙之計から1週間。
北の砦周辺の水は引き、閉じ込められていた兵団は動けるようになったが、兵士は流され半分に減少し、士気もかなり低い。
「大王様、砦周辺の水は引き、進軍可能となりましたが」
「長時間水に浸かっていたことの疲労感と、それに伴う食料不足で、兵の指揮が著しく低下しております」
砦司令官の報告に亜父はご苦労とあいさつし、大王と話し始める。
「大王様、申し訳ございませぬ、私の読みが甘うございました」
大王に深々と頭を下げる亜父を、大王は庇うように話す。
「良いのだ亜父」
「俺こそ短慮を起こし、見事敵の策略に引っかかってしまった」
激高すると思っていた大王が、このような言葉を発した事に、亜父は驚いた。
此度のことで大王様の心は弱くなってしまったのかもと心配した亜父だったが、次の報告でそれは杞憂だったと気づく。
「報告します!先日よりラビット共の攻撃により中央・南の砦は陥落!」
「現在咸陽で戦闘が発生しておる模様です!」
最初の報告者に入れ替わり、項伯配下のコボルトが報告を行う。
「報告します!2日前の攻撃で咸陽落城!」
「現在射陽侯と熊武将1名が捕らえられ、2名の熊武将が逃亡!」
「各所にいた兵団20000、及び500の空挺部隊は壊滅した模様です!」
この報告に、亜父は言葉を失くした。
「20000の兵団が全滅だと?」
「そればかりか500の空挺部隊まで…」
「一体どんな手を使えばそのようなことが可能なのだ?」
呆然とする亜父を横に、レドキャップは激怒する。
「なんだと!あいつら攻め込んできたと申すのか!」
「おのれあのウサギ共め!亜父の言う通り殺しておくべきだったわ!」
憤慨するレッドキャップに、亜父は進言する。
「大王、もはや戦争どころではありません」
「ここは一旦停戦し、再起を図りましょう」
ぐぬう、とうなるレッドキャップだったが、亜父の言葉に冷静さを取り戻す。
「わかった、私の従弟熊を使者として送るとしよう」
その言葉に亜父は慌てて止めに入る。
「あのものはなりませぬ!」
「彼は戦闘では役に立ちますが、短慮でこのようなことには向きません!」
必死で止める亜父にもレッドキャップは耳を貸さない。
「大丈夫だ亜父」
「亜奴は肝も据わっておるし、この際経験を積ませてやらんとな」
レッドキャップはそう話すと、従弟熊を呼びつけた。
「今からウサギ共のところに向かい、停戦の話をして来い!」
「書簡は亜父に書いてもらうから、ちゃんとまとめてくるのだぞ」
この言葉に従弟熊はいたく感激する。
「はい大王!」
「きっと大王が素晴らしいと思っていただけるような停戦案を引き出してまいります!」
「その意気じゃ!頼んだぞ!」
レッドキャップが笑って従弟熊を送り出す姿を見て亜父は呟く。
「またこの男の悪い癖が出た」
「突然訳の分からないことをほざき始める」
「この者にこれほど大きな役が務まるわけがなかろう」
「もう…戦闘は避けられないな」
亜父は考えを切り替えて、如何にして兵士を戦える状態に持っていけるかを模索し始めた。
北の砦周辺の水は引き、閉じ込められていた兵団は動けるようになったが、兵士は流され半分に減少し、士気もかなり低い。
「大王様、砦周辺の水は引き、進軍可能となりましたが」
「長時間水に浸かっていたことの疲労感と、それに伴う食料不足で、兵の指揮が著しく低下しております」
砦司令官の報告に亜父はご苦労とあいさつし、大王と話し始める。
「大王様、申し訳ございませぬ、私の読みが甘うございました」
大王に深々と頭を下げる亜父を、大王は庇うように話す。
「良いのだ亜父」
「俺こそ短慮を起こし、見事敵の策略に引っかかってしまった」
激高すると思っていた大王が、このような言葉を発した事に、亜父は驚いた。
此度のことで大王様の心は弱くなってしまったのかもと心配した亜父だったが、次の報告でそれは杞憂だったと気づく。
「報告します!先日よりラビット共の攻撃により中央・南の砦は陥落!」
「現在咸陽で戦闘が発生しておる模様です!」
最初の報告者に入れ替わり、項伯配下のコボルトが報告を行う。
「報告します!2日前の攻撃で咸陽落城!」
「現在射陽侯と熊武将1名が捕らえられ、2名の熊武将が逃亡!」
「各所にいた兵団20000、及び500の空挺部隊は壊滅した模様です!」
この報告に、亜父は言葉を失くした。
「20000の兵団が全滅だと?」
「そればかりか500の空挺部隊まで…」
「一体どんな手を使えばそのようなことが可能なのだ?」
呆然とする亜父を横に、レドキャップは激怒する。
「なんだと!あいつら攻め込んできたと申すのか!」
「おのれあのウサギ共め!亜父の言う通り殺しておくべきだったわ!」
憤慨するレッドキャップに、亜父は進言する。
「大王、もはや戦争どころではありません」
「ここは一旦停戦し、再起を図りましょう」
ぐぬう、とうなるレッドキャップだったが、亜父の言葉に冷静さを取り戻す。
「わかった、私の従弟熊を使者として送るとしよう」
その言葉に亜父は慌てて止めに入る。
「あのものはなりませぬ!」
「彼は戦闘では役に立ちますが、短慮でこのようなことには向きません!」
必死で止める亜父にもレッドキャップは耳を貸さない。
「大丈夫だ亜父」
「亜奴は肝も据わっておるし、この際経験を積ませてやらんとな」
レッドキャップはそう話すと、従弟熊を呼びつけた。
「今からウサギ共のところに向かい、停戦の話をして来い!」
「書簡は亜父に書いてもらうから、ちゃんとまとめてくるのだぞ」
この言葉に従弟熊はいたく感激する。
「はい大王!」
「きっと大王が素晴らしいと思っていただけるような停戦案を引き出してまいります!」
「その意気じゃ!頼んだぞ!」
レッドキャップが笑って従弟熊を送り出す姿を見て亜父は呟く。
「またこの男の悪い癖が出た」
「突然訳の分からないことをほざき始める」
「この者にこれほど大きな役が務まるわけがなかろう」
「もう…戦闘は避けられないな」
亜父は考えを切り替えて、如何にして兵士を戦える状態に持っていけるかを模索し始めた。
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