上 下
83 / 241

第82話 停戦の使者

しおりを挟む
嚢沙之計から1週間。

北の砦周辺の水は引き、閉じ込められていた兵団は動けるようになったが、兵士は流され半分に減少し、士気もかなり低い。

「大王様、砦周辺の水は引き、進軍可能となりましたが」
「長時間水に浸かっていたことの疲労感と、それに伴う食料不足で、兵の指揮が著しく低下しております」

砦司令官の報告に亜父はご苦労とあいさつし、大王と話し始める。

「大王様、申し訳ございませぬ、私の読みが甘うございました」

大王に深々と頭を下げる亜父を、大王は庇うように話す。

「良いのだ亜父」
「俺こそ短慮を起こし、見事敵の策略に引っかかってしまった」

激高すると思っていた大王が、このような言葉を発した事に、亜父は驚いた。

此度のことで大王様の心は弱くなってしまったのかもと心配した亜父だったが、次の報告でそれは杞憂だったと気づく。

「報告します!先日よりラビット共の攻撃により中央・南の砦は陥落!」
「現在咸陽で戦闘が発生しておる模様です!」

最初の報告者に入れ替わり、項伯配下のコボルトが報告を行う。

「報告します!2日前の攻撃で咸陽落城!」
「現在射陽侯と熊武将1名が捕らえられ、2名の熊武将が逃亡!」
「各所にいた兵団20000、及び500の空挺部隊は壊滅した模様です!」

この報告に、亜父は言葉を失くした。

「20000の兵団が全滅だと?」
「そればかりか500の空挺部隊まで…」
「一体どんな手を使えばそのようなことが可能なのだ?」

呆然とする亜父を横に、レドキャップは激怒する。

「なんだと!あいつら攻め込んできたと申すのか!」
「おのれあのウサギ共め!亜父の言う通り殺しておくべきだったわ!」

憤慨するレッドキャップに、亜父は進言する。

「大王、もはや戦争どころではありません」
「ここは一旦停戦し、再起を図りましょう」

ぐぬう、とうなるレッドキャップだったが、亜父の言葉に冷静さを取り戻す。

「わかった、私の従弟熊を使者として送るとしよう」

その言葉に亜父は慌てて止めに入る。

「あのものはなりませぬ!」
「彼は戦闘では役に立ちますが、短慮でこのようなことには向きません!」

必死で止める亜父にもレッドキャップは耳を貸さない。

「大丈夫だ亜父」
「亜奴は肝も据わっておるし、この際経験を積ませてやらんとな」

レッドキャップはそう話すと、従弟熊を呼びつけた。

「今からウサギ共のところに向かい、停戦の話をして来い!」
「書簡は亜父に書いてもらうから、ちゃんとまとめてくるのだぞ」

この言葉に従弟熊はいたく感激する。

「はい大王!」
「きっと大王が素晴らしいと思っていただけるような停戦案を引き出してまいります!」

「その意気じゃ!頼んだぞ!」

レッドキャップが笑って従弟熊を送り出す姿を見て亜父は呟く。

「またこの男の悪い癖が出た」
「突然訳の分からないことをほざき始める」
「この者にこれほど大きな役が務まるわけがなかろう」
「もう…戦闘は避けられないな」

亜父は考えを切り替えて、如何にして兵士を戦える状態に持っていけるかを模索し始めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

処理中です...