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手遅れ
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伸一と悦子が深い関係になってから3か月が過ぎた。
そして、影山と晴美も同じように何度も体を重ねて3か月が過ぎた。
悦子と晴美は変わらずカード募集の仕事を続けていた。
2人が入ってから申込件数は伸び続け、所長からも褒め言葉があったほどだ。
伸一の配慮で異例ではあるが時給が200円アップし1200円になった。
これは2人も喜んだ。
3人でお疲れ会をした時のことである。
晴美のテンションが高かった。
まだ、悦子は伸一との関係を話していなかった。
「ねぇ、2人付き合っちゃえば?」
「えぇっ」
伸一はタバコ吹かしてた。
「いいじゃん、お似合いだと思うよ」
「だって、山咲さん独身でしょ? 悦子も募集中だしぃ、いいじゃん!」
「下田さん、尾美さんとじゃ釣り合わないでしょ?」
「そんな見た目なんて関係ないですよぉ」
酒の勢いもあるのか、妙なハイテンションだった。
晴美がトイレに行ったとき悦子が呟いた。
「なんか…おかしいですよね?」
「俺は初めて見たけど…あんな時もあるんだね」
「いや、なんか変です」
「変?」
「普通の明るさじゃない…なんて言うか…」
「無理してるとか?」
「あっ、それかも知れません。なんかそっちの方が納得しちゃいます」
帰り道。
今日は伸一が業務報告の纏めがあると言って営業所に戻った。
悦子は晴美の妙な素振りを探ろうとした。
「ねぇ、晴美何かあったの?」
「別にぃ…何もないわよ。どうして?」
「だって、この間まで沈んでいたじゃない。それが今日のテンション変だったよ」
「うふふっ…彼が出来たのぉ~」
「えっ?ホント?」
悦子は意外だった。いつもなら悦子に相談があるからだ。
「聞いてないよ、いつから?」
「もう、3か月ぐらいになるの…」
「あっ、そう…どんな人?」
「うん、優しい人よ。アタシと同じような家庭なんだって!」
「ふーん…優しいならいいけど」
晴美はニヤニヤしながら悦子に自慢気な顔をした。
「悦子も遊んでないで、そろそろちゃんと1人の人を愛した方がいいよ」
言い出せなかった。
もう、1人に絞っているのだが。
伸一と関係を持ってから、悦子はそれまでの男連中と付き合わなくなった。
夜の遊びもしていない。
「ねぇ、晴美…ホントに幸せなの?」
「うん、幸せよ。一番幸せかも」
晴美は王子駅で降りた。
悦子は晴美の言葉を素直に喜べなかった。
何かが引っ掛かった。
悦子は部屋に戻ってから伸一に電話した。
ここのところ毎日電話している。
悦子にとって伸一の声を聴くのが日課で、聞けないとストレスが溜まりそうだった。
ちょっとだけエッチな気分にもなる。
「そう、彼氏出来たんだ、じゃあ、いいことだよね」
「そうなんですけど、なんか納得できないんです」
「どういうこと?」
「いつも彼氏作る時は私に相談していたんです。でも、今回は何も言わずに3か月前から付き合ってるって。それはいいんですけど、なんか恋愛関係に思えなくて…」
「そうか…どんな相手なの?」
「優しい人以外言わないんです」
「ふーん、まぁ優しいならいいけどね」
「あっ、ごめんなさい。こんな相談しちゃって」
「いやいや、いいよ。悦子さんの相談は乗ってあげたいしね」
「そうだ、言おうと思ってた事があるんです」
「なんでしょうか?」
「今度から、悦子って呼んで下さい」
「あぁ…」
「一番最初にお願いしてからずっと<さん>づけなんですから!」
「了解です」
「今週なんですけど、また会えますか?」
「そうそう、今週さ2連休なんだよね。泊まる?」
「はい!泊まりたいです」
「寮はまずいから、どっこドライブ先で泊まろうか?」
「はい、楽しみにしてます」
「ちゃんと勝負パンツよろしく」
「えっ!」
「冗談ですよ!」
「…もう!」
「ゴメン、ゴメン」
「…でも、頑張ります」
「おっ!いいね」
「ふふふ…」
「それからさ、来週ちょっと出張入りそうなんだ」
「そうなんですか?」
「研修でね。一泊しなきゃならない」
「……なんか、寂しいです」
「オレもだよ、じゃあ、悦子のパンツでもかな持っていこうかな?」
「えっ……いいですよ」
「ふぁっ?」
「どうしてもと言われるなら…」
「イヤイヤ冗談ですよ」
「だって…」
「なに?」
「それなら浮気しないでしょ?」
「バカ言うな!そんな気ないよ」
「ホントに?」
「でも、いいんですよ、嫌じゃなくて喜んで差し上げます」
「……ちょっと考える。ハハッ…」
「ふふっ…いつでも言って下さいね」
悦子は伸一と話す時は敬語になる。
遊び人でタメ口が当たり前の関係で、しかも年下なのに、その方がしっくりくる事に不思議な感覚を感じてた。
風呂から上がると母親がテレビを見ていた。
「おかーさん、なんかある?」
「ビールならあるわよ」
横に座って髪を拭く。
「なんかさ、エッちゃん変わった?」
「そう?」
「うん、最近スゴく優しい顔してるわよ」
「あ…そーかな?」
トボけたが、明らかに伸一と付き合い出してからなのは分かっている。
「アネキ恋してんだよ」
弟の信行も突っ込んだ。
「うるさい!」
信行は空手5段の腕前で、悦子にとってもいい用心棒になる。
しかし、昔から悦子には頭が上がらない。
悦子は伸一と撮った写真にキスした。
(好きです、大好きですよ。伸一さん)
とても穏やかで、寝ても覚めても伸一が頭にいた。
告白されてないけど、自分から突撃したようなものだから、無くても気にならなかった。
(パンツ欲しいのかな?…)
悦子はタンスを開けて、好きそうなモノを選んだ。
「ふぁーっくしょん!」
部屋でラーメン食べながら、伸一のくしゃみが響いた。
晴美は影山の部屋にいた。
今日も抱かれ精子を飲んだ。
今の晴美は注がれる精子が、自分が保てる薬のように感じていた。
だが、この頃から影山は本性を現し始めた。
食事をした後、会計になって影山は「ワリィ、払っておいて」と放った。
「えっ!う、うん」
それが続いた。
気がつけば、いつも晴美の支払いが当たり前になった。
セックスも変わりだした。
「オラァ!しゃぶれよ」
無理矢理、肉棒を口に捻じ込まれ頭をガンガン振られ、イマラチオもされるようになった。
口に出された精子は顔中にかけられた。
そして終わった後に必ず、晴美を抱きしめて謝った。
影山は俳優になれば成功するぐらい〈泣き〉が上手かった。
どこでも涙を出せる。
「ごめん、ホントにごめん!昔の嫌な思い出が蘇るんだ!すまない!ホントにすまない」
こうして甘える。
晴美はいつのまにか(この人も辛いんだ、私が居ないと死んじゃうかも)と思うようになった。
「…いいのよ、辛いのね」
「ごめん、晴美は悪くないんだ!全部オレのせいなんだ!」
「違うわ、アナタは悪くない…気にしないで」
一度、この思考に入ると抜け出せなくなる。
見捨てたら自分が悪いと思うようになる。
ヒモの手段だ。
影山は、セックスで必ず中には出さない主義だった。
子供なんて出来たら面倒になるだけだ。
だから、顔や口に出していた。
晴美が家を空けて4日が経っていた。
また土曜日。
カード募集で悦子と会った。
「晴美、電話したけど居なかったよね?」
「うん、彼のとこに泊まってたの」
「そう、おばさん心配してたわよ」
「あの人は心配なんてしないわ、私が居なくてせいせいしてるもの」
「そんなことないよ、この間話だけど…」
晴美がキッと悦子を睨んだ。
「違わない!違わないわよ!」
「……」
初めてだった。
こんな目をする子じゃなかった。
いつも優しく寂しい目をしていた。
2人で飲み明かした時は、お互いに泣いて抱き合った事もある。
それ以上言えなくなった。
仕事終わりに、伸一に相談しようか悩んだ。
晴美は定時になり「先に帰るね」と悦子を置いてサッサと出て行った。
片付けてる伸一のもとに行き「今日、時間ないですか?」と聞くと、その顔で察した伸一は「じゃ市川塩浜駅で。迎えに行くから」と言ってくれた。
行徳は海沿いは埋立地だ。
駅からすぐ側に堤防がある。
自販機で飲み物を買って堤防に腰かけた。
何人かの夜釣り人がいる。
「下田さんが?」
「はい、ものすごい目で睨まれて…」
「何か言ったの?」
「そんなおかしな事は…ただ、親の話はマズかったかも知れません」
「仕事上は何時ものような気がしてるけど」
「そうなんです。最近、家にも帰ってないみたいで…晴美も部屋に電話あるんですけど全然出ないから、家の電話にかけたら帰ってないって…」
「うーん、困ったなぁ…」
「ごめんなさい…変な相談して…お仕事に支障は出ないようにしますから」
「それはいいよ、気にしないで!なんとかなるからさ」
伸一の暖かい言葉が沁みた。
「ちょっと調べられないかな?」
「えっ?」
「気になるなら探ってみたら?」
「でも、どうやって?」
「参考になるか…ちょっと気になる事があるんだ。この間の晩飯食べた時なんだけどね」
「何ですか?」
「確かに、あのはしゃぎ方を見て引っ掛かっててね。気のせいかとも思ったんだけど」
「それで?」
「思い出したらさ、確かに似たようなのを見たことがあったんだ。大学の時にどーしよーもない女タラシがいてね、何人ものオンナを囲ってて飯代とかも出させてさ」
「ええっ?」
「俺らから見てても、女連中がそれでもくっ付いてるのが理解出来なくてね。何人かと話したことがあるんだ、そしたら、そいつの話するだけで喜ぶ顔するんだよ。その顔とよく似ていた」
「…」
「その時は理解できなかったけど、もしかしたらその彼氏絡みじゃないかな?」
「なるほど」
「思い出して考えすぎか、と思ったけどね」
「彼氏ですか…確かにあるかも」
「可能性あるよ」
「分かりました、調べてみます」
「何か分かったら連絡してくれる?」
「はい、ありがとうございます!」
「よし、送るわ!」
「あっ、電車で帰れます」
「バカ言うな!こんな時間に悦子1人で帰らせられないだろう」
「あっ…はい」
「…それに、まだ一緒に居たいしね」
悦子はその言葉を待っていた。
待っていた言葉を言ってくれる、だから伸一の事が心底好きなんだと実感する。
家に着いて悦子は小さな紙袋を渡した。
「はい、これ」
「なにこれ?」
「帰ったら開けて下さいね、今は恥ずかしいから…おやすみなさい」
「おやすみ」
キスして別れた。
部屋に戻ってシャワーも終えた伸一は、テーブルの紙袋を開けた。
「げっ!パンツ…だ」
メモが添えてある。
〈これで良ければ使って下さいね。大好きです。悦子〉
「気が利きすぎ…悦子ちゃん…」
そして、影山と晴美も同じように何度も体を重ねて3か月が過ぎた。
悦子と晴美は変わらずカード募集の仕事を続けていた。
2人が入ってから申込件数は伸び続け、所長からも褒め言葉があったほどだ。
伸一の配慮で異例ではあるが時給が200円アップし1200円になった。
これは2人も喜んだ。
3人でお疲れ会をした時のことである。
晴美のテンションが高かった。
まだ、悦子は伸一との関係を話していなかった。
「ねぇ、2人付き合っちゃえば?」
「えぇっ」
伸一はタバコ吹かしてた。
「いいじゃん、お似合いだと思うよ」
「だって、山咲さん独身でしょ? 悦子も募集中だしぃ、いいじゃん!」
「下田さん、尾美さんとじゃ釣り合わないでしょ?」
「そんな見た目なんて関係ないですよぉ」
酒の勢いもあるのか、妙なハイテンションだった。
晴美がトイレに行ったとき悦子が呟いた。
「なんか…おかしいですよね?」
「俺は初めて見たけど…あんな時もあるんだね」
「いや、なんか変です」
「変?」
「普通の明るさじゃない…なんて言うか…」
「無理してるとか?」
「あっ、それかも知れません。なんかそっちの方が納得しちゃいます」
帰り道。
今日は伸一が業務報告の纏めがあると言って営業所に戻った。
悦子は晴美の妙な素振りを探ろうとした。
「ねぇ、晴美何かあったの?」
「別にぃ…何もないわよ。どうして?」
「だって、この間まで沈んでいたじゃない。それが今日のテンション変だったよ」
「うふふっ…彼が出来たのぉ~」
「えっ?ホント?」
悦子は意外だった。いつもなら悦子に相談があるからだ。
「聞いてないよ、いつから?」
「もう、3か月ぐらいになるの…」
「あっ、そう…どんな人?」
「うん、優しい人よ。アタシと同じような家庭なんだって!」
「ふーん…優しいならいいけど」
晴美はニヤニヤしながら悦子に自慢気な顔をした。
「悦子も遊んでないで、そろそろちゃんと1人の人を愛した方がいいよ」
言い出せなかった。
もう、1人に絞っているのだが。
伸一と関係を持ってから、悦子はそれまでの男連中と付き合わなくなった。
夜の遊びもしていない。
「ねぇ、晴美…ホントに幸せなの?」
「うん、幸せよ。一番幸せかも」
晴美は王子駅で降りた。
悦子は晴美の言葉を素直に喜べなかった。
何かが引っ掛かった。
悦子は部屋に戻ってから伸一に電話した。
ここのところ毎日電話している。
悦子にとって伸一の声を聴くのが日課で、聞けないとストレスが溜まりそうだった。
ちょっとだけエッチな気分にもなる。
「そう、彼氏出来たんだ、じゃあ、いいことだよね」
「そうなんですけど、なんか納得できないんです」
「どういうこと?」
「いつも彼氏作る時は私に相談していたんです。でも、今回は何も言わずに3か月前から付き合ってるって。それはいいんですけど、なんか恋愛関係に思えなくて…」
「そうか…どんな相手なの?」
「優しい人以外言わないんです」
「ふーん、まぁ優しいならいいけどね」
「あっ、ごめんなさい。こんな相談しちゃって」
「いやいや、いいよ。悦子さんの相談は乗ってあげたいしね」
「そうだ、言おうと思ってた事があるんです」
「なんでしょうか?」
「今度から、悦子って呼んで下さい」
「あぁ…」
「一番最初にお願いしてからずっと<さん>づけなんですから!」
「了解です」
「今週なんですけど、また会えますか?」
「そうそう、今週さ2連休なんだよね。泊まる?」
「はい!泊まりたいです」
「寮はまずいから、どっこドライブ先で泊まろうか?」
「はい、楽しみにしてます」
「ちゃんと勝負パンツよろしく」
「えっ!」
「冗談ですよ!」
「…もう!」
「ゴメン、ゴメン」
「…でも、頑張ります」
「おっ!いいね」
「ふふふ…」
「それからさ、来週ちょっと出張入りそうなんだ」
「そうなんですか?」
「研修でね。一泊しなきゃならない」
「……なんか、寂しいです」
「オレもだよ、じゃあ、悦子のパンツでもかな持っていこうかな?」
「えっ……いいですよ」
「ふぁっ?」
「どうしてもと言われるなら…」
「イヤイヤ冗談ですよ」
「だって…」
「なに?」
「それなら浮気しないでしょ?」
「バカ言うな!そんな気ないよ」
「ホントに?」
「でも、いいんですよ、嫌じゃなくて喜んで差し上げます」
「……ちょっと考える。ハハッ…」
「ふふっ…いつでも言って下さいね」
悦子は伸一と話す時は敬語になる。
遊び人でタメ口が当たり前の関係で、しかも年下なのに、その方がしっくりくる事に不思議な感覚を感じてた。
風呂から上がると母親がテレビを見ていた。
「おかーさん、なんかある?」
「ビールならあるわよ」
横に座って髪を拭く。
「なんかさ、エッちゃん変わった?」
「そう?」
「うん、最近スゴく優しい顔してるわよ」
「あ…そーかな?」
トボけたが、明らかに伸一と付き合い出してからなのは分かっている。
「アネキ恋してんだよ」
弟の信行も突っ込んだ。
「うるさい!」
信行は空手5段の腕前で、悦子にとってもいい用心棒になる。
しかし、昔から悦子には頭が上がらない。
悦子は伸一と撮った写真にキスした。
(好きです、大好きですよ。伸一さん)
とても穏やかで、寝ても覚めても伸一が頭にいた。
告白されてないけど、自分から突撃したようなものだから、無くても気にならなかった。
(パンツ欲しいのかな?…)
悦子はタンスを開けて、好きそうなモノを選んだ。
「ふぁーっくしょん!」
部屋でラーメン食べながら、伸一のくしゃみが響いた。
晴美は影山の部屋にいた。
今日も抱かれ精子を飲んだ。
今の晴美は注がれる精子が、自分が保てる薬のように感じていた。
だが、この頃から影山は本性を現し始めた。
食事をした後、会計になって影山は「ワリィ、払っておいて」と放った。
「えっ!う、うん」
それが続いた。
気がつけば、いつも晴美の支払いが当たり前になった。
セックスも変わりだした。
「オラァ!しゃぶれよ」
無理矢理、肉棒を口に捻じ込まれ頭をガンガン振られ、イマラチオもされるようになった。
口に出された精子は顔中にかけられた。
そして終わった後に必ず、晴美を抱きしめて謝った。
影山は俳優になれば成功するぐらい〈泣き〉が上手かった。
どこでも涙を出せる。
「ごめん、ホントにごめん!昔の嫌な思い出が蘇るんだ!すまない!ホントにすまない」
こうして甘える。
晴美はいつのまにか(この人も辛いんだ、私が居ないと死んじゃうかも)と思うようになった。
「…いいのよ、辛いのね」
「ごめん、晴美は悪くないんだ!全部オレのせいなんだ!」
「違うわ、アナタは悪くない…気にしないで」
一度、この思考に入ると抜け出せなくなる。
見捨てたら自分が悪いと思うようになる。
ヒモの手段だ。
影山は、セックスで必ず中には出さない主義だった。
子供なんて出来たら面倒になるだけだ。
だから、顔や口に出していた。
晴美が家を空けて4日が経っていた。
また土曜日。
カード募集で悦子と会った。
「晴美、電話したけど居なかったよね?」
「うん、彼のとこに泊まってたの」
「そう、おばさん心配してたわよ」
「あの人は心配なんてしないわ、私が居なくてせいせいしてるもの」
「そんなことないよ、この間話だけど…」
晴美がキッと悦子を睨んだ。
「違わない!違わないわよ!」
「……」
初めてだった。
こんな目をする子じゃなかった。
いつも優しく寂しい目をしていた。
2人で飲み明かした時は、お互いに泣いて抱き合った事もある。
それ以上言えなくなった。
仕事終わりに、伸一に相談しようか悩んだ。
晴美は定時になり「先に帰るね」と悦子を置いてサッサと出て行った。
片付けてる伸一のもとに行き「今日、時間ないですか?」と聞くと、その顔で察した伸一は「じゃ市川塩浜駅で。迎えに行くから」と言ってくれた。
行徳は海沿いは埋立地だ。
駅からすぐ側に堤防がある。
自販機で飲み物を買って堤防に腰かけた。
何人かの夜釣り人がいる。
「下田さんが?」
「はい、ものすごい目で睨まれて…」
「何か言ったの?」
「そんなおかしな事は…ただ、親の話はマズかったかも知れません」
「仕事上は何時ものような気がしてるけど」
「そうなんです。最近、家にも帰ってないみたいで…晴美も部屋に電話あるんですけど全然出ないから、家の電話にかけたら帰ってないって…」
「うーん、困ったなぁ…」
「ごめんなさい…変な相談して…お仕事に支障は出ないようにしますから」
「それはいいよ、気にしないで!なんとかなるからさ」
伸一の暖かい言葉が沁みた。
「ちょっと調べられないかな?」
「えっ?」
「気になるなら探ってみたら?」
「でも、どうやって?」
「参考になるか…ちょっと気になる事があるんだ。この間の晩飯食べた時なんだけどね」
「何ですか?」
「確かに、あのはしゃぎ方を見て引っ掛かっててね。気のせいかとも思ったんだけど」
「それで?」
「思い出したらさ、確かに似たようなのを見たことがあったんだ。大学の時にどーしよーもない女タラシがいてね、何人ものオンナを囲ってて飯代とかも出させてさ」
「ええっ?」
「俺らから見てても、女連中がそれでもくっ付いてるのが理解出来なくてね。何人かと話したことがあるんだ、そしたら、そいつの話するだけで喜ぶ顔するんだよ。その顔とよく似ていた」
「…」
「その時は理解できなかったけど、もしかしたらその彼氏絡みじゃないかな?」
「なるほど」
「思い出して考えすぎか、と思ったけどね」
「彼氏ですか…確かにあるかも」
「可能性あるよ」
「分かりました、調べてみます」
「何か分かったら連絡してくれる?」
「はい、ありがとうございます!」
「よし、送るわ!」
「あっ、電車で帰れます」
「バカ言うな!こんな時間に悦子1人で帰らせられないだろう」
「あっ…はい」
「…それに、まだ一緒に居たいしね」
悦子はその言葉を待っていた。
待っていた言葉を言ってくれる、だから伸一の事が心底好きなんだと実感する。
家に着いて悦子は小さな紙袋を渡した。
「はい、これ」
「なにこれ?」
「帰ったら開けて下さいね、今は恥ずかしいから…おやすみなさい」
「おやすみ」
キスして別れた。
部屋に戻ってシャワーも終えた伸一は、テーブルの紙袋を開けた。
「げっ!パンツ…だ」
メモが添えてある。
〈これで良ければ使って下さいね。大好きです。悦子〉
「気が利きすぎ…悦子ちゃん…」
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