10 / 19
監禁前夜
四話・変わってしまったモノ②
しおりを挟む
「こんな時間にお出かけなんて。すっかり悪い子になっちゃったね、アイネ」
「え? …………ぁ、……な、んで……?!」
ホテル街を彩り煌めく淫猥な電光掲示板の下に彼は居た。ツヤのある黒髪は卑しいピンクに染まり、こんな場所とは到底不釣り合いな純朴な表情でアイネを見つめている。だというのに、薄く水色がかった灰色の瞳だけはこちらを責めるように睨んで見えて、アイネは知らず知らずのうちに数歩後ろに下がっていた。
光の加減で影になっているからだろうか?
それとも、彼に対する背信からだろうか?
彼の目が、空気が、アイネを責めていて、息が詰まる。
「なんで、とか……そういうの、どうでも良いでしょ? ね、アイネ。……どうして?」
ちがう。責められているように『感じる』のではない。
「どうして、あんな奴とセックスなんてしてるの?」
「……っ、」
影を落とした水色交じりの灰色が次第にどんよりと曇っていく。ゆっくりとした足取りでメアが近づいてくる。鈍色をした憤怒が声音からは滲んでいて、いや、それよりも「知られてしまった」と動じた体は強くこわばって、この場を離れなければと思うのに声の一つも絞り出せない。視線は逸らせず、身体の震えは止まらない。
(バレた、違う、オレが弱いから、誘いに乗ったから。ちがう、アイツを誘ったのはオレで、オレがシたくて、穢れてるから、オレが悪い子だから、どうしよう、バレた、汚れてるってバレた……!!!!)
絶望の音色が靴音となって耳に届く。
カツン、コツン、乾いた音がとどめを刺す。
目の前に立ったメアはケロリと表情を和らげたかと思うと、
「まぁいいや。今から空いてるよね? ……お話、しよっか」
あどけない顔でアイネに手を差し出して、するりと指先を絡めとった。絡んだ指から伝わる熱はひどく熱くて、発熱でもしているんじゃないかと一瞬思ったが、そのあとすぐに「自分の体温が下がっているのだ」と気が付いた。
焦りと緊張と恐怖が綯い交ぜになって氷塊となり、アイネを内側から冷やしていく。もう、春の冷たさなんて微塵も気にならなくなっていた。今はただ、バレてしまったという現実とメアから伝わってくる怒りが恐ろしかった。
遊ぼうと手を引くしぐさには懐かしい愛おしさがあった。
にへらと笑う顔には昔から変わらぬ可愛らしさがあった。
されども、
手を引かれるというより引き摺られているのが現実で。
可愛らしいはずの笑みは暗く笑んでいたのが現実で。
―― バンッ
乱暴に閉められた車の扉が、狂い始めた歯車の存在を示唆していた。
「え? …………ぁ、……な、んで……?!」
ホテル街を彩り煌めく淫猥な電光掲示板の下に彼は居た。ツヤのある黒髪は卑しいピンクに染まり、こんな場所とは到底不釣り合いな純朴な表情でアイネを見つめている。だというのに、薄く水色がかった灰色の瞳だけはこちらを責めるように睨んで見えて、アイネは知らず知らずのうちに数歩後ろに下がっていた。
光の加減で影になっているからだろうか?
それとも、彼に対する背信からだろうか?
彼の目が、空気が、アイネを責めていて、息が詰まる。
「なんで、とか……そういうの、どうでも良いでしょ? ね、アイネ。……どうして?」
ちがう。責められているように『感じる』のではない。
「どうして、あんな奴とセックスなんてしてるの?」
「……っ、」
影を落とした水色交じりの灰色が次第にどんよりと曇っていく。ゆっくりとした足取りでメアが近づいてくる。鈍色をした憤怒が声音からは滲んでいて、いや、それよりも「知られてしまった」と動じた体は強くこわばって、この場を離れなければと思うのに声の一つも絞り出せない。視線は逸らせず、身体の震えは止まらない。
(バレた、違う、オレが弱いから、誘いに乗ったから。ちがう、アイツを誘ったのはオレで、オレがシたくて、穢れてるから、オレが悪い子だから、どうしよう、バレた、汚れてるってバレた……!!!!)
絶望の音色が靴音となって耳に届く。
カツン、コツン、乾いた音がとどめを刺す。
目の前に立ったメアはケロリと表情を和らげたかと思うと、
「まぁいいや。今から空いてるよね? ……お話、しよっか」
あどけない顔でアイネに手を差し出して、するりと指先を絡めとった。絡んだ指から伝わる熱はひどく熱くて、発熱でもしているんじゃないかと一瞬思ったが、そのあとすぐに「自分の体温が下がっているのだ」と気が付いた。
焦りと緊張と恐怖が綯い交ぜになって氷塊となり、アイネを内側から冷やしていく。もう、春の冷たさなんて微塵も気にならなくなっていた。今はただ、バレてしまったという現実とメアから伝わってくる怒りが恐ろしかった。
遊ぼうと手を引くしぐさには懐かしい愛おしさがあった。
にへらと笑う顔には昔から変わらぬ可愛らしさがあった。
されども、
手を引かれるというより引き摺られているのが現実で。
可愛らしいはずの笑みは暗く笑んでいたのが現実で。
―― バンッ
乱暴に閉められた車の扉が、狂い始めた歯車の存在を示唆していた。
3
お気に入りに追加
179
あなたにおすすめの小説
EDEN ―孕ませ―
豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。
平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。
【ご注意】
※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。
※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。
※前半はほとんどがエロシーンです。
大親友に監禁される話
だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。
目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。
R描写はありません。
トイレでないところで小用をするシーンがあります。
※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。
変態の館
いちみやりょう
BL
短いエロ小説置き場。
大体一話完結、もしくは前後編でエロを書きたい衝動に駆られた時に書いたものを置く場所です。
ストーリー性ほぼなし。ただのエロ。
以下私の書きがちなもの
浣腸/温泉浣腸/食ザー/イマラチオ/ショタ/オナホ扱い/精子ボテ/腹ボコ/産卵/肉便器/輪姦/結腸責め/獣姦/四肢欠損
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
旦那様、お仕置き、監禁
夜ト
BL
愛玩ペット販売店はなんと、孤児院だった。
まだ幼い子供が快感に耐えながら、ご主人様に・・・・。
色々な話あり、一話完結ぽく見てください
18禁です、18歳より下はみないでね。
皇帝の肉便器
眠りん
BL
この国の皇宮では、皇太子付きの肉便器というシステムがある。
男性限定で、死刑となった者に懲罰を与えた後、死ぬまで壁尻となる処刑法である。
懲罰による身体の傷と飢えの中犯され、殆どが三日で絶命する。
皇太子のウェルディスが十二歳となった時に、肉便器部屋で死刑囚を使った自慰行為を教わり、大人になって王位に就いてからも利用していた。
肉便器というのは、人間のとしての価値がなくなって後は処分するしかない存在だと教えられてきて、それに対し何も疑問に思った事がなかった。
死ねば役目を終え、処分されるだけだと──。
ある日、初めて一週間以上も死なずに耐え続けた肉便器がいた。
珍しい肉便器に興味を持ち、彼の処刑を取り消すよう働きかけようとした時、その肉便器が拘束されていた部屋から逃げ出して……。
続編で、『離宮の愛人』を投稿しています。
※ちょっとふざけて書きました。
※誤字脱字は許してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる