夜霧の怪談短編集

夜霧の筆跡

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第五十二話 呪いのレアカード

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僕の出身小学校では、あるトレーディングカードゲームがはやってたんだ。
そのカードゲームはかなり昔からずっとあるものなんだけど、いまだに人気があるのってすごいよね。
もちろん僕もやってたし、友達のタクヤもやってたよ。





ある日、タクヤが超強力なチート級のレアカードを入手してきたんだ。

「すっげータクヤ! よく手に入ったなーそれ!」
「見せて見せて! 本物初めて見た!」
「いいなー! 俺もずっとほしかったんだよな」

カードゲーム好きの仲間たちのなかで、それはとんでもない大きなニュースだったんだよ。
みんな興味津々で、たちまちタクヤのまわりには人だかりができた。

タクヤが得意気に仲間たちに見せびらかしてたカード、僕も身を乗り出して見てみたんだけど、ちょっとくたびれた感じだったんだよね。
明らかに新品ではなかったから(カードショップとかネットオークションで中古のを買ったのかな)って思ったよ。

ただ…… あのカードのレア度から考えても、中古だってかなりの値段がしたはずなんだよね。
だから、あわよくば僕だってそのカードがほしくて、思い切って聞いてみたんだ。

「なあタクヤ…… そのカードどこでいくらで買ったんだよ?」

そしたらあいつ、自慢げに笑って答えたんだよ。

「ふっふっふ、そんなの秘密に決まってるだろ~~!!」





タクヤはそれ以来、仲間内ではカードバトルで負けなしになってた。
確かにタクヤのあのカードは強いし、あれ1枚あるだけで誰も手も足も出ないほどタクヤは強くなったし、カードの物珍しさからチヤホヤされたり注目されたりと人気者の扱いを受けてた。

勝てないのはわかっててもカード見たさに挑戦するヤツもいたし、なんとかしてあのたった1枚のカードの強さを手持ちのデッキで崩すことはできないかって試行錯誤するヤツもいたよ。
でも、それも最初のうちだけだったな。
なんか、だんだんとタクヤの態度が悪くなって、僕たちを見下すような態度を取るようになったんだよ。

「どうせ俺が勝つのにね」
「雑魚がまた身の程をわきまえずに挑戦しにきたか」
「結果はわかりきってるのに時間の無駄だな~」

対戦を申し込まれるたびにそんな事を口にして、対戦中も雰囲気は最悪だった。
実際に誰もタクヤには勝てないし、やっぱり勝てないとつまんないじゃん。
そのうえそんな嫌なこと言われるんだもん、そのうち誰もタクヤとは遊ばなくなっていったんだよね。





「ふん、勝ち確の相手とやったってしゃーないもんな」

タクヤ自身もそんな事言って強がってたけど、誰とも対戦できないとせっかくのご自慢のカードも自慢できないからさ…… そのうちカードショップに出入りして知らない人と対戦するようになったって風のウワサで聞いたよ。

ただね、同年代では負けなしだったけど、さすがに大人相手だとそうはいかなかったみたい。
大人はお金があるから、チート級とまではいかなくてもそこそこ強いカードを枚数そろえてるし、頭も使うでしょ?

やっぱりね、たった1枚のめちゃ強いカードに頼った戦略には限界があるんだよ。
バランスを考えて組まれたデッキに勝てるほど大人のカードバトルは甘くなかった。

負けなしの状況に慣れきって調子に乗ってたタクヤには勝ったり負けたりの勝負の世界は面白くなかったみたいだな。
負けが込んでくると、タクヤはイライラしてますます態度を悪くするようになった。

「俺に勝てないからって負け犬同士でなれ合い対戦かよ、楽しそうでなによりだな!」

とかいいながら、カードバトルを楽しんでる僕らに絡んできたりね。
あんときのタクヤはほんと感じ悪くて最低最悪だった。

もう誰もあいつには構わなくなったし、対戦中にあいつが寄って来たら無言でサーッと解散するのが僕らの間での暗黙の了解みたいになってたからな。





そんな風に距離を置いてたから、それからしばらくの間、タクヤがどんな風に過ごしてたかとかどんな様子だったかなんて僕はよく知らない。
でもある放課後、帰ろうとしたら机に手紙が入ってたんだ。

『相談したいことがある。公園で待ってる タクヤ』

僕は最初(誰が行くかボケ)って思ったけど(今まであんな態度とってたタクヤがどの面下げて待ってるのか見てやろう)って思い直して行ったんだ。

公園ってのは、僕らのいつもの場所だった。
タクヤがあんな風になる前は、よく放課後あの公園のベンチでバトルしてたっけ。





公園に入ると、いつものベンチに座ってタクヤが手を降ってた。
いつも避けてたから、直接ちゃんと姿を見るのは久しぶりな気がしたよ。
僕らを見下して暴言ばかり吐いてたころのイメージはどこにもなくて、なんだかしょぼくれた雰囲気になってたな。

だから僕もなんか意気消沈しちゃって「よお」って手を上げるのが精一杯だった。
本当は会うなりいろいろと物申してやろうと意気込んで行ったはずだったんだけどなあ。

「なんだよ、手紙なんて。果たし状ってか? バトルならしねーよ、どうせ負けるし」

僕からふった会話もとくに広がることもなく、タクヤも気まずそうにしてた。

「い、いや、違くて…… まあ座れよ」

タクヤは僕をベンチに座るよう促してくるから、とりあえず座ったんだけど。
また沈黙して、何か言おうとしては口ごもっちゃうんだ。
そんな様子にしびれを切らしてつい言っちゃったんだよね。

「なんなんだよ? 話さないんならもう帰るぞ」

そしたらタクヤも慌てて。

「ま、待てって! 待ってくれよ……」

そんな風に呼び止められて、ようやく話を切り出したんだ。





──実はさ、あの超レアカード…… 拾ったんだよ。この公園で。

お金とかならそりゃあ拾ったら交番に届ける、そんなの学校で習ったし当然だけどさあ……
言ってみればカードなんて子供の遊び道具じゃん。
そんなものいちいち交番に届けることないよな?

だって、公園に砂バケツとか縄跳びとか置き忘れてあったって、交番に届けるヤツなんかいないだろ──





「おまえそんなの、結局カードがほしいからってヘリクツこねただけじゃん」

僕もそうは言ったけど、その落ちてるカードを見つけたのが自分だったら同じことをしなかったなんて言い切れないんだよね。

(偶然でレアカードを手に入れたなんてズルい!
タイミングが違えば僕のものになってたかもしれないのに)

むしろそんな気持ちさえ持っていたから、それ以上追求することはできなかったんだ。
そんな僕の気持ちを察したのか、タクヤはさらに続けた。





──最初は嬉しくて、有頂天になって、みんなに自慢して、バトルでも勝ちまくって…… 正直、気分は最高だったよ。

でもさ…… あの…… 信じられないかもしれないけど、俺、あんな風にみんなにひどいこと言ったり嫌な態度とったり、そんなつもりじゃなかったんだよ。
だけど、なんかあのカードを持ってると気持ちが大きくなるっていうか…… 睡眠不足でイライラしてたのもあって、心にもないこと言っちゃうんだ。

うん、睡眠不足ってのも謎でさ……

笑わないでくれよ。毎晩毎晩、怖い夢を見るんだ。
カードバトルをしてると、幽霊や怪物が出てきて追いかけられたり、突然爆発したり車が突っ込んできて死にそうになったり。
汗びっしょりで飛び起きて時計を見ると、寝付いてからまだいくらも時間がたってなくて、その繰り返しだから、全然眠った気もしなくて休まらないんだよ。

学校で誰にも相手にされなくなってカードショップに行って知らない人とバトルしてても、なんか変だった。
カードを持つ手がしびれて力がはいらなくなったり、カードをつかんだ指に、まるで鉄板をつかんだみたいに激痛が走ったり。
バトルの最中にデッキをバラ撒いちゃうこともよくあったから、もうバトルもできなくなって……

なんか、あのカードを手に入れてから、なにもかもうまくいかなくなって、めちゃくちゃでさ。

怖くなって、一度はカードを拾った場所に戻してこようと思ったんだよ。
確かにあのカードは惜しいけどさ、それよりもなんかとにかく怖かったからさ。

だけど…… 確かに拾った場所に置いて帰ったはずなのに、家についたら机の上にカードがあったんだよ。
何度捨ててきても、家に戻ってくるんだ。

わけわかんなくて怖いし、眠れなくてますますイラついて、学校で楽しそうにバトルしてるヤツらが羨ましくて……
俺のほうが強いカード持ってるのになんで俺だけって、悔しくて──





震える手でそのレアカードをいじりながらタクヤがそこまで話した、その話の途中だった。
突然、若いOL風の女の人がベンチの僕らの間に後ろから割り込んできたんだ。

「そのカード! ちょっと、よく見せてくれない?」

タクヤが話の腰を折られたことにちょっとムッとして、また暴言を吐きそうになってたから、僕がそれを制止したよ。
女の人とはいえ、大人の人を怒らせるの怖いじゃん。

「お姉さんもカードバトルやるの?」

そう聞きながら、さり気なくタクヤと女の人の間に割り込んだんだ。

「ううん、私はやらないよ。
だけど、そのカードのことはちょっと知ってて……
ね、見せてくれるだけでいいの。ちょうだいとか言わないから」

「はあ……」

そんな風に言われてタクヤはしぶしぶといった様子でカードを差し出そうとしたら、女の人も手を伸ばしてきた。

「「痛ッ!」」

指先が触れると思った瞬間、バチッと音がして女の人が手を引っ込めた。
驚いた表情で自分の手を見つめる二人。

「静電気かな、びっくりした。ごめんね、もう一回見せてくれる?」

だけど、もう一回カードを渡そうとしたときにまた同じことが起こったんだ。
静電気だったら一度バチッとなっちゃえばもう平気なはずだよね?
しばらくしたらまた電気がたまってくるけど、こんなにすぐ繰り返しバチッとなることないじゃん?

女の人は首をかしげながらもカードを受け取るのは諦めたみたいで、タクヤが手に持ったままカードを見せることにしたんだ。





それでしばらくカードの裏面表面をじっくりと観察した女の人は、ベンチの端に腰掛けて語り始めた。

「やっぱり。このカードは私の幼なじみが持ってたものだよ」

タクヤはカードをぎゅっとつかんだままうつむいていた。
『ちょうだいとか言わない』とは言ってたけど、このカードが拾ったものだってバレたら取り上げられちゃうかもしれないもんな。
だけど、女の人は構わずに続けた。

「私の幼なじみ、病弱で学校にもあんまり通えなくて…… 友達がほとんどいなかったんだ。
カードゲームが大好きだったけど対戦する相手もいなくて、ただカードを集めることだけが楽しみだったの。

そのカード、いまは製造されてないんでしょ?
当時はパックで買ったら低い確率で入ってることもあったみたいだけど」

そう、確かにそのカードはあまりにも強力すぎるためにバランスブレイカーとされて製造が停止されてしまったんだ。
だから今現在では、それより前に出たカードパックの在庫から出る可能性にかけるか、中古で出回っているものを買うしか入手手段がない。

「偶然パックから引き当てた幼なじみはすごく喜んでたんだけど…… その後、病状が悪化してそれを一度も使うことなく亡くなったの。
その後はご両親が形見分けに好きなものを持って行ってって同級生を招いたときに、誰かが持っていったんだと思う」

そしてジェスチャーで『もう一度よく見せて』とタクヤに合図して話を続けた。

「ほら、この角。ちょっと切れちゃってるでしょ。
彼、パックを開封するときにハサミを使ったらちょっとひっかけちゃったって言ってすごくガッカリしてた。
だからね、このカードは間違いなく私の幼なじみが持ってたものだなって思ったんだ」

そこまで話を聞いて、タクヤは女の人の顔色を伺いながら、しどろもどろに反論したんだ。

「で、でも、これはもう…… 俺のカードだから……」

それを聞いた女の人は驚いたようで目を見開いて、そして立ち上がって言ったよ。

「あ! うん、もちろん。ごめんね、そういうつもりじゃなかったんだ。
ただ懐かしくて、つい声かけちゃっただけなの。
そのカードは君のものだよ、言ったでしょ? ちょうだいとか言わないって」

そのまま立ち去ろうとする女の人を、僕はあわてて引き止めた。
だって、気になることを言ってたんだ、確認しなきゃって思ったんだ。

「さっき、こいつから聞いたんだけど、捨てても捨てても戻ってくる呪いのカードだって……
お姉さん、元の持ち主が死んじゃったって言ったよね」

「お、おい、呪いとまでは言ってないだろ」

タクヤはあわてて否定したけど、知ったことではない。

(捨てても戻ってくるなんて、怪談でよく聞く呪いの人形とかと同じじゃん。
それで持ち主が死んでたなんて話聞いたら関連性を疑わないほうがおかしいってもんだよ)

だけど、女の人は少し考え込んだあと、タクヤをなだめるように言ったんだ。

「大丈夫、きっと呪いのカードなんかじゃないよ。
自分と同じカードゲームが大好きな子に持っていてほしかったんじゃないかな。
供養だと思って持っていてあげて」

タクヤはその女の人の優しい言葉に安心して「そっかあ」って納得してた。
あいつ本人が納得してるんだったら、僕ももう口をはさむ事じゃないし…… その場はそれで解散したんだよね。





その後のタクヤ、どうなったと思う?
見下す態度も、イヤミな発言も、何も変わってなかったんだよ!

結局、あのカードを持ち続けたことでたぶん僕に話した怪現象は起こり続けたんだと思う。

そのせいもあって、まるでカードに操られるようにタクヤはどんどん友達をなくしちゃったんだよね。
カードショップでも要注意人物として扱われて、バトルしてくれる相手はいなくなったみたい。
小学校を卒業するまで、タクヤはひとりぼっちのままだったな。

中学生になってからは、周囲もだんだんカードゲームから卒業して、みんなの趣味は多種多様に広がった。
もちろん、ずっとカードゲームを続けてるヤツもいたけどね、学校中みんながみんな熱狂してたみたいなことは小学校までだったな。

クラスも別々になっちゃったから、タクヤが今どうしてるのかは知らないんだよね。





たださ、今になって思い返せば、やっぱりあのカードはお祓いとかしたほうがよかったんじゃないかなって。

だって、あの女の人は「カード好きな子に持っててほしいと思う」とか「供養だと思って」なんて言ってたけど…… その結果、タクヤは友達をなくして孤立した状態に追い込まれたわけだもん。
それって、まるで病弱で学校に行くこともできず友達がいなかった、元の持ち主の境遇そのものじゃん。

元の持ち主の執着がカードに取り憑いてるのか、それとももともとあれは呪いのカードで、元の持ち主もその犠牲になったのか…… どっちなんだろう。

どちらにせよ、もうタクヤとのつながりもなくなったし、こっちからわざわざ連絡とってまで「お祓いしなよ」なんて言う気もないけどね。
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