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第四十六話 闇に覆われた教会の記憶
しおりを挟むこれはボクが子供の頃に母国アメリカで体験した話で、ボクが日本に移住する決心をしたきっかけの話でもありマス。
ボクの家は代々熱心なキリスト教信者で、毎朝教会に行ってお祈りをささげるのが日課デシタ。
ある日、ボクがいつものように教会に行くと、少し騒がしい気がしマシタ。
「something going on?
(何かあったの?)」
と訪ねてみると、顔なじみの信者たちがお祈りの最中に体験した奇妙な出来事について聞かせてくれマシタ。
それは、お祈りをささげている最中に苦しげなうめき声や悲痛な泣き声がどこからともなく聞こえてくる、というものデス。
風もないのにキャンドルの火が突然消えたり、きちんと棚にしまってあったはずの聖書が突然床に落ちるといったこともあったトカ。
さらには、その場にいないはずの怪しい人影を見たという人までいるようデシタ。
「This phenomenon must be the work of the devil.
(悪魔の仕業に違いない)」
誰かがそうつぶやいたのが聞こえてきマシタ。
最初ボクには信じられませんデシタ。
だって、教会は神聖な空間であり、ここに悪魔が侵入してくるなんて絶対にありえないんデスよ。
だけど、説明の付かないことが起きていることも事実。
こうしてボク達信者が騒いでいることを、当然牧師サマたちも気付いていマス。
なかには実際に奇妙な体験をした牧師サマもいたんじゃないカナ。
しばらくお祈りに身が入らない日々が続きマシタ。
そして数週間後、よその地区から『凄腕のエクソシスト』が派遣されてきたんデス。
ボクは少し不謹慎デスが、実物のエクソシストを見るのは初めてなので、少し興奮していマシタ。
今にして思い返せば、彼は本当に『凄腕』だったんデス。
当時…… エクソシストはあらゆる方法で悪魔祓いを試みマシタ。
でも、何をしても効果はなく…… みんなはガッカリして彼を非難してしまったんデス。
「You're useless! We expected you to banish these evil spirits, but you can't even do that!
(この役立たず!悪魔を祓ってくれるんじゃなかったのか!?期待ハズレだ!)」
そんな心無い言葉を投げかける人もいマシタ。
でもエクソシストは冷静にこう答えたんデス。
「I can't sense any demonic presence here. If the entity isn't demonic, exorcism won't be effective.
(ここに悪魔の気配は感じられない、相手が悪魔でないなら悪魔祓いの技は通用しない)」
そう言われても、実際にお祈りの最中に奇妙な出来事は起こり続けているんデス。
ボクたちはもう、落ち着いて日課のお祈りをささげることすらできなくなっていたんデスよ。
だったらどうすればいいのか、ほとほと困り果ててしまいマシタ。
そんな時、ボクの妹には思い当たることがあったようなんデス。
ボクの妹は大のアニメ好きで、特にジャパニメーションをこよなく愛していマシタ。
その影響でかなりの日本びいきでもあり、日本の文化にも精通していたんデス。
「If it's not the work of demons, could it be... ghosts?
(悪魔じゃないって言うなら…… それって幽霊なんじゃない?)」
彼女のその言葉にボクはビックリしてしまいマシタ。
今でこそボク達の間でも『幽霊』という精神的な…… 魂のような存在は一般化していマス。
それはインターネットが普及したことで、特別日本に興味があって積極的に情報を摂取しなくとも普通に日本の文化に触れる機会が増えたこともあり、また、幽霊をテーマとした映画がヒットしたことも影響していマス。
でも当時のボク達にとっての『ゴースト』といえば、白くてモコモコしてヌルンとした……
そう、ハロウィンの仮装でシーツをかぶったような、そういうキャラクターをさすものだったんデス。
妹から日本的な『幽霊』の概念について教えてもらったことで、教会で起きている現象にもなるほど当てはまる気がしマシタ。
ボクは牧師サマにこのことについて説明し、何か心当たりはないか訪ねマシタ。
すると、牧師サマから過去教会で起きた事件についての説明がなされたんデス。
それは、教会で礼拝が行われている最中に突然ギャングの抗争に巻き込まれ、多数の信者たちが亡くなった事件の話。
その時に亡くなった信者たちの声、それこそがボク達が聞いた声の正体だったのデショウ。
でもそれがわかったところで、ボク達には結局なすすべはありませんデシタ。
エクソシストは亡くなった人間の魂を祓うことはできマセン。
その幽霊たちは生前熱心なキリスト教徒だったからこそ、悪魔祓いの技が通用しなかったのデス。
だったらどうすればこの現象を解決できるというのデショウ……?
ボクは妹の知識を借りて、見様見真似で日本風の『供養』や『除霊』というものをやってみマシタ。
牧師サマにはバレないように、教会の片隅にそっとソルトを盛ったり、日本酒…… は入手できなかったので代わりにワインを教会周辺にふりまいたり、果物や水を供えてお祈りしたり、それから、アロマもたいてみマシタ。
そのどれも効果はなかったようで、奇妙な現象はまったく収まることはありませんデシタ。
何の解決も得られないまま日数だけが過ぎ去っていき、お祈りに来る信者の人数はどんどん減っていきマシタ。
そんなある日、妹が言い出したんデス。
「We can't do anything more on our own. We'll have to ask a Japanese shaman for help.
(もう私たちではどうしようもないよ、日本のシャーマンに頼もう)」
ボクは最初、エクソシストでさえ牧師サマが独自のツテでなんとか呼び寄せたのに、はるか遠い日本に頼むアテはないし無理だと思いマシタ。
でも妹が言うには、日本のオカルトマガジンでは読者から霊体験談や心霊相談を受け付けてるコーナーがあるらしく…… そこに手紙を出してみよう、ということになったんデス。
とはいえ日本中で売られている雑誌、きっと相談だって殺到していることデショウ。
競争率を考えると、ただでさえ遠くて勝手の違うアメリカからの相談は採用される可能性がかなり低いと思っていマシタ。
でも、手紙を出してから数か月…… なんと返事が返ってきたんデス!
ああ、ボクは神に感謝しマシタ。
ボクは妹と一緒にすぐに日本のシャーマンと連絡を取り合い、アメリカまで来てもらえる話がトントン拍子に決まりマシタ。
そして、待ちに待ったその日。
ボクは待ち合わせの空港までシャーマンを迎えに行きマシタ。
「私はあなたがたのご両親の友人で、今回は遊びに来てしばらく滞在している……
教会へはあなたがたがお祈りをする付き添いで見学に来た、そういうことにしてください」
ボクと妹はその言葉に従い、シャーマンを教会へ案内しマシタ。
牧師サマに設定通りの紹介をし、ボク達がお祈りをささげている間ちょっと待っていてもらうことになっていると告げマシタ。
その間に起きる怪現象を実際に見てもらうつもりだったんデスが……
教会の敷地に足を踏み入れただけで、シャーマンはすべてお見通しといった表情になりマシタ。
「すみません、建物に入る前に教会側からの説明についてもう一度お聞かせいただけますか?」
シャーマンがそう言うので、ボクは牧師サマから聞いた説明をあらためてお伝えしマシタ。
「なるほど、承知しました。波風を立てないつもりで来ましたが…… そうもいかないかもしれません」
そう言うとシャーマンは牧師サマに一礼し、スタスタと一直線に歩み寄って言ったんデス。
「Look, unless you spill the beans, this freaky phenomenon ain't gonna stop.
(隠していることを明らかにしない限り、怪現象が収まることはない)」
牧師サマは驚きの表情を隠しきれない様子デシタが、すぐに気を取り直したように言いマシタ。
「What the hell are you! Don't accuse me falsely! I'm not hiding anything!
(なんですかあなたは!? 隠していることなどありません、言いがかりをつけるのはやめてください!!)」
その言葉を聞いて、シャーマンは心底がっかりしたという表情になり、ボク達を連れて教会を出マシタ。
「They know nothing and are still your devoted followers. Do not try to change your attitude towards them.
(この子たちは何も知らない、これまでと変わらず熱心な『あなたがた』の信者。だから、これまでと同じように接してやんなよ)」
振り向きざま、そんな言葉を残シテ。
ボク達はわけがわからず、シャーマンに説明を求めマシタ。
でも、シャーマンはその時はなにも教えてはくれなかったんデス。
「牧師がああ言うのであれば私から言えることはないよ。
あなたたちにはこの町での生活があり、あなたたちなりの信仰がある」
それだけ言って、ボクと妹にお守りを作ってくれて、そして日本に帰って行きマシタ。
ジャパニーズシャーマンが作ってくれたお守り、とてもよく効きマシタ。
ボクと妹はそれ以来、お祈りの最中に奇妙な現象を体験することがぱたりとなくなったんデス。
ただ…… それから何年も経過し、ボク達が大人になっても、教会での怪現象はずっと続いていマシタ。
おかげで、お祈りに通う人もだんだんと減り、教会は一気に寂れていったんデス。
長年通い続けているのは、もうボクと妹だけデシタ。
シャーマンとは帰国した後も手紙のやりとりを続けていマシタ。
ジャパニーズシャーマンは仕事を手掛けた後、処置に間違いはなかったか、処置の期限切れや環境の変化で状況が変わってはいないか、それを確かめるために過去の依頼者とたびたび連絡を取るのだそうデス。
ボク達のお守りも何度か作り直してもらい、そうしてボク達は大人になるまで何事もなく教会に通い続けることができたんデス。
シャーマンが言うには、お祈りはどこからしてもきちんと天に届くそうで、教会に通う必要はないとのことデシタ。
でも、教会に通うことは子供の頃からの習慣で、朝起きたら顔を洗うのと同じくらい、もう日常の一部だったんデス。
裏を返せば、ただそれだけのコト。
教会に対する絶対的な信頼はボクも妹も既に失っていマシタ。
大人になっていろいろなことがわかるようにナッタし、ボクはあらためてシャーマンに当時のことを訪ねマシタ。
すると、シャーマンの口からは驚きの事実が語られたのデス。
「教会で多数の信者が犠牲になったってのは本当。
でもギャングの抗争に『巻き込まれた』っていうのはウソ。
真実は…… 教会上層部とギャングの間には裏で黒いつながりがあった。
それを一部の純粋な信者に知られてしまい、抗争のドサクサに『巻き込んで』口を封じた。
これが真相だよ」
にわかには信じがたい話デシタが…… 信じるしかありませんデシタ。
「その事件があったのもかなり昔の話のようだし…… 当時の黒幕だってもう生きてなんかいない。
だから、あの時会った牧師が真相を知っていて隠したのか、それとも本当に知らなかっただけなのか、わからないね」
ボクはそれから、日本の文化を学ぶために長期留学、その末に永住を決意して日本国籍を取得しマシタ。
変わらず熱心なキリスト教徒ではありマス、日本にも教会はありマスしね。
故郷の教会はなじみではあったけど、もうクリーンな空間とはとても思えなくなっていマシタ。
シャーマンの『祈りはどこからでも通じる』という言葉が後押しになりマシタ。
それに、こうも言ってくれたんデス。
「あの教会がたまたまそういう場所だっただけ。
エクソシストだって悪魔が相手であれば本領を発揮できる。
逆に教会の現象が悪魔の仕業だったなら、私のお守りなんかなんの効果もなかっただろうね」
おかげで、ボクはもはや自分を構成する一部とも言える子供の頃からの習慣を失わずにすんで、日本でも変わらず信仰を続けていられるんデス。
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