上 下
48 / 102
第一章 後編

第47話 リィズvsルヴィー 後編

しおりを挟む
 この時私たちはリィズさんの背中の上で、攻撃が突然やんだことを不思議に思っていた。

 「砲撃が止んだ?弾を使い果たしたのかしら?」

 「奴が考えなしに、弾切れを起こすとは思えんが」
 リィズさんはルヴィーさんがそんな理由から攻撃を止めたとは思えなかった。
 カイトはリンドセル号に大砲以外の武装に機関銃があることを思いだした。

 「奴ら機関銃を使うつもりだ。さっきより弾数が一気に増すぞ。アサすぐに伏せた方がいい」
 カイトが言い終えて、すぐに機関銃は轟音ならし私達に容赦なく放たれた。
 しかし機関銃は連謝こそきくが、大砲より本体そのものの数が少なく、ましてやリィズさん程のスピードを捉えられる者等いなかった。
 距離を一気に詰めより、私はこのまま軍艦に食らい付けると確信したその時だった。
 左下に設置された機能を停止していた機関銃が不意に動き出し、私達を襲った。

 リィズさんも急の不意打ちに銃弾を頬にかすめ、直ぐ様接近を中止し回避に専念したがその機関銃は追尾するかのように私達を逃がそうとしない。明らかに他の機関銃とはまるで早さも制度も桁外れであった。

 「奴だ」 
 リィズさんがそう言い、私は一瞬誰のことかと考えたが、こんなことをやってのけられるのは彼女をおいて他にいなかった。

 「ルヴィーさん」   
 私はリィズさん相手にもまったく引けをとらないルヴィーさんに恐怖を覚えた。

 このルヴィーさんの働きにはリンドセル号の二人も驚きの色を隠せずにいた。

 「ルヴィーの奴、馬鹿力で無理矢理に制御してやがる」

 「それだけじゃありません、命中制度も正確そのものです」

 「ミハエル聞こえるか」
 机に置かれた通信機からルヴィーさんの声が聞こえてきた。

 「はい」
 ミハエルさん慌てて声を張り上げこたえた。

 「今から奴を上空に誘導する大砲を準備させろ」

 「わかりました」
 ミハエルさんは通信使い大砲操縦員に指示を送る。

 「大砲操縦員の皆さま今からターゲットを上空に誘導しますので合図と共に一斉攻撃を行って下さい」

 「ルヴィー司令準備が整いまたしたので合図をお願いします」

 ルヴィーさんは他の機関銃操縦員とうまく連携を取り、私たちの動きに制限をかけ、上へ上へと導いていった。
 まんまと操られてることにも気付かず上空に待ち構えていた大砲が私達に牙を向こうとしていた。

 「今だミハエル撃ち込め」

 「撃ち方始め」
 ミハエルさんが指示を送り、大砲による総攻撃が始まり私達は逃げ場を失ってしまった。
 砲撃が着弾したのか大きな音をあげ煙が辺りを立ち込めた。
 ルヴィーさんは攻撃をやめさせ、煙が止むのをまったが黒煙が止まぬうちに1頭の竜がその煙を切り裂き、さらに上空へとかけ上がった。

 「竜はまだ健在です」

 「バカな直撃のはずだ」
 バルバロスさんが額から汗を流し、まるで悪夢でもみてるかのように顔を歪ませた。

 しかしこんな時でさえ、ルヴィーさんは動揺の色を一切見せる事なく、納得するように言った。

 「なるほどたまらず火炎弾を使ったか」
 リィズさんは砲弾の直撃が避けられないと悟り、砲弾にむけ火の玉を打ち込んだのだ。
 それでも機関銃による猛追は緩むことなく私達を追いこみ、リィズさんの体を何度も被弾させた。
 足から血をしたたらせるのをみた私は「リィズさん大丈夫ですか?」とリィズさんを体を案じた。

 「この程度どうということはない」
 その言葉とは裏腹にリィズさんは焦りを感じはじめていた。
 私達に嘘をついた訳ではない、自分は大丈夫でもこのままでは私達に銃弾があたる心配があったからだ。
 リィズさんは長期戦は危険と判断し一つ大きな賭けにでることにした。

 「横の動きでは奴らに距離を離されるばかりだ、上空から急降下して前方に進む。これなら奴しか着いてこれまい」

 「きゃー」
 ジェットコースターのように急降下するリィズさんに私はたまらず悲鳴をあげてしまった。リップは逆に楽しげに叫び、カイトに至っては放心状態で目が虚ろで気持ち悪そうにしている。

 リィズさんを必死に追う機関銃だがリィズさんの思惑通り次々と機関銃の追撃を引き離していった。ただ一つの機関銃を除いて。

 「リィズ私と一対一でやろうってのかい。いい根性だ」
 ルヴィーさんは闘争心に火がついたのか、目をギラギラとさせリィズさんの挑戦状に受けて立った。

 ルヴィーさんは力任せに機関銃を操作し、リィズさんに銃撃を接近させようと試みるも、リィズさんのスピードに追い付けず苦戦を強いられた。

 「やるね、だがリィズお前の射程が命とりだ」
 ルヴィーさんは自分の勝ちを微塵も疑うことはなかった。リィズさんの火炎弾はその弾速から距離を詰めなければ当たらない、かといって近付けば的が大きくなり、被弾は避けられない。そして上空から急降下を続けたリィズさんはこれ以上下がれば逆に艦から遠ざかってしまう状況下に立たされていた。
 正面から向かっていけばルヴィーさんの攻撃は避けられない。

 「リィズ私の勝ちだ」
 正面から向かってくるリィズさんを目の前に、ルヴィーさんは照準を合わせ自身の勝ちを確信した。
 しかし次の瞬間、機関銃室の視界となるガラスに小さなひびが出来た。その中心には矢とおぼしきものが、すかさず前方に目を向けるとルヴィーさんの目に写ったのは弓を構えた私の姿だった。

 「当たった」
 私は苦しまぎれに放った矢が当たるとは自分でも思ってもみなかった。

 「アサの仕業か」
 瞬く間に蜘蛛の巣状にひびが広がっていき、ルヴィーさんの視界を奪っていく。
 今まで冷静に判断してきたルヴィーさんもこれには苛立ちをあらわにさせた。

 「視界がクソ」
 ルヴィーさんは直ぐ様操縦席を立ち上がりガラスに向かって拳を突き立て、ガラスを見事に粉砕した。

 しかしルヴィーさんの目には私たちの姿はそこにはなかった。

 「まずい取り付かれた」
 ルヴィーさんは状況を直ぐ様理解し、その場を離れようとしたが、次の瞬間リィズさんが割れたガラス窓から顔をだし、ルヴィーさんにむけて大きな爪で切り裂いた。

 リィズさんの斬撃はルヴィーさんに直接当たることはしなかったが、操縦席を粉々にぶち壊し、それによりルヴィーさんは軽傷では済まない傷跡を体に残した。
 顔や体から血を流しながらもルヴィーさんはなんとか部屋から脱出し、分厚い防火シャッターのスイッチを押し私達の侵入を阻止した。

 「リィズのやつ躊躇なく殺しにかかるとは」
 するとポシェットに入れた通信機からバルバロスさんの声が聞こえてきた。

 「ルヴィー大丈夫なのか?お前その傷、今すぐ医務室に行ってこい」
 ルヴィーさんの姿をモニターで確認したバルバロスさんが心配そうな声で言った。

 「バカ言え艦に竜が取りついているのだぞ」

 「だがその体では……」

 「何も問題ない、私は魔女と呼ばれた男だぞ」
 ルヴィーさんのその言葉にバルバロスさんは言葉を失った。私も含め誰もがルヴィーさんの事を女性とみていたからだ。

 「目標地点はもうすぐだ。攻撃合図はお前にまかせる」
 ルヴィーさんが淡々とバルバロスさんに言った。

 「お前はどうする?」

 「奴らと決着をつけるさ。ミハエル、スピードを更に上げろ。奴らに身動きをとらせるな」
 そう言い残しルヴィーさんは通信を切った。

 「ここまで来て、私の悲願をあんな小娘に阻まれてたまるか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

処理中です...