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第一章 前編
第6話 竜と食卓
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木の陰から自宅の方を覗いてみるも誰も現れる様子はない。
「よし今だ」
私は竜の子供をお腹の中に隠すと、足音をたてぬよう足早に玄関まで向かった。
玄関の扉を少し開き、隙間から前方を覗き込み人気がない事を確認してゆっくり中へ入る。
そっーと、そっーと。廊下がきしむ音がかえって怪しいような気もしたが、今その場を走る程の度胸は私にはなかった。
そして階段の前に差し掛かった時だった。
「あら、アサ帰ってきてたの?」
お母さんが拍子が抜ける声で私の背中に声をかけた。
「お母さん」
体はとある理由でお母さんには見せられないので、首だけを回しお母さんに言葉を返した。
「所で昨日はどこに行ってたのかしら?」
まずい、ここからが本題だ。
別に弁明の言葉はいくらでも思いついたが、この状態で長話をするのは危険すぎる。
いつお腹の中で声を出すかわかったものではない。
「ちょっと待てて」
私は逃げるよう階段を全力で駆けぬけ、2階の自室の扉を強く閉めた。
「はぁはぁ、危ない危ない」
「アサまだ話終わってないのよ」
下の階から声が聞こえた。
「ごめんね。ここで大人しく待っててね。すぐ戻るから」
私は子供の竜をベッドの下に隠し、なんとかやり過ごそうと考えたのだが。
「くあ」
この通り、離れようとすると大きな声で鳴くのだ。私は鳴く度に足をバタバタさせなんとか音をかき消そうとした。
「アサ何暴れてるのよ、早く降りてらっしゃい」
これではばれるのも時間の問題だ。
「くあ?」
子供の竜は私がバタバタしてる姿をみて、首を傾げて不思議そうにしていた。
「仕方ない、おいで絶対に鳴いちゃダメだからね」
私は竜をお腹に戻し、厚手のコートを身にまとい1階に降りて行った。
「あんたどうしたのよ、その格好?お昼出来てるから食べなさい」
お母さんはぽかんとした様子で私に喋りかけた。
お母さんに促されるまま昼食がはじまった。今日は日曜日なのでお父さんも居ると思ったが、席にはお母さんだけだった。
おそらく庭の畑仕事に精をだしているのだろう。これは幸い?自分でもよくわからなかったが、少なくともこんな状態では食べ物が喉を通るとは思えなかった。
「で、昨日はどこに行ってたの?」
ギクリ、いきなり核心をつく母の発言に心にちくりと突き刺さった。
まずは一呼吸焦ってちゃだめ、膨れるお腹を両腕でおさえ、涼しい顔を装った。
「それは……」
私は二の次に詰まってしまったがなんとか機転をきかせ、昨日は友達の家に寝泊まりしたが、羽目を外しすぎて風邪を引いてしまって今コート着ていると説明付けた。
「ふーん」
母が意味深に伸ばして言った。
頬に冷や汗が流れる。私はお母さんの顔を直視する事ができないでいたが、どうも嫌な視線を感じる。これは疑いの眼差しに違わなかった。
「あんたそれ本当でしょうね?」
やはりと思いつつも返事を返えそうとしたその時だった。
「くあ」
あろうことか竜が腹の中で鳴いてしまったのだ。
その声には背筋がぞっとした。これから話す事などプランを色々模索してた私だったが、これには頭が真っ白になってしまった。
今考えられることといえば、お母さんごめんなさい。
数分後のお母さんに謝る光景が鮮明に浮かんだ。
「何、今の鳴き声?」
「何、お母さんやめてよ。怖い怖い」
顔を引きつりながらも私は懸命にごまかした。
しかし奮闘虚しく___「くあ」と2度目鳴き声を上げてしまった。
「ほらまた」
お母さんは椅子から立ち上がり、音のでがかりであろう私を睨みつけた。
「くあ?…」
私は気まずくも首を傾げ鳴いてみせた。これが最後の悪あがきといえよう。
数分後、想像は現実となっていた。
「ごめんなさいお母さん、怒らないでね。これなんだけど」
私は観念してお腹から竜の子供を取り出した。
竜は目の前の知らない人に驚いたのかきゃんきゃんと鳴いた。
「何これ?可愛いじゃないの」
「昨日、森の奥地でみつけたの」
「じゃー友達とあってたってのは嘘なのね」
「ごめんなさい」
「はじめからそういえばいいのに、何も怒ったりしないよ」
「でもこれ竜の赤ちゃんだとおもうの」
「竜?これがかい?伝説には聞いてたけど」
「アサ帰ってきてたのか」
お父さんが畑仕事を終え帰ってきた。
「お父さんこれ、竜の赤ちゃんですって」
お母さんが竜を抱きかかえお父さんに見せる。
「ほう可愛いもんだな」
「あなた驚かないんですか?」
「今朝新聞で読んだよ。バルセルラに竜が現れたそうじゃないか。政府が本腰で探してるみたいだ」
お父さんはお母さんから視線を私に向けた。
「どうするアサ?」
「だめだよ。きっと殺されちゃうよ」
「私もそれは反対だね。政府のやつなんてろくな奴がいない」
お母さんが賛同してくれた事が心強かった。
お父さん少し間をおいてから「見つけたのはお前だ好きにしなさい」といってくれた。私の決意の固さを感じとってくれたのだろう。
「ありがとうお父さん」
お父さんはそのまま何も言わずリビングを後にした。
「よし今だ」
私は竜の子供をお腹の中に隠すと、足音をたてぬよう足早に玄関まで向かった。
玄関の扉を少し開き、隙間から前方を覗き込み人気がない事を確認してゆっくり中へ入る。
そっーと、そっーと。廊下がきしむ音がかえって怪しいような気もしたが、今その場を走る程の度胸は私にはなかった。
そして階段の前に差し掛かった時だった。
「あら、アサ帰ってきてたの?」
お母さんが拍子が抜ける声で私の背中に声をかけた。
「お母さん」
体はとある理由でお母さんには見せられないので、首だけを回しお母さんに言葉を返した。
「所で昨日はどこに行ってたのかしら?」
まずい、ここからが本題だ。
別に弁明の言葉はいくらでも思いついたが、この状態で長話をするのは危険すぎる。
いつお腹の中で声を出すかわかったものではない。
「ちょっと待てて」
私は逃げるよう階段を全力で駆けぬけ、2階の自室の扉を強く閉めた。
「はぁはぁ、危ない危ない」
「アサまだ話終わってないのよ」
下の階から声が聞こえた。
「ごめんね。ここで大人しく待っててね。すぐ戻るから」
私は子供の竜をベッドの下に隠し、なんとかやり過ごそうと考えたのだが。
「くあ」
この通り、離れようとすると大きな声で鳴くのだ。私は鳴く度に足をバタバタさせなんとか音をかき消そうとした。
「アサ何暴れてるのよ、早く降りてらっしゃい」
これではばれるのも時間の問題だ。
「くあ?」
子供の竜は私がバタバタしてる姿をみて、首を傾げて不思議そうにしていた。
「仕方ない、おいで絶対に鳴いちゃダメだからね」
私は竜をお腹に戻し、厚手のコートを身にまとい1階に降りて行った。
「あんたどうしたのよ、その格好?お昼出来てるから食べなさい」
お母さんはぽかんとした様子で私に喋りかけた。
お母さんに促されるまま昼食がはじまった。今日は日曜日なのでお父さんも居ると思ったが、席にはお母さんだけだった。
おそらく庭の畑仕事に精をだしているのだろう。これは幸い?自分でもよくわからなかったが、少なくともこんな状態では食べ物が喉を通るとは思えなかった。
「で、昨日はどこに行ってたの?」
ギクリ、いきなり核心をつく母の発言に心にちくりと突き刺さった。
まずは一呼吸焦ってちゃだめ、膨れるお腹を両腕でおさえ、涼しい顔を装った。
「それは……」
私は二の次に詰まってしまったがなんとか機転をきかせ、昨日は友達の家に寝泊まりしたが、羽目を外しすぎて風邪を引いてしまって今コート着ていると説明付けた。
「ふーん」
母が意味深に伸ばして言った。
頬に冷や汗が流れる。私はお母さんの顔を直視する事ができないでいたが、どうも嫌な視線を感じる。これは疑いの眼差しに違わなかった。
「あんたそれ本当でしょうね?」
やはりと思いつつも返事を返えそうとしたその時だった。
「くあ」
あろうことか竜が腹の中で鳴いてしまったのだ。
その声には背筋がぞっとした。これから話す事などプランを色々模索してた私だったが、これには頭が真っ白になってしまった。
今考えられることといえば、お母さんごめんなさい。
数分後のお母さんに謝る光景が鮮明に浮かんだ。
「何、今の鳴き声?」
「何、お母さんやめてよ。怖い怖い」
顔を引きつりながらも私は懸命にごまかした。
しかし奮闘虚しく___「くあ」と2度目鳴き声を上げてしまった。
「ほらまた」
お母さんは椅子から立ち上がり、音のでがかりであろう私を睨みつけた。
「くあ?…」
私は気まずくも首を傾げ鳴いてみせた。これが最後の悪あがきといえよう。
数分後、想像は現実となっていた。
「ごめんなさいお母さん、怒らないでね。これなんだけど」
私は観念してお腹から竜の子供を取り出した。
竜は目の前の知らない人に驚いたのかきゃんきゃんと鳴いた。
「何これ?可愛いじゃないの」
「昨日、森の奥地でみつけたの」
「じゃー友達とあってたってのは嘘なのね」
「ごめんなさい」
「はじめからそういえばいいのに、何も怒ったりしないよ」
「でもこれ竜の赤ちゃんだとおもうの」
「竜?これがかい?伝説には聞いてたけど」
「アサ帰ってきてたのか」
お父さんが畑仕事を終え帰ってきた。
「お父さんこれ、竜の赤ちゃんですって」
お母さんが竜を抱きかかえお父さんに見せる。
「ほう可愛いもんだな」
「あなた驚かないんですか?」
「今朝新聞で読んだよ。バルセルラに竜が現れたそうじゃないか。政府が本腰で探してるみたいだ」
お父さんはお母さんから視線を私に向けた。
「どうするアサ?」
「だめだよ。きっと殺されちゃうよ」
「私もそれは反対だね。政府のやつなんてろくな奴がいない」
お母さんが賛同してくれた事が心強かった。
お父さん少し間をおいてから「見つけたのはお前だ好きにしなさい」といってくれた。私の決意の固さを感じとってくれたのだろう。
「ありがとうお父さん」
お父さんはそのまま何も言わずリビングを後にした。
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