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文人は最近毎晩のように夢の中で知らない男に"イタズラ"をされていた。イタズラといえば可愛いように聞こえるが、実際それは酷いもので顔の見えない真っ黒い人間にキスをされたり、体を弄られて舐められたり……お尻の穴に指を入れられて無理やり射精を促されたこともあった。抵抗しても体はいうことをきかず、金縛りにあったときのように視線だけは動かす事ができた。その夢を見るようになってから朝起きると体が恐ろしく重たいのだ。肩から背中にかけてずっと何かを背負っているような……。
「大丈夫そう?」
「え?」
よくある木製のベンチに隣り合って座った二人。
「顔色が悪いよ」
「だ、大丈夫です!すみません、ぼーっとしちゃって」
文人はへらりと笑う。その顔は隈が酷くやつれている。仕事が上手く行かないこともそうだが、昨晩夢の中でされた卑猥な出来事を思い出すと気分は最悪、悪寒もしてきた。やっぱり俺って何かに憑かれてるのか。貰った名刺に視線を落とす。信じたくはないけれど薄々そんな気はしていた。文人は向き合う決心がついたかのように、顔を上げて木暮の目をじっと見つめた。
「祓ってもらえませんか、俺に憑いてるもの」
お祓いなんて初めてで少し怖いけどこの人を信じてみよう。名刺を持つ文人の手に力が入る。
「もちろん、そのつもりで声かけたし」
安心して俺に任せなよ、その言葉で文人の緊張は少しだけ解れた。そしてさっきから気になっていることを尋ねる。
「それで、あの……お祓いっていくらくらいかかるんですか?」
毎月の給料は十万円ほど。十万を超えない時だってあるが見習いの身で貰えているのだから有り難い。贅沢はできないけれど節約生活も楽しめているし何ら問題はない。だけど今回みたいな急な出費はキツイ。
「一回で二万かな、場合によっては三万くらいとる」
「三万!?」
思わず価格を叫ぶ。
そんな……三万円なんて無理だ。あの悪夢からようやっと解放されると思っていたのに。天国から地獄へ突き落とされたかのような気分だ。涙がじわりと滲む。
「そんな顔しないで」
「だって……三万円なんてオレ……払えません……ッ」
グレーのパーカーが涙で色を変える。
木暮はくすりと笑うと「君は特別、タダでいいよ」と慰めるように文人の背中をポンと撫でた。
「へ……?タダ……?」
「うん、タダ」
相変わらず菫色の瞳は何を考えているか分からない。ただ美しい笑みで文人を見つめる。スーツも相まって急に木暮が胡散臭く見え始めた。
「嬉しいですけどタダはさすがに……」
「どうして?」
「だってタダほど怖いものはないと言いますし……」
「ああなるほどね、んーじゃあ君可愛いからってことで」
「はぁ……?」
思わずそんな声が出る。ふざけているのか?と疑いの目を向けると彼は「本当だって」と言って続けた。
「君、俺のタイプなんだ♡」
「ッ…………そ、そうですか」
文人は木暮から少し距離を取った。彼の本心はまだ分からないが、木暮の顔の良さにおされた文人は恥ずかしがって俯いた。タイプってどの辺が?俺って男にモテるようになったのか?と頭の中で混乱する。
「で、そろそろ本題に入りたいんだけどいいかな?」
「は、はい!」
「ごめん」
「はい?」
「先に謝っとく。俺オブラートに包むとか苦手だからはっきり言うわ。君に憑いてるのは男の死霊だよ、それもゲイの」
「ッ……」
気まずくて文人は目線を落とした。そっか、この人には視えてるんだ。突然信憑性が増す。死霊ってどんな人なんだろう……。木暮の表情をチラチラと窺う。
「うーん、彼は君の事を相当気に入っているらしい……出て行く気がないみたいだ」
「そんな!困ります!……最近その変な夢のせいで全然眠った気にならないし、朝起きたら体が怠くて仕事でもミスしまくりで……っもうどうしたらいいか……」
頭を抱える文人に木暮が言う。
「大丈夫、安心しなよ。俺に祓えない霊はいない。早速だけど君の家に案内してもらえるかな?」
「……家、ですか?ここじゃ駄目なんですか?」
「ここではちょっと難しいかなぁ」
「わかりました」
文人は涙を拭うと「ありがとうございます」と鼻を啜った。そういえばお祓いっていったい何をするんだろう?背中を叩いたり何か呪文のようなものを唱えたりするのかな?テレビで見たことのある霊媒師たちの姿を頭に思い浮かべながら文人は木暮を自宅まで案内した。
「大丈夫そう?」
「え?」
よくある木製のベンチに隣り合って座った二人。
「顔色が悪いよ」
「だ、大丈夫です!すみません、ぼーっとしちゃって」
文人はへらりと笑う。その顔は隈が酷くやつれている。仕事が上手く行かないこともそうだが、昨晩夢の中でされた卑猥な出来事を思い出すと気分は最悪、悪寒もしてきた。やっぱり俺って何かに憑かれてるのか。貰った名刺に視線を落とす。信じたくはないけれど薄々そんな気はしていた。文人は向き合う決心がついたかのように、顔を上げて木暮の目をじっと見つめた。
「祓ってもらえませんか、俺に憑いてるもの」
お祓いなんて初めてで少し怖いけどこの人を信じてみよう。名刺を持つ文人の手に力が入る。
「もちろん、そのつもりで声かけたし」
安心して俺に任せなよ、その言葉で文人の緊張は少しだけ解れた。そしてさっきから気になっていることを尋ねる。
「それで、あの……お祓いっていくらくらいかかるんですか?」
毎月の給料は十万円ほど。十万を超えない時だってあるが見習いの身で貰えているのだから有り難い。贅沢はできないけれど節約生活も楽しめているし何ら問題はない。だけど今回みたいな急な出費はキツイ。
「一回で二万かな、場合によっては三万くらいとる」
「三万!?」
思わず価格を叫ぶ。
そんな……三万円なんて無理だ。あの悪夢からようやっと解放されると思っていたのに。天国から地獄へ突き落とされたかのような気分だ。涙がじわりと滲む。
「そんな顔しないで」
「だって……三万円なんてオレ……払えません……ッ」
グレーのパーカーが涙で色を変える。
木暮はくすりと笑うと「君は特別、タダでいいよ」と慰めるように文人の背中をポンと撫でた。
「へ……?タダ……?」
「うん、タダ」
相変わらず菫色の瞳は何を考えているか分からない。ただ美しい笑みで文人を見つめる。スーツも相まって急に木暮が胡散臭く見え始めた。
「嬉しいですけどタダはさすがに……」
「どうして?」
「だってタダほど怖いものはないと言いますし……」
「ああなるほどね、んーじゃあ君可愛いからってことで」
「はぁ……?」
思わずそんな声が出る。ふざけているのか?と疑いの目を向けると彼は「本当だって」と言って続けた。
「君、俺のタイプなんだ♡」
「ッ…………そ、そうですか」
文人は木暮から少し距離を取った。彼の本心はまだ分からないが、木暮の顔の良さにおされた文人は恥ずかしがって俯いた。タイプってどの辺が?俺って男にモテるようになったのか?と頭の中で混乱する。
「で、そろそろ本題に入りたいんだけどいいかな?」
「は、はい!」
「ごめん」
「はい?」
「先に謝っとく。俺オブラートに包むとか苦手だからはっきり言うわ。君に憑いてるのは男の死霊だよ、それもゲイの」
「ッ……」
気まずくて文人は目線を落とした。そっか、この人には視えてるんだ。突然信憑性が増す。死霊ってどんな人なんだろう……。木暮の表情をチラチラと窺う。
「うーん、彼は君の事を相当気に入っているらしい……出て行く気がないみたいだ」
「そんな!困ります!……最近その変な夢のせいで全然眠った気にならないし、朝起きたら体が怠くて仕事でもミスしまくりで……っもうどうしたらいいか……」
頭を抱える文人に木暮が言う。
「大丈夫、安心しなよ。俺に祓えない霊はいない。早速だけど君の家に案内してもらえるかな?」
「……家、ですか?ここじゃ駄目なんですか?」
「ここではちょっと難しいかなぁ」
「わかりました」
文人は涙を拭うと「ありがとうございます」と鼻を啜った。そういえばお祓いっていったい何をするんだろう?背中を叩いたり何か呪文のようなものを唱えたりするのかな?テレビで見たことのある霊媒師たちの姿を頭に思い浮かべながら文人は木暮を自宅まで案内した。
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