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8.生徒会会計のチャラ男犬飼と副会長の南
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「あー!その人は用務員の高山って人だわ、たぶん」
二年の教室に戻った南は、同じ生徒会に所属している会計担当の犬飼にさっきの出来事を相談していた。
「まさかこの僕があそこまで嫌がられるなんて」
「もうそれ四回くらい聞いたわ」
「何度でも言うよ、だってこの僕だぞ?男は皆喜んでケツ差し出してくるのに」
「俺はお前に差し出したこと無いけどね~」
「あ?お前なんてこっちから願い下げだから、ひょろひょろしててタイプじゃない」
「あれあれ?可笑しいなぁ、俺今お前の相談にのってあげてる側だよね?」
「……はぁ、やっぱりもう一回謝りに行くべき?」
「行くべきなんじゃね?」
「適当すぎる!」
「じゃあ一緒に謝りに行ってやるから今行こうよ」
「まじ?ちょっといま犬飼のこと好きになったかも」
「勘弁してくれ」
「お礼にキスくらいならしてやってもいいよ、お前顔は悪くないし」
「おえぇ」
昼休み、軽口を叩きながら教室を後にする。向かう先はさっきまで高山がいた中庭だ。
「用務員の高山さーん!こいつが何か言いたいことあるってー」
「声でかい!」
「だって面倒なんだもん、早く謝って昼飯食いたい」
水飛沫をあげる噴水の周りをぐるりと回ってみたが高山の姿はない。南の話によるとさっきは噴水回りの花壇の草むしりをしていたらしい。
「つか用務員って普段どこにいんの?」南の疑問に犬飼はうーんと唸ると「あっちも昼休みなんじゃね?職員室行ったら会えるかもよ」と答えた。
「え~職員室まで行くのだるい」
「んじゃ今度会った時に謝ればいいじゃん」
「うん、もうそうするわ」
「よーし、じゃあかいさーん」
犬飼がそう言うと南は食堂の方へと歩いていく。その姿が見えなくなって「行きましたよー」とツツジの垣根に向かって声をかけると、綺麗に剪定されたツツジの木の後ろから高山が顔を出した。
「……ご、ごめんね、言わないでくれてありがとう」
「いーえ」
犬飼は高山を見て、こりゃ南の奴が気に入るわけだと納得した。気の弱いマッチョなんてあいつの大好物だろうなと、目の前の高山を気の毒に思った。
「なんかあいつあんたに謝りたいみたいっすよ」
「っ……そ、そうなんだ、教えてくれてありがとう……それじゃあ僕はこれで、」
早くこの場から立ち去りたい様子の高山に「気を付けた方がいいっすよ~」と犬飼は忠告する。
「な、何が?」
「うーん、なんていうか……あんた見てるといじめたくなるっつうか」
「!?」
高山の肩がビクッと跳ねた。じりじりと後退っていく年上の男は、犬飼よりも体格が大きいのに何故か小動物のように見える。潤んだ瞳で不安げに見てくる高山に、犬飼は確かにこれは可愛いなぁと頷く。
「あのっ、僕……っ」
「なーんてね、そんなに怖がらなくても何もしませんよ。じゃあ俺はこれで~」
怖がる相手に手を出すなんてことは自分のポリシーが許さない犬飼は「気をつけてくださいね」と高山に言って校舎に戻っていった。
*
高山 英は生徒たちが授業を受けている間、昇降口や階段、窓ガラスなどの清掃を請け負っている。ジムに通っているおかげで体力と筋力だけは自信のあった高山は、ひとり黙々と仕事をこなしていた。用務員という職種の良いところはここにあると思っている。人と関わることが苦手な高山にとって、自分の強みを発揮しながら一人で何かに没頭することができるというのは、とても有難いことだった。生徒たちも皆、元気よく挨拶をする良い子たちばかりである。……数人を除いて……。
「よっ、高山」
ドンッと背中にタックルをしてきたのは、先日フェラを強要してきた南だ。後日謝罪をしてきた彼を許した高山だったが、南のことが苦手なことに変わりはない。
「窓拭きしてんの?楽しい?」
「た、楽しいよ、綺麗になると嬉しいし」
水切りワイパーが南に当たらないように下へ下ろす。
「ねぇまじで僕と付き合う気ない?」
「な、ないかな」
「……」
じとーっという目で見られ居心地が悪くなり目をそらす。
「だめ?」
「だ、だめ」
上目遣いで見られても彼の性格を知っていた高山にとってそれは逆に恐怖でしかない。
南は舌打ちをして「くそ」と不満げに言った。
「やっほー英さん」
「い、犬飼くん!」
廊下に南と犬飼が集まると通りすぎる生徒たちがキャッキャッと黄色い声をあげる。そんなに人気なんだと高山が圧倒されていると、突然南がキッと睨んできた。
「なんで僕が来たときよりも嬉しそうなんだよ!」
「っ……そんなことないよ」
「そんなことあるだろ!」
「まあまあ南、落ち着けって~。男の嫉妬とかダサくね?」
犬飼は優越に浸った表情で高山の腕を取りしなだれかかる。
「はぁ?犬飼お前調子乗るなよ」
「乗ってねーけど?俺の方が好かれてるのは事実じゃん」
ニヤリ、犬飼が笑うと南は中指をたてた。
「じゃあどっちに抱かれたいか高山に聞いてみようよ」
「いいけど?まあ聞くまでもないっしょ~。ということで英さん、どっちに抱かれたい?」
「だ、え、ええ!?」
「絶対僕だよね?僕の方が可愛いしちんこもでかいよ」
「いや俺っしょ、俺の方が優しいしイケメン、しかもベッドだと超甘やかしちゃうタイプだから」
「す、ストップ!ストップ!こういう話は、その……良くないと思う!」
「何がどうよくないの?」
南が高山に詰め寄る。
「だから、その、だ、抱かれ、たいとか……そういう……えっちな話は、廊下でしちゃダメだと思う」
恥ずかしそうに俯いて、小さな声でそう答えた高山に、南と犬飼は目を丸くして顔を見合わせた。
「何こいつ可愛い」
「ダメだ、俺本気になりそう」
「は?ダメに決まってるじゃん」
「お前が決めることじゃなくね?」
と、二人が睨み合い始めたとき授業再開の鐘が鳴った。
「ほ、ほら!チャイム鳴ったよ?授業戻ろ、僕も掃除の続きをしなくちゃ!」
そう言って高山がバケツを持ち上げると、二人はしぶしぶ自分たちの教室に戻っていった。
しばらくすると授業が始まり、廊下はしいんと静まり返る。
「……さ、最近の子って怖い……」
呟いた声はやけに大きく聞こえた。
二年の教室に戻った南は、同じ生徒会に所属している会計担当の犬飼にさっきの出来事を相談していた。
「まさかこの僕があそこまで嫌がられるなんて」
「もうそれ四回くらい聞いたわ」
「何度でも言うよ、だってこの僕だぞ?男は皆喜んでケツ差し出してくるのに」
「俺はお前に差し出したこと無いけどね~」
「あ?お前なんてこっちから願い下げだから、ひょろひょろしててタイプじゃない」
「あれあれ?可笑しいなぁ、俺今お前の相談にのってあげてる側だよね?」
「……はぁ、やっぱりもう一回謝りに行くべき?」
「行くべきなんじゃね?」
「適当すぎる!」
「じゃあ一緒に謝りに行ってやるから今行こうよ」
「まじ?ちょっといま犬飼のこと好きになったかも」
「勘弁してくれ」
「お礼にキスくらいならしてやってもいいよ、お前顔は悪くないし」
「おえぇ」
昼休み、軽口を叩きながら教室を後にする。向かう先はさっきまで高山がいた中庭だ。
「用務員の高山さーん!こいつが何か言いたいことあるってー」
「声でかい!」
「だって面倒なんだもん、早く謝って昼飯食いたい」
水飛沫をあげる噴水の周りをぐるりと回ってみたが高山の姿はない。南の話によるとさっきは噴水回りの花壇の草むしりをしていたらしい。
「つか用務員って普段どこにいんの?」南の疑問に犬飼はうーんと唸ると「あっちも昼休みなんじゃね?職員室行ったら会えるかもよ」と答えた。
「え~職員室まで行くのだるい」
「んじゃ今度会った時に謝ればいいじゃん」
「うん、もうそうするわ」
「よーし、じゃあかいさーん」
犬飼がそう言うと南は食堂の方へと歩いていく。その姿が見えなくなって「行きましたよー」とツツジの垣根に向かって声をかけると、綺麗に剪定されたツツジの木の後ろから高山が顔を出した。
「……ご、ごめんね、言わないでくれてありがとう」
「いーえ」
犬飼は高山を見て、こりゃ南の奴が気に入るわけだと納得した。気の弱いマッチョなんてあいつの大好物だろうなと、目の前の高山を気の毒に思った。
「なんかあいつあんたに謝りたいみたいっすよ」
「っ……そ、そうなんだ、教えてくれてありがとう……それじゃあ僕はこれで、」
早くこの場から立ち去りたい様子の高山に「気を付けた方がいいっすよ~」と犬飼は忠告する。
「な、何が?」
「うーん、なんていうか……あんた見てるといじめたくなるっつうか」
「!?」
高山の肩がビクッと跳ねた。じりじりと後退っていく年上の男は、犬飼よりも体格が大きいのに何故か小動物のように見える。潤んだ瞳で不安げに見てくる高山に、犬飼は確かにこれは可愛いなぁと頷く。
「あのっ、僕……っ」
「なーんてね、そんなに怖がらなくても何もしませんよ。じゃあ俺はこれで~」
怖がる相手に手を出すなんてことは自分のポリシーが許さない犬飼は「気をつけてくださいね」と高山に言って校舎に戻っていった。
*
高山 英は生徒たちが授業を受けている間、昇降口や階段、窓ガラスなどの清掃を請け負っている。ジムに通っているおかげで体力と筋力だけは自信のあった高山は、ひとり黙々と仕事をこなしていた。用務員という職種の良いところはここにあると思っている。人と関わることが苦手な高山にとって、自分の強みを発揮しながら一人で何かに没頭することができるというのは、とても有難いことだった。生徒たちも皆、元気よく挨拶をする良い子たちばかりである。……数人を除いて……。
「よっ、高山」
ドンッと背中にタックルをしてきたのは、先日フェラを強要してきた南だ。後日謝罪をしてきた彼を許した高山だったが、南のことが苦手なことに変わりはない。
「窓拭きしてんの?楽しい?」
「た、楽しいよ、綺麗になると嬉しいし」
水切りワイパーが南に当たらないように下へ下ろす。
「ねぇまじで僕と付き合う気ない?」
「な、ないかな」
「……」
じとーっという目で見られ居心地が悪くなり目をそらす。
「だめ?」
「だ、だめ」
上目遣いで見られても彼の性格を知っていた高山にとってそれは逆に恐怖でしかない。
南は舌打ちをして「くそ」と不満げに言った。
「やっほー英さん」
「い、犬飼くん!」
廊下に南と犬飼が集まると通りすぎる生徒たちがキャッキャッと黄色い声をあげる。そんなに人気なんだと高山が圧倒されていると、突然南がキッと睨んできた。
「なんで僕が来たときよりも嬉しそうなんだよ!」
「っ……そんなことないよ」
「そんなことあるだろ!」
「まあまあ南、落ち着けって~。男の嫉妬とかダサくね?」
犬飼は優越に浸った表情で高山の腕を取りしなだれかかる。
「はぁ?犬飼お前調子乗るなよ」
「乗ってねーけど?俺の方が好かれてるのは事実じゃん」
ニヤリ、犬飼が笑うと南は中指をたてた。
「じゃあどっちに抱かれたいか高山に聞いてみようよ」
「いいけど?まあ聞くまでもないっしょ~。ということで英さん、どっちに抱かれたい?」
「だ、え、ええ!?」
「絶対僕だよね?僕の方が可愛いしちんこもでかいよ」
「いや俺っしょ、俺の方が優しいしイケメン、しかもベッドだと超甘やかしちゃうタイプだから」
「す、ストップ!ストップ!こういう話は、その……良くないと思う!」
「何がどうよくないの?」
南が高山に詰め寄る。
「だから、その、だ、抱かれ、たいとか……そういう……えっちな話は、廊下でしちゃダメだと思う」
恥ずかしそうに俯いて、小さな声でそう答えた高山に、南と犬飼は目を丸くして顔を見合わせた。
「何こいつ可愛い」
「ダメだ、俺本気になりそう」
「は?ダメに決まってるじゃん」
「お前が決めることじゃなくね?」
と、二人が睨み合い始めたとき授業再開の鐘が鳴った。
「ほ、ほら!チャイム鳴ったよ?授業戻ろ、僕も掃除の続きをしなくちゃ!」
そう言って高山がバケツを持ち上げると、二人はしぶしぶ自分たちの教室に戻っていった。
しばらくすると授業が始まり、廊下はしいんと静まり返る。
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