上 下
36 / 52
第5章 学園騒乱

第30話 魔法学園の実技授業

しおりを挟む
転移魔法陣に乗り淡い光に包まれると、広大な草原と中央に闘技場がおかれたフィールドに辿り着いた。
俺にとっては初めてとなる現状に素直に驚き、辺りを見回した。子供みたいな反応をする俺を見て、なんだかリアは嬉しそうだ。

「思っていたより、ずっと広いな・・・これなら多少の無茶をしても平気そうだ」
「そうだね。でも、あまり暴れちゃダメ、だよ」
「いくら俺でも、そんな・・・」
「めっ!なんだから!」
「はい・・・」

お姉さんぶる彼女にあっけなく俺は陥落するのであった。


「それでカズヤ、魔力の変換はどう?」

漫才モードを終了し、真剣な表情で問いかける彼女に対して頷くと“水”の精霊、ミウを呼び出し早速試すことにした。ミウも乗り気で勝算がある様子、狙い通りきたいできそうだ。

「精霊闘衣“水”、部分展開・・・」

俺がそっと呟くと、水の力を宿した腕輪が両腕に装着される。うん、これなら目立たない。

「ミウ、今から力を送る。変換頼む」
『了解です。マスター』

俺がミウに力を送るとそれは魔力に変換される。変換された魔力が腕輪に宿ると全身に“水”の力が巡るのを確かに感じる。いつもは変換、即武器に付与または魔法発動だったから魔力にして体内を巡らせる経験はほとんどない。上手くいったとは思うが少し不安になってきた。

「カズヤ、成功・・・、成功してる。魔力・・・、魔力だよそれ!」
「ほっ、本当か・・・よしっ!」

彼女の満面の笑みによる喜びで俺の不安は簡単に吹き飛んだ。俺自身も拳を握り締め喜びを噛み締めた後、彼女とハイタッチして共に分かち合った。
他の生徒が集まりだしているにも関わらず、二人してはしゃぎ続けていたため注目の的となってしまう俺達、注がれる視線に気付くと互いに顔を赤くし今更ながら、そそくさと一時距離を取った。

☆★☆

実技の時間は二コマ続けて行うことになる。隣のクラスとの合同で前半は自主訓練、後半はペアを組んで一対一の模擬戦となっている。

今、俺はリアと二人で射撃訓練を行うことにした。
内容は上空に浮かぶ直径一メートルの球体に魔法を当てるのだが、一定の法則で空中を動き回る三十センチメートル四方のプレートが四枚邪魔をする仕組みだ。プレートを避けて当てるも良し、構わず撃ち抜くのも良しとなる。球体、プレート共に液体金属で出来ているため、地上の制御用魔法陣を破壊しない限り再生可能となっている。

「俺、射撃苦手なんだよな~」
「だから、訓練するの!少しは特攻癖を直さないと・・・めっ!」

訓練用の刃を引いた剣を数回振って、「射撃訓練をやりたくない」とアピールすると彼女に怒られてしまった。「そういう仕草もいいな」なんて言ったら叩かれそうだ。もっとも考えていたことを悟ったらしく睨まれている。

「それに、折角の魔力・・・、試してみたくないの?」
「うぐっ、わかった」
「なら許す」

試すと言っても俺の場合、魔法の制御は精霊頼みになっている。することと言えば照準を合わせてトリガーを引くことに限られる。取りあえずやってみよう。
右腕を球体めがけて構える。ええい、なるようになれ!

「えっと・・・、水の斬撃、“アクア・カッター”」

おっ!出た!拳より二回り程大きい水の刃が勢いよく放たれる・・・が、目標の球体にもプレートにも当たらず大きく飛び越してしまう。

「だめか~」
『いいえ・・・まだです』

俺が諦めを口にすると、二頭身姿のミウがその手の槍をくいっと回すと、合わせるように明後日の方向に飛んだ刃が向きを変え目標を切り裂いた。

「よし!」
「『よし!』じゃな~い!」

怒られてしまった。そうは言われても本当に苦手なんだよ。落胆する俺とは異なり何やらリアには考えがありそうだ。「うんうん」唸っている。

「カズヤ、考え方を変えたらどう?」
「変える?」
「剣で斬撃を飛ばしている時や、こう・・・腕から飛ばす時はいつも当たるじゃない?それと同じように考えたらどうかな?」

腕を上空に構え「バンッ!」とポーズをするリア。『スパイラル・ブレイド・ナックル』とは言えないようだ。顔が赤い。

「斬撃や拳の延長ということか・・・、よし!」

拳を握りしめ腰を落とし構えを取る。

「飛べ!“アクア・カッター”!」

拳を放つと同時に水の刃が飛翔すると、プレートの隙間をかいくぐり見事目標を切り裂いた。

「よし!」
「やったね!」

二人で喜びあったところで、ひそひそ話が聞こえる。まあ、これまで魔法を使えず『無能』といわれていた人間が魔法を撃つどころか見事目標に命中させたのだから思う所もあるだろう。しばらくはこの状況が続くのかもしれない。

救いに思えたのは数多く寄せられた視線の中には好意的なものもあったことだ。今、近づいてきている白ひげの人物――「オクタニ」という名の担当教員もその一人だ。朝、職員室で見かけた魔法使い風な人だ。

「トキノ君、おめでとう。今の見ていたよ」
髭を手で撫でながら顔を綻ばせる仕草は好意的に受け止めることができた。一礼した上で「ありがとうございます」と俺は素直に口にすることができた。

「今までの君を見ていると、どうも歯車がかみ合っていない機械を見ているようでもどかしかったのだよ。どうやら、『君の魔法』を見つけたんだね。若者が育つのを見るのはいつ見てもいいものだ・・・」

「ほっほっほ」と笑ったと思っていたら、急に目つきが鋭く変わるのに気がついた。魔法を使ったわけでもないのに空気が変わる。その眼光を見ていると自然に姿勢を正してしまう。

「トキノ君、次の時間気を付けたまえ。次は『キヤ先生』も加わるからね。まあ・・・君なら大丈夫だろう。加減・・は間違えないようにね」

俺の頭から足元までを見やると安心した顔をして「ほっほっほ」と立ち去った。悪い人ではないのだけど、どこか食えないところもあるが、好意的に見てくれる人が教員側にいるのはありがたい。忠告も素直に受け取ることにしよう。

「カズヤ、良かったね」
「ああ、本当にな」

リアは嬉しそうな顔で俺に目配せし俺もそれに応えた。この一連のやり取りを見た男子連中の視線が少々気になるが俺は無視を貫いた。例の三人組が舌打ちしているのも見逃してはいない。
それより先程から気になるのが・・・

「リア、あの子、もしかして友達か?リアに話かけたそうにしているけど・・・」

クラスでは見かけない子だ。隣のクラスかな?先程から人影の間から様子を伺っている。俺達に向けられる視線の大半は嘲笑やリアに対する好奇な目が多いが彼女は違うような気がする。

「うん、ちょっとだけ・・・いいかな?」
「俺に遠慮することはないよ。リアも話したいんだろ?」

コクリと頷くリアに笑いかけると、明るい表情を浮かべ友人に向かって手を振っている。リアの様子に気付くとこちらにパタパタと駆けてきた。なんかリアに抱きついているぞ。

「リアちゃん!良かったね。私も見てたよ」
「う、うん」

なんかリアも困っている。肩までかかる黒髪に芯の強そうな瞳、漂うオーラというか雰囲気が印象的だった。この感覚は俺の契約精霊“火”のレイカに似ている。もっとも性格は異なり優しく真面目そうだ。
二人のやり取りを見ていると、不意に俺に向かってキッとした目で指を指してきた。『ビシッ』という効果音がついていても全く不思議ではない。

「トキノ君!リアちゃんを泣かせたら駄目なんだからね!」
「???」

怒られてしまった。
まだ続くらしい。俺はその勢いに後ずさりそうになるが、それすら許さぬ雰囲気だ。

「魔法が上手く使えなくてトキノ君が馬鹿にされていた時も、怪我をして入院した時も・・・いつもいつも心配していたんだから!こんな優しい子、泣かせたら本当に駄目なんだからね!」

涙ぐんだ顔で俺に説教をする彼女の言葉の一つ一つから、どれだけリアのことを心配していたかがよく伝わってくる。ならばきちんと答えるべきだろう。

「大丈夫だ。ありがとう、君はリアの『友達』なんだね」

「え?」という台詞とともに少しは落ち着いたようだが、「よくわからない」と言う顔をしている。言葉が足りなかったようだ。

「済まない・・・馬鹿にしているわけではないんだ。リアのことを心配しているのがよく伝わったからさ。リアの『親友』なんだなって言いたかっただけなんだ」

今度は伝わったようだ。俺の言葉に理解して『親友』と呟き頬を赤く染め照れ出した。ただ『大丈夫だ』の部分はまだ信じられないようで、俺を見定めるように見回している

「言葉だけで信じられないようなら、俺の剣の『構え』も見せようか?君も『刀』を使うんだろう?」

図星のようだ。俺の言葉に「何で分かるの?」という顔で驚いている。

「雰囲気で分かる。しかも『退魔士』のようなことをしていないか?同じ空気を纏う人が知り合いにいるからな。それで分かった」
「いいえ、十分。そこまで分かる人の実力を疑ったりしないわ」
「ありがとう」
「私の名前は『ユキハ』、『ユキハ・ナナクサ』、よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」

最後に握手を行う流れになったところでリアが間に割り込み俺とナナクサさんの手を取った。「わたしは『ユキちゃん』って普段は呼んでるの」と言っていたが握手の阻止が目的だったことはどちらも気付いている。「リアちゃんの彼氏はとらないから安心して」と呆れた目で漏らすと三人で笑い合い魔法実技の前半を終えるのであった。






















































しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...