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第5章 学園騒乱
第31話 実戦最強・模擬戦最弱の秘策~最弱の理由
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「カズヤ・・・、三人目は誰にするの?」
心配半分、呆れ半分な色をその目に宿し尋ねてくるのはリアだ。座学の授業を二つ程終え、今は休み時間を利用して次の実技の授業が行われる別棟に向かって廊下を二人、並んで歩いている。移動を始めるには時間がまだ早いが教室にいても、素顔を明かした彼女に群がる男子の好奇な視線が鬱陶しいため早々に廊下を出たわけだ。
「ヒカリ・・・しか、いない気がする」
「ヒカリちゃん、中等部よ」
「うぐっ、でもルール違反ではない・・・だろ?」
「そうだね。ホント、駄目な“お兄ちゃん”だね。ヒカリちゃん、可哀そう」
「・・・」
例の三人組と模擬戦で勝負することになったのはいいが、三対三で行うことになっている。その内、俺とリアは指名されて決まっているが残りの一人は決まっていない。正直、二対三でも負ける気はしないが最悪、不戦敗となりかねない。売り言葉に買い言葉で敗北した場合、相手の言いなりになるような形となっている。
リアが少々刺々しいのはそのためだ。出来れば、三人目は女子以外から選びたいというのが本音、リアの女友達に頼むのは論外ということになる。だとすると・・・。
「記憶ないからわからないかもしれないけど・・・カズヤ、友達少ないから、戦闘向きな人はいなかったはずだよ」
俺への説教と駄目出しになりつつある。
「リア、ごめん・・・そろそろ許してくれないか」
耐えかねた俺は正直に謝ることにした。彼女も呆れ顔だ。こうなることは予測していたのだろう。
「うん・・・わたしもごめんね、ちょっと八つ当たりした」
「もしかして、男子連中の手の平の返し方具合が相当ひどかった、とか?」
「正解・・・、ホント最低」
イライラが募っても不思議はない。あの好奇な目は尋常なかった。分かってはいたが割り切れないことはある。まあ、それを受けとめるのも俺の役目だ。男冥利に尽きる。
「ヒカリには俺から言うよ。もっとも、声をかけなかった方が怒られそうで怖い」
「それ、ありそう」
最後は二人で笑いあった。今頃、我が妹はクシャミをしていそうだ。
☆★☆
「ここが、別棟か!」
大袈裟に声をあげてはいるが、何か特別な物があったわけではない。二人で歩いていたら段々照れくさくなって誤魔化すように声を出しただけだったりする。
別棟内には転移魔法陣が設置されている部屋がいくつかあって、そこから模擬戦闘場や各実習場所へ移動する仕組みとなっている。
移動先は魔法技術を駆使した特殊な結界が張られたフィールドで、それなりに広く様々な地形が揃えられている。
その特殊な結界とやらが、俺が『模擬戦最弱』の原因となっている。
結界内は安全に配慮ということで、ダメージを受けても外傷に現れることはない。
そしてダメージ量の判定がこれまた特殊だ。
攻撃を受けた部位や急所に関係なくダメージ量は一定で、相手の攻撃力と自身の防具込みの防御力で判定される。
極端に言ってしまえば、全身に鎧を装備して防御力が「100」の人と、強力な兜を装備して他は全裸でも防御力が「100」あれば、ダメージを受けたと判定された時のダメージ量は同じとなるわけだ。
流石に防御や回避による増減は有効となってはいる。
攻撃を受けた部位は“一定以上のダメージを一度に受けると”一定時間、痺れたり動かすことが出来なくなる。一箇所に時間をかけてダメージを蓄積させる作戦は効果がない。武器破壊や防具破壊も発生しないようになっている。
学生の訓練で部位欠損が起こらないようにするのはまあ、優秀なのかもしれないが仕様に偏りがある気がする。
俺が学園で最弱となる一番の理由は『攻撃を受けても外傷はない』ということは『ダメージを肩代わりとなるのが何なのか』というところにある。
簡単な話だ。攻撃を受けて体が傷つかない代わりに精神、つまり魔力がダメージを肩代わりする仕組みということだ。
体力がいくらあっても魔力がなければすぐに力尽きる。俺は『魔力みたいなもの』はあっても『魔力』はない。この結界は『魔力』しか有効とならないようだ。
そういえば、『ゲーム風に例えるなら、“HP不要のMP重視”!』とヒカリが話していたな。
回復系の魔法は有効とも教えてもらったが結界の作用で魔力譲渡と同じ扱いとされ、回復量の判定が使用した魔力量と同じになることには注意した方が良さそうだ。
ちなみに魔力が空になると結界の外へ強制退去、魔力がない俺は攻撃を掠めただけで致命傷、即退去というカラクリだ。
この仕組みについては議論もされている。安全面が配慮されているのは喜ばしいが実戦とかけ離れ過ぎていることから、いざ本番となった時に適切な判断を下せず被害を大きくしてしまう事例が多発している。
リアの話によると技術上は安全面を保ったまま、より現実に合わせた仕様にすることは可能らしいが、権力者が猛反対しているのが現状だ。
魔力の高さと装備品の優劣が物を言う制度を変えたくないのだそうだ。
☆★☆
「カズヤ、考え事終わった?」
「ああ、まあな」
俺が考えていることを察したのだろう。いつしか俺の正面に立ち覗き込んでいる。どうやら、また心配させてしまったようだ。少し安心させよう。
「俺の『最弱』の問題だけど解決できそうなんだ」
「えっ、本当!」
予想外の俺の発言に、驚きと喜びの目で続きを聞きたいとばかりに顔を寄せてくる。彼女の前髪が俺をくすぐり、何だか妙な気分になってくる。近い、近い。
少し距離をとり姿勢を正して「解決できなくても、問題ないけどな」と告げた上で打ち明けることにした。
「俺には『魔力のようなもの』があるのは知っているだろ?」
「うん、それでいつも非常識なことしてるよね。ドリルとか・・・」
遠慮がちに何だか言いづらそうにして例をあげる。リアは『ドリル』、嫌なのだろうか?格好いいのに。
「まっ、まあそれは今はいいだろう。それでこの前、自分を『アナライズ・アイ』で鑑定した時に『魔力と代替可』ってあったんだ」
「でも、魔力の変わりに使えるだけで『魔力』ではないよね」
「そう・・・、だがその力をいつも精霊に渡して魔力に変換しているのも事実なんだ」
「それって!」
「俺に『魔力がある』と判定されるかもしれない。精霊と契約してからは学園に来ていないからな・・・、やってみる価値はある。次の実技で早速試すつもりだ」
「よかった。よかったよ~、うっうう」
「ありがとう。だから泣くなって、な!」
俺のことなのに、まるで自分のことのように喜び涙ぐむ彼女。とても愛おしく感じてしまい頬を伝わる雫をそっと払うと優しく抱きよせ、背の流れる髪を撫でた。
顔を上げ、目が合う頃には微笑んでいた。
互いの顔が近づく。周囲に人はまだいないはず・・・。
「行け!カズヤ君!そこでキスだ!」
「リアったらいつの間にそこまで・・・教えてくれればいいのに」
「今夜も赤飯ね。婚姻届も必要かしら?」
死角からの突然の言葉にハッとし青ざめながら声のした方向に恐る恐る顔を向ける俺と彼女。
だが、時既に遅し。
拳を握りながら茶化すような顔で俺を応援するナオヒトさん。
面白いオモチャを見つけたような顔のアリスさん。
心底嬉しそうな母さん。
バッチリ影から見られていました。
もう少しだったのにと悔やむ半面、肝心な場面を見られなかったことに安心したりする。
なぜこの人たちがここにいる。母さん、帰ったんじゃなかったの?
俺とリアはしばしの間立ち尽くした。
心配半分、呆れ半分な色をその目に宿し尋ねてくるのはリアだ。座学の授業を二つ程終え、今は休み時間を利用して次の実技の授業が行われる別棟に向かって廊下を二人、並んで歩いている。移動を始めるには時間がまだ早いが教室にいても、素顔を明かした彼女に群がる男子の好奇な視線が鬱陶しいため早々に廊下を出たわけだ。
「ヒカリ・・・しか、いない気がする」
「ヒカリちゃん、中等部よ」
「うぐっ、でもルール違反ではない・・・だろ?」
「そうだね。ホント、駄目な“お兄ちゃん”だね。ヒカリちゃん、可哀そう」
「・・・」
例の三人組と模擬戦で勝負することになったのはいいが、三対三で行うことになっている。その内、俺とリアは指名されて決まっているが残りの一人は決まっていない。正直、二対三でも負ける気はしないが最悪、不戦敗となりかねない。売り言葉に買い言葉で敗北した場合、相手の言いなりになるような形となっている。
リアが少々刺々しいのはそのためだ。出来れば、三人目は女子以外から選びたいというのが本音、リアの女友達に頼むのは論外ということになる。だとすると・・・。
「記憶ないからわからないかもしれないけど・・・カズヤ、友達少ないから、戦闘向きな人はいなかったはずだよ」
俺への説教と駄目出しになりつつある。
「リア、ごめん・・・そろそろ許してくれないか」
耐えかねた俺は正直に謝ることにした。彼女も呆れ顔だ。こうなることは予測していたのだろう。
「うん・・・わたしもごめんね、ちょっと八つ当たりした」
「もしかして、男子連中の手の平の返し方具合が相当ひどかった、とか?」
「正解・・・、ホント最低」
イライラが募っても不思議はない。あの好奇な目は尋常なかった。分かってはいたが割り切れないことはある。まあ、それを受けとめるのも俺の役目だ。男冥利に尽きる。
「ヒカリには俺から言うよ。もっとも、声をかけなかった方が怒られそうで怖い」
「それ、ありそう」
最後は二人で笑いあった。今頃、我が妹はクシャミをしていそうだ。
☆★☆
「ここが、別棟か!」
大袈裟に声をあげてはいるが、何か特別な物があったわけではない。二人で歩いていたら段々照れくさくなって誤魔化すように声を出しただけだったりする。
別棟内には転移魔法陣が設置されている部屋がいくつかあって、そこから模擬戦闘場や各実習場所へ移動する仕組みとなっている。
移動先は魔法技術を駆使した特殊な結界が張られたフィールドで、それなりに広く様々な地形が揃えられている。
その特殊な結界とやらが、俺が『模擬戦最弱』の原因となっている。
結界内は安全に配慮ということで、ダメージを受けても外傷に現れることはない。
そしてダメージ量の判定がこれまた特殊だ。
攻撃を受けた部位や急所に関係なくダメージ量は一定で、相手の攻撃力と自身の防具込みの防御力で判定される。
極端に言ってしまえば、全身に鎧を装備して防御力が「100」の人と、強力な兜を装備して他は全裸でも防御力が「100」あれば、ダメージを受けたと判定された時のダメージ量は同じとなるわけだ。
流石に防御や回避による増減は有効となってはいる。
攻撃を受けた部位は“一定以上のダメージを一度に受けると”一定時間、痺れたり動かすことが出来なくなる。一箇所に時間をかけてダメージを蓄積させる作戦は効果がない。武器破壊や防具破壊も発生しないようになっている。
学生の訓練で部位欠損が起こらないようにするのはまあ、優秀なのかもしれないが仕様に偏りがある気がする。
俺が学園で最弱となる一番の理由は『攻撃を受けても外傷はない』ということは『ダメージを肩代わりとなるのが何なのか』というところにある。
簡単な話だ。攻撃を受けて体が傷つかない代わりに精神、つまり魔力がダメージを肩代わりする仕組みということだ。
体力がいくらあっても魔力がなければすぐに力尽きる。俺は『魔力みたいなもの』はあっても『魔力』はない。この結界は『魔力』しか有効とならないようだ。
そういえば、『ゲーム風に例えるなら、“HP不要のMP重視”!』とヒカリが話していたな。
回復系の魔法は有効とも教えてもらったが結界の作用で魔力譲渡と同じ扱いとされ、回復量の判定が使用した魔力量と同じになることには注意した方が良さそうだ。
ちなみに魔力が空になると結界の外へ強制退去、魔力がない俺は攻撃を掠めただけで致命傷、即退去というカラクリだ。
この仕組みについては議論もされている。安全面が配慮されているのは喜ばしいが実戦とかけ離れ過ぎていることから、いざ本番となった時に適切な判断を下せず被害を大きくしてしまう事例が多発している。
リアの話によると技術上は安全面を保ったまま、より現実に合わせた仕様にすることは可能らしいが、権力者が猛反対しているのが現状だ。
魔力の高さと装備品の優劣が物を言う制度を変えたくないのだそうだ。
☆★☆
「カズヤ、考え事終わった?」
「ああ、まあな」
俺が考えていることを察したのだろう。いつしか俺の正面に立ち覗き込んでいる。どうやら、また心配させてしまったようだ。少し安心させよう。
「俺の『最弱』の問題だけど解決できそうなんだ」
「えっ、本当!」
予想外の俺の発言に、驚きと喜びの目で続きを聞きたいとばかりに顔を寄せてくる。彼女の前髪が俺をくすぐり、何だか妙な気分になってくる。近い、近い。
少し距離をとり姿勢を正して「解決できなくても、問題ないけどな」と告げた上で打ち明けることにした。
「俺には『魔力のようなもの』があるのは知っているだろ?」
「うん、それでいつも非常識なことしてるよね。ドリルとか・・・」
遠慮がちに何だか言いづらそうにして例をあげる。リアは『ドリル』、嫌なのだろうか?格好いいのに。
「まっ、まあそれは今はいいだろう。それでこの前、自分を『アナライズ・アイ』で鑑定した時に『魔力と代替可』ってあったんだ」
「でも、魔力の変わりに使えるだけで『魔力』ではないよね」
「そう・・・、だがその力をいつも精霊に渡して魔力に変換しているのも事実なんだ」
「それって!」
「俺に『魔力がある』と判定されるかもしれない。精霊と契約してからは学園に来ていないからな・・・、やってみる価値はある。次の実技で早速試すつもりだ」
「よかった。よかったよ~、うっうう」
「ありがとう。だから泣くなって、な!」
俺のことなのに、まるで自分のことのように喜び涙ぐむ彼女。とても愛おしく感じてしまい頬を伝わる雫をそっと払うと優しく抱きよせ、背の流れる髪を撫でた。
顔を上げ、目が合う頃には微笑んでいた。
互いの顔が近づく。周囲に人はまだいないはず・・・。
「行け!カズヤ君!そこでキスだ!」
「リアったらいつの間にそこまで・・・教えてくれればいいのに」
「今夜も赤飯ね。婚姻届も必要かしら?」
死角からの突然の言葉にハッとし青ざめながら声のした方向に恐る恐る顔を向ける俺と彼女。
だが、時既に遅し。
拳を握りながら茶化すような顔で俺を応援するナオヒトさん。
面白いオモチャを見つけたような顔のアリスさん。
心底嬉しそうな母さん。
バッチリ影から見られていました。
もう少しだったのにと悔やむ半面、肝心な場面を見られなかったことに安心したりする。
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