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第2章 未来での再会

第10話 『リア』の戦い~決意

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今朝のことでした。
三日前から入院していた幼馴染の男の子が静かに息を引き取ったのです。
『カズヤ・トキノ』、わたしと同じ十五歳で同じ学園の高等部一年生。
わたしにとって時には兄、時には弟といった人だった・・・
だった・・・』・・・もうカズヤ君は過去の人になってしまった。
それを自覚した時わたしの涙腺は決壊し何時間も止まりませんでした。
学園を休みひとしきり涙を流した後、彼の両親が病院で隠れて話していた内容を偶然盗み聞きした時の記憶がふいに呼び起こされました。

『カズヤは魔物ではない誰かに襲われた可能性が高い。見る限り不自然な箇所がある。』
あの子カズヤは誰かに襲われた。それは同感。魔物によるものではない傷があるもの。でも犯人は誰なの?』
『傷跡の太刀筋が稚拙だったからな。最初はカズヤに嫌がらせをしている、とかいう輩に疑いを持った。だが、あの連中には不可能な芸当だな。あの日、カズヤは魔物の襲撃により致命傷となる傷を負ったことで、強制送還魔法が作動し安全地帯まで強制転移された。確か、公式ではそういう見解だったな。』
『ええ。そうよ。』
『問題は傷の量と内容だ。致命傷となる一撃を受けるよりも先に負ったと見られる無数のなぶられたような跡がある。あれだけの量を受けたならば致命傷を受ける前に強制転移されたはずだ。学生の立ち入りが許可される場所に転移を阻止するようなトラップがしかけられているとは考えられない。強制送還魔法の発動を無効化キャンセルした何者かがいる。』
『だとしたら、それなりの使い手ね。』
『そうだ。それなのにやり方がお粗末なのが不可解だ。』
『私達をおびき出すのが目的の可能性も・・・。』
『十分ある。でもまずは犯人より、カズヤの治療が先だ。できることが何かあるはずだ。すぐに出発する!』
『ええ・・・。』
『それから、そこに隠れているリアちゃん!今の話、聞いていたなら一人で勝手なことはしないように。わかったね。』

盗み聞きをあっさり看破して一言忠告した後、カズヤ君のお父さん・・・トウマさんは一昨日出発しましたが結局間に合うことはありませんでした。仮に間に合ったとしても回復することはなかったことでしょう。最初から不可能だったのです。
カズヤ君の体はどんなに優れた魔法や薬も受け付けられない程消耗していたから、トウマさんは悪くない・・・。

「悪いのは犯人・・・。」

そうしてわたしは飛び出しました。飛びださずにはいられなかった。わたしも犯人がいることを疑っていたから・・・。
向かう先は彼が襲われた場所。

☆★☆

山道を抜け、目的地が近くなったところで、装備品の確認を再度チェックするわたし。
防御魔法が込められた学園指定の制服に皮鎧と愛用の剣、デザインはシンプルだけど手には十分なじんでいる。手持ちの回復薬ポーションは三つ程。

「慌てて飛び出したせいで心許ないけど、学園生用の初級エリア、魔物の数も強さもそれ程ではないし確認するだけなら・・・大丈夫よね?」

初級エリアと侮って準備を怠ったことに後悔することをその時のわたしは気づけませんでした。

森に入り水の流れる音に従って歩を進めると川岸が視界に入って来る。大きな河川の流れは激しく深いところは底を見ることが叶わない。捕まれば流されてしまいそう。立ちふさがるように構えている大きな崖が押しつぶしてくるようにも見えて少し怖い。目的の場所までの道のりは順調。何事もなく・・・・・辿りついたのがかえって不気味。

「様子が変、ここまで一度も魔物に襲われないなんて・・・。」

初級エリアは魔物の数は比較的、少数。それでも、これまでの道のりで一度も遭遇しないのは少々、変。
妙な胸騒ぎに駆られ辺りに気を集中させる――が特に何も感じられない。いつまでも気を張っていても仕方がない。気を取り直して調査の開始を始めました。

『魔物の集団に襲われ崖まで追いつめられて転落、身動きを取れないところを別の集団に襲われたって聞いたけど・・・。今、このエリア周辺にわたし以外に人はいないみたいだから魔物が刈り尽くされている可能性は考えられない。普段から魔物がほとんどいないのなら、カズヤ君が対応できない程の集団・・というのはやっぱりおかしい。』

何かがおかしい・・・。違和感があるのにそれ以上のことは何も見つかりません。しばらく思案するも結論が出ずにいると不意に見られているような気がして、ハッと息をのみ警戒するが気配は感じられない。

「見られている?気のせい・・・かな?折角来たけど特に何もないみたいだし一回、戻ろうかな・・・。」

めぼしい収穫がないのは残念ですが何もないのであれば、ここにいても意味はない。胸騒ぎも収まらない。
踵を返そうとした時一つの影が木々の中から飛び出した。

「グゥゥゥゥゥゥッ!」

全身茶色で目は赤く染まり、漆黒の鋭い牙と爪をちらつかせ唸りをあげる狼の姿をした魔物。涎が滴り落ち今にも襲いかかろうとしている。
わたしの思考は戦闘態勢に切り替わる。

『フォレストウルフ?でも色が違う。薄い緑のはず・・・。いえ、そんなのは後、今は戦闘に集中・・・、すること!』

違和感を押し殺して腰に掛けた剣を引き抜く――と同時に狼が地をかけ爪を振りかざした。
抜いた剣で爪と追撃の牙を受け止め、すかさず剣先の向きを変え受け流す。わたしの動きに惑わされた魔物は勢い余って地面に激突し、怒りに燃えたかのような目を向ける、がもう遅い。わたしは既に側面を捉えている。

「穿て!フレイム・アローーーー!」

左手を魔物に向け渾身の魔法を放つ。高まった魔力が炎の矢となり突き刺さる。その数は五本。地面に磔にされながらも四足をジタバタさせ抵抗を見せるがその身は炎上し灰へと変わりゆく。

「気配は感じられなかったのに・・・。」

灰塵と化した魔物に目をやり思案していると、今度は二体の影に襲われる。一つ目は剣でいなせたが、二つ目は避けられずに胸元を覆う皮鎧が傷つけられる。

「キャッ!」

驚きに声が漏れてしまうが負けてはいられない。

「コノッ!これでも!」

衝撃と同時に後ろへバックステップを取ると、皮鎧を傷つけた魔物を蹴り飛ばし、剣でいなした一体目の魔物に打ちつける。

「穿て!フレイム・アローーーー!」

二体めがけて矢を放ちまとめて焼き払う。蹴った足に目を向けると不安が更に膨れ上がる。

「この感触、生物じゃない・・・、もしかしてゴーレム?でも狼型のゴーレムなんて・・・。」
自然にいるはずがない。明らかに人為的、それも相当な使い手によるもの。しかも気配を消す魔法か魔法道具マジックアイテムを使っている。
『わたし一人の手に負えない相手。カズヤ君・・・、一体何と戦ったの。』
相手は考えることをさせてくれない。続けて三体の狼が姿を現す。
「嘘・・・。」
距離を取ろうと後ろに下がると、後ろに衝撃を受け体勢を崩してしまう。それを獣は見逃してはくれない。
『四体目・・・、そんな!』
両腕、足、肩口・・・、次々に爪と牙を受け悲鳴がこだまする。
「うっうう・・・、炎の・・・壁よ、守って!ファイヤー・ウォール!」

湧きあがる炎が四体の狼を包み込み瞬時に焼きつくす。無機物の塊に動く気配はない。

立ちあがることもできない程の痛みに悩まされ、すかさず回復薬ポーションを二つ腰のポーチから取り出すと被るように全身に振りまいた。
痛みが和らぐのを感じ、剣を杖の代わりにしてやっとの思いで立ち上がる。
「早く・・・ここから・・・。」
逃げないと・・・逃げないと!
思考が逃げの一手で一杯になる中、その空気を壊すようにそれらは現れた。

パチパチパチパチパチッ

拍手とともに真っ白の仮面をつけた黒い三人組が姿を現した。

「いや~凄いな~。全部倒しちゃうなんて・・・。ところで俺達と遊ばない?」


「あなた達は一体・・・。」

白い仮面で顔は分からない。声も変声機の類で変えている。黒いローブの隙間に覗く装備品は恐らくミスリル製。『俺』ということは少なくとも中央の人物は『男』?
瞬時に分析するわたしを嘲るように最初に話しかけた人物が言葉を返す。

「いや~俺達は単なる通りすがりの三人組さ♪ピンチの女の子がいたから助けに入って、それが縁でデートしようかな~なんてさハハハッ。」
「今の流れであなた達みたいな怪しい人、信じられると思っているの?頭が悪そうとは最初に思ったけど、“悪そう”ではなく本当に“悪い”のね。」

彼らの実力は不明。装備は一級品、恐らく私の魔法を簡単に抵抗レジストするくらいの代物。正面から立ち向かうのは無謀。
警戒を解かずにあえて挑発する言葉を投げかけ隙を伺うと右の人物が口を開く。

「“頭が悪い”だってよ!当たっているじゃないか。それよりさっきの『助けに入ってデート』なんて聞いてないぞ。」
「そうだぞー。『助けに入る』ではなくて、俺達も『襲う』だろ?ハッハッハー。」
じゃれ合うように左の人物が続ける。
この人達の言動、装備が釣り合っていない?それともわざと?分析は怠らない。

「お前らもあの人の言うこと信じて良かっただろ?おかげで狩を楽しめる。そうだろ?」
「「ああ、そりゃ同感だ。」」

“あの人”?三人の後ろに黒幕がいる?それにしても中央の人物は良く喋ってくれる。もう少し、あと少しだけ・・・何か情報が得られれば・・・。

「それにしてもお前、本当にあの“シオウ”なんだよな?・・・結構、可愛いじゃねぇか。“いつも”はダサイ三つ編みに分厚い眼鏡だからな。それにスタイルもいいじゃねぇか。全然気づかなかったぜハハハッ。“あいつ”にはもったいねえや!」

今のわたしは回復薬ポーションをかけた時に全身が濡れている。湿り気を帯びた髪に整わぬ息づかい。制服は水気を帯び肌に張り付いて体のラインを浮き彫りにするどころか一部が透け下着が見え隠れしている。
彼らの舐めるような視線に耐えながら活路を見定める。冷静になるように羞恥と怒りの感情を必死に抑え込む。“あいつ”とは多分、カズヤ君のこと・・・。彼らは墓穴を掘った。喋りすぎ。

「「おい、お前!」」

左右、声を重ねるがもう遅い。

「あなた達、学園の関係者ね。わたしは一度も名乗っていない。名前と学園に通う時だけにしかしない髪型を知っている。それが証拠。それにその間抜けさからみて教師はない。生徒でしょ。この会話録らせてもらっているから。」

「お前喋りすぎなんだよ!」
「おい、どうするんだ。」
「こっちは三人だ。もういい、お前ら・・・。」

この人たちは本当に間抜けだ。こんな人達にカズヤ君が殺されたかもしれないと考えると本当に悔しい。
『でも、仕掛けるならここ!』

立ち上がる時、密かに手に忍ばせていた小石を一番間抜けな中央の男の顔面めがけて、弾き飛ばす。ただの小石ではない。おしゃべりの間、魔力をこめた特別な石。
男に当たる直前に小石は赤く熱を帯び爆散、目くらましとなる。
取り乱した彼らの一瞬の隙をつき、わたしは痛みの残る体に鞭を打ち河川に向けてその身を投げ出した。
激しい水の流れに身を任せ、そのまま深く潜り込む。魔法による追撃が放たれるが気にする余裕も体力も残されていない。

『絶対に、この情報を持ちかえる。』

その一心がひたすらわたしを突き動かした。
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