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第三話 私の気持ち

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          8月中頃
「先日政府が発表しました。教育機関の少数精鋭化に伴い、近年若者のホームレスが続出しております。大学受験のみならず、就職難にも陥っている事が理由になっております。尚…」
『意味のない政策をするもんだな…』
俺は、珈琲カップを手にそう考えていた。今日は最悪のことに、快晴だった。ここ最近ずっと同じ天気が続いている。なので、『早く雨が降らないかな~』と思いながらくつろいでいた。今日は日曜日で定休日なので、家から出る予定は立てずに、ずっと本を読んでいた。
『さてと、何から読もうかな。』
そんなありきたりなことを考えていた。すると、携帯がなった。
「はい、住田です。」
「あっ主任ですか?七草です。今日お時間ありますか?」
「ない。じゃあな」
「って、流石にやめてください。今日は主任に手伝ってほしいんです。」
「何だ?そんなの道草とか中田じゃ駄目なのか…」
「お二人共用事があるらしいんですよ。」
「……それで、用事ってなんだ?」
「あのですね。明日の資料がまだ終わってなくて……申し訳ないんですけど、手伝ってほしいんです。」
「お前今どこにいるんだ?会社か?」
「いえ、自宅です。流石に会社でやるのはまずいので…」
「わかった。すぐに行くからちょっと待ってろ」
「ありがとうございます。この御恩は、忘れません。」
「あっそ、じゃ今から行く。」
そう言って、電話を切った。
『全く、世話の焼けるヤツだ。』
そう思いながら、身支度をして向かった。

 「主任が到着するまで大体15分ぐらいかな。」
私は、主任が到着するまで
『それまでに、進めれるところまで進めとこ。とはいえ…』
資料は、もう完成間近なところまで出来上がっていた。それでも主任に電話をしたのは、
『主任に会いたいからなんて…誰にも言えないよな。特に、本人には…』
そう、私は主任に心を惹かれていた。だけど、これが尊敬なのか恋心なのか全くわからなかった。何故なら、生きてきた中で誰かを尊敬したことも恋心を抱いたことがないからだ。
『この胸が高鳴る感覚なんて、一度も感じたことなんてなかったのに…最近何度もあった。主任に出会ってから…』
そう何度も考えながら、パソコンを打っていた。すると、インターホンが鳴った。
「おはようございます。主任」
「全くサッサと終わらせるぞ」
「は~い」
そう言いながら、主任を自宅にあげた。

「邪魔するぞ」
「どうぞ、好きなところに座ってください。お茶淹れてきますね。」
そう言ってから、七草は台所に行きお茶をコップに淹れてきた。
「それでどこまで進んでんだ?」
「あと少しなんですけど、最後の部分で迷ってて…」
「どれどれ」
俺は、七草の作った資料に目を通してから、
「そうだな…まとめは、簡潔にしたほうがいいから、要点は3点に絞って書くといいだろうな。」
「成程、なら…」
資料を見ての重要な点とまとめ方を教えてやった。

        一時間後
「ふぅ~終わったな。」
「はい、やっと終わりました。主任ありがとうございます。」
七草に礼は言われたが、
「これも、上司の役目だからな。」
「でも、ここまで世話を焼く人なんて主任くらいですよ…」
「そうかもな」
俺は、その言葉は初めて言われた。ここまでとは言わないが、そう育てられてきたから「当たり前」とばかり思っていた。
「主任お昼食べていかれますか?」
「お前、料理なんかできたのか?」
「一人暮らしなんで当然です。それでどうしますか?」
「あぁ、食べてくよ。」
そう言って、七草は台所に行った。俺は、少しくつろいでいた。すると、台所から七草が、
「そういえば主任って…」
「どうしたんだ?」
「彼女とかいないんですか?」
「まぁ、出来たこともないな」
「へぇ~まぁそうですよね。主任みたいにいつも無気力で、怖い顔の人なんてできませんよね。」
「そうだな。それに今は、ほしくないんだよな。」
そう言いながら、寝そべった。
 二十分ぐらいでご飯ができた。チャーハンとワカメのスープが出てきた。
「どうぞ、主任」
と言ってから、俺の前に出してきた。しかも、七草のに比べて量が多かった。
『流石に多いけど、食べれるだけ食べるか~』
と思いながら、一口食べてみた。
「美味いな」
「そうでしょ。もっと褒めてください。」
七草は、胸を張って言った。俺は、
『こういう性格じゃなきゃな~』
と少し目を細めて思った。
 ご飯を食べ終わり、俺は帰ろうとした。すると、
「ん?雨が降り始めたか?」
「そういえば、昼から降るってニュースで言ってましたね。」
「そうか…」
「どうしたんです?」
「いや、早く帰れると思ってたから傘持ってきてなかったんだ。」
「そうなんですか。傘貸しますよ。」
「ホントか?ありがとうな」
そう言いながら、傘を受け取ろうとしたとき、
「一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「どうして、早く終わると思ったんですか?」
俺は少し停止して、七草の目を見て答えた。
「お前が俺を頼るのは、大体終わってて最後どうするか困ってるときぐらいしかなかったからな。」
「そうですか…」
七草は、理由はわからなかったが、少し驚いている様子だった。
「じゃぁ、また会社で」
「はい!ありがとうございました。」
そう言って、七草の部屋を出た。

「あぁ~~~~~~」
私は、枕に向かって、さっきの言動を思い返していた。
「主任、ちゃんと見てくれてたんだ…」
私は天井を見上げて、顔が綻んでいるのがわかった。
「それに、ご飯美味しいって言ってくれた~頑張ったかいがあるよ。」
そう独り言を言いながら、片付けていた。
『そうか…これは尊敬じゃない方なんだな…』

 「ふぅ~せっかくの雨だというのに、財布を自宅に忘れるとは…」
そう俺は、早く帰れると予定していたが故に、財布を家に置いてきていたのだ。因みに、小説も。
「う……ぅ………ぅ…」
「ん?」
俺は、うねり声のあった方を向いた。そこには、高校生ぐらいの男が、雨のせいで汚れた服を着ていて、ボロボロの毛布に包まっていた。
「お前、家はどこだ?両親は?」
そう尋ねても、返答がなかった。それと同時に、俺は今朝見ていたニュースを思い出した。
『そういえば、「政府の奴らがここ数年で作った政策が影響している。」と言ってたか?まさか、本当にこんな子供にまで影響を及ぼしているとは…政府の奴らは何がしたいんだ?…』
そう考えながら、
「とりあえず、家に来い。そして風呂に入れ。」
そう言い、そいつの有無を確認せずに家ヘ連れて行った。
 帰宅して、シャワーを浴びさせた。その間に着ていた服を洗濯機にかけ、服をおいた。そして、簡単にご飯を作った。
「とりあえずこんなものかな?」
ご飯を作り終えた。それと同じタイミングで、青年は着替えてからここに来た。俺は、
「さてと、まずは食べてからだ。」
「……!」
青年は何も言わず、涙を流しながらご飯を食べ始めた。
 ご飯を食べさせてから、温めた蜂蜜レモンを出した。青年が一口飲んで、
「本当にありがとうございます。そのなんとお礼を言ったらいいか…」
「気にする必要はない。こんな世の中にした奴らのせいだからな。それにしても、なぜあんなところに居た?」
「自分、大学受験に失敗しまして…両親から勘当を言い渡されました。行く宛も自分にはなかったので、そこら辺を歩き回って、力尽きたという感じです…」
青年は、最初から最後まで気力のない口調だった。理解はできるが…
『大学受験に失敗したくらいで、勘当なんておかしな話だ。そんなのあの政策以前からあってもおかしくないというのに…』
そう思いながら話を聞いていた。青年の目は、本当に気力を失っていた。
「青年、名前は?」
「山本彰です…」
「じゃあ、彰君。君はまだ大学に行きたいのか?」
「い…いえ、受験を長く続けても、自分が苦しくなっていくのは目にみえていますから…」
「そうか、ならどうするんだ?住所がなければ就職もできんぞ?」
俺は真剣な眼差しで彰君を見た。彰くんは、キョドっていた。そこで畳み掛けるように、
「今のご時世だから、多少は仕方のないところはあるが…元々、社会に出るというのもそう甘いことではないんだ。それは分かっているな?」
「は…はい。それは、身にしみて分かりました。現に、自分に手を差し伸べてくれたのは貴方だけでした。」
「それなら今後君がどうしたいか。それを決めな。決まるまではここにいていいから。」
「あり…が…とう……ござい…ます…」
そう泣きながら、彰君は言った。恐らくだが、今まで甘やかしてもらえなかったんだろう。でなければ、あの時手を取るのを戸惑ったりしなかったろう。それに、所々殴られたような跡があった。
『これは、色々と訳ありらしいな。』
そう区切って、接することを決めた。いつか話してくれればいいと考えていたからだ。

         二週間後
「では、行ってくる。」
「はい、お気をつけて」
俺は、彰君から鞄を受け取って家を出た。彰君は、ここ2週間で俺の家の家事全般をしてくれていた。彰君は、何でもそつなくこなしていた。そして、今は就活のため勉強とバイトをしている。バイト先は、俺の紹介先で清掃員をしている。勉強というのは、資格試験の勉強だ。最近では、資格を取得していないと面接時や就職した時も苦労をする場合が多い。それに、持っているだけでも印象はかなり変わってくるから、まずは資格を取得しておくようにといったのだ。
「さてと、今日は定時に上がれるといいが…」
通れば独り言を呟き、会社へ向かった。

「住田さんも出たことだし、掃除して勉強するか~」
自分は、いつも通り掃除し始めた。ここ二週間でルーティンになっていた。バイトがない日は、掃除してから勉強をしている。高卒で就職となると、大体がExcelとWordを使用する場所が多い。だから、その両方の資格試験を受けることにしていた。
「今日は、Excelの勉強をするか~」
自分はここ二週間で大まかに使いこなしていた。そして、バイト先の事務処理をたまに任されていた。そのかいあって、資格試験に対する不安が全く無かった。だが、住田さんが試験代を払ってくれたこともあり、自分は、何度も過去の試験を何度も繰り返していた。
『この試験を合格して、就職をしよう。そして、住田さんへ恩返しをしよう。』
そう心に決めて、掃除を再開した。

         17時頃
「これは…まずいな~」
俺は、そう言ってため息をついた。事の顛末は、丘柄株式会社さんから唐突に連絡が来たことから始まった。丘柄株式会社さんは、うちの会社と古い縁がある会社さんで丘柄さんから了承を得ないと出来ないことが多いのだ。それを今回のプロジェクトで担当をしていた七草が、了承を得ずに行っていたからだ。
「す…すみません!主任!」
「謝っても、時間は戻らん。まずは、丘柄へ連絡を入れるんだ。」
「は、ハイ!」
七草は、直ぐに丘柄へ電話をした。すると、
「はい、こちら丘柄株式会社です。」
「あの、水場商事の七草翠です。梶さんはいらっしゃいますか?」
「梶は、今外回りをしているので、居ませね。」
「そう…でしたか…」
「なにか御用でしたら、伝えておきますが。どうしますか?」
「いえ、また連絡をいれます。いつ頃戻られますか?」
「申し訳ございません。私では、わからないので…」
「そうですか…わかりました。また明日ご連絡を入れると伝えておいていただけますか?」
「はい、承知いたしました。では、明日の9時頃でよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします。」
「はい、お願いします。」
「では、失礼いたします。」
そう言い、七草は電話を切った。その顔は、真っ青になっていたので、
「少し近くを歩いて、気持ちを整えてこい。」
「はい…そうしますね……」
俺は、そう命じた。七草は、重い足を上げてトボトボ歩いていった。
 七草が事務所を出たタイミングで、彰君からメールが来ていたことに気がついた。
『今日は、肉じゃがを作ってみました。お仕事終わったら、連絡をくださいね。』
そのメールを確認して、すぐに返信した。
『すまないが、今日はトラブルが発生したから、いつも通りの時間には帰れない。』
とメールを送信した。俺は、一秒でも早く終わらせるために、パソコンに目を向かって、
「ちょっとだけでも、進めとくか…」
そう独り言を呟いて、パソコンを打ち始めた。

 時は少し遡り、
「はぁ~~」
ため息をつきながら、外を歩いていた。私は、基本的なミスをしてしまった。了承を得なければならない相手に了承を確認せずに進めてしまった。仮に、一日だったとしても駄目なのだ。それだけでも、解雇になってもおかしくない。
「私は、どうしたらいいんだろ…」
そう独り言を呟きながら、歩いていた。
 十分程歩いたあとに、会社に戻った。すると、主任が一人でパソコンに向かって、作業をしていた。すると電話を取り、
「私水場商事に勤めている住田というものですが、梶様の電話でお間違えないでしょうか?」
そう言い、しばらく会話が続き、
「この度は、大変申し訳ございませんでした。今後は、こちらも対策をし、このような事態が起こらないよう努力いたします。では、失礼いたします。」
その言葉を境に、電話を切った。私は、主任のところに行き、
「梶様と連絡取れたんですか?」
私の質問に、ため息をついて答えた。
「なんとか連絡を取って、明日の九時頃に丘柄株式会社さんに行って改めてプロジェクトを説明する事になった。全てはそれ次第ということになった。」
主任は、深刻な顔をして私に言った。そして、
「さてと、資料を今から作り直して、明日の準備をするぞ。」
「は…はい!」
そう言い、私は資料づくりに取り掛かった。

         三時間後
「や……やっと…終わ…った」
「は……はい、もうクタクタです。」
俺達は、約3時間使って資料を作り終えた。素があった分早く出来上がったが、それでも一ヶ月使って作る資料をたった数時間で終わらせるのは相当きつかった。それに、これで終わりではなく、
「まだ…休むには…早いぞ。」
「わ……わかって…ます。練しゅ…うを…しなければ…なりませんからね。」
そう言い、俺達は会議室へ行った。
 それから一時間ほど練習と修正を行った。
「これで、明日は大丈夫だろう。もう21時か…」
「そうですね…なんとか終電前に上がれましたね…」
「あ…あぁ、さて帰るとするか…」
「は…はい」
俺達は、重い足取りで駅へ向かった。
「本当にすみません。主任、私のミスでここまで苦労させてしまって…」
「そうだな。だが、どんな奴でも失敗はするし、成功もする。そんなもんだから、気にすることはない。次から気をつけろ。あと、分からんなら俺に何度でも聞け、いいな?」
「はい…」
七草が泣き始めた。俺は、どうすべきか迷った。悩んだ挙げ句、俺の手を七草の頭にのせ撫でた。
「ど…どうしたんですか。主任!!」
七草は、泣いてたせいか顔を真っ赤にしていた。俺は、撫でながら答えた。
「いつも頑張ってるのは知ってるから心配するな。ちょっとは力抜きな。」
そう言ってから撫でるのをやめた。それと同時に、電車が来た。
「行こうぜ。七草」
「はい!」
七草は、自分の頭に手を乗せて微笑んでいた。
『そんなに嬉しかったのか?』
俺はそう思いながら、電車に乗っていた。

 私は、帰宅してすぐにシャワーを浴びた。そしてさっきのことを思い出していた。
『主任、私を撫でてくれた。それに、励ましてもくれた。』
私は、ここまで誰かにやってもらったことはなかった。全て自分ひとりで背負ってきたから。周りは、私に助けを求めるのに、私を助けたことなんて無かった。会社に入っても、何も変わらないと思っていた。けど、それは全く違った。主任はいつも部下である私達のことを見ていてくれていた。それが今日確信へと変わった。そう思ったとき、胸が高鳴った。
『これが、恋というものなんだろうか…』
私は、自身の体が熱くなるのを感じながら、そう思った。

「はぁ~」
俺は死んだ魚のような顔で帰宅をした。
「お帰りなさい。住田さん」
「何とか帰ってこれた~」
「ホントにお疲れさまでした。ご飯にしますか?」
「いや、風呂先に入るよ。」
「では、温め直して置きますね。」
「あぁ、いつもありがとうな。」
そう言い、風呂場へ行った。
『やっと落ち着ける。いや、明日までは気は抜けないな。』
そう思いながら、髪を洗い始めた。
 風呂から上がると、彰君が作ってくれた晩御飯が置かれていた。俺はそれを食べてからすぐに寝た。

          翌日
「さてと、必要な資料はあるな?」
「はい、今日はいつもの倍気合いを入れます。」
「そうだな。じゃあ行くか。」
そう言って、丘柄株式会社さんに入って、
「すみません。水場商事の住田です。梶様と打ち合わせに来ました。」
「はい、住田様ですね。梶は、三階の会議室で待機しておられます。ご案内いたします。こちらへ」
と受付の人が案内をしてくれた。
「き…緊張してきました。」
と七草が小さな声で俺に言ってきた。なので、
「大丈夫だ。いつも通りにしていろ。」
そう言い、背中を叩いてやった。
「はい!頑張ります。」
「どうぞ」
受付の人が、会議室の扉を開いてくれた。すると、
「お待ちしておりましたよ。住田さんに七草さん」
「こちらこそ、今日はよろしお願いします。」
「よろしくお願いします。」
そう一礼してから、プレゼンを始めた。
 一時間ほど経過して、梶さんは、
「成程、貴方がたの考えはわかりました。でも、無謀な所も少々気になりますね。この対策は、できていますか?七草さん」
「はい」
「具体的にどう対処しますか?」
「はい、このプロジェクトの穴は、疑問を持った通りです。なので、それを逆手に取って、場所を絞ろうと考えています。」
七草がそう言うと、梶さんは顎に手を当て少し考えていた。そして、
「確かに、その方法なら利益は出せますが、たったの150万といったところでしょうね。なので、場所を絞るなら中心にできる場所を見つけて、徐々に稼働範囲を広げていったほうがいい。そこまで考えれたら、満点でしたね。今後は、そこも視野に入れるといいでしょうね。いいでしょう、了承しますよ。」
そう言い、準備しておいたのであろう厚紙にサインをして七草に渡した。七草は、
「あ…ありがとうございます!」
「こちらこそ、わざわざ作り直してまで説明してくれてありがとう。」
「え?なんで知ってるんですか?」
「ん?だって、この資料には具体的な例を入れてなかったでしょ。一ヶ月使って作る量ってことは、少なくとも一ヶ月はあったということでしょ。それでも具体的な例を入れてなかったってことは、作り直したってことでしょ。もしかして違った?」
「いえ、梶さんの言う通りです。昨日徹夜して作り直しました。」
「そうだったのか…七草さん、いい上司を持ちましたね。」
「はい!」
「さてと、そろそろ会議も終了としましょう。」
「そうですね。それでは…」
「七草、お前は先に外に出ていてくれ。梶さんと二人で話がしたい。構いませんか?」
「私は構いませんよ。では、七草さん少し待っててください。」
「はい…失礼いたします。」
と言ってから、七草を会議室から出した。そして椅子に座り、
「梶さん、貴方は本当に悪い人ですね。」
「はてさて、何のことやら。」
「恍けないで下さい。貴方、七草のプロジェクトのこと知ってて、試したでしょう。」
「根拠は?」
「いくつもの会社を動かすプロジェクトの中で、特に中心となる丘柄株式会社さんが知らないはずがないからです。仮に、伝達ミスが起きていたとしても、別の会社さんが伝えているはずだ。それなのに、丘柄株式会社さんが知らないというのはおかしな話だからです。」
「そうだね~結論から言うと、知らなかったというのは嘘だよ。君の言った通りだ。私は、水場商事からではなく、唐津有限会社さんから聞いていた。でもそうしたのは、君達を試したかったからだ。」
「どうしてですか?」
梶さんは、少し目を閉じて、
「君のよく知っている上司芝健太、今は知らないがそいつの行動のせいで傷ついている社員にひどい言葉を私は昔吐いてしまったんだ。その悔いもあるが、一番傷ついていたのは君だろ。だから今回は、君の部下への対応と思いやり、そして君ならどうしたのかを見たかったのだ。七草さんと君には多大な迷惑をかけてしまった。申し訳ない。」
そう言って、梶さんは俺に頭を下げた。俺は、
「貴方の考えは、最もです。部下の事を大事に出来ないやつに上司になる資格はない。昔そういう上司がいたので、あなたのことは理解できます。けど、その人がいなければここまで部下を思える上司にはなれなかったでしょうね。」
「そうだな。さて、話は以上かな?外で七草さんが待ってるよ。」
「はい、では失礼いたします。」
俺は、扉を閉めたと同時に、
「本当にいい上司になってくれたね。住田君」
そう言って、梶さんは笑っていた。

 俺達は、丘柄株式会社さんを出て、会社へ戻っていた。
「いや~疲れましたね。」
「そうだな。俺はこのまま帰りたいが、仕事があるからな。」
「そうですね。また通常業務をしないといけませんからね。」
「それより、無事に了承を得られてよかったな。」
「はい、頑張ったかいがありました。そういえば、明日は休日でしたよね?」
「そうだな。どうした?」
「明日お茶しませんか?」
「まったまにはいっか。」
「ありがとうございます。主任」
七草は、とても嬉しそうな顔で言った。
『全く、優秀な部下を持っちまったもんだ。』
そう思いながら、顔が綻んだ。
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