狂い咲き

necropsy

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狂い咲き58

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 彼が運転する車は目的地へと走り出した。


 答えが欲しいとは思っていない。


 口数が少ない彼が仮になにか思っていたとしても、その口数の少なさでは答えられないだろう。


 豹変した彼に、それで何百倍にしてやり返されたら、こんどは何億倍にしてもやり返してあげる。


 これこそが公平だ。




 走り行く景色が瑞々しい新緑に輝いている。


 思った以上に山奥にペンションがあったのだと思う。


 村里がなかなか見えてこない。


 彼は湧き水が美味しいところがあると少し獣道を思わせる鬱蒼とした山林の中に車を走らせた。


 まさか、第二のペンション?! そんなことはないだろうと思いながら緊張していると、数台の車が見えてきた。


 湧き水というより滝に近い。


 彼もここの湧き水をよく利用するそうだ。車内から水筒を持ってきてくれた。


 そっと私は屈み込むと、クリアなまでに透き通った湧き水の中に手を入れた。


 夏になると西瓜や野菜が冷やしてあることもあると彼は言う。


 キャンプ場がないお陰で荒らされないでいる自然そのままがここにある。


 彼は水筒のコップで湧き水を汲むと私に手渡してくれた。


 うん、


 どんな冷えたミネラルウォーターよりも美味しい。


 もう少し山を下っていくとキャンプ場がある。冬になると、この辺りは圧雪を生かしたスキー場が多く雪煙に煙ったこの景色もまた絶景だと彼は言う。


 彼は水筒に水を汲み入れると「行こうか」と言った。


 車が走り出すと上流の流れが見えてきた。中流辺りになるとキャンプ場らしきものが増えだした。


 旧道を選ぶとダムがあると彼は言う。トンネルの上を指差して、この上に旧道があると教えてくれた。


 怖がりな私が悲鳴をあげる肝試しスポットもあるらしい。


 旧道に忘れ去られた廃墟があり、そこはそこで、また違った観光名所の一つだそうだ。


 車は迷わず走り続ける。どこまで走り続けるのだろうと思っていると彼の車がスキー場の看板を目印に右に曲がった。


 旅館街がレトロならスキー場はどこか、メルヘンな洒落たペンションが点在している。

 点在したペンションが途切れたかと思ったら広い駐車場が見えてきた。
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