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討伐編

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 ――野営地では10張りのテントを作り、それぞれが宿代わりにしていた。テントといっても、遊牧民族の多い北の領地らしく、かなりがっしりとした作りだ。中に入ってしまえば温かく、快適だった。
「おかえり、とうちゃん!かあちゃん!!」
「ただいま、シュリ。
 ――エルサ、シュリを見ていてくれてありがとう」
 侍女であるエルサに礼を言う。夫のベンが裏方のまとめ役として参加していることもあり、エルサもルーシェ付として参加している。
 ベンとエルサの3人の息子たちも、討伐隊として参加していた。ルーシェにとっては、幼馴染でありルーシェが王都に行くまでは彼らとともに北の魔獣たちに挑んでいた。
「エルサ、ガルシアがケガをしているんだ」
「まあ、それはいけませんわね。治療班を呼んでまいります」
「うん、できれば内密に」
「はい、もちろんですわ」
 怪我は付き物とはいえ、ガルシアが怪我をするのは全体の士気にかかわる。加えて、北の者たちは、なぜか今回の王都組の討伐に懐疑的というか…妙な視線を向けてくるのだ。
 ――ガルシアとルーシェの簡易的ではあるが、非常に実りのある北の婚姻式は、みな嬉々としていたのに。
 エルサはテントをでていく。ガルシアは近寄ってきたシュリアーノを片手で抱き上げる。
「とうちゃん、けがしたの?いたい?」
 自分と同じ紫紺の瞳をしたシュリアーノに視線を合わせた。不安そうに尋ねてくるシュリアーノにガルシアは応じた。
「シュリ、エルサを困らせてないか?」
「うん。だいじょぶだよお。エルサのおてつだいしたよ?」
 医療班が間もなくやってきたが、入ってきたのはベンとエルサの次男であるアドルだった。
「アドルッ」
「ルーシェ様、失礼します」
「『ルーシェ様』なんて柄じゃないって、わかってるだろ?いつも通りでいいよ」
 アドルはルーシェと同い年の幼馴染だった。
「それより3年ぶりだな。」
「うん、本当に。」
 ふたりは笑い合いながら、懐かしそうに話している。親しげな様子にガルシアの眉が顰められる。
 腕の痛みも忘れてしまいそうな昏い想いが広がっていく。
「ルーシェ、悪いんだけどさ、包帯持ってきてくれないかな。忘れちまったみたいだ」
 ちらりとガルシアを見たアドルは、ルーシェに話しかける。
「ん。シュリもいこうか」
「は~い」
「シュリ様、医療班の部屋にお菓子がありますから、もらってくださいね」
「やったあ、おかしっ」
 ガルシアに抱かれたままだったルーシェがぴょんと飛び降り、今度はルーシェに抱き上げられる。
 ルーシェとシュリアーノが仲良く手を繋いでテントをでると、途端に重苦しい空気になる。
「――では、治療させていただけますか、次期皇帝陛下」
 妙に構えた言い草が、皿にガルシアの心を騒がせる。しかし、そんなことに気圧されたりはしない。
「――ああ、頼む」
 ガルシアはテント内の椅子に重く腰かける。王者らしい風格をもってして、相手を威圧させるように。

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