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討伐編
11 ~ひと狩りいこうぜ
しおりを挟む――この冬のシルバーウルフとの遭遇は、大きな湖の上でのことだった。5頭ほどの個体が確認される。
斥候を担うハンナ姉妹は、それを速やかに次期皇帝へと告げる。
シルバーウルフは本来ならば群れない。山の中で個々で生活しているが、冬の間は食料が少なくなり、群れになり他の魔獣や人間の住む場所へ餌を求めて降りてくるのだ。
まだ小集団とよべるが、雪が深くなるとさらに群れる。
今のうちに討伐をし、数を減らしておかなければ、さらに来年は個体が増えるだろう。
それに人々にとってシルバーウルフは危険なばかりではなく、恵みでもあった。食料が少なくなるのは人間も同様で、肉は栄養源となり、皮は寒さをしのぐ被服となり…共存まではいかないが、それがずっと繰り返されてきた。
――さて、今回の作戦では、二手に分かれてシルバーウルフたちを取り囲む手筈となっていた。
ボルトを中心とした辺境伯組と、ガルシアを中心とした王都組に分かれた。お互い信頼のおけるものに背を任せた方がよいだろうとの配慮であったが、ルーシェは王都組についてきていた。
「ルーシェ、弓を」
ガルシアの促しに、ルーシェは弓をかまえた。
大きく引き、放つ。ヒュン!というシルバーウルフたちの間をすり抜け、そして、一頭のシルバーウルフの目にあたった。
「ギャアア!!!」
けたたましい咆哮が湖上で響き渡り、シルバーウルフたちが混乱し始める。
「いくぞっ」
ガルシアの合図で、一斉に狩人たちがシルバーウルフに襲い掛かる。身の丈ほどの太刀を振りまわすガルシアと、ヴァンディアも巨大な斧をもって駆け出す。SSS級の二人は、それぞれで一頭ずつ倒す様だ。
ふたりとも力技で押し切るようだ。武器の重さを生かし、急所である首を狙っている。
クロエ・キロエ姉妹もブーメランを使った連携でシルバーウルフの足を狙い、体勢を崩した一頭を攻撃する。その間にシルバーウルフとの距離を詰めたケーシーがとどめを刺すために槍を突き刺す。眉間を貫かれたシルバーウルフは咆哮を上げ、まもなく絶滅した。
他の三頭も、辺境伯である父がハンマーで頭を叩き潰し、伯爵、男爵たちが応戦している。
ルーシェも弓を再び構え、片目から血を流しているシルバーウルフに狙いを定めた。そして再び、弓を放ち、片目も貫いた。
けたたましい咆哮を上げ、暴れているが、目をやられてはどうしようもない。一頭を倒したガルシアが、目をやられたシルバーウルフの首を切った。
これで5頭すべてが討伐できたようだ。
氷の湖上は赤い地で染まっている。返り血を浴びているガルシアに向かって、ルーシェは駆け出した。
「ガル!」
「ルー、おみごとだった」
「そっちこそ…って。お前、怪我している」
「ああ、腕を少し切られた」
外套のお陰で縫うほどの深さではないが、広範囲に右の腕が切られていた。
「腕が鈍ってしまったな。少し痺れる」
「仕方ないって。ずっと、城で仕事してたんだから…」
だが、まだまだ討伐は始まったばかりだし、狩人としての感覚は戻ってくるだろう。
「どうする?グミ食べるか?」
「いや、討伐はまだ始まったばかりだし、控えておこう。何があるか分からないし」
後方部隊も一緒とはいえ、食料やアイテムなどは必要な分だけにしている。機動力を上げる目的もあった。
「とりあえず、戻って珈琲でも飲んで休憩しようか」
「そうだな」
ルーシェはガルシアの腕に手を添えて、野営地へ促した。ガルシアはそれだけで幸福を感じていた。
愛する伴侶の関心が自分だけに向いている。その心地よさに、しばし、酔いしれていた。
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