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討伐編
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しおりを挟む「――ではこれより、討伐に向かう。みな、遅れぬように!!」
北の辺境伯ボルド・ミラーの掛け声に、一斉に声が上がる。討伐隊に参加したのは辺境伯配下の侯爵や男爵たちだ。彼らは、豪奢ながらも実用性のある外套を羽織っている。猟を生業としている者たちだ。
首領となるボルドからやや下がり、次期皇帝であるガルシアが馬を進める。その隣には、辺境伯の息子であり、次期皇帝の伴侶であるルーシェが並ぶ。
「シュリ、乗り出してはいけない」
はしゃいでいる息子にガルシアは注意する。飛び出そうとする小さな体をしっかりと抱きとめている。
「だいじょぶ!」
幼子の大丈夫ほど信用ならないものはない。城の中でしか育ってきていないシュリアーノだが、北に来てからはなかなかのやんりゃ振りを発揮していた。
『ルーシェ様のお小さい頃そっくりですね』
そういわれるほど、雪で転げまわり、屋敷内の使用人たちについて回り、祖父の膝で一休み…ルーシェたちが来たに到着して討伐に出るまでの三日間で、シュリアーノはすっかり北の生活に順応していた。
それどころか、王都にいるときよりもいきいきとしている。
(いっそのこと、北で育てるのもいいかも)
そうなるとガルシアとは暫く別居になる。それもいいかもしれない。離れるといってもたまに自分が王都に会いに行けばいいし、辺境伯だってもしかしたら継げるかもしれない。
ガルシアが追いかけてきて宿で過ごした夜は、あれほど離れがたいと思ったのに…冷静になると、やはり歪とも感じられる自分の立場が嫌になってくるのだ。いずれ皇帝となるガルシアの影となり、愛しい彼を守りたい。側にいなくても、それはかなうはずだ。
この討伐が無事終われば、ガルシアと父と話し合おう。
「ルー、今とんでもないことを考えているだろう?」
ガルシアの鋭い視線がルーシェを射抜く。
「別に。久しぶりに馬に乗ったから、緊張してるだけだって」
シュリアーノ出産後は、体に響くからと馬にも乗れず、稽古もさせてもらえてない…というのはガルシアの前だけで、実は密やかに馬に乗っていたし、レイピアも扱っていた。
どうやらそれが、恐れ多くも義父といっていいのか…ガルシアの父である皇帝陛下が、ひそかに配慮していてくれたらしい。
ガルシアの執着の度が過ぎているせいで、色んな人に迷惑をかけている。
(ガルも冷静にならないとな)
性格は冷静沈着。戦闘中も熱くなってしまうルーシェをよく宥めてくれたのに。
「また、余計なことを…」
ぎりっとガルシアは歯を噛みしめる。
ルーシェの心の中は読めないが、考えていることの凡そは想像がつく。ルーシェへの恋心はもう20年物だ。ちょっとした表情でも、心境の変化がわかる。
昨日の夜は、遠征に備えて一回しか交わっていないせいだろう。もっとぐずぐずに溶かせて、快感を叩き込まなければ…。
この討伐が終わったら、北の屋敷で1週間は寝室に籠ろう。あわよくば、二人目を作る話もしよう。
ガルシアとルーシェには王都からの武官たちが脇を固めているが、主人である次期皇帝夫婦のそれぞれの思惑に、内心ハラハラさせられていた。
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