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可愛いうさぎさん
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――七種家には金曜日の夜、本家に住む男たちが集まり酒を飲み交わすことになっていた。
例外として、特別に許された者たちが同席することもあるが、滅多にあることはない。
一族の主、継直が夕食を終え、遊戯の部屋に足を踏み入れると、すでに先客がいた。継直の弟であり、今は都内のタワーマンションで暮らしている七種直倫だ。
その直倫は腕の中に愛らしい花を抱え込んでいた。
「直倫、まだ時間が早いだろう。何を勝手に始めている」
低く声出すと愛らしい花がびくりと震えた。そして、自分を包み込んでいる直倫の腕に手を添えて、ゆるゆると顔を上げる。
20歳過ぎの麗しいと讃えられる青年だった。妹の遺児である七種雪人だった。養子として迎え、継直が愛育していた。
「父さん、ごめんなさ、あんっ!」
憐憫を誘う顔と声で、必死に言い募る。だが語尾は、甘く上擦った。見てないところで下肢を嬲られているのだろう。
その雪人を嬲っている直倫は言い放つ。
「別にいいだろ。あんたたちと違って俺は毎日、雪人に会えるわけじゃないんだから、先に味見したって。なあ雪人」
雪人の母・雪子は直倫の片割れである双子の姉だ。わずかな時間で生まれ落ちた二人は、世にも美しい双子として幼いころはモデルをしていた。今年四十路になるが、直倫の美丈夫は健在であった。
雪人の耳朶に囁いた直倫は、ぞろりと舐め上げる。
「ひゃあ、あんっ」
耳が弱い雪人はそれだけで身悶える。
継直は溜息を吐くと、従っていた執事に酒を用意するように言いつけ、上座である一人掛けソファに深々と座った。
まもなく執事が持ってきたブランデーを飲んでいると、息子たちがやってきた。
「おじさん、何してんだよ!せっかくの衣装なんだから、ちょっと待っとけよ」
末っ子の継保が直倫に嚙みついた。
「なんだよ、今日の雪人の衣装用意したの、お前かよ」
「そうだよ、雪人に似合ってるだろ?ほら、雪人。今日の衣装をみんなに見せてあげて」
「おいっ」
直倫の腕の中からひったくるようにして、継保が雪人の腕を引き立ち上がらせる。
「あっん!」
強引と言える継保の行動のせいで、雪人は足が縺れて声を上げてしまう。雪人は顔を赤らめながら、微かに足を震わせて自分の足で立つ。
「ほら、どう、かわいいでしょ」
指定席にそれぞれ座った義父の継直、叔父の直倫、義兄である継晴と継貴の前に雪人は立たされる。
タイトで脚の線がくっきりと出る黒いスラックスと、肩と背中が大きく剝き出しとなっている短い黒のベスト、首にはシャツの襟と蝶ネクタイがされており、手首にもシャツの裾の形をかたどった飾りをつけている。
全ての視線が自分に向き、雪人は居心地の悪さを感じる。遊戯場は外気温が低いにもかかわらず、肩がむき出しの状態でも寒さは感じなかったが、雪人はつい自分の掌で右腕をさする。
その仕草さえも男たちを惹きつけているのだとは、雪人は思ってもいない。
「あとはこれだな」
そういって立ち上がった継貴は手に持っていたものを雪人の頭にかぶせた。大きなウサギの耳のカチューシャをつけられれば、バニーボーイの出来上がりだった。
「よく似合うぜ、雪人」
継貴を雪人は微かににらむ。同い年ということもあり、継貴には少々強気に出ることもできる。それを継貴も理解しており、じっくりと見下ろされてにやりと笑われる。
そんな二人の攻防を継保は笑ってみていた。
「では、雪人様。皆様にお酒を配って差し上げてください」
年老いた執事が告げる。
この部屋には世話係として、執事の他に若い執事見習いもいる。20代後半とまだ若い男だ。トレーにそれぞれの好みの酒を入れて用意している。
どこか足取りが重い雪人が近づくと、若い執事見習いは微笑んだ。
「とてもお美しく、似合っておいでですよ。先週のお着物もよく似合っておいででしたが」
そっと囁くように告げられ、受け取った手の甲をするりと撫でられる。七種家の男たちには見えない角度で。
裏で雪人のことを『男娼』や『囲われ者』と呼んでいるくせに、毎週のこの時間だけは、男の目で雪人を見る。
雪人は男子直系で血を繋いできた七種家の一員でありながら、七種家の男たちの『慰め役』としての役割を担っている。勿論、性的な意味を含んでいる。
自分がなぜそんな役割を担わなくてはいけないのか、雪人は知る由もなかった。だがその起因は自分の出生が関わっていることは推測している。
母は七種家という大財閥の一人娘でありながら、七種の家を出て雪人を生んだ。父は誰なのか雪人は知らない。教えてもくれない。戸籍にも父親の名はなく、雪人はいわゆる私生児だったのだ。
『蝶よ、花よ』と育てられた箱入り娘が幼子を抱えて生きるのは難しく、無理がたたり病を得た母は雪人が2歳の時亡くなった。その後、雪人は七種家に引き取られたのだ。
母の亡くなった幼子は一人では生きていけない。食事の快適な環境は使用人が行えても、発達に必要な愛着関係はやはり大人を必要とした。
伯父にあたる継直は我が子以上の愛を雪人に注いだ。仕事場にも連れていき、雪人の世話を甲斐甲斐しく焼いた。
兄弟となった従兄弟たちも、雪人に夢中だった。六才年上の継晴にはよく膝に抱き上げられ、同じ年の継貴とは喧嘩もしたし、年下の継保の世話は進んで行った。雪人のことを少々構いすぎるきらいはあったが、仲の良い兄弟だと思っていた。
叔父の直倫にも猫かわいがりをされた。
思春期を迎える頃には当然というように男たちのベッドに誘われるようになった。
当然雪人は拒んだが、誰も雪人を手放してはくれなかった。
――一人ひとりに酒の入ったグラスを渡す。むろん、誰がどの酒が好みは知っている。雪人は震えそうになる足を叱責しながら、ゆっくりと歩いていく。
「そういえば、これはどうなっている?」
ウイスキーのグラスを受け取った継直が言いざまするりと、雪人の腰を撫でる。
「父さん…!」
雪人の体を知り尽くしている継直はそのまま腰を抱き寄せて、自分の膝の上に座らせる。トレーを落としそうになり、つかさず控えていた執事が受け取った。
「ああ、尻尾のこと。ふわふわでかわいいだろ?」
やわやわと尻尾に触れられ、雪人はびくりと震えた。
「通販で動物の尻尾がついたアナルプラグみつけてさ。つい買っちゃった。父さんのカード使ったから、支払いよろしくね」
この中で未成年は継保だけであった。
笑いながら継保が告げると、
「またお前はそんなことを」
長兄である継晴があきれた声を出した。
「そうか、愛らしく身悶える雪人に免じて、許してやろう」
継直は指先でびっちりとアナルプラグを飲み込んでいる後蕾のふちを撫でる。
プラグの大きさに合わせ窄んだ皴をゆるゆると指の腹で撫でられる。それだけで雪人にはたまらない刺激になるが、嬲った指先はそのまま蕾に押し込まれる。
「ぁあ…!やめっ、父さん…!」
そのまま内壁を嬲られて、雪人は大きくのけ反った。
「本当はもっと大きいのが欲しいだろう?」
雪人の肉の薄い耳たぶに唇を寄せ、継直は低く囁く。
壮年の男が若く美しい男を嬲る。しなやかな雪人の体が跳ねた。全身を震わせて、必死に喘いでいた。
その媚態に誰とも知れぬ唾を飲み込む音が響いた。
「兄貴、ひとりで雪人を弄ってんじゃねえぞ」
「人のこと言えるの叔父さん?」
直倫の低い恫喝にも、言葉を返したのは一番若い継保だった。
――それぞれが雪人への執着と情欲を隠さない七種家の男たちであるが、雪人は共有すべき花であった。
母の雪子が赤椿に喩えられているのに習って、雪人は白椿と呼ばれていた。凛々しいながらも麗しい七種家の華だ。
広大な七種家の屋敷の一室で行われる淫らな夜は、まだ始まったばかりだった。
例外として、特別に許された者たちが同席することもあるが、滅多にあることはない。
一族の主、継直が夕食を終え、遊戯の部屋に足を踏み入れると、すでに先客がいた。継直の弟であり、今は都内のタワーマンションで暮らしている七種直倫だ。
その直倫は腕の中に愛らしい花を抱え込んでいた。
「直倫、まだ時間が早いだろう。何を勝手に始めている」
低く声出すと愛らしい花がびくりと震えた。そして、自分を包み込んでいる直倫の腕に手を添えて、ゆるゆると顔を上げる。
20歳過ぎの麗しいと讃えられる青年だった。妹の遺児である七種雪人だった。養子として迎え、継直が愛育していた。
「父さん、ごめんなさ、あんっ!」
憐憫を誘う顔と声で、必死に言い募る。だが語尾は、甘く上擦った。見てないところで下肢を嬲られているのだろう。
その雪人を嬲っている直倫は言い放つ。
「別にいいだろ。あんたたちと違って俺は毎日、雪人に会えるわけじゃないんだから、先に味見したって。なあ雪人」
雪人の母・雪子は直倫の片割れである双子の姉だ。わずかな時間で生まれ落ちた二人は、世にも美しい双子として幼いころはモデルをしていた。今年四十路になるが、直倫の美丈夫は健在であった。
雪人の耳朶に囁いた直倫は、ぞろりと舐め上げる。
「ひゃあ、あんっ」
耳が弱い雪人はそれだけで身悶える。
継直は溜息を吐くと、従っていた執事に酒を用意するように言いつけ、上座である一人掛けソファに深々と座った。
まもなく執事が持ってきたブランデーを飲んでいると、息子たちがやってきた。
「おじさん、何してんだよ!せっかくの衣装なんだから、ちょっと待っとけよ」
末っ子の継保が直倫に嚙みついた。
「なんだよ、今日の雪人の衣装用意したの、お前かよ」
「そうだよ、雪人に似合ってるだろ?ほら、雪人。今日の衣装をみんなに見せてあげて」
「おいっ」
直倫の腕の中からひったくるようにして、継保が雪人の腕を引き立ち上がらせる。
「あっん!」
強引と言える継保の行動のせいで、雪人は足が縺れて声を上げてしまう。雪人は顔を赤らめながら、微かに足を震わせて自分の足で立つ。
「ほら、どう、かわいいでしょ」
指定席にそれぞれ座った義父の継直、叔父の直倫、義兄である継晴と継貴の前に雪人は立たされる。
タイトで脚の線がくっきりと出る黒いスラックスと、肩と背中が大きく剝き出しとなっている短い黒のベスト、首にはシャツの襟と蝶ネクタイがされており、手首にもシャツの裾の形をかたどった飾りをつけている。
全ての視線が自分に向き、雪人は居心地の悪さを感じる。遊戯場は外気温が低いにもかかわらず、肩がむき出しの状態でも寒さは感じなかったが、雪人はつい自分の掌で右腕をさする。
その仕草さえも男たちを惹きつけているのだとは、雪人は思ってもいない。
「あとはこれだな」
そういって立ち上がった継貴は手に持っていたものを雪人の頭にかぶせた。大きなウサギの耳のカチューシャをつけられれば、バニーボーイの出来上がりだった。
「よく似合うぜ、雪人」
継貴を雪人は微かににらむ。同い年ということもあり、継貴には少々強気に出ることもできる。それを継貴も理解しており、じっくりと見下ろされてにやりと笑われる。
そんな二人の攻防を継保は笑ってみていた。
「では、雪人様。皆様にお酒を配って差し上げてください」
年老いた執事が告げる。
この部屋には世話係として、執事の他に若い執事見習いもいる。20代後半とまだ若い男だ。トレーにそれぞれの好みの酒を入れて用意している。
どこか足取りが重い雪人が近づくと、若い執事見習いは微笑んだ。
「とてもお美しく、似合っておいでですよ。先週のお着物もよく似合っておいででしたが」
そっと囁くように告げられ、受け取った手の甲をするりと撫でられる。七種家の男たちには見えない角度で。
裏で雪人のことを『男娼』や『囲われ者』と呼んでいるくせに、毎週のこの時間だけは、男の目で雪人を見る。
雪人は男子直系で血を繋いできた七種家の一員でありながら、七種家の男たちの『慰め役』としての役割を担っている。勿論、性的な意味を含んでいる。
自分がなぜそんな役割を担わなくてはいけないのか、雪人は知る由もなかった。だがその起因は自分の出生が関わっていることは推測している。
母は七種家という大財閥の一人娘でありながら、七種の家を出て雪人を生んだ。父は誰なのか雪人は知らない。教えてもくれない。戸籍にも父親の名はなく、雪人はいわゆる私生児だったのだ。
『蝶よ、花よ』と育てられた箱入り娘が幼子を抱えて生きるのは難しく、無理がたたり病を得た母は雪人が2歳の時亡くなった。その後、雪人は七種家に引き取られたのだ。
母の亡くなった幼子は一人では生きていけない。食事の快適な環境は使用人が行えても、発達に必要な愛着関係はやはり大人を必要とした。
伯父にあたる継直は我が子以上の愛を雪人に注いだ。仕事場にも連れていき、雪人の世話を甲斐甲斐しく焼いた。
兄弟となった従兄弟たちも、雪人に夢中だった。六才年上の継晴にはよく膝に抱き上げられ、同じ年の継貴とは喧嘩もしたし、年下の継保の世話は進んで行った。雪人のことを少々構いすぎるきらいはあったが、仲の良い兄弟だと思っていた。
叔父の直倫にも猫かわいがりをされた。
思春期を迎える頃には当然というように男たちのベッドに誘われるようになった。
当然雪人は拒んだが、誰も雪人を手放してはくれなかった。
――一人ひとりに酒の入ったグラスを渡す。むろん、誰がどの酒が好みは知っている。雪人は震えそうになる足を叱責しながら、ゆっくりと歩いていく。
「そういえば、これはどうなっている?」
ウイスキーのグラスを受け取った継直が言いざまするりと、雪人の腰を撫でる。
「父さん…!」
雪人の体を知り尽くしている継直はそのまま腰を抱き寄せて、自分の膝の上に座らせる。トレーを落としそうになり、つかさず控えていた執事が受け取った。
「ああ、尻尾のこと。ふわふわでかわいいだろ?」
やわやわと尻尾に触れられ、雪人はびくりと震えた。
「通販で動物の尻尾がついたアナルプラグみつけてさ。つい買っちゃった。父さんのカード使ったから、支払いよろしくね」
この中で未成年は継保だけであった。
笑いながら継保が告げると、
「またお前はそんなことを」
長兄である継晴があきれた声を出した。
「そうか、愛らしく身悶える雪人に免じて、許してやろう」
継直は指先でびっちりとアナルプラグを飲み込んでいる後蕾のふちを撫でる。
プラグの大きさに合わせ窄んだ皴をゆるゆると指の腹で撫でられる。それだけで雪人にはたまらない刺激になるが、嬲った指先はそのまま蕾に押し込まれる。
「ぁあ…!やめっ、父さん…!」
そのまま内壁を嬲られて、雪人は大きくのけ反った。
「本当はもっと大きいのが欲しいだろう?」
雪人の肉の薄い耳たぶに唇を寄せ、継直は低く囁く。
壮年の男が若く美しい男を嬲る。しなやかな雪人の体が跳ねた。全身を震わせて、必死に喘いでいた。
その媚態に誰とも知れぬ唾を飲み込む音が響いた。
「兄貴、ひとりで雪人を弄ってんじゃねえぞ」
「人のこと言えるの叔父さん?」
直倫の低い恫喝にも、言葉を返したのは一番若い継保だった。
――それぞれが雪人への執着と情欲を隠さない七種家の男たちであるが、雪人は共有すべき花であった。
母の雪子が赤椿に喩えられているのに習って、雪人は白椿と呼ばれていた。凛々しいながらも麗しい七種家の華だ。
広大な七種家の屋敷の一室で行われる淫らな夜は、まだ始まったばかりだった。
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