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⑦ 終

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 ――西の辺境の村、ブラウン村…。目ぼしい産業はなく、廃れていくだけの村だった。
 だが、8年前に遺跡を牛耳っていたワイバーンが討伐されて以降、S級以上の魔獣が数多確認され、今や一大出没ポイントとなっていた。
 ブラウン村にはその魔獣目当てに狩人たちが集まり、村も賑わっていた。
 また魔獣がでる遺跡も、白い壁に美しい緑の蔦が垂れさがり、また透明度の高い湖のあるため、非常に風光明媚だった。
 魔獣討伐にいかずとも、観光地としても名を馳せるようになっていた。
 その立役者は、SSS級狩人で『銀のジェラルド』と呼ばれる狩人だ。ブラウン村の副クエスト管理人・ガランを追ってやってきた男は、あっさりとワイバーンを討伐し、村を再生に導いたのだった。


「それが今や、これだもんな…」
 ――このブラウン村の現クエスト管理人、ガランは我が子を抱き上げながら、はあとため息をついた。ガランのアイスブルーを受け継いだミユは母のため息に、きゃあと手を伸ばす。
 その可愛い笑顔に、仕事の疲れが癒されるのを感じながら、ガランは再び昔を懐かしむ。
 ――本願を遂げれば辺境の村を出ていくかと思ったが、ジェラルドは何故かこの辺境の村に住み着き、ガランの夫に収まっていた。
 夫夫というやつだ。同性同士の結婚が認められているので、さして珍しいことではないのだが、ガランが妊娠していたことで注目を集めてしまった経緯があった。
 恐ろしいことに、ジェラルドは幻といわれている金のグミを五つ保有しており、ガランの了承もはっきりと得ないままに、金のグミを使ったのだ。
 お陰で、長男のシオンを妊娠したと気づいたのが随分と遅れてしまった。ジェラルドがガランの体調をやたら気にしていたが、まさか妊娠しているとは思わなかったのだ。
 子どもができてしまっては仕方ないと、渋々と結婚したが、次々とジェラルドはガランに子を産ませた。
 そして今やふたりの間には、5人の子どもがいた。
 長男・シオン、次男・ジーク、長女・エラ、三男・ハルク、次女・ミユ…末っ子のミユは、寝返りをし始めたばかりだ。景色が変わるのが楽しいのか、気が付けば寝返りをしているので目が離せない。
 この8年で、5児の妊娠と出産…世界の男性体妊娠の歴史が書き換えられていた。
 ――一方、あれ程ガランに執着していたクラウスであるが、ついにこの8年でSS級の狩人となった。現在は首都で、狩人をしながら中央クエスト委員会で仕事もしている。
 たまに首都から戻ってきてはその度に腹を膨らませているガランに絶句し、ジェラルドに殺気を向けている。
『あの、おっさん…!ガランの処女を奪っただけじゃなく、コロコロと子を産ませやがって!いつか、ぶっ倒す!!』
 狩人同士の戦いは禁止されているのだが、クラウスの目的は『銀のジェラルド討伐』になっていた。
 ガランはシャツのボタンを外すと、抱き上げたミユの小さな口許に胸元を当てた。どうも妊娠すると女性ホルモンが多く分泌されるらしく、ガランの胸はAカップほどになっていた。妊娠の度に膨らみ、母乳も出るので、子らに飲ませているのでもう慣れたものだ。最初は吸い付かれる痛みで悶えていたが、すっかり慣れてしまった。
 ミユは腹が空いていたようですぐ吸い付き、ちゅうちゅうと吸う。
 本能で吸い付く赤子の生命力の強さを感じながら、ガランは愛しくその姿を見ていた。
 夕霧亭の休憩室の扉が開かれ、ジェラルドが入ってくる。40歳になったSSS級狩人ジェラルドは、野菜の入ったカゴを手に二人に近づいた。
「おっぱいの時間か。ミユ」
 ジェラルドは愛おしそうにミユの頬をつつく。その姿は、すっかり子煩悩な父親だ。
 5人という子を得て、丸くなったと言われているが、SSS級の狩人として腕は落ちていなかった。
 今現在、ジェラルドとガランで夕霧亭を切り盛りしていた。前管理人であるバスター夫婦は栄転となり、ブラウン村よりも栄えた街の管理人をしている。
 ミユが満足し口を離したので、肩に抱き上げてゲップをさせる。小さな背を擦ると、間もなくミユはゲップをした。
 ベビーベッドに寝かせ、オムツを変えるとミユがうとうととし出す。トントンと胸を叩いてリズムをとると、すっと寝入る。
 それに柔らかく笑みをこぼしたガランに、ジェラルドは顔を向けた。
 40歳になり目尻に細かい皺ができているが、美丈夫ぶりは変わらない。銀髪に白髪が混じっていると本人は言っていたが、銀色に紛れてしまい目立つほどではない。
 今年28歳となったガランとは12歳差の夫夫であるが、体力面ではジェラルドがはるかに優っていた。
 ミユ以外の子どもたち4人を抱えても、まだ余裕がありそうなくらいだった。そんな父親に子どもたちもなついている。
「休憩しますか?」
「ああ、そうだな」
 朝のクエスト受付を終え、この時間が夫夫でゆっくりできる唯一の時間だった。
「ジェラルド、コーヒーでも飲みますか?」
「ああ、頼む」
 ガランはグランデスのコーヒー豆をミルに入れ、豆をひいていく。ゴリゴリとなる音はすっかり耳に馴染み、心地良いものだった。
『お前と結婚すれば、毎朝このコーヒーを味わえるということだな』
 8年前、ジェラルドが嚙みしめるように吐き出した言葉は、結局はその通りになってしまった。
 ふたりでテーブルに向き合って座り、飲み終えたところでジェラルドが話しかけえる。
「ガラン。実は先日、これを森で見つけたのだが…」
 ジェラルドの古い傷が残る掌にのせられていたのは、虹色のグミだったのだ。
「なんだ、これ?グミ、なのか?」
 虹色のグミなど聞いたことが無い。いったいどんな効果があるのだろうか。
「どうやらこれは、金のグミよりさらにレアな、虹色のグミというものらしい」
「虹色のグミ?」
「首都の知り合いに調べてもらったんだが、どうやら、双子が生まれる効果があるらしい」
「へえ~。双子なんて、この国じゃ10年に一組しか生まれないのに」
 多胎児はこの世界では非常に珍しい。ガラン達が暮らす国では、10年に一組しか生まれないほどだ。
「どうだ。試してみないか?」
 そのジェラルドの言葉に、ガランはようやくこれがわが身に降りかかろうとしていることなのだと気づいた。
「ふ、双子なんて。俺、死ぬ!ひとり産むのでもあんなに大変なのに…!」
 男性妊娠の場合、10月10日は適応されず、8カ月ほどの未熟児の状態で生まれてくる。
 あと2か月ほどは、グミに包まれて育つ。そしてようやく生まれてくるのだが、いくら小さいとはいえ、中から出てくることもあり当然陣痛もある。
 大凡の予定日がわかるため、陣痛が起こる前までの約1か月間を使い、念入りに念入りに、肛門を広げ、拡張をする。妊娠中はグミの効果により、排泄物は腸内で処理されている。内壁を一日一日、張型で広げていくのは羞恥が伴う。なんせ排泄をする必要がないため、張型は24時間挿入したままなのだ。エロい展開と思われがちだが、命を懸けた出産なのである。どうにかこうにか、広げるだけ広げ、ようやく無事な出産を迎えられるのだ。
 有難い事に、ジェラルドの狩人仲間であるSSS級の狩人とその伴侶がきて、男性出産のノウハウを教えてくれた上に産後のケアをしてくれた。そのお陰で安産と呼べるものだったが、ふたりが助けてくれなかったら、どうなっていたか…。
 ともあれ出産の痛みは凄まじい。よくぞ体が持ってくれた。
 5人の子を産んだ身としては、その痛みを『なぜ忘れたんだ!?』と毎回叫びたくなるが、子に会えるのはうれしいので、結局は忘れてしまう。
 出産の大変さを、ジェラルドも知っているだろうに、双子を孕ませるつもりとは信じられない。
 この男は、妊娠中もガランを抱くことをやめない男ではあった。腹が膨らんだガランを横寝バックの状態で弄るのも好んでいるし、後ろから腹を撫でて、胎動を感じるのも好きだった。
 ガランが妊娠してから、別の指向が出てきてしまったのは?と思うほど、ガランの妊娠している姿を好んでいた。
 青褪めて首を振るガランに、ジェラルドは明るく笑った。
「まあ、今はまだ、ミユも寝返りをし始めたばかりだし、流石にな」
 ほっとガランはため息をついたが、さらなるジェラルドの言葉にのけ反る。
「ミユが歩きはじめたら、考えるとしよう」
 今度こそガランは声にならない悲鳴を上げた。

 おわり



おつきあいありがとうございました!
ジェラルドとガランの物語はこれで終わります。なんちゃってファンタジーで、すみませんでした。
ワイバーン、グリフォン、サラマンダーのランクは、勝手に想像しているので、皆様と認識違いだったら申し訳ありません。

みなさま、薄々お気づきとは思いますが…ジェラルドは、思い込みの激しい執着心の凄まじい変態です。
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