ゴブリンロード

水鳥天

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足並

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 ユウトは緊張から解放されながらレナの後頭部で大きく揺れるまとめられた髪を眺める。ヨーレンは小声で笑ってユウトに声を掛けた。

「ははっ。じゃあテントまで送っていくよ」
「よろしく頼むよ」

 ユウトはまた歩き始め、元居たテントへと戻ってくる。ヨーレンはユウトを寝台にゆっくり座らせた。

「体調はどうだい?変化はあるかな?」

 ヨーレンは立ったまま気軽に尋ねてくる。ユウトはすぐには答えずゆっくりと身体の感覚を確認した。

「うん・・・問題なさそうだ。痛みもないし思ってたより大丈夫」
「そうか。その調子なら数日で回復できそうだね。また明日来るよ」
「わかった。また明日」

 軽く挨拶を交わしてヨーレンはテントを出ていく。テントに残るのはユウトとセブル、ヴァルだけとなった。おろされた出入り口の垂れ幕の外からは四姉妹のはしゃぎ声とレナの声が聞こえている。テントの中は薄暗いが、日差しに照らされる天幕が透過した光でぼんやりと暖かかった。

 ユウトは自身の疲労感を再認識し、まぶたが重たく感じる。

「少し眠るよ。セブル、ヴァル、何かあれば起こしてくれ」
「はいっ、おやすみなさいです」

 あくびをしながらユウトはセブルへ声を掛け、靴を脱いで寝台に足を乗せた。

 そして肘を付きながらゆっくりと身体を寝かせる。それを待ってセブルは軽く飛び上がり、空中で身体を平たく伸ばすとユウトにかぶさった。

 ユウトの身体を優しく覆ったセブルは自身の身体を一度波打たせる。すると毛質と長さが調節された。ユウトは暖かさに包み込まれる。そしてそのまま目を閉じるとほとんど間を置かずに眠りに落ちた。



 ユウトが眠ってしばらくするとテントの出入り口の垂れ幕がほんの少し横にずらされる。外からの日の光が薄暗いテントの中に差し込まれ、床に光の筋を作った。

 すぐにその光の筋は垂れ幕の隙間から覗き込むリナの身体で遮られる。そしてリナはテントの中へ向けて小声で語りかけた。

「ヴァル、いる?」

 するとテントの端で佇んでいたヴァルが低く低く浮き上がり、滑るように出入り口の方へと移動する。そして空いた隙間の前で止まり垂れ幕の先にいるリナへ向けて答えた。

「イルゾ」
「ユウトさんはどう?」

 隙間越しにヴァルを見下ろしながらリナは声を掛ける。

「今シガタ眠ッタトコロダ」
「そう、わかったわ。水の入れ替えは後でもよさそうね。何かあったら私たちを呼び出してね」
「了解シタ」

 そうしてリナは垂れ幕を元にもどして振り返った。

 リナの視線の先には寝かされた樽とレナが立っている。

「今、眠りに付いたところみたい。しばらくそっとしておこっか」
「うん。じゃあ、とりあえず水樽はその辺に置いておけばいいかな」
「そうね。ひとまず入口の近くに置きましょうか」

 リナが同意するとレナは倒されていた樽を軽く転がして入口の横へと移動させた。

 そして背中の槍を一度置き、深く腰を下ろすと樽の端を両手で抱えて踏ん張る。樽は軽々と持ち上げられ自立した。

 手を払ってレナはふうと一息つく。

「もう、足は痛まない?」 

 レナの背中に向けてリナは見下ろしながら語りかけた。

「大丈夫。ユウトに使った魔鋼帯でもう一度治癒をしてもらったからすごく治りが良いよ。
 ここから大工房の間を走ったって問題なかったくらい」

 レナは置いていた槍を拾いあげながら言葉を続ける。

「ただ・・・あの黄金色した魔鋼帯はもう使いたくないかな。ノノから覚悟しといてとは言われてたけど一晩中ものすごく痒くて大変だった。もうこりごり」

 そう言ってリナに振り返り、眉を寄せた笑顔を見せた。

「痒みか・・・もしかしたら痛みよりつらいかもしれないわね」

 リナはあごに手を当てながら考え込む。レナは歩き始め、リナも考え込みながらレナの隣につき、二人並んでテントから離れていった。

「たしかに痛みの方がらくだったかもしれない。もう内側からぴりぴりして足全部が痒い感じ」
「うわぁ、私には耐えられそうにないわね・・・」

 二人の会話は踏み出す足の調子に合わせて弾んでいく。進む先ではケランが最後の荷物を降ろし終え、ヨーレンが荷台に乗り込もうとしていた。



 ユウトはぼやけた思考で目が覚めた、と自覚する。どのくらい寝ていたかはわからなかったが空腹感で目覚めたことはわかった。

「セブル?」
「どうしました?」

 寝ぼけた頭で何の気なしに名を呼んだセブルの返事の素早さに、ユウトは少し驚く。

「オレが寝てたのは数日とかじゃないよな?」
「はい。あれから一日と経っていないので安心して下さい。今、日が沈んだくらいですね」

 ユウトはほっとして息をながくはいた。

 そしてその反動で吸い込んだ空気からなにかしらの香りが鼻の刺激する。その香りは自身の空腹をより強く感じさせた。

 眉間にしわを寄せながら瞬きをしてユウトは身体を起こす。

「手伝いましょうか?」
「いや、大丈夫そうだ。ちょっと安心した」

 セブルは心配そうに申し出るがユウトは手間取ることはなかった。

 ユウトは問題なく靴を履きなおして立ち上がると、香りのする出口に向かって一人ですすむ。出口の脇に佇んでいたヴァルが動き始め、出入り口を遮る垂れ幕を身体に吸いつかせるようにして開けた。

「ありがとう。ヴァル」
「無理ハスルナ」

 ヴァルは不愛想に答える。開けられた垂れ幕の外はもう暗かった。

 しかしいくつもの魔術灯の明かりで出口の先の地面は照らされている。そして賑やかなな声が響いていた。
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