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ユウトのテントから出た四姉妹はそれぞれ周りを見渡すと最後に全員が真上を見上げる。
一面の青空と流れる白い雲に姉妹たちは目を細めてじっと見た。
「あっ!」
一人が空に向かって指を刺す。その方向へ他の姉妹たちも注視した。
指を刺す先には黒い点がある。それはだんだんと大きさを増し、誰かの声も大きさを増していった。
「ヴァルだ」
姉妹の一人がぽつりとつぶやく。そして落下してきたヴァルは速度を弱め、草原の上へと風を起こして降り立った。
ヴァルの上には人が一人、座り込んで乗っかっている。
「あっ・・・ヨーレン」
ヨーレンは背中を丸めてうつむき、ぜーぜーと肩で息をしていた。
そんなヨーレンをかまうことなくヴァルは身体を少し浮かせ、ユウトのテントに向かって進んでいく。姉妹たちはあっけにとられながらヴァルに道を開け、一言もしゃべらないヨーレンを見送った。
ヴァルはテントの前で一度止まり、リナを呼ぶ。垂れ幕を持ち上げたリナがヨーレンの様子に驚きながらヴァルを通して、垂れ幕はおろされた。
「ユウト。意識ヲ取リ戻シテ何ヨリダ」
ヴァルがヨーレンを乗せたままユウトに語りかける。
「あ、ああ。ありがとうヴァル。心配かけたな。
それで・・・ヨーレンはどうしたんだ?」
ユウトはいまだ息を切らしたヨーレンを見て尋ねた。
「ユウトガ意識ヲ取リ戻シタ、トイウ知ラセヲ、ラトムカラ受ケテ、大工房カラ連レテ来タ」
ヴァルの答えにユウトはいつかの弾道軌道を思い出す。その強烈な移動方法にヨーレンがさらされたのだということに思い至り、ヨーレンの体験を思うと同情するしかなかった。
「大丈夫か?ヨーレン」
ユウトの声かけにヨーレンは手を掲げて呼吸を整える。そしてゆっくりとヴァルから降りて座り込んだ。
「いや、すまない・・・私の方が心配されてしまうとは立場が逆だね。はぁ、何とか落ち着いてきた」
そう言ってヨーレンは顔を上げ、ユウトと目が合う。
「身体の調子はどうだい?」
「ちょっと気だるいけど、悪いところはないな」
「わかった。一応確認はしておこうか」
立ち上がったヨーレンはユウトに手をかざしてユウトの胸の中心へと近づけた。
ヨーレンの手のひらはぼんやりと輝きだす。そのままユウトはじっとしてヨーレンが調べ終わるのを待った。
それから一時してヨーレンは手をおろすと、ふぅと溜息をつく。
「うん。問題なさそうだよ。とりあえず一安心だ」
ようやくヨーレンの顔に笑みが現れた。
「なんだか、今回はかなり心配を掛けてしまったみたいだ。オレが気を失ってからどうなったんだ?」
「えーっと、そうだね・・・」
少しの間、ヨーレンは考え込んだあとかいつまんで説明を始める。セブルに対してユウト自身の残りの魔力を急激に送ったことと丸薬の副作用で魔力が底をつくことが重なったために、ユウトの身体は生命維持が困難なほど魔力が枯渇してしまったという内容だった。
「そこまでひどかったのか・・・今だから言えるけどよく助かったな」
「そうだね。普通だったら助からなかったと思う。人同士の魔力の移動というのはその最中の損失が大きくてほとんど意味がない。ただユウトの身体なら無駄をほとんど出さずに魔力の移動ができた」
「どうして?ゴブリンの身体だからか?」
ユウトは自身の身体を見渡しながら尋ねる。
「それもあると思うけど一番の要因は左腕の傷跡だよ」
ヨーレンの返答にユウトは左腕を見た。
そこには切断され魔鋼帯でつなぎ直した傷跡が金糸を埋め込んだかのようにぐるりと一周している。
「これのおかげで・・・」
「魔力の出力がしやすくなったということは調べがついていたからね。出力効率が良くなっているのならその逆の効率も良くなっているのかもしれないと予想して試してみたんだ。
結果、その思惑は当たっていた。あの場にいた者から少しづつ魔力をユウトへ送り込んで、どうにかユウト自身で生命維持できるところまで魔力を回復させたというわけなんだ」
「そっか・・・だったら魔力を分けてくれたみんなにはお礼を言っておかないと」
ユウトはほっとしながら自身の傷跡を指でなぞった。
「それは追々でかまわないと思うよ。まずは体調を万全の状態に戻そうか。
ユウトにはまだまだやってもらいたい事がたくさんあるみだいだから」
「わかった。それで体調が戻ったとして、オレは何をする予定なんだ?」
ヨーレンは目線を落として少し考え込んで、ユウトに答える。
「今、工房長は中央に向かっている」
「中央?」
ユウトは抽象的な表現が気になってしまい、思わず聞き返した。
「えーっと、どう説明しようか・・・」
「国内全体の政治を取り仕切っている政権と都市の総称。って考えてもらっていいと思うけど。伝わるかしら?」
言葉に詰まったヨーレンにリナが助言する。
「おーなるほど」
「助かるよリナ。
それで工房長はそこへ行って直接、今回の決戦とゴブリンの絶滅についての顛末を国王陛下と政務官達に報告する。それによってこれまでの規制が解かれることになるはずだ」
「マレイがそんな役割をやってくれるのか・・・」
ユウトには儀礼服を着込んだマレイが不機嫌な表情を浮かべている様子が容易に想像できた。
「それで、ね。ユウトは決戦の立役者として出席するよう工房長から指示されている。そしてその場を利用してハイゴブリンというこれまで皆が想像するローゴブリンとは違うということ、独立した種族であるということを証明しなければいけない。でないと・・・」
ヨーレンの表情は重く真剣みを帯びている。ユウトはその重たい空気を読み取った。
「でないと、人に害なす魔物、ゴブリンとして殺されるかもしれない、ってことか」
一面の青空と流れる白い雲に姉妹たちは目を細めてじっと見た。
「あっ!」
一人が空に向かって指を刺す。その方向へ他の姉妹たちも注視した。
指を刺す先には黒い点がある。それはだんだんと大きさを増し、誰かの声も大きさを増していった。
「ヴァルだ」
姉妹の一人がぽつりとつぶやく。そして落下してきたヴァルは速度を弱め、草原の上へと風を起こして降り立った。
ヴァルの上には人が一人、座り込んで乗っかっている。
「あっ・・・ヨーレン」
ヨーレンは背中を丸めてうつむき、ぜーぜーと肩で息をしていた。
そんなヨーレンをかまうことなくヴァルは身体を少し浮かせ、ユウトのテントに向かって進んでいく。姉妹たちはあっけにとられながらヴァルに道を開け、一言もしゃべらないヨーレンを見送った。
ヴァルはテントの前で一度止まり、リナを呼ぶ。垂れ幕を持ち上げたリナがヨーレンの様子に驚きながらヴァルを通して、垂れ幕はおろされた。
「ユウト。意識ヲ取リ戻シテ何ヨリダ」
ヴァルがヨーレンを乗せたままユウトに語りかける。
「あ、ああ。ありがとうヴァル。心配かけたな。
それで・・・ヨーレンはどうしたんだ?」
ユウトはいまだ息を切らしたヨーレンを見て尋ねた。
「ユウトガ意識ヲ取リ戻シタ、トイウ知ラセヲ、ラトムカラ受ケテ、大工房カラ連レテ来タ」
ヴァルの答えにユウトはいつかの弾道軌道を思い出す。その強烈な移動方法にヨーレンがさらされたのだということに思い至り、ヨーレンの体験を思うと同情するしかなかった。
「大丈夫か?ヨーレン」
ユウトの声かけにヨーレンは手を掲げて呼吸を整える。そしてゆっくりとヴァルから降りて座り込んだ。
「いや、すまない・・・私の方が心配されてしまうとは立場が逆だね。はぁ、何とか落ち着いてきた」
そう言ってヨーレンは顔を上げ、ユウトと目が合う。
「身体の調子はどうだい?」
「ちょっと気だるいけど、悪いところはないな」
「わかった。一応確認はしておこうか」
立ち上がったヨーレンはユウトに手をかざしてユウトの胸の中心へと近づけた。
ヨーレンの手のひらはぼんやりと輝きだす。そのままユウトはじっとしてヨーレンが調べ終わるのを待った。
それから一時してヨーレンは手をおろすと、ふぅと溜息をつく。
「うん。問題なさそうだよ。とりあえず一安心だ」
ようやくヨーレンの顔に笑みが現れた。
「なんだか、今回はかなり心配を掛けてしまったみたいだ。オレが気を失ってからどうなったんだ?」
「えーっと、そうだね・・・」
少しの間、ヨーレンは考え込んだあとかいつまんで説明を始める。セブルに対してユウト自身の残りの魔力を急激に送ったことと丸薬の副作用で魔力が底をつくことが重なったために、ユウトの身体は生命維持が困難なほど魔力が枯渇してしまったという内容だった。
「そこまでひどかったのか・・・今だから言えるけどよく助かったな」
「そうだね。普通だったら助からなかったと思う。人同士の魔力の移動というのはその最中の損失が大きくてほとんど意味がない。ただユウトの身体なら無駄をほとんど出さずに魔力の移動ができた」
「どうして?ゴブリンの身体だからか?」
ユウトは自身の身体を見渡しながら尋ねる。
「それもあると思うけど一番の要因は左腕の傷跡だよ」
ヨーレンの返答にユウトは左腕を見た。
そこには切断され魔鋼帯でつなぎ直した傷跡が金糸を埋め込んだかのようにぐるりと一周している。
「これのおかげで・・・」
「魔力の出力がしやすくなったということは調べがついていたからね。出力効率が良くなっているのならその逆の効率も良くなっているのかもしれないと予想して試してみたんだ。
結果、その思惑は当たっていた。あの場にいた者から少しづつ魔力をユウトへ送り込んで、どうにかユウト自身で生命維持できるところまで魔力を回復させたというわけなんだ」
「そっか・・・だったら魔力を分けてくれたみんなにはお礼を言っておかないと」
ユウトはほっとしながら自身の傷跡を指でなぞった。
「それは追々でかまわないと思うよ。まずは体調を万全の状態に戻そうか。
ユウトにはまだまだやってもらいたい事がたくさんあるみだいだから」
「わかった。それで体調が戻ったとして、オレは何をする予定なんだ?」
ヨーレンは目線を落として少し考え込んで、ユウトに答える。
「今、工房長は中央に向かっている」
「中央?」
ユウトは抽象的な表現が気になってしまい、思わず聞き返した。
「えーっと、どう説明しようか・・・」
「国内全体の政治を取り仕切っている政権と都市の総称。って考えてもらっていいと思うけど。伝わるかしら?」
言葉に詰まったヨーレンにリナが助言する。
「おーなるほど」
「助かるよリナ。
それで工房長はそこへ行って直接、今回の決戦とゴブリンの絶滅についての顛末を国王陛下と政務官達に報告する。それによってこれまでの規制が解かれることになるはずだ」
「マレイがそんな役割をやってくれるのか・・・」
ユウトには儀礼服を着込んだマレイが不機嫌な表情を浮かべている様子が容易に想像できた。
「それで、ね。ユウトは決戦の立役者として出席するよう工房長から指示されている。そしてその場を利用してハイゴブリンというこれまで皆が想像するローゴブリンとは違うということ、独立した種族であるということを証明しなければいけない。でないと・・・」
ヨーレンの表情は重く真剣みを帯びている。ユウトはその重たい空気を読み取った。
「でないと、人に害なす魔物、ゴブリンとして殺されるかもしれない、ってことか」
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